FLOWER KNIGHT GIRL 異聞 ~その悲しみに終止符を~   作:不可泳河童

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今回はイオノシジウム、プリムラ、マロニエ回

突属性の多い編成ですね


第四話 謎のヌエ害虫

「それで、正体不明の謎の害虫によって部隊は全滅してしまったのよ。唯一生き残った花騎士は「ハチでもカマキリでもある害虫に気を付けて」と言って息を引き取ってしまったわ……」

 バナナオーシャンへ向かう馬車の中。芝居がかった口調で話しているのはイオノシジウムだ。はまっていると言っていた都市伝説の1つ、正体不明のヌエ害虫について話して聞かせている。

「ひえぇ……」と、プリムラが反応。彼女は熱心な聴衆だ。

 ブリオニアがぶつぶつと呟いていたり、エニシダが時おり蒼白な表情を見せたりと、乗り合わせたメンバーは大なり小なり聞き耳を立てているようだった。

 例外的にアネモネは右端の席で静かに外の景色を見ている。メイの忠告にあった害虫の襲撃を警戒して、馬車の外側に座って見張ってもらっているのだ。

 ……本来なら、プリムラにも左側でその役割を担わせたはずなのだが。先ほどからすっかりイオノシジウムの怪談めいた話に夢中だ。彼女の向かいにオレガノを置いて正解だった。彼女は中の様子と、プリムラの代わりに外とを交互に見守ってくれている。

「この害虫はまだ討伐されていないのよ……出会った部隊は必ず全滅させ、今まで1000の部隊が犠牲になったと言われているわ。時には鳥の翼で空を飛び、時には馬の脚で走ると言われ、いつしかその害虫は「千の姿」と呼ばれるようになったわ」

 三大害虫みたいな呼び名だな。と、団長は声に出さずに苦笑していた。すると、

「まるで三大害虫みたいな名前ですね」と、アサザが同じ感想をもらしていた。

「まだそんな強力な害虫が残っていたんですね……私たちに討伐できるでしょうか」と、真に迫る不安げな言葉がそれに続いた。

 アサザ、もしかして本気で信じてるのか?

「ちょっと質問してもいいかな?」ブリオニアが手を挙げた。

「部隊が1000も犠牲になるほどの危険な害虫、最重要で討伐隊が組まれると思うし、極限指定されると思うんだけど、実在したら資料とか残ってるんじゃない?」

「それがね、部隊が全滅しちゃうから、さっきの花騎士の証言しか残ってないんだって」

「そっか。じゃあどうしてハチでもカマキリでもないって証言だけなのに、鳥の翼とか、馬の脚とか出てきたのかな」

「それは~~そう!一般人に目撃者がいたのよ!」

 一度目を泳がせながらも、イオノシジウムは胸を張って答えた。

「一般人か。いてもおかしくはないね。でも害虫の情報が少ないなら、目撃者からも躍起になって話を聞きたいと思うけど。騎士団関係者がそれをしないとは思えないし、やっぱり作り話なんじゃない?」

「うぐっ、う~ん、それは~~」

「さあ~胡散臭くなってまいりました!」

 イオノシジウムが答えに窮していると、サラセニアが実況風に茶々をいれた。

「果たしてイオちゃんは、賢いブリオニアちゃんの問いかけに答える事ができるのかぁ!? ゴクッ、ぷはぁ~~」

 こめかみに指を当て、しばらく考えていたイオノシジウムだったが、やがて諦めたのか、はぁと肩を落とした。

「やっぱそうなっちゃうわよね~。話としては面白いんだけど、ま、実際にそんなトンデモ害虫がいても困るしね」

 

「私は知っているぞ」

 

 と、それまで成り行きを見守る側だったマロニエが注目を集めた。話主のイオノシジウムも詰問者のブリオニアも、落ち込んだり安心したりと、横で表情がコロコロ変わっていたエニシダも、外を見張っていたアネモネまでもがチラリと、訳知り顔の考古学者を見た。

「知っているって、ヌエ害虫が実際にいるか知ってるって事ですか!?」

 プリムラの確認に、マロニエは「あぁ」と頷いた。

「結論から言うと、その話は九割九分、作り話だ」

「ちょっとマロニエ!それって重大なネタバレよ!」

 イオノシジウムは身を乗り出して抗議した。

「すまない、ついいつもの調子で話し始めてしまった。やめた方がいいかね?」

「聞きたい」と、口数少ないブリオニアが意外にも真っ先に意思表明をしてみせる。

「聞きたいです!」プリムラも続いた。

 

 こうなっては多数決の少数。他の人は傍観するだろうしと悟ったイオノシジウムは、口を尖らせ

「いいわー、結論も聞いちゃったし、続けてー」

 と、しぶしぶ続きを話すことを認めざるを得なかった。

「では続けよう」

 マロニエに、傍観者含む多くの注目が集まる。

「実は私もその噂話を耳にした事があって、調べたんだ。バナナオーシャンの資料に閲覧許可をもらってね。すると該当すると思われる記録が80年ほど前に1つだけ見つかった」

 さらりと80年と言ってみせたマロニエに、団長は舌を巻いた。彼女の事だ。80年分の膨大な資料を遡って見つけ出したのだろう。もし自分が同じ事をしたら、どれだけの時間を要しただろうか。

「記録によると、生還したのは花騎士ではなく騎士団長だった。部隊は全滅。もともとは小型の巣の駆除に向かった部隊が、大型の害虫に遭遇してしまったものとされている。この時の騎士団長の証言が「ハチでもカマキリでもある大型の害虫にやられた」というものだった」

 

「本当にあったの!?」

 イオノシジウムは驚きを隠さない。

 

「ただし、これは帰還直後の証言で、彼はひどく興奮、あるいは錯乱していたらしい。亡くなった花騎士の傷にカマのものと思われる切り傷は確認できたが、針の刺突傷はなく、ハチ部分の信憑性は低かった。そもそも、最初の討伐対象がハチ型害虫の巣だったため、敗戦のショックで記憶が混同したものと判断された。実際、時が経過してからはハチでもカマキリでもある大型害虫という主張をしなくなったようだ」

「つまり、結局勘違いだったってことかしら?」

「少なくとも、当時の組織上層部はそう判断した。この前後に同様の害虫の目撃報告はなく、さらに翌年にはその地域近郊で大型のカマキリ型が討伐されたしね。私はこの判断を妥当だと思うが、団長はどう思うかね?」

 

「まぁ妥当だろう」

 話を向けられ、団長は思ったままを一言口にした。

 害虫討伐における敗戦には、死傷者がつきまとう。騎士団長は花騎士の命を預かり、また使う立場だ。責任は重く、害虫の出没地域の生活は当然。身近な花騎士の家族友人らの悲しみにも向き合う時は来る。

 また……騎士団長とて個人であり、花騎士と深い関係になる者も多い。殉職した花騎士の親族に頭を下げ、その悪意なき悲嘆の言葉に鞭打たれながら、その実、親族以上に喪失に心を抉られている。という事も珍しくはない。ここから立ち直れず、騎士団長を辞す者だっているのだ。

 そのショックから証言が実態より大きくなる事は、ある種当たり前であるとして、上層部も注意深く裏付けを取るものだ。

 あまり口にしたくはないが、団長によっては善性でなく、誇張証言が単なる保身による場合だってある。

「しかし……妥当すぎる。こう言って良いものか怪しいが、騎士団としてはよくある話すぎて、噂話にまでなるものだろうか」

「私もそこが気になった。けれど資料からは読み取れなくてね。次に古書店を巡って「千の姿」に関するか、類似する記述を片っ端から探してみた。すると78年前辺りから、子どもたちの花騎士ごっこの中に語られる害虫として「千の姿」の存在が出現しはじめていたんだ。どの雑誌も噂話を羅列するばかりで、結局いきさつは分からなかったがね。でもこの討伐の失敗が話の元になったのは間違いないだろう」

 理由はわからないが、時系列を考慮すれば妥当。話が広まった理由は、その団長が功績著しかったか、あるいは堅実真面目で人に好かれた団長だったかで、当時それなりのショックな事件として話題になっていたか。あるいは、まったく関係なく、証言を面白がって誰かにもらしたのが、子どもの耳に入ったりしたとかだろうか。

「結局は勘違いだったんですよね。そんな恐ろしい害虫がいなくて良かったです」

 プリムラは胸を撫でおろした。

「ちなみに、姿は書物によって特徴がさまざまだ。カブトムシのツノだったり、サイのツノだったり、獅子の腕、サソリの鋏、竜の翼、など、なんでもありだな」

「あーあ、まさかマロニエが全部調べちゃってたなんて思わなかったわ。なんか暑くなってきたし、やる気な~い」

 

 

 懸念していた害虫の襲撃もなくリリィウッドを通り抜け、一行は無事にバナナオーシャン王都にたどり着いた。

 騎士団関係の庁舎に赴くと

「ようこそお越しくださいました」

 花騎士タチバナが敬礼で出迎えてくれた。

 討伐依頼の説明のため、そのまま中の一室へと案内される。円卓にバナナオーシャンの地図が広げられており、改めての諸々の挨拶を手短にしてもらい、用件に入ってもらった。

「主にこの一月ほど、我が国では中規模以上の害虫の発生事例が相次いでいます。最初はここでした」

 タチバナが示したのは、ダイダイ灯台にほど近い場所だった。

「その三日後にはここ」

 指が少し王都に近づいた。次は東の島、ラカタンビーチの北、南東の島、ラカタンビーチとプラタノ間の海岸。

 二日から五日おきに日数の経過を告げながら指は進んだ。

「まるで移動しているみたいですね。時計回りに」とエニシダ。

「とんでもない千鳥足だねぇ」サラセニアも茶化した。

 

 タチバナの指はプラタノ北部と続き

「そして昨日がここです」と、プラタノ北西部で止まった。

「次は、エムオン島か……」と、団長は呟いた。

 エムオン島はクジラ挺が停泊している、スプリングガーデンにおける最重要と言っても良い拠点がある島だ。

「その可能性はあります。ですがあなた方に向かっていただきたいのはこちらです」

 指は西へと進み、海の間を示した。

「ここに小さな島があります。10世帯ほどのごく小さな漁村で、対岸の本土にも村がある地域です。この島の警護にあたってください」

「質問しても良いですか?」

 ブリオニアが挙手をすると、タチバナはどうぞと促した。

「功績のある団長さんを、わざわざこっちに置くのは、こっちの方が害虫が出現すると踏んでいるからですか?」

 小さなブリオニアに核心を突かれ、タチバナは少なからず不意を打たれたようだった。

「……ご明察です。これまでの害虫の出現場所が、人の多い場所を避けるように移動をしているので、この近郊の方が次の可能性が高いと我々は考えています。とはいえ、重要拠点であるエムオン島の警備をおろそかにする事もできません。団長さんをこの島に配置したいのは、少数でも的確な采配で被害を抑えてくださると見込んでいるからです」

「団長ちゃんはコスパが良いって事だね~」

 サラセニアが身も蓋もない言い方をした。

 配置の意図は分かった。だが実力を買われて気をよくしている場合ではない。引き受けるにあたって重要な点をまだ聞けていないのだ。

「これまでの害虫発生の規模はどれくらいだろう?」

「少ない時で20体、多いときで80体程度になります」

「80は多いな。みんな小型なのだろうか」

 島に駐屯するということは、もしここで害虫が発生した場合、当面の間戦闘するのは自分達だけとなる。数が多かったり、強い害虫が出たりして、避難誘導などの手が回らなくなる可能性も十分ありえる。

 所属している花騎士の実力は信頼しているが、人数は9人でしかなく……あれ? 9人だよな?

 思考のさなか、無意識に仲間に目を向けたところで、団長は異変に気づいた。

 サラセニア、エニシダ、ブリオニアは発言があった。

 アサザは隣にいるし、マロニエは逆隣に、オレガノはサラセニアの隣にいる。

 タチバナと自分を除けば……6人だ。

 アネモネとイオノシジウムとプリムラはどこ行った?

 改めて部屋を見回しても、やはりその3人の姿はない。

 

「団長さん? どうかされましたか?」

 

 タチバナに声をかけられてもすぐには反応できず、アサザ、マロニエの両名につつかれてやっと我に返った。

 いったいどこへ行ったのか……ともかく今は目の前の議題だ。

「申し訳ない。少し別の事を考えてしまっていた。もう一度確認させていただきたい。害虫の数は多いときで80、サイズはみな小型なのだろうか」

「報告では蟻やトンボなどの小型ばかりでした。ただ、近隣の害虫だけでなく、コダイバナの種族が混ざっていたという報告もあります」

「それでは厳しい場面も想定される。増援や撤退などの対応策は?」

「のろしを使います。現地にはヘリアンサス様とヘリオプシスさんがいますので、害虫発生時の連絡手段として手配しています。エムオン島や本土の部隊にも同様に用意し、のろしが上がった場所に応援に向かう手はずです」

 ほぅ、と団長は唸った。

 害虫がどこで発生しても良いように部隊をまばらに配置し巡回させ、発生した場所へ速やかに集合させ叩くという作戦だ。

 のろしは古典的だが、複数部隊へ同時に素早く伝達するにはうってつけの手段となる。

「近隣からの到着時間は?」

「一番近い対岸からで15分ほど。エムオン島からはその倍ですね」

 その他設備や記録の参照、こまごました打ち合わせを続け、ブリオニアやマロニエの異論もなくなった。

 出発は明日の明朝。今晩の宿に庁舎内の部屋を用意してあるとの案内には深く謝辞をし、一行は部屋を出た。

 そこでイオノシジウムとプリムラ、その二人の首根っこを捕まえているアネモネに出くわした。

 

「どこに行ってたんだ」

 意識して低めの声を出した団長。様子からおおむね察しはついていた。

「会議を抜け出して、本屋に行こうとしてたよ。逃げ出したから、間に合わなくなっちゃって」

 やはりな、とため息がもれる。

 その気になったアネモネから逃げられるわけないだろうに……

「ありがとうなアネモネ。もう少し捕まえててくれ」

 功労者をにねぎらいの言葉をかけ、団長はイオノシジウムに近づいた。握りこぶしで、その頭をグリグリと押し込んでいく。

「まったく、隙を見つけてってこういう事じゃないだろう」

「いたたたた、ちょっと団長さん、なんであたしばっかりなのよっ」

「どうせお前がそそのかしたんだろう。こっそり抜け出すのも青春とか言って」

 うぐ、と言葉に詰まるイオノシジウムと、バツが悪そうなプリムラ。やはり図星か。

「プリムラさん、根は真面目だもんね」ブリオニアがぼそりと呟いた。

「プリムラも、悪い事はほどほどにしておけ」

「はーい。すみませんでした!」

 悪びれているんだかいないんだか、元気の良い返答だった。

 最後に

「あたっ」「いたっ」二人を執行猶予なしのデコピンの刑に処し、アネモネもパッと手を離して拘束を解いた。

「三人は部屋に来てくれ。明日からの作戦を説明する。他のみんなは解散だ。部屋で休むなり、街に出るなり好きにすると良い。ただし酒盛りは禁止だ」

 サラセニアの体が一瞬硬直した。

「明日遅れるなよ。以上!」

「え~、みんなずるいわ~」

 イオノシジウムの不平を聞き、団長は再び握りこぶしを作って、彼女の額にくっつけた。

「そもそも抜け出さなきゃ、今一緒に自由時間になれただろーが」

 何人かがクスクスと笑った。

 リラックスしてるのは良いことなんだけどな。とは、体面上とても言葉には出せなかった。

 

 

 

 

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