俺の隣の席の女子がどうも人間じゃないっぽい   作:山田太郎2号機

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ストック切れるまで毎日投稿するスタイル。

多分直ぐ弾切れになる。




02 魔王からは逃げられない

 

 

こんな不思議体験に気付いたのは、なにも何年も前からというわけではない。むしろごく最近のことだ。

それに、それ以外に立て続けに不思議体験に出くわした訳でもない。

 

 

寝て起きたら、ある日突然クラスメイトの一人に翼やら何やらが生えていた。

文面に起してみればたったそれだけだが、その一つの違和感の程度が度を超している。

 

 

そうなった理由も解らない。彼女が人外してるのが見えるようになったのは、本当に突然の出来事なのだ。

最初は夢なのかとも思ったが、翌日もその次の日も、変わらず彼女に人ならざる器官は生えたまま。

むしろその姿は徐々に存在感を増し、今ではそれらが起した風や衝撃すら感じるようになっている。試したことはないが、触ろうと思えば触れるのではないか。

 

 

「・・・そのうち炎とか吐かないよな」

 

 

嫌な予感がしてつい声に出してしまったあと、口に出すと本当に有り得てしまいそうな気がして軽く後悔する。

そんな日が来てしまったら本格的に身の危険を感じてしまう。クラスメイトの吐く炎が怖くて学校に行けないなど、どう説明すれば良いのだ。

 

 

帰りのバスに揺られ、一人勝手に溜め息を零す。高校生にもなって中学の時の真似事かと馬鹿馬鹿しくも思う。

そも、タンパク質で出来た人間が炎を吹こうなどあり得ない。出来るはずがない。

・・・ヒトからは翼も尻尾も生えないという返しはタブーだ。

 

 

 

――バスが停まった。思いのほか時間が経っていたのか。

外を見れば俺が降りる駅だったので慌てて席を立ち、ポケットから定期を漁りつつ空いたバスの中を進む。

棺桶に片足突っ込んでいそうなよぼよぼの爺ちゃんに定期を見せると、「ハイ、大丈夫ね」と大した検分もなく返された。ほぼ目瞑っているようにしか見えないけど、大丈夫だろうか。

 

 

バスから降りると、既に空にはカラスが鳴いていた。人気のない道を1人歩き、家路を辿る。

その道中も思案する。此処でいくら考えたところで事態は何も変わらないのに、それでも考えるのをやめられない。

 

 

「竜ヶ峰。――『竜』か」

 

 

竜ヶ峰 梨紗。

これが謎の翼と尻尾が生えた少女の名前だ。

 

 

彼女に変なものが付いているのが見えるようにあってから数日。俺は怪しまれるのを承知で、毎日彼女を観察した。

それを経た俺のとりあえずの所感だが、良く言えば快活で流行に敏いイマドキの女子高生。悪く言えば・・・いや、無理に人を悪く言う必要はないか。

明るいムードメーカーな性格で、持ち前の明るさと積極性で誰とでも仲良くなれるし、なろうとする。

昼休みこそ訝しげな目を向けられた俺だが、以前は他クラスメイトと同じく、普通に接してくれていた。

 

――アレは隙さえあれば彼女をチラチラと盗み見ていた俺の方に全面的に非がある。何日も一人の人間を観察し続けるなど、怪しまれても不思議はない。

女性の、特に中高生ともなれば、睨め付けるような男の視線を不快に思って然るべきだ。

 

 

――話を戻そう。

容姿についてだが、これは非常に整っている。花の乙女と言う言葉がぴったりな、絵に描いたような美人だ。

髪型は、亜麻色の緩くカールした髪を片側に寄せ、アップでシニヨンに整えてピンで留めている。反対側には纏めきれず余った髪が流されているが、特に見苦しいとは感じない。うっすらと黄色がかった瞳やハッキリと整った目鼻立ちからすると、もしかしたら生まれはハーフなのかもしれない。

 

幾らか人外してることさえ目を瞑れば、学校有数の人気者であり、美少女。

ここ数日で得た彼女への所感だ。

 

さてそんな彼女だが、昼に見たように彼女に生えている翼はさながら物語のドラゴンのような形である。更に尻尾についても、考えてみれば確かに蜥蜴っぽいフォルムをしている。

そして彼女の名字。

 

 

――流石に偶然だとは思う。

だが、なまじ話が噛み合いすぎているが故に一笑に付せないのでタチが悪い。

それに万が一この仮説が本当だったら、近々本当に彼女が火を噴いても不思議じゃなくなるので、是非とも間違いであって欲しいと思う。

 

 

「・・・はぁ」

 

 

――身近に人外してる存在がいるなんて、こんなネタは物語の中だけで充分だ。

一人で抱え込む程の悩みなど、誰も好んで持ちはしない。だから友人に話すなりして早く楽になりたいのだが、あまりに突拍子がなさ過ぎてソレも出来ない。

 

憂いのあまり、つい大きく息をついてしまう。

思えばこのところ溜め息ばかりの日々だ。溜息をつくと幸せが逃げると言うが、もし本当にその数だけ幸せが逃げているなら、今頃俺の幸せ銀行はとうの昔に金融破綻を起している。

 

 

――これ以上、面倒ごとは起こって欲しくないなぁ。

 

そんなことを考えていたら、急に空が暗くなった。

もしかして夕立だろうか。傘も持ってきていない、もし雨だったら嫌だなと思いながら、空を見上げようと俯きつつあった顔を上げる。

 

 

「――は?」

 

 

 

其処には件の少女がゆっくり飛んでいく光景があった。

 

 

「・・・(ゴシゴシ)」

 

 

 

其処には件の少女がゆっくり飛んでいく光景があった。目をこすっても無駄だった。

飛んでいた。彼女は俺の頭の上を間違いなく飛んでいた。

 

 

急に暗くなった理由も理解する。彼女の翼の影に入っていたからだ。夕刻とは言え、その影は家一つをすっぽりと覆い隠せそうなサイズをしていた。

学校でも充分に大きいと感じていたが、あの翼は広げるとこんなにも大きくなるのか。あの時は広げたところで精々人1人位の大きさだろうと思っていたのだがとんでもない。遠目で彼女の身体から比較するに、ともすれば自動車くらいの面積を誇るのではないだろうか。

 

そんな翼をいっぱいに広げ、彼女は宙に浮いていた。

 

 

「嘘、だろ。夢じゃないよな」

 

 

つい漫画のような台詞が口をついて出てしまったが、そうなってしまうのも仕方ないと思う。

 

翼が生えているのなら飛んでも不思議はないだろう、と思うかも知れない。だが人から妙な器官が生えていることと、その人間が飛ぶこととは、実際に見る立場になるとイコールでは無いと解った。

実際にこの目で見るまで、人が空を飛ぶはずがないと無意識のうちに考えていたからかもしれないが。

 

 

「・・・?」

「ッ!!」

 

 

と、昼以上に彼女の事を凝視していたら、上空の彼女と目が合った。

 

瞬時に顔を背けて目を逸らす。それは昼のような彼女への配慮からくるものではない。ただ興味よりも自分の安全を第一に考えた結果であり、危険を感じた本能が反射的に起こした危機回避反応だった。

無理矢理前を向き、稲妻の速度でポケットからスマホを取り出す。そして震える手でスマホをいじっている振りをして、そのまま何事もなかったかのようにその場から立ち去ろうと試みる。

 

直前に考えていたことがもし本当で、更に彼女の機嫌を損ねようものなら、どうなってしまうか解らない。

目が合ったとは言ったが、決して距離は近いものではなかった。俺は最初から彼女一点に意識を集中していたから、彼女が振り向いた瞬間に対応できたが、彼女の方からすると流石にあの一瞬で人の視線の方向までは読めないはず。

 

 

 

――だが、事はそう簡単にはいかないのが世の常だ。

 

努めて前を向き、ただがむしゃらにスマホを操作しながら歩く。何も考えず、ただいかにもそうしている風を装っているだけなので、ぶっちゃけ操作の内容は考えていない。気付けば開いたこともないような謎アプリが大量に立ち上がっていたが、どうせ判りはしないと俺は気にしなかった。

 

 

 

――俺は何も見ていない。ちょっと夕焼けの空が綺麗だったから上を見上げていただけ。それ以上は何もない。

まして空飛ぶ女子高生なんてもの、一度たりとて見ていない。

 

 

 

そんな俺の努力は、次第に近づいてくる風の音で無駄だと悟った。次第に音だけでなく、実際の風さえも感じるようになる。

微風は幾許もしないうちに暴風になり、俺の身体と顔を叩く。吹き飛ばされる程ではないが、気を抜けばよろけてしまいそうだ。

――そういえば、教室では彼女が少し動かしただけで小さな風が巻き起こっていた。であれば本格的に羽ばたけば、これほどの勢いになっても不思議ではない。

 

無限に増すかと思われたその勢いだが、やがて唐突にそれは無くなった。道に着陸でもしたのだろう。

だからといって振り返るようなマネはしない。あくまで歩きスマホに徹し、俺は何も見ていない姿勢を固持する。

 

 

 

――大丈夫、俺は何も見ていない。今俺が見ているのはスマホだけだ。超常のシティガールなど全くもって知らない存在だ。

 

 

「ねえ、ちょっと」

 

 

ガッデム。

 

遂に声を掛けられてしまった。周りには誰も居ないので『自分を呼んでいると思わなかった』作戦は通用しない。

昼に引き続き下からメンチ切っていたのが気に食わなかったか、はたまた口封じか、どちらにしたって良いものではない。

此処で無視をしても良いことはないのは明らかなので、意を決して振り返る。

一応は男なので、せめて虚勢であっても堂々とあろうと即席の覚悟はしたものの、内心チビる寸前レベルでびびり倒している。もし開口一番『おう、気に入らねぇから死ねや』と宣告されようものなら、本当にしでかしてしまうかもしれない。

 

 

「・・・な、何かな。竜ヶ峰さm、イヤ竜ヶ峰さん」

「ん?ああ、私の名前知ってたんだ。・・・ところでなんで私の名前言い直したの?」

 

 

緊張やら恐怖やらで危うく様付けで呼ぶところだった。危ない。

暫定ドラゴン少女、もとい竜ヶ峰さんは俺の様子に一瞬訝しんだようだが、すぐに「ま、いいや」と切り捨てた。深いことは気にしないタイプなのかもしれない。

 

――だが、地味に助かった。これに深く突っ込まれたら、今の精神状態ではどう下手な返しをしたものか解ったものではない。

 

 

「それより君さ、さっき――」

 

 

だが、そうなれば彼女の判決の訪れが早くなるだけだと気付き、俺は再び絶望の渦に叩き込まれた。

昼に予め警告された上での愚行。それに此処は人気も無い。

 

 

――致し方ない。

俺は決死の覚悟を固めた。

 

これから俺は、俺の持てる全てを以て彼女の追求を完璧に躱す所存だ。

一つでも選択肢を間違えれば恐らく俺は炎に沈む。気分は魔王に挑む勇者だ。

最悪の事態を幻視して身構える。望み薄だが、いざとなったら全力で逃げよう。場合によっては持っているこの鞄を彼女に投げたり、防御に使ったりするかも知れない。はたして役に立つのかは解らないが、現状俺が持つ最大の武器はこの学生鞄だ。

 

 

――覚悟は出来た。

さあ、掛かってこい。

 

 

 

「――歩きスマホしてたでしょ、それも道の真ん中で」

「・・・へ?」

 

 

 

――諸君。

魔王とは、意外とわかり合えるかも知れないぞ。

 

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