「日記が盗まれた?」
大広間の入り口でそれをハリーから聞いたルイスは驚き思わず叫ぶように言ったが、ハリー達の慌てた「しーっ!」という注意に口を抑えあたりを見渡した。
クィディッチの試合を控えた大広間は、沢山の生徒達の久しぶりに楽しみが出来たという騒めきに満たされ、ルイスの叫びを聞いた者は居なかったようだ。
「でも…どこで?いつ?」
「…それが…寮の中でなの」
ハーマイオニーが声を顰めながら固く深刻な顔で答える。何故そんな表情をするのか、ルイスは説明されずともわかっていた。
グリフィンドールの寮に入る事が出来るのは、同じ寮生だけだ。──つまり、犯人はグリフィンドール寮の生徒に限られる。
「じゃあ…継承者は…グリフィンドール生なの?…そんな人、いる?」
信じられない思いで呟いたルイスが、伺うようにハリー達を見たが、ハリー達もまた困惑し表情を固くしたまま首を振った。少なくとも、談話室に居る彼らは皆この事件に心を痛め、継承者を憎んでいた。微塵も同じ寮生の事を疑わず、間違いなくスリザリン生だろうと考えていた。
ルイスもまた、きっとスリザリン生だと思っていた。──いや、ルイスやグリフィンドール生だけではない、ホグワーツに居る皆がそう思っているだろう。スリザリンの秘密の部屋なのだから、スリザリン生に違いない、と。
「もし、グリフィンドール生が継承者なら…その人物は誰よりも利口で狡猾だね。…スリザリン生以上に…」
重々しく告げられたルイスの言葉に、同じ寮生だと信じたくはないハリー達は、悲痛な顔で沈黙した。…信じたくはないが、彼らもまた同じように思っていた。談話室で過ごした同寮生の中に、継承者の行いに怒りながらも内心でほくそ笑んでいた人物が居るなど、考えただけで重い石を飲み込んだかのように気が沈んだ。
「…ハリー、今日は試合でしょ?とりあえず日記の事も、継承者の事も忘れて頑張って」
「…うん……頑張るよ」
落ち込んでいるハリーの肩を叩き、ルイスは3人に手を振ってスリザリンの机で待つドラコの元へ向かった。
ドラコはハリー達と話すルイスに面白くなさを感じ、不満を隠す事なくありありと表情に出しながら低く呟いた。
「…何を話してたんだ」
「ハリーは今日試合でしょ?頑張れって言っただけだよ」
「…ハッ!負けた僕に対する当てつけか?」
ドラコは憎々しげに吐き捨て、トーストを齧る。
最近、またハリー達の元へ行くルイスに対してドラコはまた不満を持っていた。少し前までは──少なくとも自分がいる所ではハリー達に話しかけなかったのに、何故また話すようになったのか。これが幼い嫉妬心だとは、理解していても抑えられ、割り切れるほどドラコは大人ではなかった。
「当て付けじゃないよ。それにあの試合で負けたのは箒の性能にかまけて練習をちゃんとしてなかったからだって、わかってるでしょ?僕に当たるのはお門違いだよ、ドラコ」
痛い正論をはっきりと言うルイスに、ドラコは何も言い返せず無言でトーストを咀嚼した。
朝食を終え、他のスリザリン生と共に競技場へ向かったルイスは観覧席でクィディッチの開始を待っていた。
秘密の部屋が開かれ、継承者の猛威が振るう中、暗く沈んでいた生徒たちも今日ばかりは頬を赤く染め興奮しどちらが勝つか楽しげに話し合っていた。
がやがやとしたいつも通りの騒めきが競技場全てを包み込む中、選手達がグラウンドに現れ、大きな拍手と声援と共に足を踏み鳴らす音が響く。
選手達は声援を受け、表情を引き締めながら箒に跨った。今まさに試合開始が告げられる──その時、マクゴナガルが巨大なメガフォンを手に持ちグラウンドに走り出た。
「この試合は中止です!」
大声が響き、その言葉に野次や怒号が飛び交う。だが怒りを爆発させたのは一瞬で、その後誰もが試合が中止になる程の何かが起こったのだと察すると不安な騒めきが広がった。
「…どんな天候でも中止になる事はないのに…まさか…また襲われた…?」
ルイスはぽつりと呟く。
それを近くで聞いた生徒は顔を引き攣らせ、その言葉を別の生徒に伝えた。不穏な言葉が漣のように広がり、まだマクゴナガルから詳細の説明は何も無かったが、おそらくこの噂が正しいのだと皆は思っていた。
「今すぐ監督生の指示に従い、各自寮の談話室に戻ってください!今すぐにです!」
不満げな顔をしまだ文句を言う生徒も少しはいたが──とくに、スリザリン生だ──監督生に連れられて、生徒達は群れを成してぞろぞろと競技場から出て行った。
ルイスもまたドラコと共に集団に混じりスリザリン寮へ向かう中、ふとグラウンドを見下ろし、ハリーとロンがマクゴナガルについて別の方向へ向かうのを見た。そこにいつもいるハーマイオニーは──いない。
「…まさか…」
嫌な予感が脳裏をよぎった。
その予感が辛くも当たっていた事を知ったのはすぐ後だった。
スリザリン生が皆談話室に集まり、寮監であるセブルスの話に耳を傾けていた。
「これより、全校生徒は夕方6時までに談話室に戻るように。それ以後はけして寮を出てはならん。授業に行く時は必ず教師が1人引率につく事になる。席を外す時もかならず、教師が付き添う。クィディッチの試合や練習、クラブ活動等は全て禁止だ」
セブルスは羊皮紙に書かれている内容を静かに読み上げると一度スリザリン生達を見渡した。
彼らは間違いなく自分は襲われないに違いないという自信があるのか、特に恐怖する事なく、ただ不満げに、そしてつまらなさそうな顔をしていた。その中でも後方にいる数名が思い詰めたようなぎこちない表情をしていることにセブルスは気が付いていたが、とくに彼らに何も言葉はかけない。──こんな大勢の居る場所で個別に声をかけるなんて、純血ではないと大声でいうようなものだった。
「…これまでの襲撃事件の犯人が捕まらない限り、ホグワーツが閉鎖される可能性もあり得る。…もし何か心当たりのある者がいれば速やかに告げにくるように」
生徒を見渡しながら言ったセブルスだったが、最後に視線を合わしたのはルイスだった。ルイスはその視線を受けたが肩をすくめると何も知らないと小さく首を振った。
セブルスが扉を通り談話室から出た後、沈黙していた生徒達は一斉に話し出す。
「ホグワーツ閉鎖は嫌だな、別の学校に編入なんて面倒だ」
「穢れた血が何人消えようがどうでもいいけど、本当…クィディッチも無いなんて!」
「そもそも魔法学校に穢れた血がいる事が問題なんだ。純血だけ入学を許可すればこんな事にはならなかった」
その言葉に皆が頷きパラパラと拍手を送る。
ルイスは呆れたようなため息を零す。純血のみの生徒に限るので有れば、ホグワーツの生徒の半数以上をスリザリン生が占める事になるだろう。それほど、純血は少ない。
「…部屋に戻るよ」
本当ならハーマイオニーの様子を見に行きたかったが、流石に今寮の外を出る事は出来ず、他の生徒達と凝り固まった持論を振り翳すドラコに一声かけ、ルイスは人混みを掻き分け自室へ戻った。
ルイスはベッドに寝転ぶと天井を見上げながら考える。
何故、ハーマイオニーはひとりになったのか。あれ程3人で行動すると言っていたのに。あまりにも無茶な行動では無いだろうか。──何かに気付いて確認するために別行動をとったのだろうか。
「…きっとそうだ…」
ハーマイオニーが一人で何かを確認するのであれば、間違いなく図書館に向かった事だろう。彼女は本の中に世界の全てが収まっていると信じている。何か疑問があれば必ずそこに向かったはずだ。
明日、見舞いに行けないか監督生に聞いてみよう。ハーマイオニーの見舞いだと言うと断られるだろうから、ソフィアに会いに行くと言えばいいだろう。──会いたいし。
ルイスは目を閉じ、談話室から微かに聞こえる生徒達のざわめきを聞きながら眠りについた。