それから1週間後、ソフィア達が玄関ホールを歩いていると、掲示板の前にちょっとした人だかりが出来ていて、張り出されたばかりの掲示物を夢中になって読んでいた。
シェーマスとディーンがソフィア達に気付くと興奮した顔で彼らを手招きした。
「決闘クラブを始めるんだって!今回が第一回目だ!決闘の練習なら悪くないな…近々役に立つかも」
興奮したままシェーマスが独り言のように囁いた。彼が何を考えているのかすぐにわかったロンは驚いて口をぽかんと開けた。
「え?君、スリザリンの怪物と決闘なんかできると思うのかい?」
そうからかいながら、ロンも興味津々で掲示を読み、ソフィアもまた面白そうな試みに頬を赤らめキラキラとした目でそれを見つめていた。
「役に立つかもね、僕たちもいこうか」
夕食に向かう途中ハリーがソフィア達に言えば、3人とも乗り気で直ぐに頷いた。
その夜8時に4人は再び大広間へと向かった。食事用の長机は取り払われ、代わりに一方の壁に沿って金色の舞台が用意されていた。各々が杖を持ち、ホグワーツの殆どの生徒が参加したらしく興奮した面持ちで口々に喋りなかなかに騒がしかった。
「ソフィア!ハリー達も、久しぶり!」
生徒達の群れを掻き分け、ルイスがソフィアの前に現れにっこりと笑った。こうしてルイスと会うのはかなり久しぶりであり、ハリー達はルイスを見た途端笑顔を見せ駆け寄るが、近くにドラコが居るのではないかと注意深く辺りを見渡す。そんなハリー達に気付いてルイスはくすくすと笑った。
「大丈夫、ドラコは向こうでクラッブとゴイルにどれだけ自分が優れた決闘者か語ってるよ」
「ルイス、久しぶりだね!ルイスも参加するんだ?」
「うーん、僕ルイスとは決闘したくないなぁ」
ロンは嬉しそうにしながらも、その言葉はやや消極的だった。去年トロールを倒すために幾つも彼が呪文を放ったのをしっかりとロンは覚えていたのだ。
「私はルイスと決闘してみたいわ!どうやって組み分けされるのかしらね?多分2人1組だとは思うんだけど…」
「ソフィアと?うーん…ソフィアを傷付けたくないなぁ…」
ルイスはちょっと困ったように笑っていたが、遠くからルイスを呼ぶドラコの声に気付くと「じゃあね!」と言いすぐに手を振り、人混みの中に消えて行ってしまった。
「いったい、誰が教えるのかしら?誰かが言ってたけど、フリットウィック先生って、若い時決闘チャンピオンだったんですって、きっと彼よ」
「呪文学の先生ですもの、きっと強いんでしょうね!楽しみだわ!」
なるべく前の方に行こうと、ハーマイオニーがお喋りをしている生徒の群れの中に割り込みながら言い、ソフィアはその後に続きながら楽しげに声を弾ませた。
「誰だっていいよ──」
あいつでなければ。と、ハリーは言いかけたが、その代わりに出たのは呻き声だった。
ロックハートが煌びやかな深紫色のローブを纏い舞台の上に登場した。その後ろからは、セブルスがいつもの服装で舞台に静かに立った。
「最悪だ…」
「どっちが?」
「それ、聞く意味あるかい?」
ソフィアの言葉にハリーは力なく答えた。
ハリーにとってみれば、どちらも最悪に違いなかったが、ソフィアは父の決闘する姿が間近で見れるのだと少し嬉しそうだった。
「静粛に!皆さん、集まって。さあ、集まって!皆さん、私がよく見えますか?私の声がよく聞こえますか?結構、結構!
ダンブルドア校長先生から、私がこの小さな決闘クラブを始めるお許しをいただきました。私自身が数えきれない程経験してきたように、自らを守る必要が生じた万一の場合に備えて、皆さんをしっかり鍛え上げる為にです。──詳しくは私の著書を読んでください」
ロックハートは観衆に向かっていつもの輝く白い歯を見せた笑顔を振り撒き、ウインクをしてみせたが、ぱらぱらとした控えめな拍手が響いただけだった。
「では、助手のスネイプ先生をご紹介しましょう!スネイプ先生がおっしゃるには、決闘についてごく僅か、ご存知らしい。訓練を始めるにあたり、短い模範演技をするのに、勇敢にも手伝ってくださるという御了承をいただきました!──さてさて、お若い皆さんにご心配をおかけしたくはありません。私が彼の手合わせをした後でも、皆さんの魔法薬の先生は、ちゃんと存在します!ご心配めさるな!」
「むしろ、闇の魔術に対する防衛術の先生が居なくなりそうよね?ほら、ハグリッドも一年続かないって言ってたわ」
ソフィアはハーマイオニーに囁いた。まだロックハートの偉業の数々を信じているハーマイオニーはちょっとムッとしたが、その可能性をチラリと考えたのか心配そうにロックハートを見つめていた。
ロックハートとセブルスは少し離れた場所に立ち、向かい合って一礼をした。ロックハートは腕を振り上げ大袈裟なまでに振り回し深々と頭を下げ生徒達に笑顔を振り撒いたが、セブルスは不機嫌そうに頭を少し下げただけだった。
それから二人は杖を剣のように前に突き出して構えた。
凛々しいセブルスの所作に、ソフィアとルイスは内心で「父様かっこいい」と何度も呟き惚れ惚れとその姿を見ていた。
「ご覧のように、私達は作法に従って杖を構えています。3つ数えて、最初の術をかけます。勿論、どちらも相手を殺すつもりはありません」
ロックハートは少しも自分が傷付く未来を想像していないのか、説明が終わると自信たっぷりにセブルスと対面した。
「1──2──3──」
ロックハートのカウントと共に二人とも肩より高く杖を振り上げ、すぐにセブルスが叫んだ。
「
目も眩むような紅の閃光が杖先から走ったかと思うと、ロックハートは舞台から吹っ飛び、後ろ向きに弧を描くように宙を飛び壁に激突し、そのままズルズルと滑り降りて床に無様に転がった。
ドラコや数人のスリザリン生が歓声を上げたが、ソフィアとルイスもまたぐっと拳を握り密かに父を讃えた。
「ロックハート先生、大丈夫かしら?」
「知るもんか!」
ハーマイオニーは爪先で跳ねながら顔を手で覆い怖々と見つつ、心配そうに言ったがハリーとロンは声を揃えて答えた。
ロックハートはそれでも笑顔を見せ──少々引き攣っていたが──よろよろと立ち上がると壇上まで戻ってきた。この状況で笑顔を見せられる意地はちょっとすごいかも知れない、とソフィアは珍しくロックハートを誉めた。
「さあ、皆さんわかったでしょうね!あれが、武装解除です。ご覧の通り、私は杖を失ったわけです。──あぁ、ミス・ブラウン、ありがとう──スネイプ先生。たしかに、生徒にあの術を見せようとしたのは素晴らしいお考えです。しかし、遠慮なく一言申し上げれば、先生が何をなさろうとしたのか、あまりにも見えすいて居ましてね…止めようと思えば、いとも簡単だったでしょう。しかし、生徒に見せた方が、教育的に良いと思いましてね…」
ロックハートはそれらしく聞こえそうな言い訳をつらつらと口から吐き出していたが、セブルスがあまりにも強い目で睨んでいる事に気付き、慌てて模範演技の終了を告げた。
その後ロックハートとセブルスは生徒の群れの中に入り、二人ずつ組ませた。ロックハートは目についた生徒を適当に組んで行ったが、セブルスはまず最初にソフィア達の元へ現れた。
ソフィアには視線を移さず、セブルスは冷笑を浮かべロンとハリーを見る。
「どうやら、二人にお別れの時が来たようだな。ウィーズリー、君はフィネガンと組みたまえ。ポッターは──」
ハリーは思わず、ソフィアのほうに寄ろうとしたが彼女の呪文学と変身術の能力を思い出すと方向転換し、ハーマイオニーに近づいた。
「そうはいかん。──マルフォイ、来たまえ。かの有名なポッターを、君がどう捌くのか拝見しよう。それにミス・グレンジャー、君はミス・ブルストロードと組みたまえ」
ドラコはニヤニヤしながら現れ、その後にルイスが人混みを掻き分けながらセブルスを見上げた。
「先生、僕は誰と組めばいいですか?」
「…ミスター・プリンス、君は──」
ちらり、とセブルスの目がソフィアを捉えた。少し悩んだ後、セブルスはソフィアから視線を外すとルイスに向き合う。
「ミス・プリンスと組みたまえ。…兄妹だろうが、手加減の無いように」
セブルスはそれだけを告げると他の生徒達を組み分けする為に生徒の群れの中に消えた。
何故あえて兄妹で組ませたのか、セブルスは2人の呪文学のセンスをしっかりと理解している。他の生徒と組ませれば彼らの攻撃によりどんな惨劇が待っているか、考えるに値しないだろう。怪我をした子どもの保護者がクレームをつけるよりは、自分の子ども達同士で組ませた方が被害が少ない。それに、ルイスはソフィアを傷付けないだろう、とセブルスは考えた。
「ルイス、先生もああ言っているし、絶対手加減しないでよね?もし怪我してもすぐに医務室で治して貰えば良いんだわ」
「えー…でも…」
ルイスは心の底から妹を溺愛している。そんな存在に向かって攻撃魔法を繰り出すなんて、かなり嫌だった。だがここでわざと負ければきっと彼女は烈火の如く怒るだろう。
「もし手加減したら──許さないわ」
「でも…そんな…」
「ルイス、お願い」
ルイスはそれでも暫く迷っていたが、ソフィアの懇願についに諦めたように両手を上げため息を吐く。
「……わかったよ!…どうなっても知らないよ?…今から謝っておくね、──ごめんね?」
「あら、私に勝てると思ってるの?」
「うん、勿論」
「…私も謝るわ、泣かせてしまったらごめんなさいね?変身魔法は使わないであげるわ!」
ルイスは静かにソフィアに杖を向けた。少し困ったようにしながらも、どこか楽しそうに目は弧を描いていた。ソフィアもまた挑戦的な目でルイスを見ると杖を突きつける。
「相手と向き合って──そして、礼!」
ロックハートの号令に従い、ソフィアとルイスはお互い同時に深く頭を下げた。
「杖を構えて!私が3つ数えたら、相手の武器を取り上げる術をかけなさい。──武器を取り上げるだけですよ?皆さんが事故を起こすのは嫌ですからね」
ソフィアとルイスは微かに頷き合った。お互い考えている事は同じだ、武装解除なんて、するわけがない。
「1──2──3!」
ロックハートのカウントと共に、ソフィアとルイスは杖を振り上げる。どちらの顔も楽しげに笑みの形を作っていた。
「
「
ソフィアの放った炎をルイスは難なく防御魔法で防ぎ、すぐにそれを消すとさらに鋭く呪文を唱える。
「
「きゃっ!」
足元が爆破され、床が抉れ石のかけらがソフィアを襲った。ソフィアは身体の前で腕を交差させ石粒の直撃を防ぎすぐに叫ぶ。
「
「
「
「──うわっ!」
ソフィアの攻撃をルイスは別の攻撃魔法で相殺させ、新たな魔法を繰り出そうと杖を振るうが、それよりもソフィアが強く魔法を放つ。
ソフィアは杖を高く振り上げ、それに合わせるようにルイスの足元から気流が発生しルイスは空高く吹き飛んだ。
──勝った!
そう、ソフィアは思い直ぐに浮遊呪文で落下するルイスを助けようとした。──が、ルイスは天井ぎりぎりでくるりと身体をひねり反転させ、落下しながらも空を切り裂くように杖先をソフィアに向け振り下ろした。
「
「──っ!?
初めて聞いた魔法に、その効果が分からずソフィアが防御を選んだのは幸運だっただろう。もし、この魔法を防御する事なく受けていたら、ソフィアの身体は剣で切り裂かれたようにズタズタになり、血に塗れていた。
「
ルイスは地面にぶつかる直前に自分の体に浮遊呪文をかけ、軽い足取りで難なく着地すると、楽しげに目を細めソフィアに杖先を向ける。
ソフィアは嫌な汗が背中に流れていくのを感じた、足下を見ればプロテゴの範囲外だった石造りの床は深く切り裂かれている。いつの間に、こんな呪文を覚えたのだろう。
「そっちこそ、なかなかしぶといじゃない?」
ソフィアは薄く笑うと同じように杖先を向けた。
もう一度仕切り直しだ、そう2人は直感し同時に杖を振り上げる。
「
「えっ!?」
「わぁっ!」
しかし2人の再戦は第三者の乱入により敵う事は無かった。2人の手元に紅の閃光が当たり、杖が飛び出した。
ソフィアとルイスは痛む手を振りながら杖の飛んでいった先を目で追い、怒りの表情で二人の杖を纏めて捕まえたセブルスを見た。
「何を──」
何をするの、そう、ソフィアとルイスは同時に言いかけたが、ふと周りが奇妙なほど静かな事に気付き辺りを見渡した。
自分達の近くには誰も居らず、生徒達は遠まきにソフィアとルイスを怖々見ていた。
二年生では覚える事のない数々の攻撃の魔法に、初めは驚きつつもその凄さに感心していた生徒達だったが、2人のあまりの圧倒的な強さと魔法に、恐ろしさを感じていた。