ソフィアはハーマイオニーとグリフィンドール塔へと向かっていたが、まだ怒りながら足音を響かせ進むハーマイオニーの肩を不意に叩いた。
「何よ!」
「もう、私に怒っても意味ないでしょ?──あのね、ハリーとロンが本当に空飛ぶ車でここに来たとして…寮に入る合言葉は知っているのかしら?」
「…知らないかも、しれないわね」
ハーマイオニーはその眉間に皺を寄せたまま、深い深いため息をついた。
「一度…寮に行って、ハリーとロンが居なかったら…待つ?」
「ええ、そうしましょう。…ふふ、なんだかんだ言って、優しいハーマイオニーが大好きよ!」
ソフィアはハーマイオニーの腕に抱きつき、自分の腕を絡ませて彼女の肩に頭を下げて乗せた。むっつりと不機嫌そうだったハーマイオニーは、ふっと表情を緩め少しだけ笑った。
一度2人はグリフィンドール寮へ行ったが、やはりまだハリーとロンは来ていないようだった。グリフィンドール生は皆──規律を重んじるパーシー以外は──ハリーとロンの素晴らしい話が聞きたいとばかりに2人の到着を今か今かと待っていた。その様子を見たハーマイオニーは、消えていた眉間の皺を再び復活させる。
「もう!噂が本当だったとして、決して褒められる事じゃないのに!」
「まぁ、皆お祭り騒ぎが大好きだから」
再び怒りを滲ませるハーマイオニーを宥めながら2人はハリーとロンを探すためにグリフィンドール寮から出て廊下を歩いた。
いくつかの階段を下り、廊下を進んだが一向に会う気配は無く、ソフィアとハーマイオニーは別の道を2人が進んでいるのかも知れない、と寮の方向へまた戻ってみることにした。
「──あ!」
グリフィンドール塔の長い階段を上がり、太ったレディの絵画の前で見慣れた2人を発見し、ソフィアは声を上げた。
嬉しそうなソフィアとは対照的に、ハーマイオニーは急いで2人に駆け寄ると、その足音に気づいた2人が驚き目を見開くその前で立ち止まり、大きな声で叫んだ。
「やっと見つけた!いったいどこに行ってたの!?馬鹿馬鹿しい噂が流れて…!誰かが言ってたけど、あなた達が空飛ぶ車でホグワーツへ来て、さらに墜落して退校処分になったって…!」
「うん、退校処分にはならなかった」
「まさか、本当に車できたの!?」
信じられないと悲鳴をあげ、厳しい視線で2人を睨むハーマイオニーに、ハリーとロンは居心地の悪そうな目を向けた。
ソフィアもハーマイオニーの後から2人の本へ駆け寄ると、泥だらけで傷だらけの2人を見て少し心配そうに眉を寄せた。
「怪我は?…ロン、血が出てるんじゃない?」
「ああ…これくらい大丈夫。ねぇソフィア、新しい合言葉は?誰かさんは説教で忙しいみたいなんだ」
「ロン!!あなたね!!」
苛々とした口調でロンはハーマイオニーを揶揄い、すぐにハーマイオニーが目を吊り上げて怒りロンに詰め寄った。
しかしソフィアはいつもの事だとあまり気にせず─2人はいつも喧嘩をしていた──太ったレディに向き合う。
「ミミダレミツスイ、よ」
ソフィアが呟き、肖像画がぱっと開くと、突然大きな歓声と拍手がソフィア達を迎え入れた。
驚くソフィア達を気にする事なく何本かの腕が入口の穴から伸びてきてハリーとロンを掴むと部屋の中に引きずり入れた。残されたソフィアとハーマイオニーは顔を見合わせ、すぐにまた怒りを滲ませたハーマイオニーは直ぐに穴をよじ登った。
ソフィアもそのあとに続き、沢山のグリフィンドール生から賞賛を受け、少しきまり悪そうにしながらも頬を紅潮させるハリーとロンを見た。
さながらヒーローか英雄のように迎え入れられた2人は、怒り顔で近づくパーシーに気付くとまだ2人の話を聞きたいと思っていたグリフィンドール生達に「ベッドにいくよ、疲れちゃったんだ」と告げ、パーシーに捕まる前にすぐに自室に続く螺旋階段へ向かった。
途中何人もの生徒から背中をばしばしと叩かれていたハリーは、一度振り返りソフィアとハーマイオニー視線を向ける。
「おやすみ」
「ええ、また明日聞かせてね!良い夢を!」
ソフィアはハリーに手を振ったが、ハーマイオニーはしかめ面をしたままそっぽを向き、おやすみの返事を返すことはなかった。
「私たちももう休みましょう?明日からまた授業だしね」
「…ええ、そうね」
怒るハーマイオニーに後ろから抱きついたソフィアは宥める様に優しく言い、彼女の顔を覗き込んだ。ハーマイオニーはまだ不機嫌そうだったが、それでもソフィアの優しい体温と抱擁に落ち着いてきたのか、ふう、と小さく息を吐き、ソフィアと一緒に自室へと上がった。
次の日の朝、まだハリーとロンが到着した方法を許す事が出来ていないハーマイオニーはやや表情を険しくさせたままソフィアと共に大広間へ向かった。
ハーマイオニーは席につくなり心を落ち着かせる為なのか、カバンからロックハートの本を取り出すと黙々と読み始めた。
「ソフィア、これ読んだわよね?」
「え?ああ、読んだわよ。ロックハート先生って色んな経験をしてるのね。…凄い運と遭遇率だわ」
「そう!とっても偉大な人よね…そんな人の授業を受けられるなんて…あぁ!楽しみだわ!」
ソフィアとルイスは後日ドラコと共にまた今年度の教材を買いにダイアゴン横丁を訪れ、沢山の新しい本を購入していた。ロックハートの自伝は読んだことは無かったが、小説のように書かれているその本は読み物としては、中々に読み応えのある物だった。
ただ、彼はそこまで年齢を重ねていない。本の著者紹介欄によれば、父よりも四つ歳下だった。そんな若さで数々の珍しい闇の生物と遭遇し、勇敢に、時にはドラマチックに倒している。なかなかの運と遭遇率、だろう。
うっとりとした表情のハーマイオニーは、ハリーとロンへの怒りを少し忘れているようで、ソフィアは安心した。
「おはよう」
「…おはよう」
「おはよう、ハリー、ロン」
ハリーとロンは大広間に来るとすぐにハーマイオニーの隣に座った。途端にハーマイオニーは顔を見て怒りを思い出したのか不機嫌そうに冷たく呟くような挨拶をした。─2人まだ、挨拶をする分、昨日より怒りは落ち着いているのだろう。
少しハリーとロンは居心地が悪そうにもじもじとしていたが、急に肩を叩かれて同時に振り返る。
「ハリー!ロン!おはよう!」
「おはよう」
後ろには満面の笑みのルイスが居た。一年生は何故グリフィンドール生のいる場所にスリザリン生が混じっているのか不思議でならなかったが、二年生以上の者は慣れ親しんだ光景に何も言わなかった。
「あら、おはようルイス!」
「ソフィアとハーマイオニーも、おはよう!」
「ええ、おはようルイス」
ハリーとロンにした挨拶とは打って変わってにこやかに微笑みながら挨拶をするハーマイオニーに、ロンは「なんだよ」と不満げに呟いたが、ハリーは嗜めるように肘でロンを小突いた。
「ねえねえ!空飛ぶ車で来て暴れ柳の上に墜落したって本当?ドラコは退校だって言ってたけど、その様子だと…大丈夫そうだね」
ルイスはハリーの隣に座ると早く冒険話を聞きたいとばかりに目を輝かせ、それを見たハーマイオニーの機嫌は急降下した。
「まぁ!あなたまで2人の行動を褒めるの!?」
「え?…あーいやいや、だめだよ2人とも!落ちるなら大広間に落ちた方が劇的だったね!」
ルイスはニヤリと笑いハリーの背中を叩いた。「ルイス!」とハーマイオニーは咎めるように彼の名を呼んだが、ルイスはハリーとロンに向かって悪戯っぽく笑い舌を出した。
その後少し寝坊してしまったネビルが寝癖を手で撫でながらロンの前に座り、ハリー達に挨拶をした。ハーマイオニーとパーシー以外のグリフィンドール生はどちらかといえばハリーとロンの登城の仕方を面白がり肯定的に見ていた。
「もう、フクロウ便の届く時間だ。ばあちゃんが、僕の忘れた物を幾つか送ってくれると思うよ?」
「何を忘れたの?」
ソフィアはスコーンに木苺のジャムをつけながらネビルに聞いたが、ネビルは「うーん?」と首を傾げた。
「わからないけど、絶対忘れてると思うんだ」
どこか自信ありげに言うネビルに、ソフィアとルイスは顔を見合わせ苦笑した。あまり、誇れる事ではないのは確かだ。
暫くして大広間に沢山のフクロウが手紙や小包を持ち現れる、その大群を初めて見る新入生達は歓声を上げて空を見上げていた。
生徒達に手紙を落としたフクロウは少しのハムやトーストを啄み、すぐに再び空へと飛んでいく。その中で一羽の灰色のフクロウが他のフクロウと衝突しかけ、避けたもののバランスを崩しハーマイオニーの側にあったミルク入れの瓶に落下した。羽とミルクが辺りに飛び散り、ハーマイオニーは悲鳴を上げてロックハートの本を急いで手に取ると本についたミルクを袖で拭った。
「エロール!」
ロンはミルクにぷかぷかと浮かぶフクロウを慌てて引っ張り上げる。ソフィアとルイスはついに死んでしまったかと思ったが。その身体は僅かに上下している。どうやらエロールは気絶しているようで、机の上に置かれてもぐったりとしていた。しかし、しっかりと嘴にはミルク塗れの赤い封筒を咥えているあたり、気を失っても、伝書梟としてのプライドは失っていないようだ。
その赤い封筒が、何なのかわかっているロンとネビル、ソフィアとルイスは息を呑んだ。
「大変だ──」
「大丈夫よ。まだ生きてるわ」
ハーマイオニーが指先でエロールを優しく突きながら言うが、ロン達はエロールが運んできた赤い封筒から目を離さない。
「あー…僕、ドラコ達の所へ行くよ。ロン、頑張ってね!」
ルイスはそう言うと返事も待たずに足早にグリフィンドールの机から最も離れているスリザリンの机へと向かった。
それを見てソフィアも腰を浮かしかけたが、ハリーが不思議そうな眼でソフィアを見ていた為、視線を彷徨かせながら仕方なく、再び座った。
「どうしたの?」
「あー…あれは、吠えメールっていう物なの」
ハリーの言葉にソフィアは苦笑いしながら答えた。マグルで育ったハリーやハーマイオニーは吠えメールがどういう物なのか知らない。ただの赤い封筒をまるで爆発物か何かのように恐々と見るロンとネビルが不思議でならなかった。
「ママったら…僕に、吠えメールを送ったんだ…」
「ロン…早く、開けた方がいいよ。開けないともっと酷いことになるよ…僕のばあちゃんも一度送った事があるんだけど…放っておいたら…──酷かったんだ」
ネビルは怖々囁き、過去吠えメールを送られた時のことを思い出したのかぶるりと大きく震えた。
「ロン、嫌な事はさっさと終わらせた方がいいわ…ほら…ほんの数分で終わるわよ」
ソフィアも慎重な面持ちでそう優しくロンに告げたが、その言葉はどこか緊張を孕んでいた。
ロンはごくりと固唾を飲み、決心がついたのかそろそろとエロールの嘴から封筒を外し、四隅からケムリを吐き出すそれを恐る恐る開けた。途端に、ネビルは耳に指を突っ込み、ソフィアは強く手で耳を押さえた。
何故そうしてるんだろう、ハリーの疑問はすぐに最悪の形で解決した。
大広間中に広がる怒号と叫び、まさに吼えるようなモリーの声が響き渡った。机の上にある食器がガタガタと揺れ、天井から埃が舞い落ちる。
大広間に居た全員が耳を塞ぎ吠えメールなんて物を誰が受け取ったのかと辺りを見渡した。
モリーの説教と怒号が終わると、赤い封筒は炎を上げてやがて塵となって消えた。ハリーはあまりの音量に耳鳴りがし、呆然と手紙があった場所を見つめ続けていた。
暫く大広間は静まり返っていたが、何人かがくすくすと笑いを漏らし、だんだんといつものような騒めきが戻ってきた。
ハーマイオニーは羞恥から顔を赤くそめ呆然としているロンを冷ややかな目で見た。
「ま、あなたが何を予想していたか知りませんけど、ロン、あなたは──」
「当然の報いを受けたって言いたいんだろ」
ロンは悔し紛れに絞り出すようにハーマイオニーに噛み付いたが、ハーマイオニーはふんと鼻で笑いロックハートの本に目を落とした。
ソフィアはあまりの音量に手で塞いでいても鼓膜が震え、耳が痛み、眉間に皺を寄せたまま何度も頭を振っていた。