FLOWER KNIGHT GIRL 異聞 ~その悲しみに終止符を~ 作:不可泳河童
好きな花騎士をできるだけ活躍させてあげられるよう、早めに完結できるよう頑張ります!
今回登場する花騎士は アサザ、サラセニア、マロニエ です
泣いている
あるいは失った悲しみ
あるいは失われた嘆き
あるいは失う事の怒り
あるいは失わせた恨み
命の代わりに不毛の荒野を満たす声が虚ろな胸にこだまする
口元に滴る生ぬるさと共に呼び覚ます 忘れえぬ確信
わたしは幸せになれないのだ
それでもせめてとわたしは願った
この悲しみに――を と
「もう……ダメだ」
ばたりと倒れこむ団長。その顔から血の気が引いており蒼白。
体は鉛のように重く、鉄球の付いた枷でもはめられたかのよう。
血が脈打つ度に、頭は茨の冠に締め上げられるかの如くに、軋む痛みを訴える。
「団長さん、大丈夫ですか?」
心配そうに顔をのぞき込んでくれるアサザに、団長は自らを苦しめる敵の正体を告げた。
「二日酔いだ……頭が痛い」
それはもう、新人の花騎士の前では絶対に見せられない、情けない姿そのもので。
「あ~あ、やっぱりねぇ」
同じく執務室に来ていたサラセニアが言った。
「団長ちゃん、なーんか我慢してるなぁと思ったんだよねぇ。だ、か、ら、迎え酒しよーとは言わないであげたんだよ」
「それは気づかいの内に入るのか……?」
アサザの柔らかな手がそっと背をさすってくれているのが心地よい。
部屋には他にマロニエも来ていた。彼女は団長の醜態には取り合わず、資料を読みふけっている。三者三様であるが、いずれも団長の信頼が特に厚い花騎士である。
「横ばい、ではあるか」
マロニエが手にしているのは、昨日、定例報告会にて各団長に配布された、月次報告書だ。害虫の討伐件数、戦果と被害、傾向や、季節柄注意すべき害虫などが記されている。
口にした横ばいというのは、先月期の討伐件数の事だろう。
フラスベルグ討伐の後、ごくごく僅かずつではあるが討伐件数が減ってきている。
それが先月報告は確か、先々月比で+1件となっていて、少し落胆した記憶がかすかにある。
実は団長は、昨日、特に夜の事をほとんど覚えていなかった。
団長の二日酔いの原因は、定例報告会の後に開催される交流会によるものだ。
要するに、付き合いで飲みすぎたのである。
「団長さん、朝はなにか食べましたか?」
「いや……」
アサザに短く答える団長。実は昨夜、部屋に戻ったことも覚えていないのだ。
そのせいか、今朝の寝覚めは最悪で、妙に暗い夢も見た気はする。
水だけは腹に入れたが、固形物を食べる気が何も起こらないまま、日常の執務に臨んでいた。良くない事と分かっていても、気が受け付けなかったのだから仕方ない。
「いけませんね。何か滋養に良いものでも――」
「失礼するぞ」
と、ノックとほぼ同時にドアが開けられた。慌てて身を起こしたが、ダレていた姿を見られてしまったに違いなかった。
「来てやったぞソーラ。キミの所は相変わらず美人が多いな!」
勝手知ったる、といった風で入ってきたのは小柄な女性だった。
顔のつくりは小さく丸く、童顔と言ってしまえるものだったが、キリリとした目つきと化粧っ気、堂々たる雰囲気が見た目の幼さを打ち消している。藍色の長めの髪を後ろのやや頭頂部寄りにまとめ、その先が自然と波打ち広がって肩越しにかかっていた。
団長と同じく騎士団長の制服に身を包んでおり、目立つほどではないにしろ、女性らしい線が出ている。左手には何か袋を持っており、歩き進むと、かちゃかちゃと音がした。
アサザとサラセニアは団長のそばからそっと離れ控えた。
「そんなに畏まらなくていいよ、お二人さん。ソーラとは友人なんだ。今日は約束通り呼ばれてきただけだからね」
「約束……?」と、団長はとぼけた声をだした。
「まさか、覚えていないのか? 女を一人、部屋に呼び出しておいて!?」
「いや……すまない」
本当に、覚えていないのだ。思い返せば、そういえば? 交流会のさなかに二人で言葉を交わしていたような気もするが、果たしてそれは昨日の事だったが、その前の事だったか。
昨日の記憶よりも、痛みの方がハッキリと現れてしまっている。
藍色の髪の女性は大げさにはぁ~~と落胆してみせた。
かと思うと、執務机に身を乗り出し、自分のシャツの襟もとに指をかけて
「今朝から下着を、気合い入れて選んできたんだけどな?」
囁くように、それでいて同席者にハッキリと聞こえる声で言った。
団長の目は一瞬、目の前の小柄な女性の、身長の割にはある谷間を期待したが、
「団長ちゃん……」
サラセニアの呆れ声に我に返る。じとっとした目のサラセニア、その隣は悲しげなアサザ。
さらに反対側を見れば、ふくれっ面のマロニエが。聞いていたのか!
「いっ、いや! そんなやましい約束はしていない!」
団長は慌てて女性の体を遠ざけた。
「からかわないでくれ、メイ。お前たちも誤解だからな!」
「でも、昨夜の事は覚えていないんだろう?」と、マロニエが食い下がる。
「あぁ覚えていない。けどな。仮にそうだとしたら、それだけ親密な関係の女性とお前たちが面識ないわけがないだろう!」
「ぷっ、ははははは! 何だその言い訳は! ソーラは相変わらず面白いな」
「相変わらずとか、そういう言い回しを止めてくれ!」
「オーケー。悪かったよ。見ての通り、私とソーラはただの仲の良い団長仲間だ。私はメイ。元花騎士の団長さ。騒がしくしてすまなかった。以後、よろしくね」
メイと名乗った女性は、頭を下げ、それからにこやかにほほ笑んだ。
「そうだったんですね。アサザです。よろしくお願いします」
「サラセニアです! メイ団長ちゃん、よろしく!」
「考古学者のマロニエだ」
花騎士三様の挨拶が済むと、少しの間忘れていた頭痛がぶり返してきた。
「それで、用件は何だったけか」
「ま、忘れていると思ってね。これを差し入れに来たのさ」
メイは持っていた袋を団長に差し出した。
「ロータスレイク産のシジミさ。これでキミ自慢の料理上手な副団長に、美味しいスープでも作ってもらうと良い」
ありがとう、と団長が袋を受け取ると、メイはさっと踵を返した。
「待ってくれ。別に本題があったはずだ」
「あーそっちはね。別に大した用事じゃないよ。お互い、酒の席のたわごとじゃないか」
引き留めるも、メイはもうドアを開けていた。「それじゃあね、今日はゆっくりしなよ」と、そのまま執務室を去っていった。
「面白い人だったねー。なんだか気が合いそう」と、サラセニア。
「団長さん? ソーラというのは団長さんのお名前ではないですよね?」
「違う。違うが昔からあいつはそう呼んでくるんだ。おかげで他の同期の団長にも呼ばれるな。それより、悪いがこれを頼めるか?」
痛みをこらえるしかめ面でシジミの袋を差し出すと、アサザはハッとしてそれを受け取った。
「お任せください。折角なので、みなさんの分も用意しますね」
「そういうことなら私も手伝おう。これから買い出しだろう?」
「私も行くよー」
そういうことならばと、団長は買い出し資金を持たせて3人を見送り、執務室のドアに鍵をかけた。他の花騎士には申し訳ないが、アサザ達が戻ってくるまでは休ませてもらう事にした。
隣接する私室で水を飲み、横になると先ほどまでよりは頭痛も楽になった。
それにしても、何故メイは今日に限ってわざわざ訪ねて来たのだろうか?
ナズナやギンラン達は彼女とも面識があるが、お互い騎士団長として活躍するようになると、それぞれの団の事があるため、それこそ団長同士の交流会で顔を合わすくらいになっていた。疎遠になったとは思っていないが、互いの執務室を直接訪れるなんて、いつ以来だっただろうか。
(お互い、酒の席のたわごとじゃないか)
眠りに落ちる前の意識が尋ねる。本当にそうだったのか?
もしかすると自分は何か大事な約束を忘れてしまったのではないか――