クリスマス休暇がやってきた。ホグワーツに残る生徒は1割以下であり、いつも賑やかな声で溢れる談話室は静かなものだった。
しかし、それもグリフィンドールの談話室には当て嵌まらず、残った生徒達は誰にも迷惑はかけないから、と言って爆発する魔法玩具で遊んだり、密かに決闘の練習をしていた。
ソフィアとハーマイオニーは談話室があまりに騒がしすぎて集中出来ず、自室に戻り宿題を広げていた。同室のパーバティとラベンダーも家に帰ってしまい、今ここには2人しかいない。
ハーマイオニーは宿題がひと段落すると手を止め、教科書を閉じた。ソフィアはハーマイオニーほど熱心に取り組んでいなかった為、ハーマイオニーが終わるのなら自分ももう終わろう、と教科書を閉じ大きく腕を上げ凝り固まった肩を解す。
「ソフィア、ポリジュース薬の決行日はクリスマスの夜にしようと思うの、多分その日に完成すると思うわ。それで一つ相談なんだけど…」
「えっクリスマス…?どうしましょう、私夜からルイスと父様と過ごす予定なの…」
「そうなの?なら丁度いいかもしれないわ。その日、ルイスをスリザリン寮から連れ出して欲しいって言おうと思ってたの!」
ソフィアは申し訳無さそうにしたが、ハーマイオニーの言葉を聞いてホッとし表情を緩めた。
「私、考えてたんだけど、マルフォイはルイスととても仲がいいでしょう?」
「ええ、そうね」
「でも、ルイスは…今ホグワーツで起こってる事を歓迎はしていないでしょ?もしかしたら、マルフォイはルイスに秘密の部屋や自分が継承者だって言わないんじゃ無いかなって思うの、嫌われないためにね」
「ああ…そうね、そうかも」
ソフィアはルイスを思い出しながら頷いた。ドラコが継承者で全ての黒幕だとは思えないが、万が一そうであった場合、ドラコはルイスにだけは秘密にしているような気がした。
きっとルイスがそれを知ったら軽蔑し何が何でも止めようとするだろう、邪魔されない為に──これ以上嫌われない為にも、ドラコは黙秘する。確かにその可能性が高そうだ。
「私、クリスマスの日は夕食後の7時からルイスと父様の研究室に行く事になってるの!多分…10時ごろか…それか、もし寝てしまったら次の日の朝までは戻らないわ」
「7時ね…わかったわ!…家族で過ごすクリスマス、楽しんでね?」
「ええ、ありがとう!」
父と、家族として接する事が許されていないソフィアがいつも少し寂しそうにしている事を知っているハーマイオニーはソフィアの幸せそうな笑顔を見ると、まるで自分まで幸せになり、心が温かくなったような気がして微笑んだ。
今ハーマイオニーは計画のために家に帰る事が出来なかった。家で2人きりで過ごす両親の事を考え、少し胸を痛め、必ず、クリスマスカードは両親に送ろう。──そう心に決めた。
クリスマス当日の朝、ソフィアとハーマイオニーは朝早くに目覚めた。ポリジュース薬は最後の仕上げを行えば完成する為朝早くに済ませてしまおうと2人は考えていた。勿論ソフィアは一切手を加える事はなく、ただハーマイオニーに付き添うだけだが。枕元にある沢山のプレゼントを嬉しそうに眺めた後、開けるのは後にしようと直ぐにベッドの上で着替えたソフィアはカーテンを大きく開けながらハーマイオニーに声をかける。
「メリークリスマス、ハーマイオニー!」
「メリークリスマス、ソフィア!」
クリスマスの特別な挨拶を交わし、ソフィアはハーマイオニーに用意していたプレゼントを手渡した。ハーマイオニーは驚いたが嬉しそうに微笑むと、彼女も用意していたクリスマスプレゼントをソフィアに渡す。
ソフィアが用意したのは新しい羽ペンで、ハーマイオニーが用意したのは愛らしい白く小さな花がついたバレッタだった。
「まぁ!なんて可愛い花なの…!早速今日から使うわ!大切にするわね」
ソフィアはすぐに髪の両サイドを軽く編み込み後ろで纏めるとそのバレッタをつけ、にっこりとした笑顔でハーマイオニーの前に立ち、くるりと回転してみせた。
「どう?」
「すごく似合ってるわ!羽ペンも、ありがとう!授業で使うわね」
ソフィアの黒髪に白く小さな花の飾りがついたバレッタは映え、彼女の愛らしさに彩りを添えていた。
ハーマイオニーもまた箱の中から羽ペンを出し、朝の太陽の光に当てる。羽の部分がガラスのように半透明なそれは太陽の光を受け、虹色に輝いていた。
早朝のホグワーツは、まだ誰も起きていないのか静まり返っていた。2人は怪物に遭遇した場合に備え杖を握り、マートルのトイレへと向かう。
「マートル!メリークリスマス」
「…メリークリスマス、ソフィア」
ソフィアはハーマイオニーが薬を作っている間、隣の個室にいるマートルに会いに行き、にっこりと笑い彼女にも特別な挨拶を送る。
ゴーストになってから初めて言う言葉に、マートルは初めて今日がクリスマスだと気が付いた。
「クリスマスプレゼントを持ってきたの!」
ソフィアは鞄の中から細長いガラスで出来た乳白色の一輪挿しと淡いピンク花を一輪取り出すとマートルの前に差し出す。それを見てマートルは驚きから目を見開き、何度も瞬きをした。
「わ、私に…?」
「ええ、そうよ!どこに飾ったらいい?」
「え、…そ、そうね。じゃあ…ここに…」
マートルはトイレの水槽を指差し、ソフィアは直ぐにその上に花瓶を一輪挿しを置いた。少しの振動では倒れないように接着魔法をかけているソフィアを見ながら、マートルはなんとも言えない感情が胸の奥から込み上げる。
プレゼントなんて、両親以外から貰ったのは初めてだった。生前も、死後も、自分のために何かをしようと考えた人は1人たりともいなかった。もし、ソフィアが生きているときに同学年だったら、私はこうはならなかっただろうか。──叶わない空想だとしても、そう、考えてしまう。
「…ソフィア、…その、──ありがとう、嬉しいわ」
幸せな気持ちを噛み締め微笑むマートルは、嘆きのマートル、ではなく、明るい普通の少女のゴーストだった。
その後、ソフィアは薬の調合を終えたハーマイオニーと共にマートルに別れを告げグリフィンドール寮へ戻った。
談話室は静まり返っていて、まだソフィアとハーマイオニー以外は誰も起きていない事を示していた。
「ハリーとロンを起こしに行く?」
「えっ?…入れるの?」
「ええ、男子が女子寮には入れないけど、女子が男子寮には…入れるのよ」
ソフィアは悪戯っぽく微笑み、僅かに頬を赤く染めた。ハーマイオニーも何故入る事が出来るのか理解し耳まで真っ赤に染めた。
「もう!誰がそんな事を考えたのかしら…!」
「まぁ、恋人達には必要なことかもしれないわ」
ソフィアは意味ありげに笑う。まだソフィアは恋を経験していない。だが、恋人同士が何をするのかは、勿論知っている、ソフィアはそこまで純粋で初心な少女では無かった。
2人は一度ハリーとロンへのプレゼントを取るために自室に帰り、すぐに男子寮へと向かう。
男子寮のつくりは女子寮と変わらず、2人は扉に貼られた名前を見て部屋を探すとすぐに中に入った。
「メリークリスマス!」
「起きなさい!」
ソフィアとハーマイオニーで部屋中のカーテンを開け、薄暗い部屋に眩い明かりを取り込んだ。ベッドの上でハリーとロンは呻めきながらゆっくりと身体を起こし、そこにいる2人を見つけると驚いて目を見開く。一瞬にして眠気が吹っ飛んでしまった。
「君たち、男子寮に来ちゃいけないはずだよ」
ロンが眩しそうに目を覆いながら言い、ソフィアはニコニコと笑ったままロンのベッドに近づいた。
「まぁ気にしない気にしない!はい、ロン、メリークリスマス!」
「あなたにも、メリークリスマス」
「え?…わぁ!ありがとう」
ソフィアとハーマイオニーからクリスマスプレゼントを受け取ったロンは嬉しそうに笑う。ソフィアとハーマイオニーはその喜びの顔を見て満足げに笑うとすぐにハリーの居るベッドへ近づいた。
「ハリー、メリークリスマス!」
「メリークリスマス、ハリー」
「ありがとう、ソフィア、ハーマイオニー!メリークリスマス!」
ハリーはにっこりと笑ってそれを受け取った。箱を軽く振りな何が入ってるんだろう、またケースに入ったカエルチョコかな?と楽しみにしていると、プレゼントに気を取られ着替え出さないハリーとロンを見て、ハーマイオニーはため息をついた。
「私たち、もう1時間も前から起きて、薬にクサカゲロウを加えてたの。完成よ」
「本当?」
「絶対よ、──やるのなら、今夜ね」
ハーマイオニーは不敵な笑みと共にそう告げた、ハリーは真剣な面持ちでこくりと頷く。ついにポリジュース薬を飲み、スリザリン寮へ潜入し全てを聞く時がやってきたのだ。この時を──ドラコを出し抜けるこの日をハリーはずっと待ち焦がれていた。
「私は別行動なの、ルイスをドラコに近づかせない為にね。がんばってね!」
ソフィアはハリーのベッドに腰掛けると、少し不安げなハリーを応援し肩を叩いた。そのあと何故ルイスをドラコから遠ざけなければいけないのか聞きながら、ハリーはスリザリン生のエキス入りのポリジュース薬を飲まないで済むなんて、それがクリスマスプレゼントの様なものだと内心でソフィアをたまらなく羨ましく思った。