【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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62 リドルの日記!

 

 

翌朝、ソフィアは夕食にも現れなかったルイスを心配しハーマイオニーに先に行くと告げホグワーツの廊下を足早に歩いていた。去年とは違い、1人で過ごしても脅威は無い。それはわかっていたが大切な家族が1人きりで心を痛めているのを知りながらじっとしているなんて、ソフィアには出来なかった。

 

不安げに表情を翳らせていたソフィアだが、スリザリン寮の地下牢へ続く階段を、ドラコとルイスがいつものように上がって来たのを見るとほっと表情をやわらげた。

 

 

「ルイス!」

「ソフィア、おはよう」

「ドラコ!…仲直りしたのね?」

「…ああ、…その…家のことを言って、悪かった」

 

 

ドラコは開口一番そう言って小さく謝った。いつになく素直なドラコに、これはきっと夜に何かあったに違いないとソフィアはルイスを見たが、ルイスは悪戯っぽく笑っただけで何も言おうとはしない。昨夜の会話は2人だけの秘密だと、ルイスとドラコは何も示し合わずとも同じことを思っていた。

 

 

「もう二度と言わないでね?次は無いから!」

 

 

ソフィアは少しだけドラコを睨んだが、すぐにいつものようににっこりと笑うと三人で大広間へと向かった。

だがソフィアはふと大広間へ続く廊下を一人でとぼとぼと歩くと見知った後ろ姿を見つけ、ドラコとルイスに「また後でね!」と言うと返事を聞かずにすぐにその人の元へ駆け寄った。

 

 

「ジニー!やっと会えたわね!」

 

 

後ろから声をかけぎゅっと胸の中にジニーを抱きしめれば、ジニーは驚いたものの嬉しそうに微笑んだ。

 

 

「ソフィア!…久しぶり」

「…?…ジニー、何だか疲れてる?」

 

 

どこか疲れたような微笑みにすぐに気付いたソフィアはそっと身体を離しジニーの手を取り心配そうに眉を下げた。

 

 

「その……ちょっとね。同室の子達とまだ仲良くなれなくって」

 

 

ジニーは肩をすくめ苦笑した。

まだホグワーツが始まって一週間も経っていない、きっと人見知りをするジニーはなかなか友人を作りにくいのかもしれない。

ソフィアはぱっと笑顔を作ると優しく目を細め、ジニーを励ました。

 

 

「まだホグワーツでの生活は始まったばかりだもの!きっと、仲良しの子が出来るわ!…それに、私たちはもう友達でしょう?何か心配事があったら、すぐに言ってね?」

「ええ、ありがとうソフィア」

 

 

ジニーは励ましの言葉に嬉しそうに頷き、手に持っていた黒いノートを無意識の内に撫でた。

 

 

「それは…?ノート?」

「ああ…これ?多分兄弟の誰かの…フレッドかジョージだと思うけど…お古の日記ね。二人は日記なんてつける性格してないから、ママが私にくれたんだと思うの。鞄の中に入っていて…」

 

 

宝物を見せるように、ジニーはソフィアにその黒いノートを手渡した。

あまりに気軽に手渡された日記に、ソフィアは驚いてジニーと日記を交互に見る。日記なんてプライバシーの塊だ、いくら仲が良いとはいえ、見ても良いのだろうか。

そんなソフィアの戸惑いを感じたのかジニーはくすくすと面白そうに笑うと「見て良いわよ」と促した。

 

ソフィアは当人の許しがあるのなら、と1ページ目をめくる。

 

 

「…T.M.リドル…?これ…あなたの日記じゃないの?」

 

 

ソフィアはペラペラと中をめくってみたが、中には何も書かれていない、表紙からして古そうだったが中身は新品のように真っ新だった。

 

 

「多分、誰かの日記が中古で売られて…それをママが買ってフレッドかジョージにあげたんだと思うわ。…で、私に回ってきたのね。よくあるのよ、お古のお古がね…」

 

 

ジニーは嫌そうにため息をついたが直ぐに気を取り直すと何処かうっとりとした目で黒い日記を見た。今までのお古は全て嫌なものだった、服の丈は合っていないしローブの色も薄くなっている、教科書や羽ペンはぼろぼろでペットも飼ってもらえない。──それでも、これだけは唯一お古でも全く嫌じゃなかった。

 

 

「ソフィアにだけ教えてあげる!きっと、この日記の秘密をフレッドとジョージが知ってたら絶対に私に回ってこなかったと思うわ!」

「秘密?…楽しそうね!ぜひ知りたいわ!」

 

 

ジニーはそう言うとソフィアの腕を引き、近くの教室の中に入った。まだ誰もいない教室は、しん、と静まり返っている。

ジニーは席に座ると机の上に日記を開き、羽ペンとインクを出した。

 

 

「見てて…」

 

 

ジニーは羽ペンにちょんとインクをつけ、迷うこと無く文字を書いた。

 

 

──おはよう、トム。

 

 

それは、日記の内容にはいささか場違いな言葉だった。ソフィアは首を傾げその書かれた文字とジニーを交互に見る。ジニーはくすくすと笑ったまま楽しげにソフィアを見た。どうやらまだ種明かしをするつもりは無いようで、クリスマスプレゼントをこっそりと用意する親のような、素晴らしいものを今にも見せようとするような、そんな含み笑いをしていた。

 

ソフィアはじっとジニーが書いた文字を見つめる。すると、いきなり文字は淡く光ったかと思うとノートの中に吸い込まれるようにして消えた。

 

 

──おはよう、ジニー。今日はいい天気かな?

 

 

「えっ…!」

 

インクがじわじわと滲み出てくるように白いページに文字が現れる。ソフィアは思わず驚きの声を上げ、その文字を指で撫でた。ジニーは想像通りの反応に嬉しそうに、どこか自慢げに笑うとさらに続きの言葉を日記に書き綴る。

 

 

──今日はいまいち、いい天気じゃないわ。それに今日ははじめての魔法薬学があるの!スネイプ先生はスリザリン贔屓だって聞くから、嫌だわ。

 

──いい天気だったらいいのにね、魔法薬学の教室は今でも地下かな?当時は湿気が酷くて、羊皮紙が直ぐにダメになってしまったんだ。

 

 

ジニーは一度手を止めると少し嫌そうにまゆを潜めてソフィアに「湿気てるの?」と聞いた。ソフィアは驚愕から何も言えず、ただ日記の文字を見ながら首を振った。

 

 

──それは大変ね。今は改善されているみたいよ!ねえ、今日は友達を紹介するわ!私の1番の友達なの!

 

──楽しみだよ。

 

 

ジニーはトムの言葉に嬉しそうに微笑み、ソフィアに羽ペンを渡した。羽ペンを受け取ったソフィアは少し文字を書くべきか悩んだ。

ソフィアは、この日記があまり良いものでは無いかもしれない、と何となくそう思った。

人間では無いものが、人間のように優しく語りかけるなんて聞いたことが無い。この日記はどう言う仕組みなのだろうか?ただ、自分のもっとも望んだ言葉を返してくれる?──いや、違う、この中にはリドルという人の人格が収められている、そう、ソフィアは直感した。

 

良いものでは無い、そう、わかっていたがはじめて見るものに好奇心が抑えられず、ソフィアは羽ペンを持ち直すとゆっくりと言葉を書き綴った。

 

 

──はじめまして、私はソフィア・プリンスです。ホグワーツの2年生です。あなたは?

 

──はじめましてソフィア。僕はトム・リドル。この日記は当時6年生だった僕の記憶を封じ込めています。

 

 

「トムもホグワーツ生だったの!色んなお話をしてくれるのよ!トムが居るから、私1人でも…大丈夫なの」

「記憶を閉じ込める魔法なんて聞いたことがないわ!きっと、この人はとても優秀な人なのね」

 

 

ソフィアが感心したように言うと、ジニーは友達が褒められたかのように嬉しそうに笑う。ソフィアは少し、姿の見えない友達を作るより同じグリフィンドール生の友達を作って欲しいと思ったが、彼女にとって心の拠り所になっているのなら、それを今無理に伝えるのは彼女の為にならないのかも知れないと考え、何も言わなかった。

 

 

──ジニーは私の大切な人なの、支えてあげてね。

 

──勿論。

 

 

リドルの返事に、ジニーは恥ずかしそうに頬を赤く染めながらも嬉しそうにはにかんだ。

ソフィアは羽ペンをジニーに返すと日記をぱたんと閉じた。せめて、自分と居る時は慣れない寮生活の辛さや、同級生とうまくいかないと寂しい気持ちを日記に書き込むことの無いようにしてあげたかった。自分がいるんだ、日記になんて話しかけず、生きている人と話したほうがいい。

 

 

「ジニー、大広間に行きましょう?私お腹すいちゃった!」

「ええ、そうね」

 

 

ソフィアはにっこりと笑ったが、ジニーはその笑顔を見る事なく、直ぐに閉じられた日記を開き「トム、また後でね」と書き込んでいた。

 

 

ジニーと共に大広間へ向かっていたソフィアは、グリフィンドール塔へ続く廊下からまだ初々しくあたりをキョロキョロ見渡す一年生の集団に出会った。

彼女たちに気付いたジニーは少し歩みを遅くしソフィアの後ろに隠れたが、集団の中の1人がジニーに気付き、他の少女達に意味ありげに目配せをし、くすくすとあまりいい印象を与えない笑い声を上げた。

ジニーはソフィアの後ろで俯いたまま、その集団が過ぎ去るまで顔を上げることはなかった。

 

 

「…ジニー?」

「…さっきの子達、同じ部屋のルームメイトなの。ホグワーツに来る前から知り合いだったみたいで…私はいつも除け者よ。…それに、私の持ち物をいつも、馬鹿にするの…」

 

 

ジニーは悲しさと、悔しさが混じった声で呟き、自分の古い制服を憎々しげに見下ろした。ウィーズリー家はあまり裕福だとは言えない。その末っ子であるジニーの持ち物はすべて誰かのお下がりであり、ひとつとして新しいものは無かった。

 

それを影で笑うルームメイトと仲良くなれるわけがない。もし、ジニーが男の子なら、きっとここまで気にすることはなく、同級生達も気にしなかっただろう。

だが女の子というものは自分を着飾るものにこだわりを持つ者が多く、くたびれ古ぼけた印象を与えるジニーを馬鹿にするように笑うのも、幼い彼女たちにとっては当たり前の事であり、誉められたものでは無いが──仕方がない事だった。

ジニーは確かに古い服を着ているが、外見に頓着がないわけではなく、年頃の少女らしくキチンと髪を梳かし可愛らしいバレッタで留めていた。さらさらとした赤毛は絹のように滑らかで美しい。それでも、同級生の少女達の中でジニーは少し見下されていた。

 

 

ソフィアはジニーに何と声をかけて良いのかわからなかった、彼女の服を新品にする事は出来ず、下手に慰めても、きっと彼女の自尊心をさらに傷つけるだけだろう。──恵まれた者からの慰めほど、惨めなものはないとソフィアはよくわかっていた。

ソフィアは振り返り、ジニーの硬く結ばれた手を優しく握った。

 

 

「…美味しいものを食べに行きましょう?」

「…ええ」

 

 

ジニーは慰める事なく、ただ寄り添うソフィアにほっとし──ジニーも下手な慰めは求めていなかった──差し出された暖かい手を取り、止まっていた足を動かした。後で、この事もトムに伝えよう、そう思いながら。

 

 

 

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