ハリー達もまた、ソフィアとルイスの決闘の様子を見て唖然としていた。武装解除呪文を唱えた者は少ないが、他の呪文を使ったとしても精々
誰一人として直接的な攻撃魔法をしかける者はいなかった。──あの二人以外には。
「武装解除だけだと…聞いていなかったのかね?」
「…ごめんなさい」
「…兄妹だから、遠慮なくしちゃいました…」
流石に周りの痛いほどの視線に2人は項垂れ反省を見せた。決闘クラブとはいえ、どうやらやり過ぎてしまったようだ。
セブルスは眉間に深く皺を刻み、硬い表情でその杖を2人に手渡す。
まさか、ソフィアとルイスがここまで戦うとは思っていなかった。ルイスは妹であるソフィアを愛している。セブルスは、きっとルイスはソフィアに魔法をかけることなくプロテゴか、素直に武装解除を行うと考えていた。
ルイスはソフィアが傷付くことをいつも恐れている、そんな存在に致命傷を負わせることが出来る魔法を躊躇いなく使うとは微塵も思わなかった。
今はしおらしくしているが先程の目にはちらりと戦闘を求める暗い狂気が見え隠れしていた。──特に、ルイスには。
それに、教科書には乗っていない魔法をどうやって知ったのか、後で色々と聞かないといけない、とセブルスは苦虫をを噛み潰したような表情を見せながら壇上へ向かう。
壇上ではロックハートが圧倒的な2人の魔法の応戦を見て唖然としていたが、すぐに我に帰ると気を取り直すように──生徒たちが自分に注目をするように──何度か咳をこぼした。
「なかなか素晴らしい決闘でした!皆さんプリンス兄妹に拍手!!」
生徒達は顔を見合わせ、確かに素晴らしい決闘には違いなかった、とパラパラと拍手をソフィアとルイスに送ったが、二人はどこか気まずそうに苦笑した。
「私も見ていて昔の血が騒ぎましたよ!もっとも、私なら小さな決闘士さん二人をまとめてお相手出来ますがね?──さて、皆さんには非友好的な術の防ぎ方をお教えするほうが良いようですね」
ソフィアとルイスは顔を見合わせると苦笑いをこぼし、そっと生徒達から離れどちらからともなく後方へ向かった。
「やり過ぎたね」
「ええ…でも、とっても楽しかったわ!最後の魔法は…あれは何?聞いたことないわ」
「あーあれ?ジャックがこっそり教えてくれたんだ」
ルイスは少し、困惑していた。ジャックからは切り裂き魔法だと聞いていたが、まさかあれ程の──床が抉れるほどの強い魔法だとは思わなかった。そんな魔法を愛する妹に使ってしまっただなんて、ソフィアが防御してくれて本当に良かった。
少し埃や汚れはついているが、大きな怪我は無いソフィアを見て、ルイスはほっと胸を撫で下ろした。
2人は離れた場所から大広間の真ん中に無理矢理招かれたハリーと、意気揚々と向かうドラコを見ていた。
「何かと先生はドラコとハリーを敵対させようとするよね」
「ええ…2人の仲が悪くなるのも、仕方ない気がするわ」
薄く笑いながらドラコの耳元で何やら囁いているセブルスに、ソフィアとルイスは呆れたような視線を向けた。父の事は心から愛し尊敬しているが、彼のハリーに対する言動だけが、2人には受容出来なかった。
「1──2──3──それ!」
ハリーは何の魔法を使えば良いのか分からず困惑していたが、ロックハートは気にする事なく決闘開始の合図を告げる。すぐにドラコが素早く杖を振り上げた。
「
ドラコが大声で鋭く発した呪文により、杖の先から黒い蛇が飛び出てきた。急に呼び出された地面に身体を打ち付けた蛇は怒り、臨戦態勢を取りハリーに鎌首をもたげる。
近くにいた生徒は悲鳴を上げさっと後方へ下がった。
「まぁ!蛇よ!可愛いわ…近くに行きましょう!」
「えぇ…ソフィアって本当…ちょっと変だね」
ルイスは一般人と同じ程度には、蛇が怖い。だがソフィアはルイスの手を引き、ウキウキとしながら決して蛇に近付こうとしない生徒達の間を縫って前に飛び出した。
簡単にその場所へ行くことが出来たのは、蛇を怖がり中央が広く開いていた事と、ソフィアとルイスならこの蛇を始末できるだろうという期待からだった。
「わぁ…!何の蛇かしら…」
「さあ…アオダイショウの黒個体じゃない?ねぇソフィア危ないからもうちょっとさがって!」
今にも噛み付きそうにソフィアに威嚇する蛇だが、ソフィアは嬉しそうに微笑み目を輝かせる。それを生徒達──勿論ルイスも──はかなり引き気味で見守っていた。
「動くなポッター、…ミス・プリンス。我輩が追い払ってやろう」
ただ1人蛇に近づくソフィアを見たセブルスはすぐに蛇を消そうと杖を向けた。あれは毒蛇ではないが、今は気が立っている、噛まれても可笑しくはない。
「私にお任せあれ!」
しかし、今まで輝かしい見せ場が無かったロックハートはこの絶好のチャンスを見逃すわけがなく、果敢に叫び蛇に向かって杖を振り回す。
ロックハートの杖先から出た閃光は蛇を消失させるどころか、ニ、三メートル宙を飛びビシャッと大きな音を立ててまた床に落ちてきた。ロックハートから攻撃を受けた蛇は怒り狂いたまたま視界の先に居たハッフルパフの生徒、ジャスティン目掛けて滑り寄った。
「危ない!」
「──手を出すな、去れ!」
ソフィアはジャスティンが恐怖と驚愕で動けないのを見ると直ぐに蛇から遠ざけるために強くその手を引く。
ジャスティンが驚いたまま後ろに下がるのと、ハリーが人間の言葉ではない言語で叫んだのはほぼ同時だった。
ハリーの言葉により蛇は威嚇する事をやめるとジャスティンからハリーの方に向かい、従順にハリーを見上げた。
誰もが唖然とハリーを見ていた。蛇に襲われそうになったジャスティンは顔を蒼白にさせ、恐怖に戦き震えている。
ハリーはジャスティンを見て、にっこりと笑った。だが、その笑顔を良い意味で捉えることはジャスティンには出来なかった。──凶悪な笑顔に、見えたのだ。
「いったい、何の悪ふざけだ!?」
ジャスティンは叫ぶと直ぐに背を向けその場から去った。
暫く重い沈黙が降りるが、なぜ皆がそんなに静かなのか、なぜ、怪訝な目で自分を見るのか、ハリーには分からなかった。
大人しくなった蛇にセブルスが杖を向け直ぐにその場から消す。ヒソヒソとした囁きが大広間の沈黙を消した。
「…ハリー、来て」
「ソフィア…」
ソフィアはハリーの手を取ると、すぐに大広間から抜け出した。生徒達の間を縫うように歩かなくとも、皆が近寄りたくないとでも言うようにサッと道を開けた。
途中でロンとハーマイオニーと合流し、無言のまま人気の無いグリフィンドールの談話室までハリーを引っ張り、肘掛け椅子に座らせた後、漸くソフィアは困惑するハリーに口を開いた。
「ハリー、あなた…パーセルマウスなのね」
「そうだよ!どうして僕たちに話してくれなかったの?」
「パーセル…何?何だって?」
ハリーはその言葉を初めて聞いたように首を傾げる。ロンは伝わらない言葉と隠されていた事実に苛々としていたが、ソフィアは口を閉ざした。──ハリーは、知らない事が多すぎる。もう少し魔法界の事を知らないとダメだ。
「パーセルマウスだよ!君は蛇と話ができるんだ!」
「そうだよ。さっきので二回目だ。一度、動物園で偶然…話せば長いけど…大ニシキ蛇がブラジルなんて一度も見た事がないって僕に話しかけて、僕がそんなつもりは無かったんだけど…その蛇を逃してやったようになったんだ。自分が魔法使い何だってわかる前だけど…」
「大ニシキ蛇が、君に一度もブラジルに行った事がないって話したの?」
何でもない事だと、きょとんとした顔で平然と言うハリーに、ロンは力なく信じられない思いで繰り返した。
「それがどうかしたの?ここにはそんな事が出来る人、たくさんいるでしょ?」
「それが、いないんだ。そんな能力はザラに持ってない。──ハリー、まずいよ」
ロンが緊張し、怖々ハリーに言うと、この中でその能力を持つ意味がわからないハリーだけが、憤った。
「何がまずいんだい?皆、どうしたんだよ!考えてもみてよ、もし僕が蛇にジャスティンを襲うな、去れ!って言わなかったら──」
「そう言ったの?」
ソフィアは、ハリーを見ながらぽつりと呟く。ハリーは驚き怪訝な目でソフィアを見た、彼女は最も近くにいた筈だ、その言葉を聞いていないわけがないだろう。
「どう言う意味?ソフィアは一番近くにいて…僕の言う事を聞いたじゃないか…」
「ううん、私が聞いたのは…パーセルタング、蛇語よ。ハリー、あなた蛇の言葉を喋っていたわ。…ハリーが何を言ったのか、多分あの場でわかった人は居ないわ…ジャスティンは、ハリーが蛇を唆したんじゃないかって、そう考えてると思うわ」
「…僕が違う言葉を話したって?だけど──僕、気がつかなかった…。自分が話せるって知らないのに、どうしてそんな言葉が話せるんだい?」
「…分からないわ」
ソフィアは首を振った。ハリーはロンとハーマイオニーを見たが、2人も首を振り暗い顔をしてハリーを見ていたが、何故蛇と話せる事がそんなに悪い事なのか、ハリーにはまだ理解出来なかった。
「あの蛇が、ジャスティンの首を食いちぎるのを止めたのに、いったい何が悪いのか教えてくれないか?どんなやり方で止めたのかなんて、問題になるの?」
「…問題になるのよ、ハリー」
ハーマイオニーがぐっと手に力を込め、ひそひそと囁いた。
「サラザール・スリザリンは蛇と話しができる事で有名なの。だから…スリザリンのシンボルは蛇でしょう?」
ようやく、ハリーは何故まずいのかがわかり唖然と口を開いた。
ソフィアは、せめて蛇と話す事ができるという事実がもっと別のタイミングで判明されたのなら、まだマシだったのにとため息をつく。ホグワーツ内でスリザリンの継承者が誰なのか、ピリピリとしている中でハリーがパーセルマウスだと皆が知ってしまった。──それも最悪の形で。
「きっと、今度は学校中が君のことを、スリザリンの曾々々々孫だとかなんとか言い出すだろうな…」
「だけど、僕は違う」
蒼白な顔で、そんなの信じたくないとばかりにハリーは首を振った。
「それは証明し難いことね、スリザリンは千年ほど前に生きてたんだから、あなただと言う可能性もありえるのよ」
ハーマイオニーの静かな言葉に、ハリーは言葉を返せない。重々しい無言の中、ソフィアはこのお通夜のような雰囲気を何とかしようと手を叩いた。
「まぁ、ほら、蛇とお話できるなんて、私は素晴らしいと思うわ!私、蛇大好きだもの!」
「…こんな能力欲しがるの…ソフィアだけだよ…」
ソフィアは慰める為に言ったが、ハリーの沈んだ気持ちは晴れなかった。