「……」
フリードリヒは黙々と執務をこなしていたがふと、何かを思い出して手が止まる。執務室はいつも通りの光景が広がっているが見慣れた光景になっていた二人の少女の姿は無い。腰まで届く白銀の髪を尻尾の様に振りながら掃除をしていた二人はISに乗るという夢を叶えるために全寮制の軍学校に入学した。
既に二人が入学して
「成績優秀者のみがなれる親衛隊への入隊。二人なら大丈夫だろうが……」
親衛隊の入隊試験が現在行われている。それがフリードリヒにも分かっていた為今日は普段以上に執務に身が入っていなかった。だが、彼が入隊試験に姿を出す事は出来ない。一度入隊試験に顔を出した結果、プレッシャーを受けて不合格となる程緊張で動けなくなる者が続出したため赴く事はしないようにしていた。
「世界情勢も変わらず……」
ミッテルアフリカの崩壊後、跡地には反ドイツ帝国を掲げる3つの国家連合が誕生し急速に軍拡と国内の復興を始めていた。しかし、その後ろには
それ以外にもロシアでは男性の人権が完全に排除され女性至上主義国家となった。ロシアで人権をもって生きてけるのは女性だけ。男性は子孫を残すための道具兼家畜という扱いだ。それは外国人にも適用される。謝ってロシアに男性が行けば家畜として扱われる事になる。最近では優秀な女性と絶対服従の
ドイツ帝国の南、ドナウ連邦がその大半を影響下に置くイタリア地域でも元イタリア王国であるサルディーニャ王国と現状では唯一と言っていい共産主義国家であるイタリア社会主義共和国が同盟を結びイタリア統一の動きを見せていた。強制的同一化を図っているドナウ連邦はこの動きを警戒しており場合によっては攻勢に出る動きもみられている。
大日本帝国が盟主を務める大東亜共栄圏では諸国が国家自立を目指す動きが活発化していた。第2回モンド・グロッソを開くにあたって参加権を得られなかったベトナムやフィリピンは事実上の大日本帝国の属国という立場を抜け出し第3回モンド・グロッソに出場できるようにしようとしていた。大日本帝国は今のところ反応を見せてはいない。というよりもIS学園や織斑千冬の後任の件で構っていられないという状況だった。
そして、その隣国の中華圏は混とんと化しつつあった。1989年に大革命で大清帝国を打倒し中華連邦としてまとまった各軍閥だが統制は全く取れておらず内戦が絶えなかった。その結果大量の難民が発生して大日本帝国の元属国で現在は大東亜共栄圏で2番目の国力を持つ同じ中華圏の国家、満州帝国に逃げる人々が続出した。
アメリカを含む南北アメリカ大陸ではこれといった問題は起こっておらず各民族の反発が起こっている程度だった。
「いずれにしろ亡国機業の撲滅は行わないといけないな」
そう言ってフリードリヒは執務室に飾られた最新版の世界地図を見る。
アフリカで国境線が大きく変わった事に変化はないがそれでもドイツ帝国にとっては衝撃的であり誰もが見ていなかったミッテルアフリカの実情を見せられる事となった。ミッテルアフリカより命辛々逃げ延びた人々はトラウマを心に刻み込まれそれが独立運動のすさまじさを周囲の人々に否応なしに突き付けていた。
和解も出来ず、国家として承認した国々が多数存在する現状で手を出す事も出来なくなった彼らをいつの日か倒す事になるだろう。裏から操っている亡国機業はそれだけドイツ帝国を含む世界の国々にとって脅威だった。
「だが今はこの書類を何とかしないといけないな……」
そう呟くとフリードリヒは再び山のように机に積まれるだけではなくまるで終わるまで通さないと主張するようにフリードリヒを取り囲む書類たちと再び格闘するのだった。
凰鈴音は中華連邦で育ち11歳まで同国で過ごした後父親が日本人と再婚して日本に移住してきた。その為、日本語は不慣れであり転校当時はそれで揶揄われたりしたこともあったが同じクラスの織斑一夏を始めとした一部のクラスメイトや教師の支えもありあっという間に日本に順応した。
持ち前の努力家という事もあり日本語はひと月で会話ができる程度に、二か月後には違和感なく喋れるほどに、そして半年経ったときには日本語を用いた国語で上位の成績を取るだけに成長を遂げた。
そんな彼女には好意を寄せる人物がいる。ブリュンヒルデの称号を持った織斑千冬の弟である織斑一夏だ。転校当時に助けてくれた事と家が近い事から次第と友好的になり気づけば恋愛感情を持つようになった。だが、恥ずかしさからその事を本人には言えていないが好意を寄せている事は見え見えだった。しかし、織斑一夏は持ち前の鈍感さをもってそれに全く気付いておらず仲の良い女友達という感覚で接しており周囲の人々に呆れの感情を生み出させていた。
「一夏今日もバイト?」
「ああ、そうだな」
そんな彼に鈴音は放課後に声をかけた。織斑一夏は毎日の様にアルバイトを行っており友人と遊ぶ時間がほとんどなかった。にも関わらず成績は常に優秀の方なので本人の才能が見え隠れしていた。
「そんなにバイトしてたんじゃその内倒れちゃうよ? 少しは減らしたら?」
「そうは言ってもなぁ。俺も千冬姉の世話になっているばっかりじゃ嫌だし」
「何言ってんのよ。私達は中学生なのよ? 未成年者なのよ? お世話になるのは仕方ないじゃない」
鈴音は呆れを伴った声で一夏に言った。それは一夏も分かっているのか「アハハ」と苦笑している。転校した同時から一夏はこの調子であり小学生の時はアルバイトなど出来なかったが中学に入ってからはそれまで続けていた剣道を止めて中学生でも出来るアルバイトを始めるようになっていた。
鈴音としてはもっと自分といて欲しいと思っているがまるで
非公式だが噂として織斑千冬に棄権をさせるために弟が誘拐されたというものがあった。しかし、織斑千冬が棄権する事は無く大会を優勝したために噂の域を出ないがモンド・グロッソ中に帝都ゲルマニアを飛ぶ暮桜の姿が目撃されたりその前後に郊外で爆発事故が起こったりと怪しい動きはあったがそれ以上の追及は今のところはなかった。
「(一夏、あんたに何があったのかは推測でしか察せられない。だけど少しは周りに頼りなさいよね。私達だってあんたの傍で支える事くらいなら出来るんだから)」
鈴音は心の中でそう呟く。それくらい面と向かって言えるようになれば一夏と付き合う事も出来るかもしれないがそう言った事も言えない鈴音は言葉じゃなく行動で示すとばかりに一夏のサポートをするようになる。
それは両親の関係で中華連邦に帰る中学2年生の時まで続く事になる。余談だが鈴音は勇気を振り絞り告白のような分かりづらい事を言ったがただでさえ鈍感な一夏が分かるわけもなく失敗に終わり後に再会した時に大激怒するきっかけとなるのだった。
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