俺の隣の席の女子がどうも人間じゃないっぽい   作:山田太郎2号機

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03 姉に勝てる弟は少ない(自社調)

A・A・A

 

 

 

 

 

結論から言えば、俺は助かった。

 

 

というか、助かるとかどうとか、そんなことを考える以前の問題だった。

まず彼女が俺に声を掛けたのは、俺の歩きスマホを注意するためだったらしい。

それとなく聞いた限り俺の視線に気付いていた様子はなし。つまり俺が下手なごまかしをしようとしなければそもそもこんな決死(笑)の覚悟、必要なかった訳だ。

 

そんな事よりと、俺の歩きスマホについてくどくど注意する彼女を見ながら、俺は先程までの自分のテンションを顧みて、無性に死にたくなっていた。

 

 

「しにたい」

「おお、私が帰るなり随分ヘヴィなこと言うじゃないか」

 

 

何が勇者だ。何が炎に沈むだ。恥ずかしいにも程がある。

家に帰ってからリビングのソファでごろごろと悶えていたら、丁度出張から帰ってきた姉にその姿を見られ、俺のメンタルはあわや恥ずか死ぬ寸前だ。

 

何でもないと適当にごまかしてソファから立ち上がり、そのまま上の自分の部屋に行こうとする。

だが、それより姉が俺の腕を掴む方が早かった。

 

 

「・・・瑠音(るね)(ねえ)。その手を離してもらおうか」

「いいや断る。――そういう態度を取る時、大体お前は面白いことに巻き込まれているからな。ひとまず何があったか、聞かせて貰おうじゃないか」

 

 

――抜かった。この姉に隙を見せるとは一生の不覚。

 

 

昔から、この姉は俺()遊ぶことが大好きだ。

 

他人の機微は毛ほども理解出来ないくせに、俺の黒歴史誕生の瞬間や、ポカをやらかしたりした時に限って恐ろしい勘の鋭さを見せる。

こうして俺を(物理的に)呼び止めたのも、大方俺の様子を見てこれは面白い何かが聞けると思ったからだろう。

これに屈したら最後、自白(ゲロ)った俺を一頻り馬鹿にするまで姉の追求は止まらない。その果てに待つのは姉の嘲笑と自分の尊厳の蹂躙のみ。

 

 

・・・今更になって気付いたがこの姉、竜ヶ峰さんとは真逆のような性格じゃないか。

とんだ悪女である。

 

しかしこのように腕を掴まれていては、いつものようにそんな悪女の思うつぼ。それは非常によろしくない。

――ふむ、成る程。そうなるとだ。

 

 

「・・・あっコラ逃げるなッ!」

「南無三ッ!!」

 

 

昔の人はこう言った。三十六計何とやら。逃げるが勝ちと。

一瞬で手を振りほどき、階段へダッシュする。突然の事で姉は反応できていないし、俺の部屋は階段を上ってすぐだ。そのまま鍵を掛けてしまえば――

 

 

「――Isa」

「へへ、ザマア・・・ッへあ!?」

 

 

してやったりと最初の一歩を踏み出した瞬間、異変は起きた。

踏み込んだ脚に急激に力が入らなくなったのだ。異変は反対の脚にも生じ、立つことすらままならなくなった俺はその場に崩れ落ちる。

 

突然の事に一瞬何が起きたと混乱するが、姉の顔を見て全て理解する。

 

 

「・・・にゃろう、腕を掴んだ時に()()()()()()()()()

「――おや、バレたか」

 

 

そう言ってこちらを見下ろし、ニヤニヤと嫌な笑いを浮かべるこのクソ姉貴――瑠音姉(るねねえ)は、俺の二人の姉のうち下の姉にあたる。

顔は良いが性格は最悪。俺が隙を見せれば最後、どんな小さな失敗でもからかい続けるばかりか、特に何もしていなくても俺の過去の古傷を抉り、俺の苦しむ姿を見ようとしてくる。

たまらず俺がそれから逃げようとすると、姉曰く謎の拳法を用いてあらゆる手段で俺を拘束し、自分が満足するまで開放しない。

 

 

ちなみにどんな拳法なのかは解らん。調べても何も出てこなかったからな。

 

 

今回の謎の脱力感も理屈は解らないが、あの顔からして姉が原因なのは間違いない。多分腕を掴まれた時、瑠音姉に何かしらの技を掛けられたのだろう。戦う前に勝負を決められる時間差発動の技など、徒手拳法の技としてズルいにも程があるとおもうが、ここは試合の場ではないし、俺だって逃亡を選んだ。だから下手に言い返せない。

 

 

「クッソ、原理が解らねぇから対策のしようもないじゃねえか」

「へん、解ってもアンタじゃどうにもならないよ・・・そもそも解るはずが無いが

「・・・くそぅ」

 

 

殴り合い(ステゴロ)も口喧嘩も瑠音姉の方が上。昔からこの力関係は変わっていない。成長して幾らか筋肉も付いたし、腕っ節なら勝てるやもと密かに思っていたのだが、そんなことは無いと今痛感した。

 

 

「さあさ、とっとと吐きな愚弟。そうした方が楽になるよ」

 

 

――嘘だ。骨の随までこの話をネタに俺の尊厳をしゃぶり尽くす気だ。アレはどう見てもそういう目だ。

かといって脱力しきった脚では逃げられもしないし、引き延ばせば引き延ばすだけ被害も酷くなる。嘘でごまかそうとしても、悪辣の化身たるこの姉が見逃すはずが無い。

 

 

――最早、万策尽きたり。

結局、俺は瑠音姉という巨悪に屈すほか無かったのだった。

 

 

 

 

 

「・・・あぁー、うん、成る程。成る程なぁ」

「――んだよ。笑いたきゃ笑えよ」

「うん、まあ何時もならそうするんだが・・・何だかなぁ」

 

 

――おかしい。先程から俺の話を聞いてからというもの、姉の歯切れが悪い。

 

最初こそワクワクと目を爛々と輝かせていたのだが、クラスメイトがどうやら人外していると言った辺りで笑顔が消え、帰り道で起こったことも含めて話し終えた頃には、何とも形容しがたい微妙な顔をして黙り込んでしまった。

 

確かに馬鹿にされていないだけマシなのだが、だとしてもこの反応は今までと違いすぎて、どう返して良いものやら解らない。

 

 

もう、隠しようがないかもな・・・千里」

「な、何だよ。そんなに改まって」

「そんなつもりは無いんだが――まあ、今はどうでもいいな。とりあえず良く聞け」

 

 

いきなり肩を掴まれた。

これまでに無いほど真剣な瑠音姉の口調と目に、思わずたじろいでしまう。家族と今更こうして面と向かって話すとか、気まずすぎて気後れしてしまうのも仕方ないだろう。

 

 

「いいか千里――実はな」

「・・・(ゴクリ)」

「その女の子・・・竜ヶ峰ちゃん、だったか。――その子だが、本当は「ただいまー、今帰った、よ・・・?」」

 

 

バタンッ!

 

 

 

固唾を呑んで答えを待っていたまさにその瞬間。勢いよくリビングの扉が開き、身の丈150もない合法ロリが突如リビングに飛び込んできた。

 

 

 

・・・ホント、風泉姉(かずみねえ)は相変わらず空気が読めないタイミングで現れる。

 

そして瑠音姉、そこで止めないでよ。滅茶苦茶気になるじゃん。

 

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