第一話・プロローグ(地図有)
「さて、諸君。集まったようだな」
…深夜。月明りのみが唯一の光源となっている森の中で男は満足そうに頷く。男の周囲には十数名の男女がいた。見た限り上は60、下は10程度の年齢差があるが彼らに共通する点は目にとてつもない闘志、何事も失敗を許さない忠義、何者にも邪魔をできないほどの集中力を宿していた。
更に彼らは皆黒いアーマーを着込み手には前時代的な銃を携えていた。
男は周囲を気にしながら彼らに話す。
「…ここは目標の本拠地という話だ。この作戦を知っている者はここにいる諸君らと帝都ゲルマニアで待っている宰相しか知らない」
男の言葉は決して大きい声ではないが彼らには十分に聞こえていた。
「今更だがこの作戦は強硬手段であり成功確率は高くとも絶対ではない。たとえ生きて生還してもこのことは闇に葬られ勲章などは何一つ手に入れることはできない。…それでも、諸君たちならやってくれると信じている」
男は身を翻して歩き出す。
男の進路には山の中に築かれたとある施設があった。見張りの兵は男が放った銃弾により頭を打ちぬかれてこの世から永遠に消え去った。
「さて諸君!殲滅の時間だ!奴らに自らが犯した罪を後悔させながら、殲滅せよ!」
第一次世界大戦においてドイツ帝国率いる中央同盟国は辛くも勝利を収めた。共産革命により本国を追い出されたイギリスとフランスの植民地の大半を奪い再起不能とさえ言われる程の苛烈な戦後処理を行った。結果ドイツ帝国は世界中に植民地を持つ一大帝国に発展したが1930年より世界恐慌が発生するとドイツ帝国及びその植民地は経済的なダメージを受けた。
ドイツ帝国は立ち直りを図るも失敗し10年に渡る不況へと陥った。しかし、ロシア帝国がドイツ帝国により奪われた領土を奪還する為に宣戦布告するとドイツ帝国は復活を遂げた。戦争特需により経済の立て直しに成功したドイツ帝国はロシア帝国を返り討ちにして逆に侵攻を開始した。そして、オーストリア=ハンガリー二重帝国改めドナウ連邦の宰相アドルフ・ヒトラーが提案した大露包囲網を形成するべく各国に要請した。その結果、領土拡張先を探していた大日本帝国が提案に参加。更に本国への帰還を目指すイギリス連邦も兵をあげたためロシア帝国は文字通り世界を相手にする事となった。
1944年。大露包囲網の形成から2年後にロシア帝国は降伏した。ロシア帝国は解体され各民族の国家が乱立した。残った土地はドイツ帝国の傀儡であるロシア王国が建国された。
そして時は巡り1948年。ドイツ帝国の支援を受けたイギリス連邦は本土奪還を開始した。ブリテン島各地でゲリラ的防衛を行う共産勢力にイギリス連邦の奪還への異様なまでの覚悟とドイツ帝国の圧倒的な国力の前に陥落し生き残りはフランスに逃亡する事となった。
2010年。アフリカの民族独立、フランス共産勢力の滅亡、ロシアの独立と言った様々な出来事が起き世界が変わろうとしている中、日本である事件が発生する。
後に『白騎士事件』と呼ばれるようになるこの事件によって
とある山奥で極秘に研究されている遺伝子強化研究所。ここは遺伝的に強化された人間を作る研究所であるのだが理論的に問題であるため政府の中でも一部のものしか知らず世界中への強大な影響力と絶大な権力を有するドイツ帝国皇帝ですら知らされていなかった。
そんな研究所は現在いたるところから煙が出ており中は破壊されており火事が発生していた。男の言葉とともに突撃した彼らは十分ほどで研究所の半分が制圧され中にいた研究員は出合い頭に殺されていた。
「急げ!あと少しでここは崩壊する!それまでに何としても目標を確保するのだ!」
男は声を上げて叫び彼らはそれにこたえるように俊敏に動いて探していく。やがて待ち望んだ報告が聞こえてきた。
「見つかりました!」
報告を聞いた男は反射的に飛び出して向かう。場所はそれほど離れていなかったが煙がすごくすぐに立ち去らないと危険なことはだれの目から見ても明白であった。
「この中です!すでに一名だけですが先行しています!」
隊員が指し示す方向には地下へ続く階段があった。
「すぐに隊を呼べ!俺はこのまま向かう」
「了解しました!」
男は用心しつつ進んでいく。中は電気系統がいかれたためか非常灯が付き薄暗かった。階段を下り切れば巨大な扉とその近くで扉を開こうとハッキングしている隊員の姿が見えた。
「どうだ?空きそうか?」
「ええ、今開きます…っと」
隊員の言葉とともに扉は開きこの研究所の中枢である試験管ベビーがポッドにたくさん入れられていいた。そのほとんどが小さな肉塊のような形をしており失敗作と思える風体であった。
男はそれには目をくれずに奥へと進む。進んだ先には円形に設けられた檻がありその一つに二人の少女が入れられていた。きれいな銀髪に片方は目をつぶりながらも震えながら、もう片方はおびえた様子でこちらを見ていた。
「…試験管ベビーはお前たちのみか?」
男の声にビクッと体を震わせる。その様子に男は困惑した様子で近づき少女たちと目線を合わせる。
「安心してくれ。俺は君たちに酷いことはしない。君たちを助けに来たんだ」
「私たちを…助けに…?」
目をつぶった少女はおびえた様子で聞いてくる。その様子に男は頭をなでる。
「…あ」
「大丈夫。何がんでも助けてやる。だから今は、な?」
男はそう言って二人を抱きしめる。二人はとても大きなぬくもりを感じて恐怖で泣きそうになっていた少女は眠りについた。
「よし、少し待っていてくれよ。もうすぐ部下が来るからな」
「…あ、あの…あなた様は…?」
「ん?ああ、そういえば言っていなかったな」
男は目を見て不敵に笑う。
「俺はドイツ帝国皇帝、フリードリヒ・フォン・ヴィルヘルム・ヴィクトル・プロイセンだ」