トム・リドルは、少年時代のヴォルデモートだった。
その事実の衝撃は筆舌尽くし難いものだった。この、少年が将来沢山の人間を苦しめ殺すだなんて、誰が想像しただろうか。外見は整いその口から漏れる音は優しく、穏やかだ。だが思想は歪み、吐かれる言葉は闇を大きく孕んでいる。
優秀なリドルは狡猾に全てを隠し学生時代を過ごしていたのだろう、ダンブルドアに不信感を抱かせて居ながらも、結局証拠は掴ませなかったのだ、たった、16歳の子どもが。
「穢らわしいマグルの父親の姓を僕がずっと使うと思うか?答えはノーだ。僕は自分の名前を自分でつけた。ある日必ずや、魔法界の全てが口にすることを恐れる名前を!僕が世界一偉大な魔法使いになる事はわかっていたのさ!」
高らかにリドルは嗤うが、ハリーは静かに「違う」とその声に強い怒りと憎しみをこもらせつぶやいた。
「──何が?」
リドルは笑いを止めると、鋭くハリーを睨み切り返した。
「世界一偉大な魔法使いはダンブルドアだ!君が強大だった時でさえ、ダンブルドアには手も足もでなかった!」
その言葉にリドルは顔を歪め、初めて笑み以外の感情を見せた──強い憤怒だ。
「…ダンブルドアは僕の記憶に過ぎないものによって追放された!」
「ダンブルドアは君の思っている程、遠くに行ってないぞ!」
ハリーは言い返したが、それは咄嗟の思い付きだった。──そうだったらいい、そう願い叫んだ言葉であり、リドルが言い返そうと口を開いたがその表情は凍りついた。
「……歌…?」
ルイスはこの場に似合わない美しい旋律の音楽が聞こえてきた、妖しく人を惑わすような、背中がぞくりと粟立つ旋律だった。その音がだんだん大きくなった時、突如深紅の鳥が天井付近に現れた。リドルが思わず顔をあげハリーとルイスから視線を逸らした瞬間、ルイスは叫んだ。
「
あたりに白い霧が立ち込め、リドルの舌打ちと共に赤い閃光がルイスの頬を掠めた、ぱっと焼かれたような痛みが走ったがルイスは気にする事なくすぐにジニーに無言魔法で浮遊呪文をかけるとハリーの腕を引き柱の影まで走った。
「チッ…現れたのは不死鳥か?…ふん、組み分け帽子を持っていたようだが…それが何の力になる?ダンブルドアが送ってきたものにしてはお粗末なものだな!」
リドルの笑いが響く。霧に覆われ姿が見えないその声は、部屋の中に反響しまるで何人ものリドルが笑っているように不気味に聞こえた。
ハリーとルイスはジニーを一番奥に隠し、じっと息を殺していた。どうすればいいのかわからない、本当にリドルが若かりし頃のヴォルデモートなら──勝ち目はない。
霧の中をすうっと優雅に舞い、不死鳥のフォークスが現れハリーの足元に古い組分け帽子を落とし、ハリーの肩に止まった。
「ルイス、どうしよう」
ハリーは古びた組分け帽子をぎゅっと掴み、蒼白な顔でルイスを見た。ルイスは霧が晴れていく中外の様子を伺いながら、小さな声で囁く。
「…ハリー、リドルの輪郭が濃くなってた事に気付いた?…リドルはジニーの命を吸っている…一刻も早く、倒さなければならない」
「でも!…どうやって?」
「…リドルの本体は、日記だ。日記を…壊すしかない…。僕が日記を探す、ハリーは…アイツの気をひいて」
「でも──」
「これしか無い、──さあ!」
ルイスはハリーの返事を待たず霧の立ち込める中へ飛び出すと足音を響かせないように走った。
ハリーはぐっと歯を食いしばり、ルイスの足音が聞こえないように大きな声で柱の影からリドルに向かって叫ぶ。
「僕がどうやって生き残ったのかは僕にはわかる、母が、僕を庇って死んだからだ!母はマグル生まれの、普通の母だった!君が僕を殺すのを母が止めたんだ!──僕は去年、君の落ちぶれた残骸を見たぞ!辛うじて生きているなれの果てだ!」
「そうか──。なるほど、母親が君を守るために死ぬ…それは呪いに対する強力な反対呪文だ、君に力がないのなら、どうでもいい。もしやと思って居たんだ、君に何か特別な力があるかもしれないって…気付いているだろう?君と僕とは不思議とよく似ている──
「──ぅあっ!」
リドルは走っていたルイスにすぐに気付き躊躇う事なく鋭く呪文を唱えた。ぱっと銀色の閃光が霧の中を飛び、ルイスを貫く、身体に響く激痛に呻めき、ルイスは脚をもつれさせ倒れ込んだ。「ルイス!」ルイスの呻き声を聞いたハリーは思わず悲鳴にも似た声でその名を必死に呼んだが、ルイスは歯を食いしばりそれに応える余裕はなかった。
肩から夥しい量の血が流れ、床に這いつくばったまま、ルイスは燃えるように痛む腕を見てすぐにフェルーラを唱え傷口を包帯で巻くと立ち上がり近くの柱に飛び込んだ。
「一撃で殺せなくてごめんね?あまり魔力を消費するわけにもいかないんだ…さてハリー、不死鳥と組分け帽子でどうやって戦うのか…楽しみだよ」
リドルはスリザリンの石像の側に寄ると大きく口を開き、蛇語を放った。
ルイスの耳には空気が漏れている音のように聞こえたが、ハリーには何と言っているのかがわかった。
スリザリンの石像の口が開き、奥から何か巨大な物が這い出した。
「ハリー!バジリスクだ!見ちゃダメだ!」
ルイスは叫びーールイスの声が聞こえ、僅かに安堵したのも束の間、ハリーは固く目を閉じたーー蛇の頭を見ないよう目を細めながら霧の晴れてきた広い空間をじっと見た。
「アイツを殺せ」
リドルが現れたバジリスクに命じると、バジリスクは身体をくねらせゆっくりとハリーの元へと向かった。
「ハリー!逃げて!!──
ルイスは叫びながらバジリスクの行く手を阻むために石柱の一つを壊した。それは轟音を立て真ん中から折れるとバジリスクの身体の上にのし掛かる、バジリスクは怒ったように強く鳴き声を上げ、するりと岩の間から抜け出すと頭をルイスの隠れる方へ向けた。
ハリーは強く目を閉じたまま両手を前にしてその場から駆け出した。
ここに留まっていては、奥に隠しているジニーにバジリスクの攻撃が当たってしまう、必死に走ったハリーは躓くと思い切り床に顔を打ち付けた。リドルの嘲笑いが響く中、ハリーは四つん這いになったままジニーから必死に離れた。
ルイスは直ぐに柱の裏に隠れ、そのまま別の場所へ走る。バジリスクは巨大な尾を鞭のようにしならせ、ルイスが先程いた場所を叩いた。
「そいつは後でいい!先にあっちだ!黒髪を殺せ!」
ルイスは蛇語がわからない、きっとまた襲われると思い、直ぐに走り出すと後ろを見る事なく床を這いずる音が聞こえるあたり目がけて魔法を放った。
「
途端、バジリスクは狂ったように床の上をのたうち回った。ルイスの魔法は蛇の右眼に当たり、目から夥しい量の血が溢れる、苦痛に身体を痙攣させるバジリスクの元に空を旋回していたフォークスが急降下し、その長い嘴を残った左目に突き刺した。
ぼたぼたと水が床に落ちる音がして、ルイスはバジリスクをやっつけたのか、そう思い咄嗟に振り返る。苦痛にのたうち回るバジリスクは鎌首をもたげルイスの方を見た。──しまった。
目を見てしまった。そう、ルイスは思ったが、ルイスの命の炎が消える事は無かった、切り裂き魔法により傷付けられたバジリスクの目からは止まることの無い血が溢れ、そして深くフォークスが突き刺さした目も完全に赤く濁っていた。──視線の殺傷能力が無くなった。
「ハリー!もう目を見ても大丈夫だ!毒牙には気をつけて!」
ルイスはどこに居るのかわからないハリーに叫び、蛇に向かってもう一度セクタムセンプラを唱えたが、その呪文は鱗により跳ね返された。おそらく、身体を覆う鱗に魔法は効きにくいのだろう。たまたま幸運にも目に当たり、その魔法が効いただけだ。
ルイスはそう判断するとすぐさま走り一度足を大きく曲げ高く跳躍すると浮遊魔法を自身にかけた。
「
バジリスクの頭上まで浮遊したルイスはその巨体目がけて杖先から轟々とした炎を吐き出した。
蛇は身体に纏わりつく炎を消そうと床の上を転がり回る。
「──
リドルは炎を消失させると苛立ちながら叫ぶ。バジリスクはふらふらとしながら尾を上げ、人の匂いの強い場所を薙ぐように払った。
「──っ!!
バジリスクの太い尾はルイスの身体を捉え、そのまま壁に叩きつけた、防御魔法で守っていたとは言え既に尾に押しやられていたルイスは上手く魔法を発動させる事ができず強かに身体をぶつけ、そのまま床に落ちた。
「ルイス!そんな…!!」
「ははは!頼みの綱のルイスは…身体中の骨が折れ…もう虫の息だ…ハリー?…さあ…残るは君だけだ…」
ーー殺せ!
リドルの恐ろしい声が響く。バジリスクはすぐにハリーの匂いを嗅ぎ分けると鎌首をもたげハリーの側を尾で払った。
ルイスは床に身体を横たえたまま浅い呼吸を繰り返していた。身体中が痛む、無事なところなんて一つもない、それに、喉の奥から血が込み上げてくる、骨が折れて内臓を傷付けているのだろうか、視界が黒くぼやけ、呼吸をするのも、億劫だった。
息も絶え絶えなルイスの側に、深紅の陰がすっと降り立った。
「…不死鳥…」
顔を動かす力もなく、ルイスは目だけを動かしフォークスを見る。フォークスはルイスの顔近くに頭を寄せると、その美しい目からぽたぽたと真珠のような涙を流した。
──不死鳥の涙…
ルイスはそれが何を意味するのか知っていた。
僅かに薄く口を開けば、フォークスはその傍に目を寄せた。吸い込まれるように涙の粒がすっと口の中に入って行き、ルイスはごくりとその涙を飲んだ。途端、身体中の痛みが和らぎ、そして視界が鮮明となる、ルイスは身体を起こすと少し呻く。──数粒の涙では全治は叶わなかった。
まだ涙を流そうとするフォークスに優しく首を振り、感謝を込めてその身体を撫でた。
「もう大丈夫、ありがとう…その涙はまだ…取っておいて?」
フォークスは何か言いたげにルイスを見たが、一度その美しく、そして温かな身体をそっとルイスに寄り添わせると、羽でルイスの頬を一撫でしながらまた空高く舞い上がった。
「──っ…はぁ…」
リドルはもう自分の事を見ていない。きっと、死んだと思っているのだろう。ルイスは着ていたボロボロのローブを脱ぐと肥大魔法をかけ布を厚くした。こうすれば、横たわっている人影に見えるかもしれない。
「…ちょっと、お粗末かな…」
ただのローブの塊にしか見えなかったが、無いよりはマシだろうとルイスはそっとその場から走り去る。もし、ソフィアなら得意な変身術でそっくりのフェイク死体を作り出していただろうと、少しだけ考え苦笑した。
ハリーは何処から手に入れたのか、手に銀色の剣を持っている。杖はリドルに奪われてしまったが、あの剣があるのなら、少しは時間を稼げる筈だ。ルイスは土埃が舞う床を必死に見渡し、日記を探した。
目を失ったバジリスクは闇雲にハリーに襲いかかる。ハリーは剣で何度かその毒牙を弾いていたが、ついにその腕に深々と毒牙が突き刺さった。
燃えるような痛みに顔を歪ませながら、ハリーは全体重を剣に乗せ、剣の鍔まで届くほど深く、毒蛇の口蓋に突き刺した。
長い毒牙はハリーの腕に突き刺さったまま折れた、バジリスクはドッと横向きに倒れると、ひくひくと痙攣していたが、すぐにその動きを止めた。
リドルはバジリスクの死を見て憎々しげにハリーを睨んだが、ハリーの腕に毒牙が突き刺さっているのを見るとまだ少し気分は晴れたようで醜く顔を歪めながら笑った。
ハリーは灼熱の痛みが腕から広がっていくのを感じた、だめだ、毒が広がっている。ルイスはどうなったんだろう?まさか、本当に死んでしまったのか?ジニーも助けられなかった──。
ルイスは折れた柱の影からそっとハリーの様子を見ていた、今すぐ駆け出したい衝動に駆られたが、すぐに思い止まる。大丈夫だ、不死鳥がハリーの側で涙を流している。不死鳥の涙はどんな傷も、毒も癒してくれる──。
柱の影に再び身を隠し、ルイスは手に持つ日記を強く掴んだ。
何とか見つけ出す事は出来た、だが、これはどうやっても傷つける事が出来ない、どんな呪文も効果はなかった。それよりも強い守護がかかっているのだろう。どうすれば壊せる?
ルイスはもどかしさに顔を歪め、またそろりと柱から顔を出した。あのどこかから現れた剣なら壊せるだろうか?バジリスクの硬い鱗と口蓋を貫いたのだ、不可能では無い。ルイスは再び柱から顔を出し、ハリーとその側に立つリドルを盗み見た。どうにかして、あそこに行かなければならない。ハリーにこの日記を渡せば、きっとハリーは剣で貫いてくれるだろう。
「ハリー・ポッター。君は死んだ。鳥にも君の死がわかるらしい、泣いているよ。良かったねハリー、君の死を悲しんでくれる鳥が居て。ダンブルドアも粋な贈り物をしてくれたね?──ほら、ルイスももう動いてないようだ、残念だね…」
リドルが楽しげに嗤う。
ハリーは死の音を聞きながら目を閉じた。これが死なら悪くない、痛みは消えていた。
「──くそっ!鳥め!どけっ!」
ハリーの傷が治癒している事に気づき、リドルは叫びながらフォークスに杖を向けた、大きな破裂音がして閃光が走ったがフォークスはそれをひらりとかわすと空へ舞い上がる。
「不死鳥の涙…癒しの力だ…忘れていた…」
リドルは起き上がったハリーの腕を見ながら低く唸るように呟く。リドルはまだ諦めていないハリーの目をじっと見つめ、杖をゆっくりと掲げた。
「しかし、結果は同じだ、むしろこの方がいい。一対一だ、ハリー・ポッター…2人きりの勝負だ」
リドルが杖を振り上げる、ハリーは手に持ったバジリスクの牙を強く前に突き出し、威嚇したがリドルはせせら笑っただけだった。
「ハリー!!」
突如ルイスの声が響く。
──生きていたのか!ハリーとリドルは同時に声のした方を振り返り、柱の上に立つルイスが何かを強く投げたのを見た。
それは弧を描き、ハリーの足元に落ちた。──日記だ。
ほんの一瞬、ハリーも、リドルも日記を見つめた。そして何も考えず、躊躇うこともなく、元からそうするつもりだったようにハリーはバジリスクの毒牙を日記に深く突き刺した。
恐ろしい耳をつんざくような悲鳴が長々と響く。日記からは鮮血のように黒いインクがどくどくとほとばしり大きな水溜まりをつくった。リドルは叫んだまま身を捩り、苦痛に悶え、のたうち回り──消えた。ハリーの杖が持ち主を失い床に音を立てて落ちる。
暫く、ハリーとルイスは動けなかった。
お互いの荒い呼吸が聞こえる。
ルイスとハリーはゆっくりと視線を合わせると、ルイスは柱から降り、どちらからともなく駆け出し強く抱擁した。
「ルイス!!」
「ハリー!大丈夫?怪我はない?」
「うん!」
ハリーは首を振り、にっこりと笑って見せた。全身に倦怠感はあるが、大きな怪我はフォークスにより治癒された。細かな傷や打撲も、バジリスクの毒牙に貫かれた痛みを思えばこんなもの可愛いものだった。
「そう、良かった…」
ルイスはほっと表情を和らげると、ハリーに縋ったままその場に力なく膝をついた。慌ててハリーは倒れそうになるルイスを抱き抱える。
「ルイス!?…っ!ひどい怪我だ!」
「…致命傷は無いよ、大丈夫…ちょっと…疲れただけさ…」
安心させる為にルイスは微笑み、ハリーは心配そうにルイスの身体を柱の背にもたれ掛からせた、あまり強く抱きしめていては、傷が痛むかもしれない。
「肩をかしてくれる?多分、歩けるとは思うんだ…」
「うん…あっ!ちょっとだけ待ってて!」
ハリーはそう言うと床に放り出していた杖と、少し悩んで日記と組分け帽子を拾った。そして満身の力を込めてバジリスクの上顎から剣を引き抜くと、すぐにルイスの元へ戻った。
「さあ、戻ろう」
「…いや、ハリー?ジニーを忘れてない?」
「え?…あ、いや、忘れてないけど…何だかもう、終わったんだって思い込んで…」
帰ろうとするハリーにルイスが苦笑いをすれば、ハリーはすこし気まずそうに笑った。
ルイスはなんとかハリーに肩を借りて立ち上がると、小さな呻き声の聞こえる方へと二人で向かった。
ハリーとルイスが駆け寄ると、ジニーはちょうど身体を起こしていた。なぜこんなところに居るんだろうと、とろんとした目でハリーとルイスをぼんやり見ていたが、バジリスクの巨大な死骸と、血だらけのハリーとルイスと、そしてハリーの手にある日記を見た途端身震いし大きく息を呑んだ。大きな目からじわじわと涙が溢れ、すぐに決壊する。
「ハリー!…ああ、私、朝食の時に言おうと思ったの!ハリー、私がやったの!!それに、ソフィアも、きっと、私が──私のせいで──っ!!」
「もう大丈夫だよ」
ハリーは取り乱すジニーに優しく語りかけ、日記を持ち上げると真ん中に黒々と空いた穴をジニーに見せた。
「リドルは消えたよ。見てごらん!それに、バジリスクもだ!おいで、ジニー。早くここを出よう」
「私、退学になるわ!それに、ソフィアに合わせる顔がないわ…!」
さめざめと泣くジニーの頭を、優しくルイスは撫でた。
「大丈夫、ジニーが操られていたって事は僕達が証言するし、ソフィアは絶対に怒らないよ、むしろ心配して泣いちゃうかもね」
ルイスの悪戯っぽい笑顔に、ジニーは少しだけ泣き声を抑えたがそれでもまだぽろぽろと涙を流し続けた。困ったように眉を下げるハリーからルイスはそっと離れる。
「ハリー、女の子が泣いているんだ、支えてあげなきゃね」
「あー…うん。ジニー?ほら、行こう?」
ジニーはハリーの腕に捕まりながらよろよろと立ち上がる。ハリーは少しぎこちなく支え、ルイスを気遣うように見た。
「大丈夫?僕の肩に捕まって」
「うん、ありがとうハリー」
ハリーは左腕にジニーの、右肩にルイスの暖かさを感じ、その暖かさが一つも失われなかったことに言いようのない安堵を感じながらゆっくりと薄暗がりに足音を響かせトンネルへと向かう。
背後で石の扉が音を立てながら閉まっていくのを聞いたが、誰も振り返る事は無かった。
流石に、ルイスはもう魔法を使う気力が無かった為、明かりのない暗いトンネルを数分歩く。
すると遠くの方からゆっくりと岩がずれ動く音が聞こえてきた。
「ロン!ジニーは無事だ!ルイスもね!ここにいるよ!」
「ハリー!ルイス!──ジニー!!」
ロンが胸の詰まったような声で歓声をあげ、早くその姿を見たいと言うように名前を呼ぶのが聞こえた。三人は自然と足を早め、次の角を曲がる。
崩れ落ちた岩の間に、ロンが懸命に作った隙間が出来ていた、人一人はなんとか通れそうなその隙間からロンは顔を覗かせ、しっかりと立つ三人を見ると目に涙を浮かべ顔を輝かせた。
「ジニー!!生きてたのか!夢じゃ無いだろうな?一体何があったんだ?」
ロンが腕を突き出して隙間からジニーを引っ張った。
ロンは抱きしめようとしたが、ジニーはしゃくり上げ、ロンから一歩離れた。
「もう大丈夫だよ、ジニー。もう終わったんだよ」
ロンはにっこりと笑いかける。
ジニーはわっと泣き声をあげ、謝りながらロンの両手を広げる旨の中に飛び込んだ。
「この鳥はどこからきたんだい?」
フォークスがジニーの後から隙間を通って現れた。
「フォークスだよ。ダンブルドアの鳥だ──…ルイス、手を出して」
ハリーが狭い隙間を通りながら答え、手に持っていた剣を岩に立てかけると直ぐに隙間からルイスを引っ張り出した。
「それに、どうして剣なんて持ってるんだい?」
「ロン、僕たちかなり疲れたし、見て…怪我が酷いんだ、帰ってからゆっくり話すよ」
ルイスはボロボロになり、血だらけの服を摘んで見せると、ロンはジニーに気をかけるかまり、初めてルイスの怪我に気がつき小さく叫ぶと心配そうに表情を翳らせ頷いた。
「ロックハートはどこ?」
ハリーは剣を持ち、ルイスに肩を貸しながら辺りを見渡す。ロンはニヤッと笑うと「あっちの方だ、調子が悪くてね、来てごらん」とトンネルからパイプへ向かう道筋を顎でしゃくった。
フォークスは悠々と金色の羽を広げ、柔らかな光を発しながら4人をパイプの出口の所まで先導した。
ロックハートは鼻歌を歌いながら一人で大人しく座っていた。その異様な光景に、ハリーとルイスは顔を見合わせる。
「記憶を無くしてる。忘却術が逆噴射して…全部忘れたんだ、自分が何者かも、ね…」
ロックハートは人の良い無害そうな笑顔を浮かべ四人を見上げた。
「やあ、なんだか変わったところだね、ここに住んでるの?」
「いや」
ロンが答えると、ロックハートはきょとんとしたが直ぐに気にしないことに決めたのかまた鼻歌を歌い出した。
「どうやって上まで登ろう…」
「…本当だね、うーん…あと12時間くらい休んだら…浮遊魔法でみんなを飛ばせられるけど…」
ルイスはハリーと共に上に伸びるパイプを見ながら困ったように笑った。ハリー達は顔を見合わせとんでもないと首を振る。
「そんなに待ってたら僕たちも行方不明者扱いでホグワーツは大混乱だよ!」
ロンの声に、ルイスは「そうだよねぇ」と呟いた。すると、フォークスがすっと後ろから飛んでくるとハリーの目前で羽を何度も羽ばたかせた。
「捕まれって言ってるように見えるけど…でも、鳥が上まで引っ張るには僕たちは重すぎると思うな」
ロンは当惑しながらフォークスを見る。
ハリーはハッとするとルイス達を見渡した。
「フォークスは普通の鳥じゃない。みんなで手を繋がなきゃ。ルイス、ジニーの手に捕まって、ロックハート先生は、ジニーの空いている手とロンに捕まって」
「先生?私が?」
ロックハートは驚ききょとんとしたが、ジニーと呼ばれているのはこの少女だろう、と大人しくジニーとロンと手を繋いだ。ロンは片手でハリーのローブの背中のところをしっかりと掴み、ハリーは剣と組分け帽子をベルトに挟むとフォークスの不思議に熱い尾羽をしっかりと掴んだ。
全身が異常に軽くなった気がした。
次の瞬間5人は風を切りパイプの中を上へ上へと飛んでいた。腕にかかるはずの体重も、不思議と何も感じない。ただ手を繋いで居るだけな気がした。
「凄い凄い!まるで魔法だ!」
ロックハートのはしゃぎ声がハリー達に聞こえた。心地よい飛行を楽しんでいるうちに、5人は嘆きのマートルのトイレの床に着々した。
するとパイプを覆い隠していた手洗い場がまた、元の位置に戻った。
マートルは舞い戻ってきた5人をじろじろと見た。かなり長い間戻ってこなかったため、てっきり全員死んだのだと思い込んでいた。
「生きてるの」
「そんなにがっかりしなくてもいいじゃないか」
ハリーは眼鏡についた血や汚れを拭いながらマートルを睨んだ。マートルは大きなため息を零しつまらなさそうにふわりと浮遊した。
「あぁ…私、丁度考えていたの。もしあんたが死んだら、わたしのトイレに一緒に住んでもらえたら嬉しいって」
マートルはもじもじと身体をくねらせ、頬を染めながらいつもの便器の中に飛び込んで消えてしまった。5人は顔を見合わせたが何も言わずにトイレから出ると暗い廊下の外で足を止めた。
「ハリー!マートルは君のことが気に入ったみたいだぜ?ジニー、ライバルだ!」
ロンは冗談で──落ち込んでいるジニーをからかったのだが、ジニーはぽろぽろと涙を流しロンが期待したような反応を見せなかった。
「…さぁ、どこへ行く?」
ロンは心配そうにジニーを見ながらハリーとルイスに聞いた。
ルイスは金色の光を放つフォークスを指差した。
「ついていこう」
フォークスはすっと優雅に先導し、5人はそれに従った。
まもなくマクゴナガルの部屋の前にたどり着くと、フォークスは近くの窓辺にゆっくりと止まった。
ハリーはノックして、その扉を開いた。