FLOWER KNIGHT GIRL 異聞 ~その悲しみに終止符を~   作:不可泳河童

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第三話 辞令、常夏の国へ

宿舎にある会議室。団長は所属する花騎士の主だった者を集めた。

「バナナオーシャンから応援要請があった」

遠征任務も日常茶飯事だ。揃っているのを確認すると、簡潔に通達を始める。

「近頃、害虫の大発生が頻発しているらしい。その討伐および調査に協力して欲しいそうだ。詳細は向こうで説明があるが、数日間は逗留することになるだろう。出発は明後日の朝とする。各自準備を頼んだ。馬車は手配してもらってるが、あまり大荷物にならないようにな。以上、解散」

 

これだけ伝えれば、花騎士たちも慣れたもの。

アサザ、オレガノ、アネモネら世話焼きの花騎士は早速集まり、軽食は誰がどれだけとか、水を余分にとか、タオルは人数分の予備をなどと話し合う。

サラセニアとマロニエはすぐに退室した。それぞれ最低限の支度を整えてくれる事だろう。サラセニアは南国の風土に合う酒を探しに行ったかもしれない。

プリムラはエニシダと日焼け対策について話している様子。

そして一同を見渡せる部屋の後方に、一人ちょこんと座って全体の様子を眺めているブリオニア。

総勢9名の花騎士最後の一人、任務を告げた時に予想とは異なる反応を見せた彼女に、団長は声をかけた。

「ご機嫌だなイオノシジウム。もっと面倒くさがるかと思っていたぞ」

暑いのは苦手と自称しているイオノシジウム。めんどくさがりでもある彼女のこと、常夏のバナナオーシャンへの遠征任務など、さぞやる気の起きない事だろうと、思っていた事を隠さず投げ掛けても、気にする素振りはない。

愛嬌のある小顔をにこにことさせている。長い黒髪もあいまって、花言葉[容姿端麗]が示す通りの美人。うぶな若者なら、たちまち貴族の令嬢に恋をする心地に落ちてしまうだろう。ーー実態を知らなければ。

「感謝するわ団長さん。実はちょうど、バナナオーシャンに戻りたいと思っていたのよ」

彼女の以前の所属はバナナオーシャン。暑がりなのはウィンターローズ出身だからだ。

「なんでだ?」

「最近、都市伝説にはまっちゃってね。バナナオーシャンにはその手の話が多いから、調べに行きたいな~って思っていたわけ」

都市伝説か。確かオカルトチックなものも多分に含む、実在するのか不明な噂話の俗称だったか。それらに熱をあげるとはイオノシジウムらしい。

「どんなのがあるんだ?」

「そうねぇ、パッと思い付くだけでも、太陽を浴びて笑う吸血鬼伝説、正体不明のヌエ害虫伝説、悪い貴族しか狙わない神出鬼没の大泥棒伝説、国中の100のお祭りを1日で制覇したお祭り女に、遺跡から響く謎の哄笑……あー、指が足りないわ。他には嵐を呼ぶ幽霊漁船とかもあったかしらね」

いくつか思い当たる物もあるなと流し半分に聞いていたが、ふとメイの顔が浮かんだ。酒酔いの彼方に置き去りにされた記憶がかすかに甦ってくる。

「良かったら団長さんも一緒に調べる?」

少し見せた思案顔を、興味ありと判断されたようだ。

「分かってると思うが、討伐任務に行くんだからな。私はそんな暇は取れないだろうし、イオノシジウムも個人的な調べものは余暇でやること」

「わかってるわよー。ちゃんと隙を見つけてやるから、心配しないでいいわよ、団長さん」

サボらないよう釘を刺したが、やる気を失わない所を見ると、本当に心配はいらないようだ。理由がなんであれ、気力はあった方が良いのだから。

できるだけ、向こうで時間が取れるように頑張るか。

団長もまた、意気込みを強くした。

 

 

移動当日

花騎士を率いる者として、たるんだ姿勢は見せられない。朝早くに宿舎を出たところで、副団長のアサザと鉢合わせた。

「おはようございます、団長さん」

「おはよう。今日も早いな」

一番乗りを目指していただけに、少しだけ悔しさがあるものの、それ以上に頭の下がる思いがある。

アサザの荷物はカバン1つ分多い。アサザの場合、中身は大抵軽食や弁当、それも討伐に参加する花騎士全員分だ。誰に頼まれる訳でもなく、朝早く起きて用意してくれている。その上、眠たい素振りも見せないのだ。

今日に限らず、ほぼ毎度の事。オレガノや、今は帰省しているオミナエシが入団するまでは必ずアサザが何かを作ってくれていた。

「持つぞ」

「ありがとうございます」

今となっては、こうして余分な荷物を自然に預けてくれるが、最初はそれも遠慮していた。気の遣いすぎではないかと気の毒に思ったほどで、荷物持ちぐらいはと、最初はほとんど強引にしたものだ。

「今日はサンドイッチか」

今では持った重さで、中身のおおよそが分かるようになってきた。

「当たりです」

「楽しみだな」

行こうか、などと改めて告げる事もなく、二人は馬車の発着場へ向けて歩き始めた。

目覚めのさなかにある街を並んで歩く。道を横切る猫や、最近訪れた店の話などをとりとめなく流れていけば、時はあっと言う間だった。

騎士団内では一番に発着場に着いたが、見知った先客がいた。

「おや、ソーラじゃないか。おはよう」

「ご無沙汰しております」

同期の女性騎士団長、メイだった。傍らの副団長メイゲツカエデともども、荷物はすでに馬車に積み込んでいるのか手ぶらである。

団長とアサザも、それぞれ挨拶をかわした。

馬車の近くでは、メイの騎士団所属のモミノキやグロリオサが、他の花騎士の荷を積み込んだり、馬車内に案内していた。

「君たちも遠征任務かい」

「という事は、メイたちもバナナオーシャンに応援か」

「バナナオーシャン? それは残念だ。私たちはベルガモットバレーへの応援だよ。なんでも領地を大捜索するんだとさ」

「メイ、あまり人のいる所で話しちゃダメでしょ」

メイゲツカエデが軽口をたしなめた。立場上知り得た他国の事情だ。室内ならともかく、内容までは一般人の耳にあまり入れてはいけない事柄である。

さっと辺りを見回したが、団長達と、メイの騎士団員以外には御者くらいしかおらず、ひとまず胸を撫で下ろす。

「いやぁ、ついいつもの調子になってしまったよ。ま、ソーラは口が固いから大丈夫だろ?」

「もちろんだ。ところで、前に話していた件なんだが……」

団長はふと、昨日ふいに甦った記憶について聞くことにした。

「あれは、変な害虫の話じゃなかったか?」

するとメイは、一瞬だけピクリと眉を動かした。

「何か思い出したの?」

声色が僅かに真剣に、静かなものになる。が、団長はその変化に気付き損ねた。

「いや、うろ覚えだから確認しているんだ。なんとなく、動物のような害虫について聞いてきたんじゃなかったか、そんな気がするんだが」

「そんな、わざわざ思い出してくれなくても良かったのに。相変わらず、変なところで律儀だな」

変化はすぐに消えていた。

「どうなんだ?」

「やめてくれ、恥ずかしいじゃないか。君の言う通り、動物みたいなオモシロ害虫について話をせがんだなんて、子どもっぽいだろう?」

言いながらバンバンと団長の横腕を叩き、かと思うと身を寄せて人差し指を唇の前に立てた。

「ここだけの話にしておいてくれよ、な?」

「わかったよ。でも別に隠すこともないだろう。変な害虫なんて珍しくもない」団長は少し意地悪く笑い返した。

「牛模様の害虫もいたし、カボチャを被った害虫もいるし、キノコとタケノコを一緒に生やしたような害虫もいたし、なぁ?」

最後はメイの側にいるメイゲツカエデに同意を求めた。

「そんな事もありましたねぇ」

「シルクハットで紳士的なお洒落をしている害虫とか、食事を給仕する害虫もいましたね」

アサザまで悪意なく会話の輪に加わってきた。

「もういい!もういい~っ!この話終わり~!」

「団長さーん! メイ団長さーん! 積み込み終わりました、出発しましょう!」

「助かったあ! じゃなかった、すぐ行くよ!」

グロリオサの呼びかけに応え、メイは「じゃ、お先」と短く挨拶した。メイゲツカエデも「失礼します」とお辞儀し後を追った。

馬車に乗り込む直前で、メイが振り返った。

「1つ伝え忘れてた。もう聞いてるかも知れないが、リリィウッドでは移動中の馬車が害虫に襲われる事が増えてるそうだ。気を付けなよ」

「知らなかった、ありがとう! お互い無事で帰ろうな!」

「ああ!」

メイが拳を突き出す仕草をしたので、団長も真似して返した。最後にグロリオサがこちらに一礼をし馬車に乗り込むと、御者は間もなく馬を歩かせた。去り際に幌の中からメイやモミノキがこちらに手を振っていた。

 

「モミノキさん、あちらにいらしたんですね」と、アサザ。

モミノキはかつての同僚。少し前までこちらの騎士団に所属していた花騎士だ。落ち着いた包容力のある性格で、他の者をよく見て、自然とまとめていた。そのリーダー適正を見いだし、いずれ騎士団長にと推挙したのは他ならぬ団長だ。メイの騎士団にはその研修として在籍している意味合いが強い。

そういえば、団長になるための栄転だと移籍時に伝えたが、具体的な移籍先までは言ってなかったなと思い出した。

「メイさんは気さくな方ですし、安心できるのが分かります。もしかして、団長さんが手配されたんですか?」

「ん、まぁそうなるかな」

あまりおおっぴらにはできない事だが、移籍に際してはメイ自身に頼むのはもちろん、上にも事前にそれとなく話したり頼んだりといった根回しを行っていた。

「あいつなら信頼できるしな」

やはり騎士団としての功績より花騎士を大事にする団長の方が、実際の用兵面でモミノキが学べる事は多い。また、元花騎士ならではの心構えなども教授が期待できる。こればかりは、男性である団長にはできない事だ。

花騎士時代のメイの花言葉には確か[寛大な愛]というものがあったはずだ。モミノキ自身の信条も考えると、研修先として、メイ以上の団長はいないと考えての事だった。

「そうですか、団長さんと仲が良くて信頼もされてて、ふふっ、メイさんには少しやきもちやいてしまいますね」

嫉妬の台詞とは逆の笑顔を見せるアサザに、

「何言ってるんだ、アサザの方が信頼しているぞ」

そう言って指を絡めようとした時だった。

「やきもちなら私も今現在進行形でやいていますよ、お二人とも」

後ろから声がかかり、繋がりかけた手を二人して思わず引っ込めた。

振り返るとそこにいたのはオレガノ、そしてアネモネだった。

「おはようございます。今のはご挨拶ですから、気になさらないでくださいね」

「おはよう団長、アサザさん。今日も仲が良いね」

二人とも微笑ましいものを見守る顔をしており、団長は赤くなっていく顔を自覚した。

「あ、あぁ、おはよう」照れ隠しに少し声が低くなる団長。

「おはようございます」はにかみを隠せないアサザ。

「よし、先に荷物を積んでしまおうか」

と、団長が先ほどから待っている馬車へと先導した。

 

やがて「おはようございます!」と元気に声を張り上げたプリムラを先頭に、続々とメンバーが集まりほどなく団長達はバナナオーシャンに向けて出発した。

 

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