【二次創作】ポケモン好きの24歳女子が目覚めたらシンジ湖にいてヒコザルと出会う話   作:木村直輝

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第2話「あの輝きを、現に」

「むっくっくっくっくっくるーっ!」

 ――野生のムックルが現れた!

 むくどりポケモン、ムックル。

 その分類と名前の通り、ずんぐりむっくりとしたムクドリのような姿のポケモンである。

「嘘でしょ……」

 アカリは実際に目の前にポケモンがいるという現実に、再び混乱を取り戻しつつあった。

「むっくっくっくっくっくるーっ!」

 けたたましい“なきごえ”を執拗(しつよう)に響かせるムックルを前に、アカリの気力はがくーんと下がった。

「……!」

 その時、アカリの視界の隅でタマゴが揺れた。

 中から音が聞こえてくる!

「……生まれるまで、……もうちょっと……かな……」

 アカリが無意識に記憶の中のテキストを口にした時。

「むっくっくっくっくっくるーっ!」

 ムックルが鳴き声を上げ、飛んで来た。アカリに向かって体全体でぶつかって来ようとしている。

「やっ!」

 小さな悲鳴を上げ、アカリは目をつむり、何かの弾け飛ぶ音を聞いた。

「…………?」

 なんともない。

 アカリの体はなんともなかった。

 ゆっくりとアカリは目を開ける。

 べん(ぱつ)のように立ったオレンジ色の体毛、アカリとおそろいの肌色をした大きな耳、可愛いお尻に灯る小さな火の尾。

 そこには、もう何度も。何度も何度も何度も何度も見て来た、小さな頼もしい背中があった。

「ひいーぃ!」

「ヒコザル……」

 わずかに声を裏返し、声も心も震わせて、アカリはつぶやく。

「ひいーぃ!」

 振り向いた目の前のポケモンが、ヒコザルが、返事をした。

 こざるポケモン、ヒコザル。

 アカリが初めて一緒に冒険したのと同じ、あのポケモン。いくつもの地方を旅した中で、何度も出会って育てたポケモン。いくつものグッズを買い集めて、一緒に日々を暮らしてきたポケモン。

「ヒコザルー!」

「ひいーぃ!」

 ヒコザルは返事をすると、すぐに前へと向き直った。

 アカリは今すぐにでも駆け寄って抱きしめたい気持ちを抑え、前を見据える。今は目の前のムックルをなんとかしなくちゃいけない。

「……ヒコザル! ひっかく!」

「ひいーぃ!」

 ヒコザルはアカリの指示に答えるように鳴くと、ムックルに向かって行き“ひっかく”!

「むっくっくっくっくっくるーっ!」

 ムックルは悲鳴のように鳴き声を上げると、すぐに反撃の“たいあたり”を繰り出した。

 そこから始まる、ヒコザルとムックルの技の応酬。二度目の“ひっかく”を受けたムックルが“なきごえ”でヒコザルの気を引き攻撃を下げるが、このレベル差ではダメージに影響しない。ヒコザルは平然とムックルを“ひっかく”!

「がんばって……ヒコザル……」

 アカリがつぶやく目の前で、三度目の“たいあたり”がヒコザルを襲う。

「ひいーぃ!」

 しかしヒコザルも負けない! 懸命に手を振るいムックルを“ひっかく”!

「お願い……!」

 アカリが右手を左手でぎゅっと握り、祈るように小さく声援を送る。

 その目の前で繰り出される、ムックルの“たいあたり”!

「ひいーぃ……」

 ヒコザルはふらりとよろめき鳴いたかと思うと、地面に倒れた。

「ヒコザル……? 嘘……。やだ……」

 アカリは目の前がまっくらになった。

「むっくっくっくっくっくるーっ!」

 勝ち誇ったようにムックルが鳴き、その“するどいめ”がアカリに向く。

「ヤ、バ……」

 アカリは震える足をもつれさせながら走り、ヒコザルを抱き上げる。

「大丈夫だから、大丈夫だから」

 自分に言い聞かせるようにそう呟いて、疲れて動けなくなったひんしのヒコザルをかばいながら、アカリは急いでムックルから逃げる。

「はぁっ、はぁっ」

 木々に囲まれた湖を飛び出し、視界が開ける。

 震えながら振り向くと、ムックルは追って来てはいなかった。

「よかったぁ……」

 その場にへたり込んで顔を上げたアカリの目に、看板の文字が映りこむ。

――この先 シンジ湖 (心情湖)

  気持ちを 表す 湖――

「……」

 もう、疑う余地はなかった。

 ここは、シンオウ地方。

 ――ポケットモンスターの世界。

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