決闘クラブの次の日の朝、ソフィアとルイスは共にセブルスの研究室に呼び出されていた。
この日、ソフィアは朝から学期最後の薬草学の授業があったのだが、前夜から降った雪が吹雪となり、凍えるマンドレイク達の世話の為にスプラウトの手が離せず休講となった。マンドレイクの生育は今何よりも急がなければならず、誰も休講になった事に文句は言わなかった。
朝食時の大広間で、フクロウ便から呼び出しの手紙を受け取ったソフィアがハリー達に「魔法薬学の補習が入ったの」と言っても、誰もそれを疑わなかった。
「呼び出しの理由が私が補習で、ルイスが特別個人授業だなんて納得いかないわ…」
「そう?一番適切だと思うけど」
ソフィアはルイスと共に地下牢へ続く階段を降りながらぶつぶつと文句を言ったが、ルイスは涼しい顔でそれに答えた。
ルイスは元からこの時間に授業がない、きっとセブルスはそれを知っていた為に、偶然にも出来た2人共通の空き時間を利用し呼び出したのだろう。
2人とも呼び出しの理由は告げられていないが、察していた。間違いなく決闘クラブでの一件を聞く為に呼ばれたのだろう。
研究室の扉の前に立ち、ルイスが扉を軽く叩いた。
「先生、ルイスとソフィアです」
「入りたまえ」
直ぐに扉を開け、中に入り扉を閉める。
2人が入った事を確認し、セブルスが杖を振い、いつものように扉を固く閉ざし防音魔法をかけた。
「座りなさい」
「はーい」
部屋の中央に机とソファ、そしてティーセットが出され、ソフィアとルイスは声を揃えて返事をするとすぐに着席し、自分達の前の椅子に座るセブルス──父を静かに見た。
「ソフィア、ルイス、何故呼び出されたのか、わかっているか?」
「昨日の決闘クラブのことでしょう?」
ソフィアはたっぷりミルクを入れた紅茶を飲みながら答えた。ルイスも同じように紅茶を一口飲み、父を見る。一言目が怒りの叱責ではないと言うことは、この呼び出しはそれなりに穏やかなお茶会になるだろう事を示唆しており、ソフィアは心の中でほっと安堵した。
「ああ、2人が優れた魔法使いで強い魔術を使えるのはわかっていたが。──やりすぎだ。一歩間違えれば互いに重傷を負っていた」
セブルスは二人を窘めるように言ったが、その目はルイスをじっと見ていた。ルイスはおそらく、最後の魔法の事を指しているのだと思い眉を下げ申し訳なさそうに肩をすくめる。
「そもそも、相手を拘束する魔法ではなく、何故攻撃魔法ばかり使った?」
「だって、…ある程度弱らせないと捕まってくれないと思ったんだもの」
ソフィアはチラリとルイスを見る。ルイスも同じように考えていた為頷いた。
その危険性を理解した上で、何の躊躇いもなくお互いに強力な攻撃魔法をかけていた事を知ると、流石にセブルスは眉に皺を寄せ責めるような目で二人を見る。
ソフィアとルイスはその目を見て慌てて首を振った。──機嫌を損ねさせてしまったら楽しいお茶会が出来なくなってしまう。
「でも、ほら、絶対に防ぐだろうって思ってたからだよ!?」
「そうよ!お互いの力はよく知ってるわ!だから、その…信頼して攻撃したの!」
実際、二人はお互いの力量が分かっていた。同じように育ち、共に魔術をこっそり練習していたのだ。勿論得意なことは違うが、呪文学においては同等の力を持っていると知っていた為、遠慮なく攻撃し合った。
「…ルイス、最後の魔法はどこで知った」
「あー……。ジャックから教わった」
「……」
ビキリ、とセブルスのこめかみに青筋が走る。鋭く細められた目に射抜かれたルイスは彼の強い怒りを感じ、肩を震わせた。
「…どんな魔法か、理解していたのか?」
「その…切り裂き魔法だって。戦闘には役立つものだと…初めて使ったから、あんなに強力なものだとは思ってなかった…ごめんなさい」
ルイスは項垂れ、小さな声で呟くように答え、頭を下げた。
しっかりと反省し、ソフィアにあの魔法を使った事を後悔しているルイスを見て、セブルスは大きなため息を吐き自分の中の怒りを無理矢理収めると、静かな声で「ルイス」と、名前を呼ぶ。
「ルイス、あの魔法…
「…はい、父様…」
優しく諭され、ルイスは俯いたまま頷く。膝の上で拳を握り、無言のままのルイスに、ソフィアは心配そうにそっと彼の背中を撫でた。その温かく優しい感覚に、ルイスは顔を上げてソフィアの目をじっと見つめる。うっすらと、その黒い目には涙が出て光っていた。
「ソフィア、本当に…ごめん…」
「…大丈夫よ、ルイスは父様の話をちゃんと聞いていたし、もう知らない魔法を安易に使わなでしょう?…それに、私は怪我をしてないもの!」
目を揺らすルイスを慰めるようにソフィアはにっこりと笑った。あの時防御魔法を選択して本当に良かった、きっと大怪我をさせてしまったら──そんなつもりは無かったとしても、ルイスは酷く後悔していただろう。
ルイスはソフィアの笑顔を見て驚いたように目を見開いたが、すぐに泣きそうになり顔を歪め──少しだけ微笑んだ。
「あ!そうそう、それより父様!今年のクリスマスはどうするの?今年は…まぁ、父様は帰れないわよね。ホグワーツがこんな状態だし」
ソフィアはもうこの話題は終わり!と言うように無理矢理話題を変え、セブルスに問いかけた。セブルスもこれ以上ルイスを責めるつもりは無かった為、紅茶を少し飲みながらソフィアが選んだ話題に乗り掛かる。
「…ああ、私は帰れない。…が、2人は帰った方がいい」
「え?そんなの嫌よ!クリスマスは家族で過ごすものだもの!ね、ルイス!」
ソフィアはセブルスの提案に頬を膨らませながら、未だに気落ちしているルイスに話しかけた。ルイスは流石にすぐにいつものように話す事は出来ず、僅かに頷いただけだった。
「だが、今年は…何かと物騒だ。何もない、とは思うが…」
「父様は、秘密の部屋が本当にあって、怪物がいるって…そう思う?」
「…秘密の部屋については、少々懐疑的ではある。実際今まで数多くの魔法使いがその部屋を探したが見つからなかったからな。…だが、何者かが魔法生物を使役し、良からぬ事を企んでいるのは…事実だろう」
「まぁ、そうよね…」
ソフィアはどこまでセブルスに話していいのか悩んだ。秘密の部屋が一度開かれた事があるか、それだけでも聞きたかったが、何故知っているのか間違いなく疑問に思われるだろう。そして、一つの綻びから今ソフィアがハリー達と企んでいる事も、バレかねない。
少し緩くなった紅茶と共に、ソフィアは聞きたい言葉を飲み込んだ。
「…でも、狙われるのはマグル出身の子とか、両親の片方がマグルの子じゃないの?…僕はそう、聞いたけど。…なら、僕たちは…大丈夫なんじゃない?父様も、母様も…魔法界生まれでしょ?」
ルイスはようやく言葉を話せる程度に気持ちが落ち着き、おずおずとセブルスに聞いた。ルイスも今ホグワーツで起こっている事はかなり気にしていた。何せ、ルイスはソフィア達がポリジュース薬を使い何かを企んでいる事を知っていたのだ。また危険な目に合わないかと、気が気ではなかった。
ルイスの疑問に、セブルスは少し沈黙した。
「…それは、あくまで噂だろう。危険の可能性がある以上…。クリスマス休暇中、今のホグワーツに残ることは賢明では無い。…殆どの生徒が帰宅し、人が減る。…狙われる可能性も上がるだろう」
「…でも、先生方はみんな残るんでしょう?なら、むしろ安全だわ!生徒が減った分、先生達の目が充分に届くでしょうし!」
「…僕も、クリスマス休暇は残りたいかな…ドラコも残るらしいし…」
何としてでもクリスマスに少しでも3人で過ごしたいソフィアは必死になって残る口実を探した。ルイスも頷き、2人で懇願するようにセブルスを見上げる。
2人の強い眼差しに、ついに、セブルスはため息と共に折れた。
「…決して1人にならない事を誓えるか?」
「はい!誓います!」
「うん、誓うよ」
ソフィアは勢いよく手を上げ、ルイスは深く頷いた。ソフィアはまた今年も3人で過ごせる喜びを顔中に溢れさせた。そしてふと悪戯心が湧き、楽しげに口を開く。
「そうよ!もし怪物と遭遇しても、セクタムセンプラ?だったかしら?──その魔法をかけたらいいんじゃない?私練習しておくわ!」
名案だと言うように──勿論、少しの悪ふざけで──ソフィアは手を叩いて言ったが、セブルスとルイスは冷ややかな眼差しを送るだけで、微塵たりとも笑えなかった。
「やだ…ジョークよジョーク!」
ソフィアは慌てて付け足すと、その視線から逃れるために大人しく座り込みすっかり冷めた紅茶を飲み干した。
クリスマスの日の夜7時にこの場所で、そう約束を交わし、暫くお茶会を楽しんだ後、ソフィアとルイスはそれぞれの寮に戻った。
寮の談話室に足を踏み入れた途端ソフィアはハーマイオニーとロンに手を引かれ深刻な顔で何があったを聞き、ルイスは楽しげなドラコからそれを伝えられた。
ジャスティンと、ゴーストのニックが襲われた。
そして、その第一発見者はハリー・ポッターである。
間違いなく、ハリー・ポッターがスリザリンの継承者だ。
その事実と噂話は、ホグワーツ内に恐ろしい速さで伝わった。生徒達が一番恐怖し不安になったのは、ゴーストに危害を加えられるという事実だった。
死んでいる者にまで効果のある恐ろしい力、それはいったいどんなものなのだろうか、彼らはひそひそと話し合い、身体を震わせていた。