【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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65 風邪と罰則!

 

10月に入り、ホグワーツ城は一層寒くなり生徒達は凍えて震え、身を寄せ合っていた。生徒や先生の間でも急に風邪が大流行し、医務室のベッドは直ぐに埋まり、マダム・ポンフリーは大忙しで生徒達の間を駆け回り体温を測り体を温めるために沢山の毛布をかけた。

 

 

「うぅ…さ、寒いわ…」

 

 

ソフィアは医務室のベッドの上で沢山の毛布に包まれながら震える。ソフィアも他の生徒と同じく風邪をひいてしまった。他のベッドの上でも何人もの生徒がうんうん唸り、寒さに震えているか、顔を赤くして耳から煙を出していた。それはマダム・ポンフリー特製の元気爆発薬が効いている証拠なのだが、悪寒と耳から絶えず出る煙、どちらがマシかは微妙なところだった。

 

耳から煙を出した生徒はすぐに医務室から追い出され、かわりにまた新しい生徒が咳込みながら現れる。終わりの見えない流行に、ポンフリーは大きくため息を吐いた。

 

 

「ああ、新しい薬を作らなくては…!もう在庫が無くなってしまったわ…」

 

 

薬が入っていた瓶を逆さまにしてぶつぶつとポンフリーが呟き、忙しそうに医務室の奥へ消えていった。残された生徒たちはまだ少し風邪と闘わなければならない事と、耳から煙を出さずにすんだことがわかり、喜んで良いのか悲しんでいいのか、複雑そうに顔を見合わせ苦笑いした。

 

 

「ソフィア…あなたも風邪をひいたのね」

「そういうあなたもなのねパンジー…うう、鼻水が、と、とまらないわ」

 

 

ソフィアはそばにあるタオルで鼻水が流れてくるのを止めようとしたが滝のように溢れて止まることはない。諦めたようにタオルで鼻を押さえたまま、ソフィアはパンジーを見た。彼女もいつもより顔を赤くし、目はどこか腫れぼったい。何度か頭を押さえている事から頭痛もしているのだろう。

 

 

「ええ…多分、この前雨の中ドラコの練習を見てたから…あ、ドラコがシーカーになったのは知ってる?」

「…ええ、知ってるわ」

 

 

パンジーは華麗に空を舞うドラコを思い出すかのように遠くを見ながらうっとりとしたが、ソフィアはドラコがハーマイオニーを侮辱した事を思い出し不機嫌そうに眉を寄せた。あれからドラコとは一切喋っていない。ドラコは何度か話したそうにしたが、ソフィアは無視し、大広間での食事の際もスリザリンの机には近付かなかった。

 

 

「ニンバス2001で飛ぶ彼は本当に凄いのよ!」

 

 

パンジーはその後もどれだけドラコの飛行術が素晴らしいのかをソフィアに話し、ソフィアはあまり興味がなかったが他にする事もなく──病気の時は寝なさいとポンフリーに言われ本を持ち込むことは禁じられてしまった──時々気の抜けた相槌をしながらその話を聞いていた。

 

 

ポンフリーが新たな薬を持って現れ、ようやくパンジーは口を止めた。少し嫌そうにゴブレットに入れられた薬を見るあたり、彼女も耳から煙を出す事が恥ずかしいのだろう。流石のソフィアも、同じだった。

 

 

 

「さあ、飲みなさい」

 

 

ソフィアはポンフリーから薬を手渡され、パンジーとちらりと目配せをする。パンジーは無言で肩をすくめ顔を嫌そうに思い切り歪めた後舌を出した。──飲みたくない。その気持ちがありありと込められたジェスチャーにソフィアは真顔で何度か頷く。

 

 

「早く!何をしてるんです?廊下でベッドの空きを待っている子がいるんですよ!さあ、早く!」

 

 

すぐに飲もうとしないパンジーとソフィアに、ポンフリーは痺れを切らし2人を強く睨みながら早く飲めと急きたてた。

 

ソフィアは大きくため息をつき、一気に薬を煽った。パンジーはソフィアが飲んだのを見て、しぶしぶと言うように薬を飲み干した。

 

しばらくして2人の耳からもくもくと煙が上がる。それを見たポンフリーは薬の効き目に頷くと一度2人の熱を測り、平熱に戻っている事を確認した後すぐに医務室から追い出した。

 

 

ぴしゃりと締められた扉の先で、パンジーとソフィアはどちらともなく顔を合わせる。

もくもくと絶えず煙があがるそれは、まるで火事になっているようだった。

 

パンジーは自分の耳を押さえてみたが、そうすると今度は鼻から煙が上がり──思わずソフィアは吹き出してしまった──諦めて耳から手を離した。

 

 

「…このままドラコの前になんて、行きたくないわ」

 

 

いつもの強気な彼女からは考えられない弱々しい呟きに、確かに好きな人の前でこんな姿は見られたくないだろうとソフィアは思った。

 

 

「んー、外は寒いから…空き教室で煙が収まるまで時間を潰さない?」

「…そうね、そうしましょう」

 

 

ソフィアは別にこのまま寮に戻っても良かったのだが、心細そうな目をするパンジーを1人にする事もできず、そう声をかけた。

あまりグリフィンドールである自分といるところを見られたくないだろう、断るかもしれないと思ったが、ソフィアの提案にパンジーは頷いた。

 

 

医務室近くの部屋を開けたが中には誰も居らず、ソフィアは椅子に座ると寒さからローブの前をしっかりと手で止めた。

 

 

「寒いわね…」

「ええ、使ってない教室だもの」

 

 

ソフィアの隣に座ったパンジーは、体を縮こまらせて震えた。

授業が行われる教室は、一部の授業を除き、快適に授業を受けられるように一定の気温が保たれている。とくに風邪が流行っている今は授業中は少なくとも寒さを忘れることができた。──魔法薬学の授業以外は。

 

 

ソフィアは震えながら杖を取り出し呪文を唱え軽く振るう。近くにあった椅子をランプに変え、その中に炎を入れてパンジーが座る机の前に置いた。

 

 

「ほら、温まりましょう?」

「ええ…。…いつ見ても…本当あなた変身術は凄いわね。魔法薬学はいっその事芸術的だけど」

「あはは…」

 

 

丁度先日スリザリンとの合同授業で起こった一件を思い出し、パンジーがしみじみと言い、ソフィアは反論できず苦笑いしか返せなかった。

 

ソフィアは魔法薬学で、大幅に減点された時の事を思い出した。

 

 

 

 

 

寒い地下室で行われる魔法薬学の授業は、皆手の先を赤く染め震えながら必死に課題である老け薬を調合していた。

ソフィアはルイスと共に組み、ルイスが真面目に材料を計量し、黙々と細かく刻むのを震えながら見ていた。

 

 

「ねえルイス、なんで1ミリに切ったライスバーンの根を28グラム入れるの?面倒臭いから切らずに28グラム入れたらいいじゃない、この根は直ぐ溶けるし…」

「触らないで」

 

 

ソフィアが根の塊を掴んだのを見てルイスはぴしゃりと言い切るとその手を軽く叩いた。

ソフィアは筆記だけは出来るが、こういった細々とした物は性に合わず面倒くさそうにため息をつく。

ルイスは教科書を何度か見ながら慎重に材料を入れ、ゆっくりと大きく鍋をかき回した。

近くをセブルスが通り、2人の鍋を覗き込む。

 

 

「…上手く調合出来ているようだな。スリザリンに3点与えよう」

「…あら先生、グリフィンドールには?」

 

 

ソフィアはちらりとセブルスを見上げて言ったが、セブルスはふんと小馬鹿にしたように笑い、ソフィアを見下ろす。

 

 

「ミス・プリンス。この薬で君がやった事があるのなら──…我輩に教えていただけるかな?」

 

 

わざとらしく柔らかなその声に、ソフィアはムッとしてルイスがかき混ぜる鍋を見る。

残念ながらソフィアは何もしていなかった。ぐうの音も出ないソフィアに、セブルスは「調合は2人でするように伝えたはずだ。グリフィンドール3点減点」と告げ、勝ち誇ったような嘲笑を浮かべローブを翻し他の生徒を見て回った。

ハーマイオニーは後ろからそれを見ていて、本当にこの2人は親子なのだろうか、あまりにもスネイプ先生の目は他のグリフィンドール生を見るように冷たい。我が子に向ける眼差しではないだろう。──少し信じられなかった。

 

 

「何よ!やればいいんでしょやれば、ルイス、代わるわ」

「えっ…うーん…まぁ、そうだね…ソフィア、くれぐれもゆっくりかき混ぜてね?右回しで一周5秒くらいかけて…」

「作り方はちゃんと覚えてるわ!」

 

 

ソフィアはルイスの手から無理矢理かき混ぜていた棒を取ると、怒りながらもゆっくりとかき回した。それを見てルイスはホッとし、使った器具や残った材料の後片付けを始めた。

ゆっくりと鍋をかき混ぜていたソフィアだったが、寒気からぶるりと震えるとトロ火の鍋を恨めしそうに見る。せめてもう少し炎が燃えていれば暖かいのに、そう思ったソフィアは何も考えず火の勢いを強めた。

 

 

「ソフィア!ダメ──」 

 

 

それに気付いたルイスが慌ててそう叫んだが時は既に遅く。ソフィアが訝しげにルイスを見た時鍋がぐらりと湯立ち轟音を立てて爆発した。

 

ルイスは杖を振るい咄嗟に自分とソフィアを守ったが、爆発した鍋は濛々とした煙と共に生徒を覆う。突然教室中が闇に覆われ叫び声と共にいくつもの鍋をひっくり返す音や倒れる音が響く。

 

 

「──静まれ!」

 

 

セブルスは怒号と共に杖を一振りした。

すっと煙は消えたが、視界が晴れた先に見えた惨劇にセブルスは眉間に刻まれた皺を深くし、苛立ちからつい舌打ちを零す。

煙に覆われた生徒達は皆髪を白くし、肌にはシミや皺が出来ていた。被害を被った少女達は顔を見合わせ叫び泣き出してしまった。

 

 

「…被害にあったものは薬をやるからすぐに来い。縮み薬を飲めば治る」

 

 

セブルスは教壇に向かい、薬棚から縮み薬を出すと机の上に置いた。老いてしまった生徒達は顔を隠しながらよろよろと我先にと教壇の前に並ぶ。生徒達は皆すれ違いざまに居心地の悪そうなソフィアに憎しみの目を向けた。

 

 

「ご…ごめんなさい…」

 

 

爆発の中心地にいて、さらにこの惨劇の犯人にも関わらず、ルイスに守られたソフィアは少しも被害を受けていなかった。

流石のソフィアも申し訳なさから一人一人に謝ったが、誰も笑う事なく怒りを滲ませながらそっぽを向いた。

 

 

「ミス・プリンス、20点の減点と罰則だ」

「…はい、先生…」

 

 

ソフィアは項垂れたまま頷いた。

隣にいたルイスは呆れたようにため息をつき、ソフィアの肩を叩く。

 

 

「ソフィアはもう二度と調合しない方がいい、みんなのためにね」

 

 

 

 

魔法薬学での大失敗を思い出したソフィアは無言でランプの炎を見つめる。

パンジーはソフィアから離れていた場所で調合していたため、何とか無事だったがもし他の生徒達のように老いていたら今のようにソフィアと話すことは出来なかっただろう。

 

 

「罰則はもう終わったの?」

「あー…。うわ…今日だったわ…」

 

 

そういえば今日の夜8時からだった。何の罰則かは聞いていないが、研究室にくるようにと言われていた。ソフィアは嫌そうに顔を顰める。少なくとも楽しい罰則ではなさそうだ。

 

パンジーはあの惨劇を考えれば罰則も当然だと思い、慰める言葉をかけることはなかった。

 

数時間後。

ようやく耳から煙が収まった2人は時間を潰した空き教室から出て、パンジーはスリザリン寮へ、丁度罰則の時間が近かったソフィアは研究室へ向かった。

 

何処よりも寒く冷たい隙間風が吹き込む地下への廊下を震えながら歩き、ソフィアはセブルスの研究室の前に立ち扉を叩いた。

 

 

「ソフィア・プリンスです。罰則にきました」

「…入りたまえ」

「…失礼します」

 

 

ソフィアは聞こえてきた声がどうも暖かいものではなく、冷たい響きをしていることに心の中でため息をつきながら扉を開けた。

 

 

「…座りなさい」

 

 

セブルスは険しい表情のまま杖を一振りし部屋の中央に無機質な机と椅子を出した。ソフィアはそれを見て、流石に今回は楽しい罰則──という名の、親子としての交流──ではなく、本当の、罰則なのだと理解した。

逆らうことなくソフィアはその椅子に座り、セブルスは机の上に羽根ペンとインク瓶、そして大量の羊皮紙を置いた。

 

 

「書き取りだ。我輩が良いと言うまで。──私、ソフィア・プリンスは二度と魔法薬学の授業でふざけた真似をしない──と、書くんだ」

「…私、別にふざけたわけじゃ…」

 

 

ただ、寒かったから温まりたくて、と言おうとした言葉はセブルスの鋭い睨みによって口の中で消えた。

ソフィアは大人しく羽根ペンを持つと、言われた言葉を書き始めた。

 

 

どれくらいそうしていただろうか。

時たまセブルスがちゃんと書いているかどうか覗き込み、ちゃんと書いている事を確認すると無言でその場から離れ、魔法薬と様々な材料が納められている棚を整理する。静かな部屋に衣擦れの音と羽根ペンのカリカリと言う音、フラスコなどを片づける音だけが響いた。

 

だんだん手が痛くなり、ソフィアは一度手を止めると軽く手を振った。流石に病み上がりの罰則はきつく、手首の痛みだけでなくだんだん頭痛までしてきてしまう。

 

小さく疲れたようにため息をつき、左肘を机に乗せ痛む頭を支えながらソフィアはまた文字を書き続けた。

 

 

「…ポンフリーから聞いたのだが」

 

 

ふいに、セブルスが呟いた。

頭が痛いソフィアは眉間を寄せたまま、セブルスをちらりと見上げる。

 

 

「体調は、もう戻ったのか?」

 

 

静かな言葉に、少しの心配が確かに含まれていた。いつものソフィアなら気付いただろう、生徒には見せない父として、娘の体調を気遣う思いだったが。ソフィアはガンガンと強くなる頭痛にそれどころではなく、羽根ペンを羊皮紙の上に置くと少し恨めしさを滲ませた目でセブルスを見上げ、少し揶揄うように笑った。

 

 

「お陰様で。頭が割れそうです」

 

 

ソフィアはそう吐き捨てると、大きく息を吐き顔を手で覆った。

確かに具合が悪そうだとセブルスは額を押さえ俯くソフィアを見て薬棚から一つの小瓶を取り出す。

 

 

「…鎮痛剤だ、飲みなさい」

 

 

ソフィアはゆっくりと両手から顔を離す。

目の前に置かれた小瓶を見ると直ぐに手を伸ばし飲み干し、疲れ切ったソフィアは机に突っ伏した。

 

 

「もう罰則はいい。…少し休んで帰りなさい」

 

 

そう言うとセブルスは優しくソフィアの頭を撫でる。その優しい手の感覚に、ようやくソフィアはセブルスが父として自分に接している事に気付き顔を横にずらしてセブルスを見上げた。

 

 

「父様…わたし、本当にふざけてあんな事をしたわけじゃないのよ。…寒かったから…」

「…なお悪い。…ゆっくり温度をあげなければならない、その作り方はわかっていた筈だ」

「あー…確かそうだったわ、本当薬作りってややこしいわ…私には向いてない…」

 

 

痛みが治ってきた頭で薬の作り方を思い出せば、たしかにゆっくりと混ぜて温度を少しずつ上げていくと書いてあった。結局温度をあげきるのだから、同じ事ではないかとソフィアは心の中で思う。

 

 

「…知識はあるのだが…勿体ないな」

「良いのよ…作れなくても、父様とルイスが作れば良いもの」

 

 

拗ねたようにソフィアは言うとぷいとそっぽを向いた。

ちなみにソフィアは──料理の腕もイマイチである。

 

 

 

 

 

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