マクゴナガルから二年生の時間割を受け取ったソフィアは二年目はじめての授業が薬草学である事が分かると少し残念そうにした。苦手としている薬草学がいきなりあるだなんて、ついていない。
ハーマイオニーが何やら時間割に書き込んでいる事に気が付いていたが、ソフィアはそれよりも薬草学の事に意識が向いており、彼女がロックハートの授業──闇の魔術に対する防衛術の授業を小さなハートマークで飾り付けている事には気が付かなかった。
ハリー達と一緒に城を出て温室へと向かうソフィアは、ふと奥の方で包帯が巻かれている痛々しい暴れ柳を見た。どこかいつものような凶暴さは無く、元気が無さそうに見えるのは気のせいだろうか。
温室で他の生徒と共に薬草学の教授であるスプラウトを待っていると、腕一杯に包帯を抱え足早に歩くスプラウトが温室へと近づいてきた。ただ、その表情は何故か苛立ちを見せていて、ソフィアは暴れ柳の具合がそんなに悪いのかと思ったが、スプラウトの後ろに白い歯を覗かせ明るい笑顔を振り撒きながらロックハートが現れたのを見て、もしかして彼女はロックハートが嫌いなのかも知れない、と思った。ちらりとロックハートをみたスプラウトの目が、今まで見た事が無いほど冷たい目をしていたのだ。
「やぁ皆さん!スプラウト先生に、暴れ柳の正しい治療法をお見せしていましてね。でも私の方が先生より薬草学の知識があるなんてわ誤解されては困りますよ!たまたま私、旅の途中、暴れ柳というエキゾチックな植物に出会った事があるだけですから…」
「え?ロックハート先生、暴れ柳の原生地では…暴れ柳を攻撃出来るほど獰猛な魔獣が居ないはずですが…ディーンの森以外の原生地があるのですか?」
ソフィアは、ロックハートの言葉に思わず声を上げた。
ソフィアはかなりの勤勉であり、尚且つ家にある本は魔法薬学に関する書物が多い。
魔法薬学で使う材料である、薬草学の本もまた同じように多く、筆記試験だけでいえば薬草学は得意科目だった。ただ、実技が残念なほどに苦手なだけで。──つまり、ソフィアはこの中の生徒でハーマイオニーと同等か、それ以上の薬草学の知識を持っていた。
ロックハートはソフィアからの疑問に虚をつかれたように口を閉ざしたが気を取り直すようにソフィアに微笑み、「チッ、チッ、チッ」と指を振る。
「本に書かれている事だけが世界の全てでは無いのですよお嬢さん?あれは3年前──」
「皆さん、今日は三号温室へ!」
ロックハートの声をスプラウトは不機嫌そうに遮り、大きな鍵をベルトから出すとドアを開けた。
むっとした甘い匂いと、湿った土と肥料のにおいが混ざり、なんとも言えないじめっとした空気が流れていた。
ソフィアは実物で初めて見る薬草や魔法植物の数々に「うわぁ…凄いわ」と感嘆の声を上げた。ハリーもまた天井からぶら下がった巨大な花を珍しそうに眺め、ソフィア達と一緒に温室に入ろうとしたがロックハートにより行く手を阻まれてしまった。
「…あれ?ハリーは?」
「ロックハート先生とお話ししてるみたい、ああ、いいなぁ…」
ハーマイオニーは閉ざされた扉を見て、羨ましそうな声を上げた。
ソフィアは、まぁ確かに見た目は中々にカッコいいわよね、と心の中で頷いた。顔の作りは整っていて、風に靡くブロンド髪はしっかりとセットされている、トルコ石カラーの鮮やかな水色のローブは確かに、彼の外見の魅力をさらに引き立てていた。
一瞬、ソフィアはいつも真っ黒な服しか着ない父を思い出し、ロックハートのようなトルコ石カラーの服を着たら…と想像し掛けたが、きっと笑いが堪えきれず授業にならないと──ただでさえ、苦手なのだ──考え、頭を勢いよく振って想像を振り払った。
マンドレイクの植え替えを、ソフィアはネビルとハッフルパフ生2人との4人で行った。ネビルは薬草学が得意であり、魔法植物の扱いも上手く、いつもの彼からは想像も出来ないほどテキパキとマンドレイクの幼体を土の中から出し、別の鉢に植え替えした。
ソフィアは一本引き抜き、自分の指を噛もうと小さな歯をぎらつかせるマンドレイクに「今すぐ魔法薬の材料にするわよ!」と脅したが、マンドレイクはそれで大人しくなる事は無く、四肢をめちゃくちゃに振り回して威嚇した。
なんとかネビルに手伝ってもらいながらマンドレイクを移し終えたソフィアの服は泥まみれになり、腕には細かい引っ掻き傷が幾つもついていた。
「ありがとうネビル、あなたがいなかったら…まだ終わってなかったわ」
ソフィアは耳当てを外し、鉢植えから出ているマンドレイクの葉っぱを睨みながら言う。
ネビルは少し咎めるように眉を寄せ、「ソフィア」と優しく言った。
「君、作業している時に…なんて言ってるのか聞こえなかったけど、マンドレイクに酷いことを言ったんじゃない?彼らは言葉がわかるわけじゃ無いけど、ある程度の知性はあるからね。大事に扱わないと」
「…うーん…次から気をつけるわ」
ソフィアがそう言うと、ネビルはにっこりと笑った。
次の変身術の授業では、主に一年時の復習を兼ねて幾つかの課題が出された。
マクゴナガルは黄金虫をボタンに変身させる事が出来るか、木の棒を羽ペンに変身させる事が出来るかを見て回った。どちらも出来ない生徒には、ため息と共にマッチ棒が配られた。──基礎の基礎からやり直しなさい、そう言う事だった。
変身術が得意なソフィアは、マクゴナガルから出された課題を1番に提出した。
マクゴナガルは優しく微笑み、グリフィンドールに5点を与えてくれた。
「今年度、あなた達はより複雑な変身術を学びます。今日黄金虫をボタンに変えられなかった生徒はその問題点と課題を次までに羊皮紙一巻き分でまとめて提出するように」
早速の宿題に、ハリーとロンは嫌そうに顔を歪めた。2人の黄金虫は少しもボタンに変身するそぶりを見せなかった。──ロンは、それ以前の問題かもしれない、彼の杖はほぼ、半分に折れてしまっていた。
授業の終わりを告げるベルが鳴り、皆がやっと昼休みだと腕を伸ばしぞろぞろと昼食を取るために大広間に向かう中、ソフィアはハリー達に後で大広間に行くと告げ、生徒全員が変身術の教室からいなくなるのを待っていた。
教室に生徒1人だけになった後、ソフィアは教壇の前で立ちコチラをみるマクゴナガルの元へ駆け寄った。
「マクゴナガル先生!今年は…個人授業を受けさせて頂けますか?」
「ええ、勿論です。私も今それを言おうと思っていましたから」
「まぁ!嬉しいです!」
ソフィアの明るい笑顔に、マクゴナガルはいつもの厳しい表情を緩めた。
「では、今年は金曜日の9時から10時半まで行いましょう。場所は去年と同じです」
「はい、わかりました!」
ソフィアはカバンから時間割を取り出すと、言われた日時を忘れないように書き込んだ。そしてしっかりとカバンの中にしまいこみ、少し悪戯っぽく笑う。
「はじめての個人授業が延期されないのを…祈ってくださいね?」
「…まぁ!…ふふ、…ええ、そうですね」
去年のことを思い出し、マクゴナガルは小さく笑い声をあげた。この人はとても厳格だが、ユーモアが分からないわけではない。
生徒と教師の立場の違いをしっかりと理解し、ある程度までしか踏み込まない様に線引きしているのだろう。
ただ、ソフィアは他の生徒よりも多くの時間をマクゴナガルと過ごしているうちに少しずつ、その強固な彼女の砦を崩していた。今のようにジョークに笑ってくれる事が多くなっている事こそがその証拠だろう。
ソフィアは笑ったまま膝を折り少し頭を下げるとマクゴナガルと別れ、昼食を取るために大広間へ向かった。