しげしげと陳列棚を眺め、呪いのネックレスや呪いの本、そして闇の魔導書を見ていたルイスは棚の隙間からちらりと何か黒いものが動いた気がして身を屈める。
商品の隙間と隙間から、苦笑いしながらこっそり顔を出したハリーを見て、ルイスは驚き口をぽかんと開け思わず名前を呼びかけた。
「ハ──…」
だが後ろにドラコがいたことを思い出し、ルイスは慌てて口を手で抑えた。ソフィアはそんなルイスに気がつき、どうしたのかと不思議そうな目でルイスを見る。ルイスは声を顰め、ひそひそと囁いた。
「…驚かないで、大声を出さないでね?…ハリーがここにいるんだ」
「…何ですって?……まぁ!ハリー!あなた、ロンの家にいるんじゃなかったの?」
「あー…その、フルーパウダー?でダイアゴン横丁って言ったんだけど…ここに出ちゃって…」
ハリーは顔を出し、苦笑いしながら答えた。何故二人がこんな所に居るのかはわからないが、それでも救世主のように思えたのだ。
ソフィアとルイスは出来ればハリーをダイアゴン横まで連れて行きたかったが、マルフォイ家の者が出て行ってからじゃないと難しそうだと眉を顰めた。
「…ハリー、何とかしてダイアゴン横丁まで案内するわ、ここは子ども一人で居ていい場所じゃないわ!」
「うん、僕もそう思ったよ…」
「少しだけ待っててね、ドラコ達に見つかると面倒だから…静かに隠れてて」
ソフィアとルイスは真面目な顔でハリーに忠告し、そっと辺りを伺った。ドラコが商品を見ながらこちらに近づいてきていて、2人はハリーを背中に隠しながら陳列棚を見ているふりをした。
「ドラコ、行くぞ!…ルイス、ソフィア、また待ち合わせの時刻に」
「はい、ルシウスさん!」
「ドラコ、また後でね!」
ルイスとソフィアはドラコとルシウスに手を振った。
そしてカウンターでジャックと店主が話し込んでいるのを見るとそっと小さく息を吐いた。
「…なんとかドラコとルシウスさんだけ行ってくれたわね」
「急いでるって言ってたね、ダブルブッキングでもしてるのかな?」
「さあ…わからないわ」
店主に金貨の入った袋を渡し、数え終えた店主が小さな包みをにんまり笑いながらジャックに手渡した。そして深くお辞儀をしたまままた店の奥に消えていく。ジャックは受け取った包みを内ポケットにしっかりとしまうと、店の奥にいるルイスとソフィアを呼んだ。
「おーい!もうダイアゴン横丁に戻るぞ」
「はーい!…ハリー、おいで」
「で、でも…」
「大丈夫、ジャックは煩く言う人じゃないわ」
ソフィアとルイスはハリーの手を繋ぎ、陳列棚の奥からジャックの前へと姿を現した。
ジャックは二人に挟まれるようにして居心地の悪そうな、おずおずとしながらも何とか笑みを浮かべようとするハリーを見て、驚愕に目を見開いたが、すぐに後ろを見て店主が奥に消えている事を確認すると、出入り口を顎で示した。
「…行こう、ワケは後で聞くよ」
「はーいパパ」
「流石パパ、察しがいいね」
ハリーは申し訳なさそうにしながら3人と一緒に店から出て行った。
店を出たが横丁には何とも、不気味なものや悍ましいものがそこかしこに並び、ハリーは小さくなりながらソフィアとルイスにこそこそと話しかけた。
「ここは…?」
「ノクターン横丁よ」
ソフィアは指で毒蝋燭の店の軒先にかかった古びた木の看板を示した。
そこには、
暫くジャックは早足で無言で進んでいたが、ノクターン横丁の中でも比較的闇の気配が薄いエリアまで来ると速度を緩め、ハリーを振り返った。
「…で、君は何であんな所に?…あぁ、俺はジャック・エドワーズ、彼らの育て親だ。…よろしく」
「僕は、ハリー・ポッターです」
ハリーは差し出された手をおずおずと握った。
「その…フルーパウダーで…噛んじゃって…」
「それは…まぁそんな時もあるさ、何にせよ、俺たちと会えて良かったよ、君は幸運の星の元に生まれたんだな?」
にやりと悪戯っぽく笑うジャックのその笑顔が、ハリーにはソフィアとルイスとそっくりに見えた。なるほど、たしかにこの人は二人の育て親なんだ。その笑顔を見ていたハリーは、何処か二人とは別に、彼の顔に見覚えがある気がした。
「──あっ!もしかして、写真を送ってくれましたか?僕のお父さんの…」
「ああ、ハグリッドに言われてな」
ハリーはその顔をどこで見たのかを思い出した。彼に良く似た青年を、ハグリッドがプレゼントしてくれたアルバムの中で見たのだ。
「えっ?ジャックってハリーのお父さんと友達だったの?」
「ああ、まぁ関係でいうとルイスとハリーみたいなもんさ。スリザリンとグリフィンドールだったから」
ジャックは苦笑し軽く答えた。ルイスとソフィアは初めて聞いた言葉に、思わず顔を見合わせる。と、言うことは、やはり自分の父親はハリーの父と同窓だったのだ。
まさかとは思っていたが、予想は的中し、思いもよらぬ関係性にもっと話しを聞きたかったが、ハリーがいる前で父の話は出来ず、ソフィアとルイスは黙り込んでしまった。
「僕のお父さんは、どんな人だったんですか?僕、あんまり知らなくて…」
「うーん…」
ジャックは少し、困ったように笑った。
「いい奴だったけど、いい子では無かったな」
「……?」
ハリーはそのよくわからない遠回しな言い方に首を傾げた。ジャックは言葉を選ぶように少し考えたが、パッと笑った。
「そうだなぁ、ルイスとソフィアを足して割って、プラス二人の悪戯ぶりを10倍は凶悪にした感じだったな」
「何それ?…ハリー、ジャックは割と適当に言うから、あまり気にしない方がいいよ」
ルイスは呆れ口調で言いながら、混乱しているハリーに向かって首を振った。ハリーはジャックの言葉を聞いて、フレッドとジョージのような生徒だったのかとかなり良い方の意味で解釈した。
ジャックは冷ややかなルイスの目に心外だと言うようにわざとらしく嘆いてソフィアにしながれかかるように抱きつく。
「ソフィア!ルイスが反抗期だ!パパは辛いよ…」
「諦めて、パパ、私もルイスと同じ気持ちよ」
「なんてこった!俺の子ども達がぐれちまった!」
ジャックは大袈裟な動作でソフィアから離れよろよろと後退する。途端にルイスとソフィアは吹き出し、けらけらと楽しげに笑った。
ハリーもまたそんな三人を見て、少し笑ってしまった。
4人は話ながらまたゆっくりと歩き出し、次第に横丁の通りが明るくなり、人のがやがやとした騒めきがハリーの耳に届く。
「さあ、ハリーここまでくればもう安心だ。…その前に服の汚れと眼鏡を直そう」
ジャックはポケットから杖を出しハリーに向かって一振りし、杖先で眼鏡をちょんと突いた。
一瞬の目の前に来た杖先にハリーは思わず目を閉じ、そして開いた時には服についた煤や汚れはすっかりと消え、眼鏡は新品同様ピカピカになっていた。
「あ、ありがとうございます!」
「そんな大層な事はしてないよ。…で、ハリーは誰かと待ち合わせしてるかな?」
「ええ、ウィーズリーさんと…。…探さなくっちゃ」
「まぁ、新年度の教材を買うならグリンゴッツか書店かしら?」
ソフィアは人混みをキョロキョロと見渡し、特徴的な赤毛がちらりとでも見えないかと探した。
「あっ!ハーマイオニー!」
「ソフィア!!」
ソフィアはぴょんぴょん跳ねながらグリンゴッツの白い階段の上にいるハーマイオニーを見つけ嬉しそうに人混みを掻き分けてハーマイオニーに抱き着いた。
「わっ、あ、危ないわ!」
階段の一番上で抱きつかれたハーマイオニーは少しだけ怒りながらも頬を紅潮させしっかりとソフィアを抱きしめ返した。
「あら!ごめんなさい!会えたのが嬉しくって!」
「私も嬉しいわ!あっ、ねえ、私の両親に友達だって紹介してもいいかしら?」
「友達?親友の間違いでしょ!?」
「あら!…ふふっ!そうね!」
ソフィアはハーマイオニーの腕に自分の腕を絡め、にっこりと笑ったままソフィアを両親の元に連れて行った。
ハーマイオニーの両親は魔法使いや小鬼に少しだけ怯え不安そうに佇んでいたが、ハーマイオニーが笑顔でソフィアを連れてきた事に少しだけ安心したように表情を緩める。
「パパ、ママ!この子がソフィア・プリンスよ!私の親友なの!とっても賢くて、明るくて、優しいのよ!」
「はじめまして!…もう殆どハーマイオニーに紹介されちゃいましたね。ソフィアです、よろしくお願いします」
ソフィアはハーマイオニーの褒めっぷりに少し照れながら膝を折って頭を下げた。ハーマイオニーの両親は、娘が友だちが作り難い性格をしている事を気にしていた為、本当に仲の良い友達が出来たことに安心し、心から安堵した。
「ハーマイオニーったら、毎日あなたのことを話しているの。これからもこの子とどうか仲良くしてあげてね」
「はい!」
ソフィアは笑顔で頷いた。
それを見たハーマイオニーもまた、嬉しそうにはにかんだ。