【二次創作】ポケモン好きの24歳女子が目覚めたらシンジ湖にいてヒコザルと出会う話 作:木村直輝
「むっくっくっくっくっくるーっ!」
――野生のムックルが現れた!
むくどりポケモン、ムックル。
その分類と名前の通り、ずんぐりむっくりとしたムクドリのような姿のポケモンである。
「嘘でしょ……」
アカリは実際に目の前にポケモンがいるという現実に、再び混乱を取り戻しつつあった。
「むっくっくっくっくっくるーっ!」
けたたましい“なきごえ”を
「……!」
その時、アカリの視界の隅でタマゴが揺れた。
中から音が聞こえてくる!
「……生まれるまで、……もうちょっと……かな……」
アカリが無意識に記憶の中のテキストを口にした時。
「むっくっくっくっくっくるーっ!」
ムックルが鳴き声を上げ、飛んで来た。アカリに向かって体全体でぶつかって来ようとしている。
「やっ!」
小さな悲鳴を上げ、アカリは目をつむり、何かの弾け飛ぶ音を聞いた。
「…………?」
なんともない。
アカリの体はなんともなかった。
ゆっくりとアカリは目を開ける。
べん
そこには、もう何度も。何度も何度も何度も何度も見て来た、小さな頼もしい背中があった。
「ひいーぃ!」
「ヒコザル……」
わずかに声を裏返し、声も心も震わせて、アカリはつぶやく。
「ひいーぃ!」
振り向いた目の前のポケモンが、ヒコザルが、返事をした。
こざるポケモン、ヒコザル。
アカリが初めて一緒に冒険したのと同じ、あのポケモン。いくつもの地方を旅した中で、何度も出会って育てたポケモン。いくつものグッズを買い集めて、一緒に日々を暮らしてきたポケモン。
「ヒコザルー!」
「ひいーぃ!」
ヒコザルは返事をすると、すぐに前へと向き直った。
アカリは今すぐにでも駆け寄って抱きしめたい気持ちを抑え、前を見据える。今は目の前のムックルをなんとかしなくちゃいけない。
「……ヒコザル! ひっかく!」
「ひいーぃ!」
ヒコザルはアカリの指示に答えるように鳴くと、ムックルに向かって行き“ひっかく”!
「むっくっくっくっくっくるーっ!」
ムックルは悲鳴のように鳴き声を上げると、すぐに反撃の“たいあたり”を繰り出した。
そこから始まる、ヒコザルとムックルの技の応酬。二度目の“ひっかく”を受けたムックルが“なきごえ”でヒコザルの気を引き攻撃を下げるが、このレベル差ではダメージに影響しない。ヒコザルは平然とムックルを“ひっかく”!
「がんばって……ヒコザル……」
アカリがつぶやく目の前で、三度目の“たいあたり”がヒコザルを襲う。
「ひいーぃ!」
しかしヒコザルも負けない! 懸命に手を振るいムックルを“ひっかく”!
「お願い……!」
アカリが右手を左手でぎゅっと握り、祈るように小さく声援を送る。
その目の前で繰り出される、ムックルの“たいあたり”!
「ひいーぃ……」
ヒコザルはふらりとよろめき鳴いたかと思うと、地面に倒れた。
「ヒコザル……? 嘘……。やだ……」
アカリは目の前がまっくらになった。
「むっくっくっくっくっくるーっ!」
勝ち誇ったようにムックルが鳴き、その“するどいめ”がアカリに向く。
「ヤ、バ……」
アカリは震える足をもつれさせながら走り、ヒコザルを抱き上げる。
「大丈夫だから、大丈夫だから」
自分に言い聞かせるようにそう呟いて、疲れて動けなくなったひんしのヒコザルをかばいながら、アカリは急いでムックルから逃げる。
「はぁっ、はぁっ」
木々に囲まれた湖を飛び出し、視界が開ける。
震えながら振り向くと、ムックルは追って来てはいなかった。
「よかったぁ……」
その場にへたり込んで顔を上げたアカリの目に、看板の文字が映りこむ。
――この先 シンジ湖 (心情湖)
気持ちを 表す 湖――
「……」
もう、疑う余地はなかった。
ここは、シンオウ地方。
――ポケットモンスターの世界。