【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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61 枕投げ!

 

 

ルイスは昼からの授業をすべてサボり、夕食時には大広間にも行かなかった。

ただスリザリンの談話室で、肘掛け椅子に座り魔法薬学の本を読んでいた。

何人かが授業に現れなかったルイスを心配し、声をかけたが、ルイスは少し気分がすぐれなくて、と安心させるように微笑んでみせた。

 

ルイスは、ドラコが現れるのを待っていた。2人きりになれる自室ではなく、談話室を選んだのは──彼を試すためでもあった。

 

 

「…ルイス……その…」

 

 

ドラコはおずおずとルイスの前に立つと、居心地が悪そうに視線を彷徨かせる。ドラコはなぜルイスが午後の授業や夕食時に現れなかったのか、わかっていた。自分と会わないようにするためだろう。かなり、怒っていたし。

だが、ドラコが居ることに気づきながらもルイスは本から目を上げること無く「何?」とそっけなく、冷ややかに答えた。

途端ドラコは傷ついたような表情を見せたが、すぐに周りに他の生徒が居ることを思い出すといつものように胸を逸らし薄い笑いを無理矢理浮かべると、なんとか思考を働かせルイスの機嫌を取るように、彼にしては優しく、話しかけた。

 

 

「まだ拗ねているのか?──僕はルイスのその態度も寛大な心で許そう」

「…許す?」

 

 

ルイスはその言葉にぴくりと眉を動かす、俯き本を見たままだったが、返事があったことに少し安心したドラコはきっと自分がここまで言ってるんだ、ルイスも許してくれるだろうと、自信たっぷりに頷いた。

 

 

「ああ、昼間の事はもう──」

 

 

──ガンッ!

 

 

水に流そう。そう、続いたドラコの言葉はルイスが蹴り上げた机の鈍い音で掻き消された。がやがやとしていた生徒たちは何事かと音のした方を見る。

 

 

「寛大な心…?許す…?ドラコ、君は何を言ってるんだ?」

 

 

ルイスは本を閉じ立ち上がると、その怒りに揺れる目をドラコに向けた。ドラコは自信に満ちた笑い顔を硬らせ、ルイスの鋭い目から目を逸らせなかった。

 

 

「なんで、君が許すの?」

「そ、れは」

「それは、君の言葉じゃ無い。──…本当に、君には失望したよ」

 

 

ルイスは吐き捨てるように言うと辛そうに表情を歪めた。その表情を見て、はじめてドラコはまだルイスが自分に対し許してなどいなかった事に気付き、掛ける言葉を間違えたと理解した。

正解の言葉が何なのか、わかっていても…それでもまだ、ドラコは口にする事は出来なかった。彼の中の凝り固まったプライドと矜持がそれを邪魔していた。

 

 

「僕は、君を友人だと思っていたよ。でもそうじゃなかったんだね」

「な…何を…」

 

 

ドラコの言葉は情けなく、震えていた。ドラコもルイスの事を友人だと思っている、たった1人の、友人だと。だが、それが崩壊の音を立てて居ることに、ドラコはようやく気付いた。

初めて見たルイスの強い怒りと、軽蔑の眼差しにドラコはぐっと眉間に皺を寄せると今までの余裕のある表情を消し同じようにルイスを睨んだ。

僕には、ルイスしか友人がいない。だが、自分はルイスの多数の友人の、1人でしか無い。何があっても見捨てず支えてくれると思っていた、何があっても、ルイスは自分の側に居てくれると──。

 

 

「──ルイス!それはこっちのセリフだ!僕も友人だと、思っていたさ!だが君にとって僕は…どうせ…!……君はいつもハリー、ハリー!…耳障りだ!」

 

 

ドラコはいつもの表情を崩し、ただの子どものように叫んだ。青白い頬は赤く染められ、怒りと悲しみで目は揺れる。

ルイスは一瞬言葉に詰まったが、すぐに厳しい表情を見せ、一歩ドラコとの距離を詰めた。

 

 

「何を言ってるの!論点をすり替えないでよ!僕は、君が僕の家のことを馬鹿にしたから怒ってるんだ!友達なら、蔑むなんて馬鹿な真似しないでしょう!?なんでそこにハリーが関係するんだ!」

「関係あるね!君が僕を苛つかせるからだ!」

「はぁ!?」

 

 

ドラコの言葉にルイスは心底訳がわからないと言うように眉間に皺を寄せ、苛々とした態度を誤魔化さず頭を掻いた。

 

 

「何を言ってるんだよ!」

「いつも、君は…!僕を肯定しない、あいつらの味方だ!」

「それは…!」

 

 

それは、あまりにもドラコが彼らに対して失礼な態度をとり喧嘩をふっかけるからで、少しも誉められた事をしないからだろう。そう、ルイスは心の中でぼやく。

ドラコはルイスを睨んだまま、この体から溢れる感情が怒りかなんなのか自分でもわからなかった。ただ、胸が詰まり、息が苦しい。──身体が、勝手に震えてしまう。

 

 

「君はいつもそうだ!僕には──君しかいないのに!」

 

 

ドラコの悲痛な叫びが談話室に広がった。しんとした談話室でその声はよく響き、沢山の目がドラコを見つめる。

その視線に気付いた途端に、ドラコは口を硬く閉ざすと勢いよく踵を返しそのまま男子寮への階段を駆け下りた。

 

 

「ドラコ!」

 

 

ルイスはドラコの後を追って階段を一段飛ばしで素早く降りると自室へ向かう、すぐに扉を開ければ、ドラコがベッドのカーテンを閉め唯一のプライベートゾーンで身動きひとつせず、じっとしているのが見えた。

 

ルイスは上がった呼吸を落ち着かせ、少し離れた場所からドラコを見つめた。

 

 

 

元々、ルイスはもうあまり怒っていなかった。真剣に話をするのなら談話室ではなく、2人きりになれる自室にはじめから居ればよかった。そうすればきっとドラコはすぐに本心を話し、ルイスもまた何故悲しくなり、怒ったのかを告げ、2人はすぐに謝罪し合い円満に解決しただろう。

何故、あえてルイスが談話室でドラコを待ったのか。それは、ドラコが他の生徒の前で、謝る事が出来るのか、彼が今までのプライドと矜持もかなぐり捨て、そこまでするほどに自分の事を大切な友だと、そう示す事が出来るのか、知りたかった。

 

謝罪の言葉は結局、談話室で聞くことが出来なかったが、それとは別のルイスが望んだ言葉をドラコは告げた。きっと、あんな大勢の人のいる場所で言うつもりはなかったのだろう、冷静さを失っていたに違いない。

 

ルイスはそっとドラコのベッドに近づき、閉じられたカーテンを開けた。

 

 

「…ドラコ」

「来るな!あっちへ行け!」

 

 

ドラコは叫ぶと振り返りながら手元にあった枕を勢いよくルイスに投げた。まさか枕を投げられると思っていなかったルイスは避ける事なく枕を顔面で受け止める。

ずるり、と枕がルイスの顔から落ち、赤くなったルイスの鼻が覗いた。

 

 

「──何だよ!僕にとってはハリーは友達なんだよ!友達の悪口を肯定しろっていうのか!?」

 

 

ルイスは枕を掴むとドラコに投げ返しながら叫ぶ。枕を胸で受けたドラコは息を詰まらせ一つ咳を溢したものの、すぐにまた枕を投げ返す。

 

 

「ああそうさ!僕はっ──ルイスはいつだって僕の味方になってくれるって思ってたんだ!どうせ、僕はポッターより劣ってるんだろう!君にとって僕は、数多くいる友人の1人にすぎないんだ!」

 

 

投げられた枕を胸の前で受けたルイスはぎゅっと強く枕を掴み、ドラコの頭目がけて振り下ろした。

 

 

「な、ん、で!!──わからないの!?」

 

 

言葉一音一音を区切りながら、ぼすぼすとドラコを枕で叩き、ルイスは叫ぶ。ドラコは思わず頭を守るように腕を上げ鈍い痛みに顔を顰めた。

 

 

「僕にとって、君がその他大勢と一緒なら!もうとっくに!愛想を尽かしてるに決まってるでしょ!?」

「ル──」

「ドラコが、一番の友達だから…!ハリー達を悪く言われて嫌でも、悲しくても!…君の側に居たじゃないか!」

 

 

ルイスは枕を強くドラコに押し付けながら、絞り出すように掠れる声で叫んだ。その言葉にドラコは大きく目を見開く。

 

暫くお互いの荒い息遣いが静まった自室に響いた。

少し冷静さを取り戻したルイスは、長いため息を吐くとちらりとドラコを見る。

 

 

「…僕は、ドラコのことを、ハリー達よりも大切な友人だと思っている。…だから、そんな君に家のことを蔑まれるのが、…──悲しかった」

「ルイス…」

「……もう一度だけ聞くよ。…昼間の言葉は…本心だったの?」

 

 

ルイスはベッドに座り込み、ドラコをじっと見つめた。

ドラコは、その黒く、僅かに潤んだ目に見つめられようやく、自分がしでかした罪の重さを胸の痛みと共にしかと感じた。

 

 

「…す…まない…あれは…本心、じゃ──なかった…」

 

 

蚊の鳴くような小さな声で、ドラコはルイスに謝罪し、項垂れる。ルイスはしばらく無言だったが、枕を掴む手の力を緩めるとドラコの隣に倒れるようにベッドの上に寝転び、手で顔を覆うと大きなため息をついた。

 

 

「はぁ…。わかってるよ、ハリーの前で謝れなかったんでしょ」

「…、…」

 

 

ドラコは小さく頷く。

あんな場所で、とても謝るなんて出来る訳がなかった。

ドラコの頷きを指の隙間から見ていたルイスは、本当に素直さを出さず心を閉ざしすぎて居るドラコに内心で毒づいた。

 

 

「…僕には…本当の意味での、友人は…ルイスしか、いない。周りに群がる連中は…僕を通してマルフォイ家を見ているものばかりだ…誰も、僕を見ない」

 

 

ドラコは、小さく抑揚のない声で呟く、それは溢れ出た感情を、静かに垂れ流しているような、今までは決して誰にも明かさずひた隠しにしていた秘密を吐露するような──そんな声だった。

 

 

「…マルフォイ家の者として…それは当然の事だ、理解している。…嫌になったこともない。ただ……、…──羨ましかったんだ、何にも縛られる事なく…ルイスと話せる…アイツらが…」

「ドラコ…」

「…ルイスは、…僕だけを…ただの1人の人間として、見て…くれるから…。…僕も、ルイスの事を──大切な…友だと…思っている」

 

 

じっと、膝の上で硬く結ばれた手だけを見ながらドラコは囁いた。

手で顔を覆っていたルイスはゆっくりと手を離し身体を起こすと、ドラコに向き合った。

ドラコはおずおずと視線をあげ、ルイスの目を見た。

 

その目はいつものように、優しく細められ、どこか悪戯っぽさをちらりと覗かせていた。

 

 

「…コリン・クリービーの言葉は当たってたね。ドラコはハリーに嫉妬してたんだ?」

「なっ…それは──違う!そういう意味じゃない!」

 

 

ドラコはカッと頬を紅潮させ、つい反射的に否定したが、その先の言葉はルイスの突然の抱擁に飲み込まれた。

 

ルイスは優しくドラコを抱きしめ、慰めるように背中をゆるゆると撫でた。

 

 

「…ごめんね、ドラコ。僕は君の気持ちがわかっていると思ってたけど…本当の意味で理解は出来てなかったみたい。…でも、それはお互い様だね?ドラコも僕がどれほど君を大切に思っているか、知らなかったでしょう?」

「…、…ああ…ルイスはいつも食事の時はグリフィンドールの方に行ってしまうし…ポッター達なんかと仲良くするし…僕の言葉には怒るし…」

「ハリー達は、友達だからね。そりゃ友達が貶されたら僕は怒るよ?それはドラコにだけじゃない。ハリー達がドラコの悪口を言う時は、ハリー達にも同じように怒ってるからね」

「そう、なのか?」

 

 

ルイスは身体を離し、くすくすと面白そうに笑う。まさか、ドラコは影でハリーと僕がドラコの悪口を言っているに違いないと思っていたのか。それで、あんなにハリーと一緒にいる時は不機嫌そうで嫌そうな目で見ていたのか。

 

 

「当たり前でしょ?僕にとって君は──…1番の親友だからね」

 

 

その言葉に、ドラコは心の奥から温かい感情が溢れるのを感じた、それと同時に、後悔が波のように押し寄せる。

 

 

「…ルイス…すまない、僕は…ひどい事を…」

「…もう、いいよ。…ただソフィアにも後で謝ってね?」

「ああ、わかった…」

 

 

ドラコは頷きながらルイスの目をじっと見てその奥に隠された感情を読もうとした、まだ怒っているだろうか?そう、ドラコは心配したが、ルイスの目から怒りは消え、いつものような柔和な色が戻ってきていた。

 

 

「僕は、これからもずっと君の1番の友人だよ。──ただ、僕の友達を馬鹿にする事を許す訳では無いけどね」

「ああ、それで良い。──僕もやめる気はないからな」

 

 

悪戯っぽく笑うルイスにつられ、ドラコも同じようなニヒルな笑みを浮かべた。

 

 

 

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