IS~ドイツの黒き皇帝~改訂版   作:鈴木颯手

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第十話

 モンド・グロッソは5つの部門がある。しかし、会場は一つしかない為大会は10日間にわたって行われる。格闘・射撃・近接・飛行を順にこなしていき最後に一番盛り上がりを見せる総合が行われる。

 格闘部門には総合と兼任して織斑千冬が出る。ISの数が少ない国や強い選手が育たなかった国の為の救済措置として兼任が許されていたが大日本帝国はそれをついて彼女の得意分野である格闘と総合を兼任させた。第1回モンド・グロッソではそれで猛威を振るい今もまた猛威を振るっていた。

 

「凄い……」

「強い……」

「流石は織斑千冬、と言った所かな。僕の目には残像しか見えないや」

「私はその残像すら見えないのですが……」

 

 織斑千冬の圧倒的な動きにクロエとラウラは魅了されルートヴィヒ夫妻は茫然と眺めていた。フリードリヒもギリギリ目で見て追いつける程度であり彼女の強さを実感していた。

 

「日本は恵まれているな。織斑千冬にISの産みの親の篠ノ之束。そう言った逸材を多数輩出している」

「あら? 我らライヒ(ドイツ帝国)も負けてはいないと思いますよ?」

「確かに総合的にはそうかもしれないがああいった突出した存在はいない。ああいうのが一人いてくれればどれだけいいか……」

「そう言った者達は大なり小なり何か知らの欠点を持っているものですわ。意外と織斑千冬だってあり得ない欠点を持っているかもしれませんわ」

()()織斑千冬が? エリー(エリザベートの愛称)も冗談を言うようになったんだな」

「私が冗談を言っているように見えますか?」

「ああ、見えないな。だからこそ戦々恐々としているよ」

 

 実際、織斑千冬は家事スキルが異様なほど低い。彼女の弟が家事全般を引き受けて居なければ彼女の欠点はご近所さんを通してあっという間に知られていただろう。そんな欠点があるとは知らないものの織斑千冬の欠点とは何だろうかと考えたフリードリヒは何か変な事になりそうだとすぐに切り上げた。

 

「ISって本当にすごいですね……」

「私も乗ってみたい……」

「その気持ちは分かるぞ。もし、お前達が望むなら乗る事は……、ちょっと難しいな」

 

 ドイツ帝国に置いていISとは局地戦闘用の兵器に分類されている。故に一般人では触れる事は出来ても操縦する事は難しかった。何より二人は幼い。世間的には小学生から中学生程度の年齢である二人では上手く操縦する事は難しいだろう。

 しかし、それでも二人は、特にクロエは真剣な眼差しで言った。

 

「ISが兵器という事は知っています! でも、それを使う事が出来れば陛下を守る事だって出来るようになるんですよね?」

「それは、まぁ……」

「なら私はISを使えるようになりたいです!」

 

 クロエの言葉にフリードリヒは悩む。ISを使う以上軍への入隊は必須だった。そして、この年齢での入隊は可能か否かと言えば可能であった。これが他国であれば批判が来るのであろうがドイツ帝国、特に植民地や属国では貧しさから幼くして入隊する事は稀にだが存在した。

 入隊したからと言って必ず戦場に送られる訳ではない。フリードリヒは決めた。

 

「……良いだろう。だが、無理はするなよ? 少し前に無理をして体を壊し除隊を余儀なくされた者もいる。お前達はまだまだ成長期なんだ。それを忘れるなよ?」

「っ! では!」

「ああ、その準備をさせる」

「ありがとうございます!」

「ありがとうございます!」

「……ん? ラウラもか?」

 

 まさか二人ともという事実に驚いたがその疑問を消すように歓声が上がる。見れば織斑千冬が対戦相手に完封していた。織斑千冬は最初に向かい合った場所まで戻ると礼を行い控え室に戻っていった。試合開始から僅か数分の出来事だった。

 

「嘘……。もう決着がついてしまった……」

「織斑千冬、かなり、いや物凄く強いな」

「ある意味では対戦相手に同情するよ」

 

 あまりにも圧倒的過ぎる織斑千冬にフリードリヒ達はそんな言葉しか出て来ない。人間離れした身体能力と他を寄せ付けないIS操作の巧みさ。そして適確に相手を崩しにかかる戦術。それらが織斑千冬をブリュンヒルデとして最強の女性とさせている所以であった。

 

「確か彼女は総合部門にも出るんですよね? リリーさんは勝てるでしょうか……?」

「難しいだろうな。接戦は出来ても勝利を勝ち取るのは不可能と言っていい」

 

 リリーの努力を知っているエリザベートが心配そうにそう言ったがフリードリヒは断言した。確かにリリーも織斑千冬に追随する実力を持っており打倒織斑千冬を掲げてからはそれがより顕著になった。しかし、彼女がどれだけ頑張っても結局追随している事から抜け出す事は出来ない。

 どれだけ努力を重ねても絶対に届かない頂が織斑千冬だった。とは言え彼女はその頂を見えている。彼女以外でその頂を見れているのは果たしてどれだけいるのだろうか?

 

「おそらく織斑千冬といい勝負を出来るのはほんの一握り、ドイツ帝国(リリー)以外ではアメリカ(イーリス)ドナウ連邦(アリーシャ)……。後は分からないな」

「ほとんどが今大会初出場者ですからね。ロシアはどうでしょうか?」

 

 そう言ってエリザベートが備え付けられていたタブレットを操作する。そこには今大会の出場者の情報が記載されており中にはほとんど素性が分からない者も板が大半は名前や年齢、戦闘経験などが載っている。そんなタブレット端末に映し出されたのは狐目が特徴の少女だった。年齢は17歳と記載されており今大会最少年齢だった。

 

「ログナー・カリーニチェ……。彼女がどんな存在かは分からないがロシアの代表に選ばれたんだ。少なくとも実力は確かなのだろう」

「それ以外にもちらほらと面白そうな人たちがいますよ」

 

 エリザベートは他にも選手を見ていく。イギリス、フランス。アルゼンチン、カナダ、ブラジル……。どれもがこの大会の選手に相応しい実力を身に着けている様だった。だからと言って織斑千冬に勝てるという訳ではないが。

 そんな事を話していると一人の侍女がフリードリヒに近づき耳打ちをした。

 

「陛下、会場内で不審な動きをする者をみつけました」

「数は?」

「観客席に3、入り口付近に4、裏手に6です」

「分かった。詳しくは外で。俺もすぐに向かう」

「了解しました」

 

 そう言うと侍女は部屋を出ていった。真剣な表情をしたフリードリヒを見てクロエとラウラは不思議そうに首をかしげるがそんな二人にエリザベートが頭を撫でる。

 

「何でもないですよ。今は観戦しましょう?」

 

 そう言うとエリザベートはラウラを膝に乗せる。割れ物を扱うように優しく撫でるエリザベートにラウラは少しくすぐったそうにしつつ気持ちよさそうにしている。エリザベートが視線を一瞬だけフリードリヒの方に向けた。その意味を分かったフリードリヒは最高の妻に感謝しながら「用事が出来たから」とだけ言ってその場を後にした。

 部屋を出れば先ほどの侍女と共に宰相がいた。フリードリヒが部屋を出た事で侍女が詳しい説明を始めた。

 

「スタジアムにいる者達はカメラを向けて撮影を行っていました。ですが、織斑千冬にのみ焦点が向けられており加えてそのカメラから不審な電波を傍受しました」

「成程、つまり偵察に来たという訳だ。場所は何処に向かっている?」

「それが分かりませんでした」

「……それはつまり」

「はい。いくつものダミーと経由を繰り返しており調べる事が出来ませんでした」

 

 別に偵察を行うのは問題がなかった。そのまま電波を本国に送る事も別に違法ではない。故に大半は直通で本国や企業に送られる。逆に手の込んでいるという事は()()()()()()()()()()()と言っている様なものであり明らかに不審な動きをしていた。

 

「スタジアムの方は警備を使って確保しよう。あくまで丁寧に接して他の客に気取られるな」

「かしこまりました」

「それで他の奴らは何をしている?」

「入口付近の者は他愛ない会話をしていますが明らかに不審過ぎます」

「確かにな。この会場に入れるという事は入場券を持っているという事。それだけモンド・グロッソを楽しみにしている奴が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そんな事をしているのなら警備の者だけではなく観客も怪しく思えるだろう。そんな事を思いつつ最後の裏手の者の詳細を聞く。

 

「こちらは地下駐車場内で何かを囲むように隠れています。隠しカメラには気づかない様子ですが見ていただければかなり怪しいです」

「これは……」

 

 侍女が取り出したタブレットに映し出された映像には車の影に隠れて何かを待っているように息を潜めている6人の男が映っていた。しかもそれはLive映像であり報告に来るまでずっとこの調子だったのなら明らかに可笑しいと言えた。

 

「地下駐車場という事は要人の抹殺が目的か? 仕方ない。こいつらを確保せよ」

「了解しました。入口の者はどうしますか?」

「監視だけで良い。単純に話に夢中になっている可能性が、なくはない……」

 

 すぐに命令を下したフリードリヒは後の事を宰相に任せて部屋に戻る。既に1回戦は終わり2回戦の準備が行われていた。今回の選手はどれも強かったかと思いつつ席に戻るとエリザベートの腕の中でラウラが眠っていた。

 

「あ、陛下。用事は終わったのですか?」

「ああ、勿論だ。……それで? なんでラウラはこんな事に?」

「撫でて居たらうとうとし始めたのでそのまま寝かせました」

 

 そう言ったエリザベートはとても良い笑顔を見せており女神とすら言える程の笑みだった。勿論彼女の事を知っている者からすればどうしてそうなっているのかを察する事が出来るのだが。

 フリードリヒは息を吐きつつこれくらいならと思いエリザベートに一言だけ言った。

 

「手は出すなよ?」

「……」

「……」

「……」

「……勿論ですわ」

「即答してくれないか? 滅茶苦茶不安なんだが」

 

 とてつもない間でそう言ったエリザベートにフリードリヒは若干の呆れを感じるのだった。

 




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