【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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95 トム・リドル

 

 

ロンが力を振り絞り岩を動かそうと唸る声もやがて遠くなり、聞こえなくなった。2人はくねくねと曲がるトンネルを無言で進む。ルイスの杖が辺りを照らしてはいるが、曲がり角が多すぎて先を十分に照らす事は出来ず、曲がるたびにその向こうにバジリスクがまっているのではないかという恐ろしい妄想に駆られ、2人の神経がキリキリと痛み擦り減る。

 

長い距離を走り、ついにそのトンネルに終わりが訪れた。

行き止まりの壁には二匹の絡まりあった蛇の彫刻があり、その目には輝く大粒のエメラルドが2人を見据えている。何をするべきなのかハリーにはすぐにわかり、カラカラに渇いた喉をごくりと唾を飲み飲み潤しながら、ゆっくり口を開いた。

 

 

「──開け

 

 

壁が二つに裂け、絡み合った蛇が分かれ両側の壁が滑るようにして見えなくなった。

 

 

2人は視線を交わし、どちらともなくその先へと進んだ。

 

 

 

 

ハリーとルイスは細長く奥へと伸びる薄明かりの部屋に立っていた。

壁には松明の明かりが灯り、辺りを照らしている。ルイスは杖先の灯りを消すと、いつでも攻撃魔法を繰り出せるように一度杖を握り直した。

蛇が絡み合う彫刻を施した柱が上へ上へと聳え、暗闇に吸い込まれて見えない天井を支えていた。

 

ハリーとルイスはお互い杖を前に向けたまま、どこからバジリスクが飛び出すのか注意深く辺りを見渡し、左右一対になっている蛇の柱の間を進む。

最後の一対の柱間で来ると、部屋の天井に届くほど高く聳える石像が壁を背に悠然と現れた。

 

 

「…サラザール・スリザリンの石像だ…肖像画であの顔を見た事がある」

 

 

ルイスはそっとハリーに耳打ちをした。2人は上を見上げていたが、すぐに視線を下へと下ろし、その石像の足の間に、燃えるような赤髪を見た。

 

 

「「ジニー!」」

 

 

同時に叫ぶと力なく床に横たわるジニーに駆け寄り、ハリーは杖を脇に捨て膝をつき必死に名前を呼んだ。

 

 

「ジニー!死んじゃだめだ!」

 

 

ハリーはジニーの肩を掴み仰向けにさせた、その身体はぐったりとしていて柔らかかった。髪がはらりと流れ顔が露わになったが、その顔色は悪い。ハリーは震える手でその頬に触れたが、あまりの冷たさに反射的に手を引き込めた。

石にはされていない。だが、これ程冷たいなんて、ジニーはもう──。

 

 

「ジニー、お願いだ、目を覚まして…!」

 

 

ルイスはすぐにジニーの胸元に耳を付け、目を閉じた。ハリーはその様子を固唾を飲んで見守る。──どうか、鼓動が動いていますように。

 

 

「…大丈夫、ハリー。ジニーはまだ生きてる」

 

 

ハリーは「良かった…!」と呟いたが、ルイス表情を険しくさせたまま身体を起こしジニーを見下ろした。脈が弱すぎる、衰弱している。今すぐに医務室へ向かわないと今すぐに死んでしまってもおかしくは無い。だが、帰り道は塞がっている、果たしてどうやって──。

 

 

「その子は目を覚ましはしない」

 

 

物静かな声が響いた。

ハリーとルイスは肩を震わせその声のした方を振り返る。背の高い、黒髪の少年がすぐそばの柱にもたれてこちらを見ていた。まるで曇りガラスの向こうがにいるかのように輪郭が奇妙にぼやけているが、ゴーストとは異なり、色彩がある。

 

 

「トム──トム・リドル?」

 

 

ハリーは記憶の中で見たその顔に、信じられない思いで呟く、リドルはハリーの顔から目を離さず頷いた。

 

ルイスは驚き、ハリーと、そしてリドルを見た。この人がリドル?彼は50年前の人だ、こんなに若いわけがない、本当にリドルだとしても、何故ここにいる?

 

 

「目を覚さないって、どういうこと?」

「その子はまだ生きている。辛うじてね」

「…君はゴーストなの?」

「記憶だよ、日記の中に50年間残されていた記憶だ」

 

 

リドルが巨大な石像の足の指あたりを指差した。そこには見覚えのある黒い日記が開かれたまま、置いてあった。

 

 

ルイスはその日記を見て、脳裏に一年の出来事が通り過ぎた──スリザリンの秘密の部屋、バジリスク、リドルの日記、彼はハグリッドを追放したがハグリッドは犯人では無かった、それにも関わらず50年前の襲撃は止まった、リドルはスリザリン生だ──身体に電撃が通り過ぎたかのような衝撃が走り、ルイスはリドルを呆然と見た。

──まさか。

 

 

「トム、助けてくれないか。ここからジニーを運び出さなきゃ、バジリスクが居るんだ…何処にいるかはわからないけれど…今にも出てくるかもしれない、お願い、手伝って…ルイスも、持ち上げて!」

 

 

ハリーはジニーの頭を持ち上げながら、リドルを見たまま微動だにしないルイスに焦ったように声をかけたが、ルイスは返事を返さなかった。

 

 

「ハリー…」

 

 

ルイスは緊張した声で小さくハリーの名を呼ぶが、ハリーは汗だくになってジニーの身体を持ち上げていた。意識のない人間を持ち上げるのは、かなり難しい。それにハリーはその年齢にしては小柄で、ジニーとあまり変わらなかった。

なんとかジニーの体を床から半分以上持ち上げると、杖を拾おうと床を見た。

 

 

「トム、ルイス、僕の杖を知らないかな…」

 

 

ハリーが床から目を離し、リドルを見上げると、まだリドルはハリーを見つめていた。──すらりとした指でハリーの杖をくるくる弄び、口元には笑みを冷たい笑みを浮かべている。

 

 

「ありがとう」

 

 

リドルが拾ってくれたのだと思い、ハリーは手を伸ばしたが、リドルは笑みを深めたまま杖を指先で弄び続ける。

 

 

「…トム?早く返して」

 

 

ジニーの重みでイライラしたハリーは急きたてるようにリドルに言う、ルイスも何故動かないんだとジニーを持ち直しながらルイスを見れば、彼の顔は見たこともない程緊張で強張り、じっと杖先をリドルに向けていた。

 

 

「…ルイス?」

 

 

ルイスはハリーとジニーをリドルから隠すように片手を広げて自分の後ろに隠した。

 

 

「ハリー…ゆっくり、下がっ──」

「動くな」

 

 

リドルの冷たい声がルイスを突き刺した。

ルイスはぐっと言葉を飲み込む。彼の出す重苦しい雰囲気に、手が震えた。蜘蛛と対峙した時とはまた別の──途轍もない悪意にルイスは呪文を唱える事が出来なかった。ルイスは自分の力量をしっかりと理解していた。だからこそ、わかってしまったのだ。

──リドルに僕は敵わない。彼は自分の記憶を日記に留める事ができるほどの魔法使いだ、どんな方法でそれを成し遂げたのかはわからないが、かなり高度な魔術なのだろう、本体ではない記憶体だとしても、その力は計り知れない。

 

 

「…ハリー、君にはこの杖は必要ないよ」

 

 

ルイスが沈黙したのを見て、リドルは笑みを深めハリーに薄く微笑みかける。ハリーは、今何か想像もつかない事が起こっていることに、うっすら気付いた。

 

 

「どう言う事?必要じゃないって?」

「僕はこの時をずっと待ってたんだ。ハリー・ポッター。君に会えるチャンスを──君と話すのをね」

「いい加減にしてくれ!君にわかってないようだけど、僕たちは秘密の部屋の中に居るんだよ、話なら後でできる」

 

 

ハリーはきっとトムは日記から出たばかりで──どうして出れたのかわからないが──ここが何処だかわからないのだ、ルイスもいきなり見知らぬ人が現れ警戒しているだけだ、きっとそうだ、と自分に言い聞かせた。

 

 

「今、話すんだよ」

 

 

リドルは手を止め、杖をハリーとルイスに向けた。

ハリーは驚愕し、嫌な予感がちらりと脳裏によぎった。しかし、有無を言わさないリドルの笑みに、ゆっくりと切り出した。

 

 

「…ジニーはどうしてこうなったの?」

「うん、面白い質問だね…話せば長くなる。ジニー・ウィーズリーがこうなった原因は、誰なのかわからない目に見えない人に心を開き、自分の秘密を洗いざらい打ち明けたからだ」

 

 

楽しむように愛想よくリドルは答え、くつくつと喉の奥で笑った。

 

 

「…意味がわからないけど?」

「あの日記は、僕の日記だ。ジニーは何ヶ月もその日記に馬鹿馬鹿しい心配事や悩みを書き続けた。兄さん達がからかう、お下がりのローブや本で学校に行かなきゃならない、それに──有名な、素敵な、偉大なハリー・ポッターが自分を好いてくれる事は絶対にないだろうとか…」

 

 

探るようにリドルはハリーの顔を覗き込む。こうして話しながらもリドルの視線はハリーから一瞬も離れず、ルイスから一時も杖を外さなかった。

 

 

「11歳の小娘のたわいない悩み事を聞いてあげるのはうんざりだったよ。…でも僕は辛抱強く返事を書いた。同情してあげたし、親切にもしてあげた。ジニーは僕に夢中になった──トム、あなたぐらい私の事をわかってくれる人は居ないわ、なんでも打ち明けられるこの日記があってどんなに嬉しいか…まるでポケットの中に入れて運べる友達がいるみたい──ははっ!」

 

 

リドルは甲高く、冷たい声をあげて笑う。

ハリーとルイスの背がぞくり、と粟立った。

 

 

「自分で言うのもどうかと思うけど、ハリー、僕は必要となればいつでも誰でも惹きつける事が出来た。だからジニーは僕に心を打ち明ける事で、自分の魂を僕に注ぎ込んだんだ。ジニーの魂…それこそ僕が欲しいものだった。僕はジニーの心の深層の恐れ、暗い秘密を餌食にしてだんだん強くなった…哀れな少女とは比較にならないくらい強くなった。──そして、僕の秘密を少しだけジニーに与え、僕の魂を小娘に注ぎ込み始めた…」

「それは…どう言う事?」

 

 

ハリーはもう、気が付いていた。だが信じたくないのか、掠れた声で弱々しくリドルに聞いた。

 

 

「まだ気づかないのかい?ハリー・ポッター?…ジニーが秘密の部屋を開けた。学校の雄鶏を締め殺したのも、壁に脅迫の文字を書き殴ったのも、ジニー。4人の穢れた血と愚かな娘と、スクイブの飼い猫にスリザリンの蛇を仕掛けたのもジニーだ」

「まさか…」

 

 

ハリーは愕然として呟く。リドルはくつくつと愉しそうに喉の奥で笑い、歌うようにジニーが書き綴っていた困惑の記憶をハリーに伝え、ハリーは爪が掌に食い込むほど強く拳を握った。

 

 

「──馬鹿なジニーが日記を信用しなくなるまでにずいぶん時間がかかった。だがとうとう変だと疑い始め…そして…」

 

 

リドルはこの時初めてハリーから視線をルイスに移した。その目は闇を含んでいるが、どこか優しげに細められている。

 

 

「君の妹の、哀れなソフィアに全てを告げようとした…だが、ソフィアはジニーの本当の悩みには気が付かなかった、きっと秘密の部屋が開かれ怯えているのだろうと考え…可哀想に、ジニーに継承者はアズカバンに行く──だなんて、検討外れの言葉をかけた…ジニーは怯え何も言えなくなってしまってね…。ジニーに疑われ日記が捨てられるのは本意ではない、僕は狙いをジニーからソフィアに変えた」

「…何…?…ソフィアを、まさか、操ったの…?」

「いいや」

 

 

ルイスは硬い声でリドルに問いかけたが、リドルはつまらなさそうに首をふり、肩をすくめた。

 

 

「ソフィアは愚かだったが、とても賢かった。──僕はジニーを操り、日記をソフィアに預けた…僕はソフィアがジニーのように悩みを書く事を期待したが…ソフィアは聡明だ、僕にプライベートな事は一切、書かなかった…流石に、少し焦ったよ。このままただの日記に戻ってしまうなんて耐えられなかったからね」

 

 

ふう、とため息をつき、それでも楽しげにリドルは微笑む、その顔はどこかソフィアを讃えているようでもあった。

 

 

「ところが、想定外の事が起きた。ソフィアは数少ないヒントから──たった一人で秘密の部屋の在処を知ってしまった。…ソフィアが愚かだったのは、それを僕に伝えた事だ…それを日記に書くことがなければ、きっと僕はこうしてここに立っていない。僕はなんとかソフィアの考えを否定しようと思った、彼女はダンブルドアに伝えに行く気だったからね」

 

 

ハリーとルイスは何も言えなかった。

ソフィアが何故全てに気付くことが出来たのか、漸く理解した。リドルから50年前に何があったのか、ハリーが見たように彼女も知ったのだろう、そしてすぐにマートルの事だと気付き、マートルに死因を聞いた…そして、秘密の部屋の場所を見つけ出したのだ。

 

 

 

「ああ、本当に…僕をこれ程まで焦らせたのはソフィアが初めてだったよ!…だが、運は僕に味方をした…何とかしてソフィアを止めなければならなかったが、彼女を操れるほど魂を繋げていなかった…もう無理だと思った時…ジニーが現れたんだ。ジニーには疑われていたが、それよりもソフィアを止めなければならなかった僕はジニーを操り…バジリスクを呼び出した。ソフィアを殺すためにね」

「っ…なんて、ことを…!」

 

 

ルイスはぎりぎりと奥歯を噛み締め、憎々しげにリドルを睨む。リドルは子どもの睨みなど少しも怖くなく、笑みを深めたまま種明かしをするように全てを話した。

 

 

「殺すつもりだったけど…まさか、二年生で無言呪文が使えるとは思わなかったよ…彼女は僕には劣るが中々に優秀な魔女になるだろうね。あの世で君達が会えたら僕が褒めてたって言ってあげてね?」

「誰が言うか…!」

 

 

からかいを含んだリドルの言葉に、ルイスは今にも飛びかかり殴りたい気持ちを必死に抑えた。

だめだ、こんなに警戒されている中飛び掛かっても殺されるだろう。隙を狙わなければならない。ルイスは強く噛み締めた歯で唇がぶつりと切れ、口の中に血の味がじわりとしたのを感じたが、怒りで満ちて痛みは感じなかった。

 

 

「ジニーは日記を捨てた…そして、そのあと君が拾ったんだよ、ハリー!僕は最高に嬉しかったよ…事もあろうに君が拾ってくれた、ぼくが会いたいと思っていた君が…」

 

 

リドルは再びハリーを見た。その目は凶悪な色がちらりと見え隠れし、ハリーを貪る様に見つめる。ハリーは怒りで口を戦慄かせる。この人が、こいつが全ての元凶なんだ、この記憶が──過去の記憶が、あの日記がこんなにも凶悪なものだったなんて。

 

 

「どうして僕に会いたかったんだ?」

「そうだな。ジニーがハリー、君のことを色々聞かせてくれたからね…君を信用させるために、あの愚かなハグリッドを捕まえた場面を見せてやろうと決めた」

「ハグリッドは僕の友達だ!それなのに、君はハグリッドをはめたんだ、そうだろう?君が勘違いしただけだと思ったのに!」

 

 

リドルはまた高い笑い声を上げた、さも愉快そうに目を細め、小首を傾げ言い聞かせるように優しくハリーの名を呼んだ。

 

 

「ハリー、優等生の僕のことを信じるか…ハグリッドを信じるか、二つに一つだ…みんな僕のことを信じたよ、ただ1人…変身術のダンブルドア先生だけが、ハグリッドは無実だと考えたらしい」

「ダンブルドアは君のことなんてお見通しだったんだ!」

 

 

ハリーはぎゅっと歯を食いしばりながら叫ぶ。もう何も聞きたく無かった、犯人がリドルだと分かった今、リドルから何かを聞くたびに怒りが込み上げ爆発しそうだった。それを止めていたのは腕の中にある、ジニーの重みと、そしてリドルの手の中にある、自分の杖の存在だ。

 

ハリーとルイスはリドルが不気味に微笑んだまま話す言葉を遮る事も出来ず聞いていた。

リドルは全てをハリーに話すつもりなのだろう──冥土の土産のつもりかもしれない。ジニーが何故またハリーから日記を取り戻したのか、そしてどうやってジニーとここでハリーの訪れを待っていたのか。しかし、ハリーは何故そこまで自分に固執するのかわからなかった、トム・リドルなんて聞いたことが無い、知っているような気がしたがそれはリドルと話していて間違いなく気のせいだとわかった。

 

 

「──これといって特別な力を持たない赤ん坊が、どうやってヴォルデモート卿を倒したんだ?」

 

 

リドルの赤い目が、ハリーの前髪の下に隠れている稲妻型の傷を探るように見た。

ハリーは顔を歪めたまま、吐き捨てるように呟く。

 

 

「何でそんなことを気にするんだ」

「ヴォルデモートは、僕の過去であり、現在であり、未来なのだよ──…ハリー・ポッター」

 

 

リドルは静かな声で言うと、杖を振るい空中に文字を書いた。

三つの単語が空中に淡く光り、ゆらめく。

 

 

 

TOM MARVOLO RIDDLE

 

 

 

「──まさか!」

 

 

ルイスは先ほどのリドルの言葉と、宙に浮かんだ名前を見て叫ぶ。リドルはくつくつと笑い、杖をもう一振りした。

 

 

I AM LORD VOLDEMORT

 

 

「君も、なかなかに聡明なようだね?」

 

 

リドルはハリーとルイスの蒼白な顔を見て高らかに嘲笑した。

 

 

 

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