昨夜の大冒険というには危険すぎた出来事を経験したルイスは朝食の時間になっても体が鉛になってしまったかのように動けず、心配するドラコに「ちょっと試験勉強を遅くまでしていて眠いんだ、朝食はいらない」と告げそのままベッドの上で転がっていた。
ぼんやりと目を開けて、昨夜の出来事を思い出す。あまり思い出したくは無かったが、昨日の出来事を無駄にしない為にもルイスはアラゴグの言葉を何度も反芻した。
しかし、わかった事といえばハグリッドの無実と、蜘蛛の怪物を飼っていた事、50年前に亡くなった女の子は女子トイレで発見された事、それくらいだ。
「……トイレ…?」
そういえば、ハーマイオニーがポリジュース薬を作った場所に選んだのがトイレだと言っていた、そこには嘆きのマートルという女子のゴーストが居て、誰も近寄らない絶好の場所なのだと。
ルイスはマートルを見たことが無い、だが、もしそのゴーストが50年前、怪物に殺されてその場に留まり続けているのだとしたら──?
ルイスは勢いよく起き上がると、直ぐに大広間へと向かった。──この考えを一刻も早くハリー達に伝える為に。
大広間に着いたルイスは朝食の最中のハリーとロンの元へと向かい、ハリーの隣に座った。
「おはようルイス、朝来ないのかと思ったよ!…僕たち、気付いたんだ…昨日アラゴグが言っていた事だけど…もしかして、殺された女子はマートルかも知れないって」
ハリーが小声でルイスに囁く。ルイスは少し目を見開きあたりを注意深く見た後深く頷いた。
「僕もさっきそうだと思ったんだ」
「マートルに話を聞きに行きたいんだけど…中々難しそうだよね…」
ハリーは肩を落とし、ため息を吐く。嘆きのマートルのトイレは最初の事件の場所に近い、今はその場所に向かうことすら難しいだろう。
「…そういや、ソフィアが…襲われた日に、最後に行った場所がマートルの所だったんだ」
「えっ?…そうなの?」
ハリーは思い出したようにハッとすると声を顰めたまま呟く。たしか、マートルはそこで誰かと話すソフィアの声を聞いていたと言っていた。
「うん、…ソフィアはマートルと仲がよかったんだ…もしかしたらマートルの死因を聞いて、五十年前に犠牲になったのがマートルだって気付いたのかも知れない!…その後、誰かと話してたって言ってたから…まさかその後で…」
「…その、まさかだろうね…」
ルイスは眉を顰めたまま苦々しく呟いた。
きっとソフィアはその時に何があったのか知ったのだろう、それが継承者にバレてしまい、襲われたのだ。
「ごめん…ルイスと会ってたんだとばかり思ってた…そうだ、そのあと襲われてルイスが発見したんだよね…早く思い出していたら…」
「…ううん、仕方ないよ、ソフィアが襲われて…色々あったしね」
もっと早く思い出して居たなら、マートルに色々聞けたかもしれない。まさか当時この事実がそれ程重要だとは思わず、ハリーは悔しそうに目の前の肉にフォークを突き刺した。
ロンもまた渋い顔で考えながら、呟く。
「あの時なら聞けたのに、今じゃなぁ…」
ハリーとルイスは何も答えることができず沈黙した。
ハリーはあたりを見渡し、生徒が誰も自分達の話を聞いて居ない事を確認しさらに声を顰めルイスを見た。
「…ルイスは、怪物の事何かわかった事ある?」
「んー…。…蜘蛛が恐るものだよね…家に魔法生物の図鑑はあったんだけど…僕、あまりちゃんと読んで無いんだよね…図書館で調べたいけど…それすらも難しそうだし…」
ルイスは残念そうに首を振る。
あの時、蛇を出すという選択をしたのは単純に巨大な蛇なら蜘蛛を食べるのでは無いかと思っただけだった。その選択が限りなく真実に近付いて居た事に、ルイスは気が付かない。
「…もし、図書館に行けそうなら調べてみるよ。ハリーとロンも何かわかったらすぐに教えてね」
ハリーとロンが頷いた時、朝食の終了のベルがなった。
教師達が生徒を1時間目の授業の教室へ引率する為に立ち上がると、ルイスはハリーとロンと別れ移動する為にドラコの元へと向かった。
ルイスはそれから数日、図書館へ行き、魔法生物について探す機会を狙って居たが中々その機会は訪れなかった。
試験の勉強をする為に図書館へ行く事は出来たが、必ず監督生が付き添い最短で本を借りすぐに図書館から談話室へ移動するように促したのだ。授業に関係のない本を探す隙は無く、ルイスは魔法生物の書棚を悔しそうに見つめる。あの所に、全ての答えがあるかもしれないのに。
ハリーとロンもマートルのトイレに行く隙を見つけることが出来ず、三人はこれと言った収穫を得られないままテストの三日前を迎えた。
大広間での朝食の前にマクゴナガルが生徒達を一望できる舞台の上に立ち、発表があると告げると騒がしかった大広間は途端に鎮まり帰った。
まさか、また誰か襲われたのだろうか。生徒達は不安げにマクゴナガルの言葉を待っていたが、マクゴナガルは久しぶりに少し柔らかな表情を浮かべ口を開いた。
「よい知らせです」
途端大広間中に歓声が上がる、ダンブルドアが復職したのか、スリザリンの継承者を捕まえたのか、クィディッチが再開されるのか──。どんな良い知らせなのか興奮したまま目を輝かせる生徒達の騒めきが治まった頃、マクゴナガルは一つ咳をし、柔らかく皆に告げる。
「スプラウト先生のお話では、とうとうマンドレイクが収穫出来るとの事です。今夜、石にされた人たちを蘇生させる事ができるでしょう。言うまでもありませんが、そのうちの誰か1人が、誰に、または何に襲われたのか話してくれるかもしれません。私は、この恐ろしい1年が、犯人逮捕で終わりを迎える事が出来るのではないかと、期待しています」
歓声が響き、誰もが嬉しそうに笑い合った、ルイスもまたようやくソフィアが蘇生される事に安堵し、ほっと長い息を吐いた。
「ソフィアはきっと、犯人も怪物も何か知っていると思う…ようやく、終わるね」
「…ふん、つまらない幕引きだな」
ルイスの言葉にドラコは鼻を鳴らしつまらなさそうに皿の中にあるオートミールをスプーンで突いた、ルイスは片眉を上げ、じとりとドラコを睨む。
「何?じゃあソフィアが蘇生されない方がいいの?」
「…そういうわけじゃない」
ドラコも、ソフィアの蘇生は嬉しかった。だが彼女とはグレンジャーを穢れた血と呼んでから一切話して居ない、何もいう事が出来ない日々を過ごしたまま、ソフィアは石にされてしまったのだ。謝罪をするつもりは毛頭も無いが、ソフィアと去年のような友人に戻るには──時間が経ちすぎていた。今更、何をいえば良いのだろうか。
「…ソフィアが起きた時に、抱きしめたらいいと思うよ、ソフィアはドラコの言葉を許しはしないけど…まぁ、理解はしてくれるよ、ぼくと同じでね」
「……、…」
ルイスはドラコが何を心配しているのかすぐに察すると、その少し元気のない背中を優しく叩いた。
ハーマイオニーに対する侮辱をソフィアはけして許さないだろう。それでも、ソフィアは優しく──聡い子だ。ドラコが植え付けられている純血至高主義を理解は、してくれるだろう。
「さ、テスト前だし授業頑張らないとね。ソフィアにノートでも見せてあげなよ、きっと喜ぶよ」
「…ああ」
ソフィアが石になってから、ドラコはいつもより熱心に授業内容をノートに書き込んでいた、誰が見てもわかりやすいそのノートが、誰のためなのか、いつもそばにいたルイスは気付いていた。ドラコはとても傲慢で純血以外を見下すが──認めた者にはとても、優しい。その優しさを知らない人は、ドラコが冷酷だと勘違いしてしまうだろう。勿体ない性格をしている、とルイスはいつも思っていた。
その日のホグワーツは久しぶりに明るい雰囲気で包まれていた。石化した生徒達が蘇生され、この事件に終止符が打たれる事を皆が期待していた。
だが、1時間目が終わり、次の教室へ移動する中突如ホグワーツ中にマクゴナガルの声が響き渡った。
「生徒は全員、それぞれの寮にすぐに戻りなさい。教師は全員、職員室に大至急お集まりください」
呪文学へ向かっていたスリザリン生達は顔を見合わせ、急いで職員室へかけて行ったフリットウィックを見送る。
暫く置いて行かれたスリザリン生はどうしようかと囁いていたが、マクゴナガルの指示に従うべきだとルイスが言い、渋々ながらに寮へ戻った。
「何があったんだろうな」
「…わからないの?…また、襲われたんだよ…今になって…なんで…」
ドラコの声にルイスは苦々しく答えた。きっと、生徒の石化が解かれると聞いて最後の悪足掻きをしているのだろう。それならば、今までの中で最悪の事態になっているのかも知れない。どうせ捕まるのなら、誰かを道連れにしてやる──自暴自棄になった継承者がそう思ってもおかしくない。
いや、それとも、正体をばらされない為に石化した生徒達の口を塞いだのだろうか?──その石となった身体を破壊して。
ルイスは自分の想像にさっと表情を無くすと、足を止めた。スリザリン生達はがやがやと話していてルイスが遅れている事に気がつかない。ドラコだけが気付きルイスを振り向いたが、その蒼白な顔を見て眉を顰めた。
「どうした?」
「ソフィアが心配だ。僕が継承者なら─石化した者を口封じの為に襲う!」
ルイスは小さく叫ぶと直ぐに踵を返し、ドラコが焦ったように自分の名前を呼ぶその声を後ろで聞きながら一目散に職員室へ向かった。
職員室の扉に耳を強く当て、ルイスはその先の会話を聞こうと集中する。少しくぐもった声だが、深刻な声で話す彼らの声は何とか聞こえた。
「──生徒が1人、怪物に連れ去られました。秘密の部屋そのものの中へです」
重々しいマクゴナガルの言葉に、ルイスは息を呑んだ。やはり、最悪のことの事が起こっていた、石化された生徒達が襲われて居なかった事には安堵したが──それでも、最悪と言えるだろう。
「なぜ、そんなにはっきりと言えるのかな?」
「スリザリンの継承者がまた伝言を書きました。最初に残された文字の直ぐ下にです。──彼女の白骨は永遠に秘密の部屋に横たわるであろう」
「──誰ですか?」
「ジニー・ウィーズリー」
ルイスはぐっと奥歯を噛み締めた、まさか、ジニーが連れ去られるなんて、いや、確かに彼女は廊下ですれ違うたびに一人で行動していた、そこを狙われていたのだろう。スリザリン生の自分が声をかけたら余計に友達が作れないだろうと、遠目で見ていたが、それは失敗だった。教師達が引率するようになってからは俯きながらも集団の最後尾をついて居たから、問題ないとばかり思っていた。
ルイスは自分の行いを悔やんでいたが、後ろからバタバタと足音が聞こえすぐに飛び退くと後ろ髪を引かれる思いでそこから駆け出し、素早くスリザリン寮へ戻った。
ルイスがスリザリン寮へ戻った後、すぐに心配そうにドラコが駆け寄った。
「ソフィアは?」
「…ソフィアは無事だった」
「そうか!──よかった」
ドラコはぱっと表情を明るくさせ、安堵の息をこぼす。だがルイスは苦しげに顔を歪めたまま、ソファに深く座り、顔を手で覆った。
ルイスが少しも喜んでいない事にドラコは首を傾げ、そっとその隣に座ると顔を覗き込んだ。
「…何があったんだ?」
「…後で、先生から説明があると思うよ」
ルイスはそれだけを言うと、もう何も言いたくないと言うように黙り込んでしまい、ドラコは少し眉を顰めたが後でわかるのなら構わないか──それに、たとえ穢れた血が犠牲になろうとも、少しも心は痛まない。──そう考えすぐに噂話に花を咲かせる他のスリザリン生の元へと向かった。
暫くして談話室に集まっていたスリザリン生はセブルスから生徒が1人秘密の部屋へ連れ去られた事と明日家に帰される事を聞いた。不満げに文句を言ったスリザリン生も居たが、セブルスの睨みにより無言になった。
スリザリン生達は寮を抜け出す事を禁じられ、退屈な午後を過ごした。彼らにとって大切なのは同じスリザリン生だけで、スリザリン生が一人も欠けて居ないのであれば、この一年間の事件も、被害者の事も、どうでもよかった。
ルイスは長い時間何度も一年にあった事を思い出し、秘密の部屋の場所を脳内で探したが、やはりマートルの言葉が鍵となっているのだろう、自信を持ってここだと思える所はなかった。
それでも居ても立っても居られず、そわそわと忙しなく身体を揺らす。
セブルスは誰が襲われたかを言わなかった、ウィーズリー家の者はこの事を知っているのだろうか?…いや、知ってるに違い無い。父はジニーの名前を言わなかったが、それはスリザリン生だからだろう。──彼らはきっと、グリフィンドール生が犠牲になった事を喜ぶだろうから。
ルイスは静かに立ち上がると、すぐに寮を抜け出した。
きっとロンはジニーの生存を願い何か行動せずに居られないだろう。秘密の部屋の事は何もわかっていない、だが、それでもルイスも1人朝が来るまでここで大人しく待つ事は出来なかった。きっと抜け出してマートルに話を聞きに行っている筈だ、自分ならそうする。