時は少し遡る。織斑千冬は対戦相手であるアメリカ代表を激戦の末に下し明日行われる準決勝への切符を真っ先に手に入れた。試合を終えた千冬は自らの愛機”暮桜”をメンテナンスしていたがその時に携帯に着信が入った。メロディから弟がかけて来たと分かった彼女は一旦手を止めて電話に出た。
「一夏か? どうした?」
『やぁ、織斑千冬』
声の主はドイツ語で語り掛けた。そして明らかにボイスチェンジャーで性別が分からない声で話しかけていた。何より弟の電話からかけている時点でとても怪しかった。瞬時に千冬の表情は鋭くなる。
「……誰だ?」
『今君の弟を保護している者さ』
「……一夏は会場にいるはずだ。何をした?」
『おっと、悪いがお前の問いに答えるつもりはないよ』
「答えろ!」
『……全く、大切な弟の事になると豹変するなぁ。まぁいいさ。織斑千冬。準決勝は棄権しろ』
「……」
『分かっていると思うが弟君はこちらが預かっている。声を聴かせてやるよ』
『んー!!』
「っ!」
口を塞がれているのか電話から聞こえてきたのはうめき声だがそれでも大事な弟の声を間違える筈がなかった。千冬の表情は憤怒へと変わった。
『棄権したかは明日中継を見て決めさせてもらおう。それまではこちらで預からせてもらう』
「……良いだろう」
『ハハハ! 君の言葉が嘘ではない事を祈っているよ』
その言葉を最後に通話は切れた。千冬は怒りの表情のまま携帯を操作してとある番号にかけた。数回の呼び出し音の後、甲高い声が聞こえてきた。
『もすもすひねもすー? はぁい☆ みんなのアイドル篠ノ之束だよー!』
「束。お前のおふざけに付き合っている暇はない」
『ちーちゃん、どうしたの? 随分と焦ってるじゃん』
「一夏が誘拐された」
千冬のその言葉にそれまでのおどけた態度が一転して真剣な雰囲気になる。ISの開発者にして”天災”と呼ばれる彼女はその名にふさわしく身内と判断した者以外に対して冷たい態度を取る。しかし、幸いな事に彼女にとって織斑一夏は身内の中に含まれていて実の弟のようにかわいがっていた。
「相手は一夏の携帯から通話をかけてきた。場所を特定してくれ」
『……判明したよ! ちーちゃんのいる都市の郊外にある廃工場だね。暮桜に位置情報を転送したよ!』
束は千冬からの言葉を受けてすぐに調査を行い僅か数十秒で場所を把握した。束からその事を聞いた千冬はメンテナンスを終わらせると暮桜を回収して外に出た。途中でドイツ帝国の警備員が驚いていたがそれを押しのけて外に出ると暮桜を展開した。先程の試合後にエネルギーを補充していた為満タンな状態となっていたのが功を奏した。
そして千冬はスラスターを前回にして束が送信した地点に飛ぶ。まるで
「ん?」
現場に到着する寸前に爆発音が響き渡りISを纏った女性とその女性の足元で倒れている女性軍人がいた。女性軍人に向けて銃が向けられておりどちらが敵かはすぐにわかりISに向けて唯一の武装である雪片を首元にたたきつける。
不意打ちだったこともありISは廃工場に吹き飛んでいった。それを見た千冬は女性軍人、ハルフォーフに声をかけた。
「大丈夫か?」
「っ! ええ、何とか」
麻痺が治って来たのかハルフォーフは千冬からの問いに答えつつ邪魔にならないように反対側に向かってゆっくりと歩き出す。
「織斑千冬さん、ですよね?」
「そうだ。一夏ドコダ?」
「多分あの黒い袋に……」
そう言って指をさす先にはもぞもぞと動く黒い袋があった。それを確認した千冬は視線の端でISが態勢を整えた事を確認して先にそちらを相手にする事に決めハルフォーフに言った。
「一夏を頼む」
「はい」
ハルフォーフに一夏を頼み千冬はISに乗る女性ウィンターの方を見た。
「……貴様か。一夏を誘拐したという奴は
大切な弟に手を出した覚悟は出来ているのだろうな?」
千冬は雪片の切っ先を廃工場を挟んだ先にいるウィンターに向けた。一方のウィンターはここに居るはずのない織斑千冬の登場に驚きつつも態勢を立て直して睨みつける。
「お前……、なんでここが……」
「天災兎に協力してもらっただけだ。位置さえ分かればどうという事は無い」
「っ! 篠ノ之束と繋がっていたのか……!」
ウィンターは失敗を悟ると同時にこの場をどう切り抜けるかを考える。ブリュンヒルデの称号を持つ織斑千冬に正面から戦いを挑むのは愚策だ。ただでさえここにドイツ帝国軍が向かってきているのにこれ以上留まれば脱出すら出来なくなる可能性が高かった。
そのためにも織斑千冬をどうにかしないといけないが人質の一夏は保護されてしまっている。そこに向かおうにも間には織斑千冬がいる。千冬を抑えるのに必要な一夏を手元に置くために千冬に挑むのでは本末転倒だ。ISのスラスターを全開にして逃げるという方法もあるがそれも上手く行くとは思えない。ここまで来るために消費したエネルギーで多少は消耗しているだろうがエネルギーが切れる前に叩ききられて終わるだろう。
「(ん? エネルギー切れ?)」
ふと、ウィンターはある事に思い至った。千冬はここに来るまでにISを用いてきた。そもそも試合が直前まで行われていたのだ。エネルギーを補給出来ていない可能性が高い。そしてここに来るまでの時間から考えられるエネルギー消費量を計算した結果……。
「(もうエネルギーはそれほど残されていない! つまりこのまま攻撃すれば織斑千冬の暮桜はエネルギー切れで展開できなくなる!)」
そう考えたウィンターは好戦的な笑みを浮かべる。このまま織斑千冬を降し世界最強の称号に泥を塗ってやろう。自らの計画を台無しにされた事への恨みを晴らすために。
「織斑千冬! ここに来るまでにエネルギーを消費したお前に恐れる必要なんてない! ここで倒してやるよ!」
「……愚かな」
銃とロケットランチャーを展開したウィンターは狂ったように笑いながら乱射する。それを見た千冬は呆れと同時に一言だけ呟き銃弾と砲弾の嵐に自ら突っ込んだ。
「馬鹿か! 自分から辺りに来るなんて自殺こう……!」
「この程度避けられなくてブリュンヒルデは務まらん」
銃弾と砲弾の嵐。一発でも当たれば動きは止まり避ける事すら出来なくなるだろう。そんな中を千冬はまるで道順が分かるようにスルスルと躱していく。それもウィンターに近づきながら。そして廃工場を潜り抜けウィンターに接近した千冬は暮桜の
「はぁっ!」
「っ!?」
そこに千冬がこれまで培ってきた剣道や剣術による鋭い太刀筋が加わりウィンターが気付いた時には雪片は振り下ろされた後であり自らのISのシールドエネルギーは空となっていた。
動かなくなったISが拘束具の様にウィンターの動きを阻害する。ISを降りて逃げようとした時には目の前に元の状態に戻った雪片の切っ先が向けられていた。
「動くな」
「!」
「貴様をドイツ帝国軍に引き渡す。丁度来たようだしな」
千冬がウィンターから視線を外し横を向けばISを含むかなりの数のドイツ帝国軍が向かってきていた。ウィンターは完全に逃げる事が出来なくなったと悟り悔しそうに歯を食いしばるのだった。
その後、織斑千冬にいる事に驚くもドイツ帝国軍はウィンター及び倒れた男たちを拘束。織斑千冬に感謝と謝罪を行い引き上げていった。千冬も無事に一夏を取り戻す事が出来、また今回の一件は内密に処理される事になった為千冬が街中で無許可でISを展開した事に対するお咎めは無かった。
しかし、今回の一件から千冬はある事を考えるようになりそれが実行されたのは第2回モンド・グロッソが終わった後になるがこの時点では誰も予測など出来るはずがなかった。
兎にも角にも織斑一夏誘拐事件は実行犯の全員確保と一夏の無事という完璧とも言える形で幕を閉じる事となった。
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