【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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92 苦手なものは苦手なんだ!

 

 

どのくらい運ばれていたのだろうか。

ルイスは体に触れる硬い毛の感触とその姿を見て気絶していたが、身体を地面で強く打ち付けた事により何とか覚醒した。──が、それは間違いなくルイスにとって不幸な事だっただろう。

 

 

「──ひっ!」

 

 

ルイスは情けない悲鳴を上げながら、地面の上でへたり込みすくみ上がっているハリーとロンに慌てて近寄り2人の間に自分の身を無理矢理捻り込むと強く目を閉じた。

 

 

「これは夢だこれは夢だ…」

 

 

巨大蜘蛛に囲まれたルイスは壊れたように呟き、一抹の期待を込めて恐々と薄めを開くが、勿論これは夢でもなんでもない、現実であり、目の前の様子は微塵も変化していない。

ルイスは顔を引き攣らせ、大きく震える手で杖をその蜘蛛達に向けた。

その瞬間巨大蜘蛛は怒りガシャガシャと鋏を掻き鳴らす。ルイスは僅かに残った理性を総動員させ何とか逃げ出したい気持ちを押し込め、真顔でハリーにつぶやいた。

 

 

「ここを爆破しよう」

「だめだよ!…蜘蛛は大勢奥に居るんだ、君は気絶してたから見てなかっただろうけど…かなわないよ…!」

「なら火の海にしよう、森を燃やそう」

 

 

そうと決まれば自分が持つ最大の魔力を込めようと杖を振るルイスの腕をハリーが慌てて掴んだ。

 

 

「ルイス!冷静になって!そんなことしたら僕らまで焼け死ぬよ!?」

「蜘蛛に食われるよりはマシだ!」

 

 

ハリーは蜘蛛に食われるのも嫌だったが、焼死するのも御免だった為必死になりルイスの腕を抑える。

ルイスはそれでも目の前の蜘蛛を一掃出来るのならともがいて居たが、蜘蛛達が言葉を発している事に気付き、そのしゃがれながらにつん裂くような声に思わず耳を塞ぎ、強く首を振ると震えながら大人しくなった。

とりあえず焼死は免れたようだとハリーはほっとして何も喋らないロンを見たが、ロンは目を見開いたまま気絶でもしているのか、石化してしまったように動けない。

 

 

「アラゴグ!」「アラゴグ!」

 

 

蜘蛛達が鋏を掻き鳴らしながら何者かの名前を叫ぶ。

靄のような巨大な蜘蛛の巣の中から、一際大きな蜘蛛がゆらりと現れると、ルイスはもう叫び声を上げる力も無いのか何度も蜘蛛を見て精神が壊れてしまったように「はは…大きすぎるよ…」と乾いた笑いを漏らした。

 

この中で唯一冷静なハリーだけが、アラゴグが盲ていることに気付く。

 

 

「何の用だ?」

「人間です」

「ハグリッドか?」

 

 

アラゴグはルイス達に近付き、3人を連れてきた蜘蛛に問いかける。その声はハグリッドなら、歓迎すると言った色が滲み出ていて、ハリーはもしかしたら助かるかもしれない。と緊張した面持ちで蜘蛛達の会話を聞いた。

ルイスもまた恐怖に顔色を無くしながらも、会話できる知能があるのならまだ交渉の余地があるかもしれない、となるべく蜘蛛が見えないように目を極限まで細めながらアラゴグを見たが。「やっぱり無理…」と直ぐに目を強く閉じた。他の蜘蛛と異なり知性がある魔法生物だと分かっていても──怖いものは怖い。

 

 

「殺せ──眠っていたのに…」

 

 

アラゴグはイライラとしながら冷たく吐き捨て、巣に戻るために退がった。アラゴグの許しを得た周りの蜘蛛がじりじりとハリー達に近付く。

 

 

「僕たち、ハグリッドの友達です!」

 

 

ハリーは叫んでいた。

この蜘蛛が秘密の部屋の怪物に違いない。それならこの蜘蛛達の声を聞くことが出来るのは、もしかしたら自分だけなのかもしれない。何とか殺されない為にも交渉しなければ。

いや、そうで無かったとしても、そもそも今話せるのは自分だけだ。

ハリーは自分の心臓が口から飛び出るのでは無いかと思うほどの激しい鼓動を感じた。

 

 

「ハグリッドは一度もこの窪地に人を寄越した事はない」

「ハグリッドが大変なんです、それで、僕たちが来たんです」

「──大変?しかし、何故お前達をよこした?」

 

 

アラゴグはハグリッドの友達だと聞いてもどうでも良さそうだったが、ハグリッドに何かがあったのだと知ると気遣わしげに呟く。巣の中に戻りかけていた巨体が、またゆっくりとハリーに近付いた。

 

ハリーは何度も深呼吸し、心を落ち着かせ立ちあがろうとしたが、足は震え力が入らない。それにルイスが自分に縋るように抱き着き頭を脇腹に押し付けている為、立つことは諦め座ったまま出来るだけ落ち着いて話した。

 

 

「学校のみんなは、ハグリッドがけしかけて──か、怪──何者かに、学生を襲わせたと思ってるんです。ハグリッドを逮捕して、アズカバンに送りました」

 

 

アラゴグは怒り狂い鋏を打ち鳴らす。夥しい数の蜘蛛の群れもそれに呼応し鋏を鳴らし、窪地中にガシャガシャという拍手喝采の様な音がこだましたが、ハリー達はその悍ましい音に震え身をさらに縮こませた。

 

 

「しかし、それは昔の話だ。何年も何年も前の話だ。よく覚えている…それでハグリッドは退学させられた。みんながわしのことを、秘密の部屋に住む怪物だと思い込んだ…ハグリッドが部屋を開けて、わしを自由にしたのだと…」

「それじゃ、一度も…誰も襲ったことは無いのですか?」

「一度もない」

 

 

ハリーは自分に縋るルイスが無言で強く首を振っている事に気付く、きっと蜘蛛を怒らせるな、機嫌を損ねさせてしまえば殺されるからやめておけと訴えているのだと思ったが、ルイスは大蜘蛛を見た瞬間にわかっていた。彼は秘密の部屋の怪物では無いと。それ故に一刻も早くここから立ち去りたかった。

 

 

「襲うのはわしの本能だ。しかし、ハグリッドの名誉のために、わしは決して人間を傷付けはしなかった。殺された女の子の死体はトイレで発見された。わしは自分が育った物置の中以外、城のほかの場所はどこも見た事がない。わしらは暗くて静かなところを好む…」

「それなら…一体何が女の子を殺したのか知りませんか?何者であれ、そいつは今戻ってきてみんなを襲って──」

 

 

ハリーは勇気を振り絞り聞いたが、鋏を打ち鳴らす大きな怒号がハリーの言葉を飲み込んだ。蜘蛛がハリー達を囲い、じりっと躙り寄る。

 

 

「城に住む物は──わしら蜘蛛の仲間がなによりも恐れる。太古の生物だ。その怪物が城の中を動き回っている気配を感じた時、わしを外に出してくれと、ハグリッドにどんなに必死に頼んだか、よく覚えている」

「一体その生き物は?」

「ハリー!頼むから、もう、やめて!」

 

 

ハリーが急き込んで尋ねると、ルイスは悲鳴にも似た声でハリーを静止する。

 

 

「わしらはその生き物の話をしない!わしはその名前さえけして口にしない!ハグリッドに何度も聞かれたが、わしはその恐ろしい生き物の名前をけしてハグリッドに教えなかった」

 

 

ハリーはそれ以上追求しなかった。

ルイスが止めたからでは無い、巨大蜘蛛達が四方八方から詰め寄り、今にもその鋏を振り下ろさんとゆらゆらと動かしている事に気付いたからだ。

 

 

「それじゃ、──僕たちは帰ります」

「帰る?…それはなるまい…」

「でも──でも──」

 

 

ハリーは絶望し、顔を蒼白にさせる。

疲れたような声だったアラゴグは、低い声で笑うとゆっくりと赤子に言い聞かせる柔らかい口調で話した。

 

 

「わしの命令で、娘や息子達はハグリッドを傷付けはしない。──しかし、わしらの真っ只中に、進んでのこのこ迷い込んできた新鮮な肉を、おあずけにはできまい。…さらば、ハグリッドの友人よ」

 

 

ハリーは無駄な抵抗だとは分かっていたが杖を掲げ、必死にルイスの名を叫ぶ。ルイスはずっとこの場をどうにかするには、この呪文しか無いと考えていた。食い殺される事もなく、焼死する事もない、魔法で一匹殺したところですぐに他の蜘蛛が襲うだろう。蜘蛛達全員を蹴散らす事の出来る魔法は──これしか無い。

ルイスは閉じていた目を開き杖をすぐに振った。

 

 

サーペンソーティア(蛇よ現れろ)! エンゴージオ(肥大せよ)!」

 

 

ルイスの杖先から鮮やかな青い蛇が飛び出すと肥大魔法により巨大なものへと変わり、人間の胴体ほどの太さになった蛇はゆっくりと巨大な鎌首をもたげ蜘蛛達を見渡す。目の前のご馳走の数々に蛇は舌舐めずりをするように赤い舌をちらちらと出した。

巨大な蛇に蜘蛛達はたじろぎルイス達から下がる。だがその蛇が天敵では無い(・・・・・・)と知るとすぐに鋏を振り翳した。蛇が蜘蛛に食らいつき、長い尾で跳ね飛ばす、蛇は何匹もの蜘蛛に纏まりつかれたが鬱陶しそうにまとめて締め殺した。バキバキと軋む音と蜘蛛の耳をつん裂くような叫び声、ぼたぼた垂れる体液にルイス達は顔を引き攣らせその戦いの場からじりじりと後退した。

だが蛇がいくら払っても、食らっても蜘蛛は途絶えることが無く、鋭い鋏で切り付けられた蛇の叫びが響く。

蛇が倒れてしまえば次は自分達の番だ、ルイスとハリーは杖を構えていたがそれを持つ手は震え、顔は恐怖に固まっていた。

 

その時、高らかな長い音と共に窪地に眩い光が差し込んだ、蜘蛛はその光に怯み、ざわざわと闇の深いところまで逃げる。

 

ボロボロの車がヘッドライトを輝かせ、クラクションを高らかに鳴らし蜘蛛を薙ぎ倒しながら荒々しく斜面を降りルイス達の前で轟音を響かせ止まり勢いよくドアを開けた。

 

 

「ファングを!」

 

 

ハリーが前の座席に飛び込みながらそう叫び、ルイスとロンはファングを抱き抱え後ろの座席に放り込み、ロンは助手席に、ルイスは後部座席に飛び込んだ。

途端に扉が閉まり、アクセルも触っていないのに車は急発進した。怒り狂う蜘蛛達を薙ぎ倒し、窪地を駆け上がると森の中に突っ込む。車は見知った道なのか巧みに空間の空いている所を通り素晴らしいドライブテクニックを見せた。

 

 

「大丈夫かい?」

 

 

ハリーが2人に聞いたが、ロンはまっすぐ前を見たまま口を大きく開き声の出ない叫びを上げ続けていた。ルイスは蜘蛛から逃れることができた事に安堵し、シートに必死に捕まりながら何度も頷く。

 

森の深いところから抜けたのか、やがて木木もまばらになり、森の入り口近くで車は急停車し──三人はシートベルトをつける余裕もなく、前に激しくぶつかりそうになった──ルイスとハリーはよろよろと車内から降り、ファングは尻尾を巻いたままこんな所にこれ以上居たくないのか一目散にハグリッドの小屋へと走り抜けていってしまう。

三人は無言で荒い呼吸を繰り返していたが、数分後ようやく、落ち着き足に力が入るようになるとロンがぎこちない動きで車から降りてきた。

 

 

3人が感謝を込めて車を撫でると、車はぶるぶると嬉しそうにその身体を震わせ、森の中へとゆっくりバックし──そして姿が見えなくなった。

 

 

ロンは口を抑えよろよろと畑の元へ向かい、そのまま膝をつきえずきだし、ルイスは青い顔をしたままロンの元へと駆け寄りその背中を撫でる。その間にハリーは透明マントを取る為にハグリッドの小屋へ戻った。

 

 

「ロン…大丈夫?」

「蜘蛛の跡をつけろだなんて…ハグリッドを許さないぞ。…僕たち、生きているのが不思議だよ…」

 

 

胃の中のものを全て吐き出したロンは震えながら口元を袖で拭き弱々しく言った。ルイスも、流石に今回の出来事はもう二度と経験したく無い程、危険なものだったと身体を震わせる。

 

 

「きっと、アラゴグなら自分の友達を傷つけないと思ったんだよ」

 

 

透明マントを脇に抱えながら、ハリーは一応、ハグリッドの弁解に回ったが、ロンは小屋の壁をドンドン叩きながら怒りを爆発させた。

 

 

「だからハグリッドってダメなんだ!怪物はどうしたって怪物なのに、みんなが怪物を悪者にしてしまったんだと考えてる!そのツケがどうなったか!アズカバンの独房だ!」

「本当、今回ばかりは…死を覚悟したよ、もう二度と蜘蛛は見たくない…」

 

 

ルイスは自分の身体を抱きしめ、止まらない身震いを何とか止めようとしていたが、思い出すだけで震えるのだろう、いつもどこか余裕のあるその表情は、気の毒になる程白かった。

 

 

「僕たちをあんなところに追いやって、いったい何の意味があった?何がわかった?教えてもらいたいよ!」

「ハグリッドが秘密の部屋を開けたんじゃ無いって事だ。ハグリッドは無実だった」

 

 

ハリーはマントをロンにかけてやり、ルイスを見た。ルイスもすぐにロンの隣に寄るとその腕を取り歩くように促した。

 

 

「秘密の部屋を開けたんじゃなくても、凶暴な怪物を飼っていたことは事実だったけどね」

 

 

ルイスは少々嫌味っぽく告げ、ロンは何度も頷きそれに同意した。

 

 

「そうだよ!もしルイスが蛇を出してなかったら、僕らは今頃蜘蛛のメインディッシュさ!」

 

 

その後もロンはぶつぶつと不満を呟いていたが、城の中に入る前に流石に口を閉ざし──それでも不満をありありと表情に出していたが──3人は見張りが目を光らせている廊下を息を殺して通り過ぎた。先にルイスをスリザリン寮まで送り届け、その後ハリー達は無言でグリフィンドール寮まで戻る。

 

 

ルイスは真っ暗な談話室を静かに通り、自室に入る。

ドラコの小さな寝息が聞こえ、漸く安全な場所に来たんだ、そう実感した途端言いようもない重い疲労感が身体を突き抜け、ルイスはベッドの上に倒れ込むとそのまますぐに目を閉じて眠った。

 

 

 

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