IS~ドイツの黒き皇帝~改訂版   作:鈴木颯手

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第十一話

 第2回モンド・グロッソは順調に日程を消化していった。既に9日目、総合部門を残すのみとなっており会場は今までで一番の熱狂に包まれていた。

 そんな会場から離れた位置にあるゲルマニアの中心地に聳え立つ城にてフリードリヒは報告を受けていた。内容は初日に確保した者達の事だった。

 

「陛下、調査の結果彼らは亡国機業(ファントム・タスク)の末端だと判明しました」

「亡国機業……。奴らか」

 

 宰相の報告にフリードリヒはため息をつく。亡国機業は第二次世界大戦中、大露包囲網時に結成された秘密結社でありその詳細はドイツ帝国でさえも分からなかった。これが良い組織なら問題はなかったがそうではなくドイツ帝国を中心に世界中で暗躍を続けていた。近年ではミッテルアフリカの独立運動にまで関わっていた事が分かりドイツ帝国行政府を震撼させていた。ミッテルアフリカはマダガスカルを残し消滅し跡地には三つの国家連合が建国され国家運営が始まっていた。

 

「奴らが暗躍しなければミッテルアフリカがあんな風な終わり方をしなかった。もっと穏便に片付いたと言われるくらいの事をしたやつらが、このモンド・グロッソで一体何を狙っている?」

「織斑千冬のデータを取っていたのも彼らである以上何かを企んでいるのは確実ですね」

「まったく、ドイツ帝国にとって一大イベントであるモンド・グロッソで問題を起こしやがって……。いや、モンド・グロッソだからこそか……」

 

 こういうイベントでもない限りドイツ帝国に真正面から喧嘩を売れるような者は国、企業、組織で存在しない。徒党を組んで漸く対抗出来るのはアメリカや大日本帝国、イギリスくらいだろう。フランスを始めとした地域大国と呼ばれるような国では相手にすらならない。

 それは亡国機業とて同じであり現にこうして末端とは言え初日に全てを処理されていた。……相手が間抜けすぎるというのも理由の一つだが。

 どちらにしろ()()()()()()にドイツ帝国と真正面からやり合う力はなかった。

 

「兎に角明日には閉会式を行いモンド・グロッソは終わる。二日だ。その二日の間に相手が仕掛けてくる可能性は高い。警備は怠るなよ?」

「了解しました」

「陛下! 大変です!」

 

 今後の事について宰相と話していると部屋に行政官の一人が入って来る。顔を真っ青にしてノックもしないで入って来た事から大事である事が分かる。この国の頂点にして最高権力者の部屋に飛び込んでくるなど普通の事ではあり得ないのだから。

 

「大日本帝国より来た織斑千冬の弟織斑一夏が誘拐されたとの情報が入りました!」

「何? 詳しい事は分かるか?」

「はい。織斑一夏はブリュンヒルデの弟という事で誘拐や事件に巻き込まれる可能性を考慮して日本から護衛として4名がついてきたとの事です。ですが護衛の内2人が突然残りの二人を無力化させ車に乗せて走り去ったとの事です。GPSなどの機器は途中で排除されて現在地が特定できていません」

「成程、それで残った護衛二人が俺達に助けを求めたという事か」

「その通りです。軍隊を導入しますか? それとこの報告は今のところ織斑千冬の耳に入る前に止めています」

「よくやった。織斑千冬には悪いが詳しい状況が分かるまで彼女に伝えることはするな。彼女は弟を大事にしているらしいからな。試合を抜け出して探す可能性もある」

「分かりました」

「もし気付かれたら我々が全力で探していると言ってくれ」

「はい!」

 

 行政官は頭を下げると部屋を飛び出していった。残り二日という現時点で起きた事件にフリードリヒはため息を吐くと宰相に命令する。

 

「軍を導入する。帝国親衛隊及び特殊作戦執行部も出せ! 必ず無傷で保護する! 我らが開催するモンド・グロッソで事件を起こさせるな!」

「はっ!」

 

 こうしてドイツ帝国の総力を上げた捜索が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おいガキ、大人しくしていろよ?』

 

 織斑一夏は今恐怖に包まれていた。姉である千冬の雄姿を見ようと態々開催されているドイツ帝国にやってきた一夏。熱を出してしまい姉と共に向かう事が出来なくなってしまったが日本政府の計らいで警護が付けられ安心安全の海外旅行を満喫していた。モンド・グロッソでは格闘部門で無双する姉を応援しそれ以降の部門でも日本人選手を応援していた。

 

「いよいよ千冬姉が出る……!」

 

 そしてモンド・グロッソ9日目。遂に総合部門の試合が始まり再び姉が活躍する機会が訪れた。一夏はそれをワクワクしながら地下駐車場から観客席に向かっていた。

 

 事件が起きたのはまさにその時だった。

 

「ぐわっ!?」

「うっ!?」

「……え?」

 

 一夏を前後左右斜めから警護していた日本人の内前にいた二人に後ろの二人が突然スタンガンを当てて無力化した。それを合図にするように黒いバンが一夏の前まで来て警護していた二人が無理やり乗せてバンは勢いよく走りだした。

 突然の事に成すがままの状態にされた一夏に男たちは体中をまさぐり服や靴に付けられた黒い物、GPSをバンの中にあった自販機で買われたであろうペットボトルの中に沈め窓から放り投げた。明らかに計画的な犯行にここで漸く一夏は誘拐されたと気づき背筋が凍るような恐怖が体中を支配した。

 

『おい、騒がれても面倒だ。口を塞ぎ逃げられないように手足も拘束しておけ』

『ああ、分かった』

 

 ドイツ語らしい言葉を運転していた者と話した元警備の男たちは恐怖で固まる一夏を縛りあげていく。口を塞がれ両手は背中に回されガムテープできっちりと縛られる。両足も同じようにガムテープを十回近く巻き自力で外せないようにした。

 更に目隠しの為かそれとも外から覗かれても問題ない様にするためか一夏は黒い袋に入れられ座席の足元に転がされた。車の振動音と左右に曲がるときの遠心力を感じながら一夏は助けが来るのを振るえて祈った。しかし、一番の祈りが聞き届けられる事は無くバンは停止し一夏は男たちによって持ち上げられ運ばれる。どれだけの間乗せられていたかは分からないが周囲に雑音がほとんどしない事から少なくとも都市部ではない事が一夏にも分かった。

 そのまま何処かの建物に入ったらしく足音が反響している。暫く歩き男たちは一夏の入った袋を放り投げる。そして走る痛みにくぐもったうめき声を上げた。袋が開けられ一夏は暗い空間から抜け出した。周囲には男たちの他にリーダー核と思われる女性がいた。何故女性がリーダー核と判断できたのか? それは一夏より少し年上くらいの少年を四つん這いにさせてその上に座っているのだから。どう見ても下っ端とは思えなかった。

 

『こいつが織斑一夏か?』

『ええ、そうです』

 

 女性がドイツ語らしき外国語を話すと警備についていた男が答えた。二人が何を言っているのかは理解できなかったがこちらを見ながら自身の名前を言っていた事から本人かの確認をしていると一夏は予測した。ふと、女性と目が合うとにやりと笑みを浮かべた。美しい、美女と呼べる女性が行った笑顔だけあってこの状況でなければ見惚れる美しさを持っていただろう。しかし、相手は誘拐犯であるという事とまるで食虫植物の如き男を誘い、食い殺すような妖艶な雰囲気が相まって一夏の心に恐怖の感情を増幅させる。

 

『なかなか可愛らしい容姿をしているじゃないか。少し遊ぶのも面白そうだ』

『その前に織斑千冬に連絡を行いましょう。弟思いの彼女の事です。作戦通りにいくでしょう』

『ならさっさと行いな。いいか? 通信を傍受されるなよ?』

 

 織斑千冬の名が出て来た事で一夏は理解した。自分が攫われた訳を。そして悔しさが体中を包む。姉の足かせになっている。それが一夏にはとても悔しく、悲しい事だった。

 

「(千冬姉……)」

 

 一夏は試合を行っているであろう姉の名を心の中で呼ぶ。それにどんな感情が込められていたのかは本人以外に誰も分からなかった。

 




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