【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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82 真実へは、後もう一歩!

 

 

一日の授業が終わり、ソフィアはマートルのトイレに向かった。

ようやく小人たちの任務も落ち着いたのか、疲れた顔をして階段に座り込んでいた小人に鞄からクッキーを取り出し渡せば、お礼に、と言って赤い薔薇を一輪貰ったのだった。ソフィアは驚き、それは誰かにあげなくていいのかと尋ねたが、キャンセルの連絡がありましたから、気になさらず、と言い小人は少しだけ頭を下げて背中の羽を外しながら何処かへきえてしまった。

 

 

綺麗な薔薇を、マートルにも見せてあげよう──バレンタインのお裾分けをしよう、とソフィアは強い薔薇の匂いを胸いっぱいに吸い込みトイレの扉を開けた。

 

──少しして、マートルのトイレのある廊下の曲がり角から、人影が現れ、静かにそのトイレへと近づいた。

 

 

「…ソフィア…」

 

 

ジニーはトイレの前で立ち止まる。ここは嘆きのマートルのトイレだ、何故ここに?何か用事だろうか、…まぁ、すぐに出てくるだろう。

このトイレに入りたくなかったジニーは、不安げにあたりを見渡しながら──ここは、ミセス・ノリスが石化された廊下だ──体を小さくさせ扉の前でソフィアが出てくるのを待っていた。

 

 

 

 

 

残念ながら、マートルは何かで気分をかなり損ねたらしく、トイレのパイプの中で泣き叫び何と声をかけても出てこなかった。きっと、過去のことを思い出して深く嘆いているのだろう。

ソフィアは折角来たのに、と残念に思いながらため息を一つ溢し空いている──いつも、空いているが──個室に入ると自分が贈った一輪挿しに薔薇の花をそっと生けた。

 

蓋を閉めた便座に座り、膝の上に鞄を置き中から日記と羽ペンを取り出し、日記を開く。

 

 

 

──リドル、この日記の事、ジニーに秘密にしてって言われたのに…みんなの前で落としちゃったわ。ジニー…怒ってるみたい。

──それは大変だね、でも…わざとじゃないんだろう?

──ええ、ぶつかって鞄を落とした拍子に…また後で謝らないと…

──そうだね、きっとジニーは許してくれるよ

 

 

そうだと良い、そう思いソフィアは一度日記を閉じた。マートルも出てこないし、もう戻ろう、そう思っていたのだが、ふと日記を眺めそこに書かれた年号に気付く。──今まで気にする事は無かったが、これは50年前に発行された日記本のようだ。

 

 

「…50年前…?たしか…前回秘密の部屋が開かれたのも、50年前だったわ…!」

 

 

どうして今まで気が付かなかったのか、ソフィアは心臓が少しずつドキドキと煩くなるのを感じた。リドルは当時ホグワーツにいた生徒だ。何かを知っている可能性が高い。

思わぬところから現れた秘密の部屋に関するきっかけに、ソフィアは胸に手を当て何度か深呼吸をした。

リドルに秘密の部屋の事を聞いてみよう。何かを知っているかもしれないし、知らなくとも第三者の視点から新たな発見に気付いてくれるかもしれない。

 

 

──リドル、実は今ホグワーツでスリザリンの秘密の部屋、というものが開かれていて、そこにいる怪物が…生徒達を襲ってるの、ジニーから聞いてる?

──うん、聞いてるよ。

──前回開かれたのは、50年前なの、リドルは何かを知ってる?

 

 

返事は暫く現れなかった。

もしかして、知らないのか、とソフィアが残念に思いかけた時、今までの中で最も長文の言葉が浮かび上がってきた。それはどこか知っている事全てを教えようとする焦りが含まれていた。

 

 

──勿論、秘密の部屋のことは知ってるよ。僕の学生時代はそれは伝説だと言われていた。けれどそれは嘘だったんだ。僕が五年生の時、部屋が開けられ怪物が数人の生徒を襲い、とうとう1人の少女が殺されてしまった。

僕は部屋を開けた人を捕まえ、そしてその人は追放されたんだ。

ディペット校長はホグワーツで死者を出した事──それも、存在しないはずの秘密の部屋が開けられ、怪物により少女が亡くなったこと…それを隠して、僕にも真実を話す事を固く禁じた。

怪物は、捕らえられなかった、逃げられてしまったんだ。きっと…また現れる、当時の僕はそう思って、この日記に当時の記憶を封じ込めたんだ。いつか、僕の記憶が何かの力になれば良いと思って…!…ジニーは過去に死者が居たと知れば、怖がるだろうから…ここまで詳しくは伝えていない。

 

 

「リドルが…記憶を残したのはこの為だったのね…!」

 

 

──その人は誰なの?アズカバンに今でもいるの?

──名前は、言えない。それだけは…出来ないんだ。ただ、投獄されることは無かったみたい。

──そう…わかったわ。

 

 

ソフィアは眉を寄せて深く考え込んだ、このリドルの言葉は恐らく、本当だろう。それなら、幾つか新たに分かったことがある。最もソフィアが注目したのは、亡くなったのは女生徒だという記述だった。

 

 

「──マートル!」

 

 

ソフィアは叫んだ。

座る便座の下からはまだマートルの嘆きが聞こえてくる、ソフィアはすぐにしゃがみ込み、パイプに向かって必死にマートルの名前を呼んだ。

 

 

「マートル!私よ、ソフィアよ!お願い、お願いだから出てきて!聞きたいことがあるの!」

 

 

泣き声のする方に声をかければ、少ししてそのくぐもった泣き声が鮮明に聞こえ出した。ふわり、と涙で頬を濡らすマートルがソフィアの前に現れる。

 

 

「な、何?私今は1人にしてほしいの…」

「ごめんなさいマートル!でも、ひとつだけ、教えてほしいの!…マートルが亡くなったのは50年前?」

「…ええ、…多分それくらいだと思うわ。それが何なの?」

 

 

──やっぱり!

 

 

ソフィアは固く握りしめられたマートルの手を握った。身体にぞくりとした寒気が走るが、興奮したソフィアは少しも身を震わす事なく、どこか必死な顔でマートルを見つめる。

 

 

「お願いマートル、あなたがどうやって亡くなったか…私に聞かせて?」

 

 

ホグワーツで亡くなった者はそう多くないはずだ、それに、50年前に亡くなったという情報も一致している。自分の直感が正しいのなら、きっと前回殺されたのは──マートルだ。

 

 

マートルは少し目を見開き驚いていたが、顔つきをかえ涙を引っ込めると、にやり、と笑った。その質問を待っていた、誰かに伝えたくてたまらなかったというような何故か誇らしげな表情をするとソフィアの目と鼻の先ほどの距離に顔を近づけ、ゆっくりと囁いた。

 

 

「ああ…怖かったわ…まさに、このトイレだったの。ここで死んだのよ…よく覚えてる…ホーンビーが私のメガネをからかったから…ここに隠れて泣いていたの…」

 

 

マートルはふわりと浮かびソフィアの後ろに回った、その表情は顔をこわばらせ一言も聞き逃すまいとしているソフィアに喜び、もっと怖がらせたい、というようなゴーストらしい、表情だった。

後ろから、そっとマートルは囁く。

 

 

「そうしたら、誰かが入ってきたの…何か喋っていた…外国語だったと思う、何て言っているかわからなかったもの…嫌だったのは、その声が男子のものだったってこと。だから…出て行け!男子トイレを使って!そう言おうと鍵を開けて扉を開いて──…死んだの」

「…え?…なぜ?どうやって、死んだの?」

「わからないの。覚えているのは大きな黄色い目玉が二つ…体がぎゅっと金縛りみたいになって…それからふーっと浮いて、そして、またここにゴーストとして戻ってきたの…」

「…ありがとう、マートル!」

 

 

ソフィアはマートルに飛びつくように抱きしめーー強く交差しすぎて腕はマートルの身体を突き抜けたーー直ぐにそのトイレから飛び出した。

マートルは聞くだけ聞いて出て行ったソフィアに臍を曲げ、フンと鼻を鳴らすと便器の中に飛び込みそのままずっと奥まで潜り込んだ。もう、ソフィアが何を言っても答えてやらないんだから、──そうぶつぶつと呟きながら。

 

 

 

このトイレに何かあるに違いない、ソフィアは個室の目の前にある手洗い場に駆け寄り、注意深く隅々まで調べた、内側や外側、パイプ、鏡、そしてソフィアは蛇口の脇に小さな引っ掻き傷のような蛇の彫物を見つけた。

 

 

「蛇…、……大きな黄色の目…、…スリザリンの継承者…」

 

 

ソフィアは忙しなくその辺りをうろうろと動きながら、今までに集まったパーツを一つ一つ呟く、頭の中でジグソーパズルのように、歯抜けになっていたキーワードが全て、収まったような気がした。

 

 

「──バジリスク!」

 

 

何で今まで気が付かなかったのだろう、ソフィアは大きく舌打ちを打ち、もしルイスなら、聡く勘の鋭いルイスならもっと早く気がついた筈だと自分の理解力の無さに憤ったが、それでも少ない情報からバジリスクまでたどり着いたのは偉業だと言えるだろう。

 

ソフィアの家にはその家主の嗜好から闇の生物に関する本も数多く存在した、その中で怪物の中でも最も珍しく、そしてなによりも凶悪な存在だとしてバジリスクが示されていた。

 

バジリスクの過去の目撃情報は極めて少ない、500年ほど前に一匹確認されたきり、その姿は確認されていなかった。だが、数少ない個体の一匹がスリザリンの秘密の部屋にいたとしてもおかしくはない。

サラザール・スリザリンは蛇語を話し、蛇を好んでいた、自分の寮のモチーフにする程に。偉大な魔法使いがバジリスクを飼い慣らしていても、不思議ではない。

 

ソフィアは蛇口の蛇に向かって杖を振り、アロホモラや解呪魔法を唱えたがその蛇は少しも変化することが無かった。

 

 

「…そうか…継承者しか開けれないのね…きっと、蛇語を使えなければ…」

 

 

ソフィアの脳裏に1人の顔が浮かんできた。

いや、ありえない。だって、あの人は──ハリーは、ミセス・ノリスが襲われた時に一緒にいた。違う、ハリーじゃない別の誰かがパーセルマウスなのだ。でも、一体──?

 

 

日記を開き、急いで書いたその文字は歪んでいた。

 

 

──リドル、貴方の年代でパーセルマウスを使える人は居た?

──どうして?

──私わかったの。秘密の部屋の場所は…ホグワーツの三階の女子トイレよ、ここで亡くなったの女生徒のゴーストに聞いたわ、彼女は大きな黄色の目に見られて、死んだと言っていた。視線だけで命を奪うことが出来る生物は多くないもの。スリザリンの秘密の部屋なら、間違いなくバジリスクだと思う。

 

──でも、バジリスクだと…皆死ぬだろう?生徒達は石化しているはずじゃ…

 

──今1人も死者が出てないのは…そう!そうよ、みんな…バジリスクの目を直接見てないんだわ!それに…私の友達が、初めの事件の時に、1人だけ不気味な声を聞いたの、私には聞こえなかった──それは、蛇の…バジリスクの声だったのよ!犯人が誰かはわからない、けれど、全てわかったわ、早くダンブルドア校長に言わないと!ねえ、パーセルマウスは遺伝しやすいと聞いたことがあるわ、もしかしたら50年前の犯人の…子孫かもしれないの、何か知らない?

 

 

ソフィアは必死になり文字を書き連ねたが、リドルからの返事は無かった。きっと、戸惑っているのだろう。さすがに突拍子もないと思われているかもしれない、だが、ソフィアには自分の推理に自信があった、後はダンブルドアに全てを話そう。彼が蛇語を話せるかどうかはわからないが、きっとこの場所へ案内すれば何か特別な魔法で秘密の部屋を開けてくれるかもしれない。

まだわからない事は沢山ある、バジリスクには透明化の性質は無いはずだ、何故誰にも気付かれずにホグワーツを徘徊できるのか、分からない。だがそんな事は後でいいだろう、部屋の手がかりを見つけた、直ぐに言わなければ。

 

 

 

ソフィアは日記を脇に抱え、すぐに扉へ向かったが、その扉がゆっくりと開き、思わず足を止めた。何も悪いことはしていない、見られても困ることは無い、だがこんな所に人が来るとは思えなかった。

 

 

「…ソフィア…」

「ジニー?どうして、ここに…?」

 

 

ジニーはあまりにソフィアが出てこない事に痺れを切らしおずおずと中の様子を伺った。

トイレの陰湿さに怖々と身をちぢこまらせ、おどおどと周りを見ていたが、ソフィアの手にある日記を見て顔を引き攣らせた。

 

 

「私、その日記のことでソフィアと、話したかったの…」

 

 

ジニーの胸の前で強く握られた手は白くなり、小刻みに震えていた。ソフィアはこの日記を返してほしいのだろう、ああ、そうだ落とした事も謝らないと、そう思い手に持っていた日記をジニーに手渡した。

ジニーがその日記に触れる瞬間、彼女は何かを怖がるように目を見開き、身体を仰け反らせていたが、手は日記と糊付けされてしまったかのようにしっかりと掴んでいる。

 

日記に視線を落とすように俯いたジニーの表情は読むことができない、何も反応を返さないジニーに、ソフィアは少し眉を顰め首を傾げた。

 

 

「ジニー?」

「──ありがとうソフィア、日記を返してくれて」

 

 

顔を上げたジニーはにっこりと微笑み、しっかりと胸の中に日記を抱きしめるとローブのポケットから杖を出した。

 

 

 

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