IS~ドイツの黒き皇帝~改訂版   作:鈴木颯手

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第十六話・専用機

「クロエ・フォン・ボーデヴィッヒ准尉です!」

「ラウラ・フォン・ボーデヴィッヒ准尉です!」

「「今日からよろしくお願いします!」」

「おう、これからよろしくな。そしておかえり」

 

 2019年春。白騎士事件より9年が経ち、クロエとラウラがフリードリヒと出会ってから約5年が経過した。今彼の前には軍服に身を包み親衛隊を表す紋章を左の方部分に縫い付けたクロエとラウラがいた。今年で16歳と15歳になる二人は軍に在籍している事から凛々しく感じられる。特にきっちりとした敬礼を見せてくれている事からもどことなく新兵という感じがして少し和む。

 

「軍人姿の二人に会うのは初めてだな。視察に行くたびに避けられていたからな」

「へ、陛下にはこういう形で会いたかったので……」

「姉上がこの調子なので似た容姿の私が姿を見せてはいけないと思い私も陰に隠れていました」

 

 フリードリヒの言葉にクロエは顔を赤くして答え、ラウラは軍人らしい硬い口調で話す。クロエはともかくラウラは軍隊の無かれ染まりきってしまっていた。それが悪いという訳ではないがフリードリヒには前の喋り方が懐かしく感じていた。

 

「それで二人は俺直属の、というか私生活の護衛となった訳だ」

「それは聞きました。なのでこれからもよろしくお願いします」

「私も同じです」

 

 帝国親衛隊は皇帝のボディガードを担当するエリート軍人たちだ。軍学校で主席レベルの成績や将校からの推薦を受けて入隊試験をクリアした者のみがなれる。また、帝国軍の中で数少ないISを操縦できる部隊でもある。テロや暗殺にISが使われる可能性が増えてきた為にボディーガードもそれなりのものが要求されたわけである。二人はドイツ帝国の第2世代の量産型ISを専用機として持っている。

 

「さて、早速だけど俺はこれから外出する。護衛を頼むぞ」

「了解しました! 怪しい人は絶対に近づけさせません!」

「行先はどちらですか?」

 

 フンスという鼻息が聞こえてきそうな程やる気を見せるクロエ苦笑しつつフリードリヒはラウラの疑問に答えた。

 

「国立IS研究所。まぁ、ドイツ帝国で最先端を行くIS研究所さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ISの研究においてドイツ帝国は他国より半歩程リードしている。しかしそれも研究を怠ったり他国が画期的な技術を開発されれば簡単に覆されてしまう程度のリードではあったが。現在ドイツ帝国は第3世代ISの量産化に着手していたが全くと言っていい程進展がなかった。

 

「所長、研究はどうだ?」

「全く進んでいません」

 

 フリードリヒは通された所長室でこの研究所の所長と対面していた。クロエとラウラはフリードリヒの後方で立っており邪魔をしないように直立不動の状態を貫いていた。

 

「それほどに難しいか?」

「潤沢な予算、有り余る研究者、発想を全て実現出来る技術力と生産力。研究者にとってこれほど夢の場所はないですがそれをもってしても難しいと言わざるを得ません」

「そうか……」

 

 目の下に真っ黒い隈を作った所長の言葉にフリードリヒは一言だけ返事をした。彼とて一朝一夕で出来るものではないと思っているが進展が全くないのでは不安に感じ焦りも生じた。

 アメリカに第3世代の開発で先を越され、去年行われた第3回モンド・グロッソ アメリカ・ロサンゼルス大会ではドナウ連邦のアリーシャにリリーが初戦で敗北してメダルを逃すなどドイツ帝国はここのところ不運が続いていた。因みに第3回モンド・グロッソはアリーシャは優勝を決め2代目ブリュンヒルデの称号を得たが本人は織斑千冬を倒してこそこの称号を受け取れると言って辞退してしまっていた。

 

「とは言え別に量産化の目途がたっていないだけです。第3世代のISの開発は順調ですよ」

「……ならば事前に頼んだ()()()は出来ているか?」

「勿論です。……ご覧になられますか?」

「当然だ」

 

 フリードリヒが言うあれ。所長はクロエとラウラを一瞥してからあれの下に案内する。研究室を横切り奥の格納庫まで来た4人の目の前に2機のISが姿を現した。

 

「第2世代であるレーゲン型、これを基に特殊兵装の取り付けや性能の強化を行った試作型第3世代IS。”シュヴァルツェア・レーゲン”とその姉妹機である”シュヴァルツェア・モーント”です。本当はもう一機あるのですがこれら二つの開発を優先した為現在は計画書の段階です」

「そちらは構わん。まだ操縦者も決まっていないからな。……と、言う訳でクロエにラウラ。俺から親衛隊入隊の祝いだ」

「えっと、これをですか?」

 

 フリードリヒの言葉に固まり聞き返すクロエ。ラウラに至っては理解すら出来ていないのか宇宙猫状態に陥っていた。自分たちの先輩の中にはISすら持っていない者もいるのに入隊したばかりの自分たちが使っていい物なのかという不安も入り混じっていた。

 

「勿論だ。他の親衛隊員には事前に説明済みだ」

「……どういう事でしょうか?」

「お前達には少し悪いと思うが要は広告塔だよ」

 

 クロエとラウラは幼い見た目と合わさって人形の如き可愛らしい容姿をしている。軍学校では男女問わずに心を射止め非公式ファンクラブが出来る程だった。

 フリードリヒはそんな二人を利用して親衛隊の宣伝を行おうと計画していた。元々エリート思考が強すぎて入隊できるのはごくわずか。近年では入隊希望者がどんどん減っており今年に入隊した者はクロエとラウラ以外に誰もいなかった。

 

「親衛隊は年齢制限があるからな。ボディーガードという任務上機敏に動ける者が必要だ」

 

 そうなると出ていく需要と供給が追い付かなく危険性がありそれを改善する為に二人を利用する事にしたのである。

 

「ぶっちゃけうちの軍隊は福利厚生がしっかりしているせいで一定の地位以上を求める者が少ない。親衛隊などその筆頭だろう」

 

 余程忠誠心にあふれ出もしていない限り職務以外はほとんど変わらない親衛隊に入隊する者はいない。最近では給与を上げたりなどの改善は行われているがそれ以上に効果があると判断したのである。

 

「そう言う訳だ。勿論二人が嫌なら断わってくれて構わない。この二機はそれに関係なく与えるつもりだったからな」

「私としてはちょっと抵抗はありますが……」

「私は一向にかまいません」

 

 クロエは少し難色を示したがラウラは即答した。軍学校で写真撮影を頼まれる事はよくあり既に慣れたものだった。例え自分の写真が使われているポスターを見かけても誇らしくはあれど恥ずかしがることはないだろう。ラウラは羞恥心が少し一般人よりも欠如していた。

 しかし、ラウラが即答した事でクロエが反応した。姉である自分が戸惑っているのにラウラは即答した。

 

「(そんな!? ラウラは平気なの!? まさか、陛下を狙っている? そうよ! 陛下だって即答したラウラに感情を向ける可能性だってあるわ! わ、私も……!)陛下!」

「うおっ!? ど、どうした?」

「私も平気です! むしろどんどん使ってください!」

「い、いや別に無理しないで良いんだからな?」

「無理なんてしていません!」

「わ、分かったから少し落ち着こうな?」

 

 フンスと鼻息を荒くするクロエにフリードリヒは困惑しつつ落ち着かせようとする。顔を赤くしつつ目をグルグルさせているその姿はどう見ても暴走しているようにしか見えない。姉の気持ちに気付いているラウラは若干の呆れを込められたため息をつき所長は「早く終わらないかな」と眠たそうな表情で二人の様子を眺めるのだった。

 

 

 

 余談だがクロエは落ち着いた後に恥ずかしそうにしていたがラウラからの「可愛く取ってもらえれば陛下も喜ぶんじゃないか?」の一言に再びやる気を見せるようになった。

 




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