その少女は昔から一つ上の姉と比べられて生きてきた。
―お姉ちゃんはこんな事簡単に出来たのにあなたはなんでこんな事も出来ないの?
―姉に比べてお前は本当に出来損ないだな
常に姉と比べてくる父と母。普通の家ならそれ以外で蔑む者はいなかっただろう。しかし、少女の家は普通の家ではなかった。常に家には十人を超える人々が沢山いた。
―何故○○様は●●様が簡単に出来た事を出来ないのですか?
―本当に○○様は出来損ないですね
―少しは●●様に追いつけるように努力したらどうですか?
少女を見ようともしない彼らは表面だけを見て姉と比べる。そしてそれらは影口に、罵声に、罵詈雑言にと変わっていき少女の心を少しずつ破壊していった。
どれだけ努力しようとも褒められる事は無い。常に姉はこうだった、姉の時は、などと言って少女の全てを否定する。たとえそれが世間一般と比べれば天才と言えるようなものだったとしても。
―なんで出来ない?
―本当に出来損ないね
―生きている価値なんてあるの?
「うるさい! うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいいいいぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!」
そしてついにある日限界を迎えた。一人河川敷で喉が枯れるまで叫び続けた。涙を流し貯め込んできた全てを吐き出すように叫び続ける。息が切れて吐き気が出ても止める事は無い。止める事が出来ない。声が枯れた後も声なき声を吐き出して一人涙を流し続ける。
ふと、足音が近づいてくる。下を向きその場にへ垂れ込んだ少女はそちらに顔を向ける事無く荒く呼吸をしていた。
【……○○ちゃん。悔しくない?】
「……?」
【ずっと家族や周りの人に比べられて生きていて悔しくない? 辛くない? 憎いと思わない?】
「……だれ?」
【私は貴方の救世主よ】
そこから足音の主である女性は話し始めた。自分も同じことがあったと常に比べられて努力を否定されて罵詈雑言を受けてきたと。少女は初めて見る自分と同じ境遇の人との出会いに顔を上げた。夕日が女性の顔に影を作りはっきりと見る事は出来なかったが慈愛の籠った表情をしていた。
【安心して、私は貴方の味方だから】
そう言って女性は少女にある物を渡す。緑色に光る球を中心に付けた銀のネックレスだった。少女にネックレスを渡した女性は頭を撫でるとその場を離れた。
【
その言葉を最後に女性は陽炎の様に消えてしまった。女性が消えた事に驚く少女だったが夕日が沈みかけておりそろそろ家に帰らないといけなかった。だから少女は帰路につく。ネックレスを大切にポケットにしまって。
それからの少女はまるで罵詈雑言を浴びる前に戻ったように心が軽くなっていた。どんなに罵詈雑言を浴びせられても不思議と耐えられた。心に頑丈な壁でも出来たように。
「これのおかげかな?」
少女はネックレスを必ず持つようにした。誰にも見つからないように。そうして常に下を向き内気だった少女は少しずつ前を向く様になった。だが、だからと言って全てが解決したわけではない。罵詈雑言は続いていたし比べられ努力を否定され続けたが全く苦に感じる事は無かった。姉のとある一言があるまで。
「○○ちゃん。あなたは何にもしなくていいの。私が全部してあげるから。だからあなたは、無能なままで、いなさいな」
その一言は治りかけていた、前を向き始めていた少女の精神をズタズタに破壊した。姉にすら蔑まれた事で少女は家を飛び出した。そして向かったのは女性と出会った河川敷だった。しかし、当たり前だが周囲を見回しても女性の姿は無い。
少女は草が生い茂る坂の所で体育座りをして頭を埋める。あふれ出る涙と嗚咽を押し殺すために。どのくらいそうしていただろうか? 少女の耳に足音が聞こえてくる。その音を聞くと同時に少女は一瞬で顔を上げた。今の状況は
【ふふ、どうやら壊れちゃったみたいね】
顔を上げればあの時の女性が立っていた。変わらない微笑を浮かべて少女に微笑んでいる。少女は立ち上がり女性に駆け寄り抱き着いた。まだ2回目しか会っていない相手だが自分を否定しない、認めてくれる女性に対して甘えたいという気持ちが溢れていた。そしてそこで少女は色々な事に気付いた。
女性の顔立ちは明らかに日本人どころかアジア人のそれではなく欧州人の顔立ちだった。着ている服から香る香水もどこか日本人らしくない匂いだ。日本語もどこか違和感を覚える。日本生まれではないが何十年も日本語で会話してきたような感じがする喋り方だ。
しかし、それに気づくと同時に少女の心には安心感が芽生え始める。今まで自分を蔑んできた相手は全員が日本人。それらからは確実に離れた位置にある女性の全てが自分を蔑む者達とは違っている。それはまるで高所恐怖症の人が長距離移動のたびに飛行機に乗っていたのに今回は新幹線で移動したかのような圧倒的な安心感。それが女性からは感じられていた。
【○○ちゃん。私の仲間にならない?】
「……仲間?」
【そう。私達はね、この不条理な世界を変えようと思っているの。その為には
「私が、必要……?」
【ええ、これは
「私にしか、頼めない事……」
少女は女性の言葉に引き込まれていく。自分が欲しい言葉を言ってくれて自分を認めてくれる。力を必要としてくれる。それが少女には嬉しかった。少女の口調は悩んでいる様だったが心の中では既にどうするのかは決まっていた。
「……私を、貴方の仲間に入れてください」
【それは良かったわ。更識簪ちゃん。ようこそ、
そうして少女は裏の、それも悪と呼ばれる側の人間として足を踏み入れる事になった。少女は少しずつ仕込まれ、裏の人間として堕ちていった。
そして姉が組織に与する事になった時、少女は実家を滅茶苦茶にして彼女達の息のかかった国へと亡命した。少女は与えられた部屋でテレビを眺める。自分を人質と勘違いしてこちら側に協力する事になった愚かな姉を。少女は
「ようこそお姉ちゃん。裏側の世界へ」
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