IS~ドイツの黒き皇帝~改訂版   作:鈴木颯手

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第2章 IS学園編
第二十一話・IS学園


 IS学園という女子高に一人、男が入学する。男性にとってそれは夢のような事だろう。中にはその夢を間接的に叶えるために教師となる者もいる。織斑一夏はそんな男の夢を公認で、それも強制的に叶う事が出来た。誰もが羨むような状況に世の男性たちは織斑一夏を羨ましがった。

 しかし、それはあくまで夢のままで浮かれている者が考えているに過ぎない。冷静に考えてみれば誰だって気付くだろう。女性しかいない学園に男子が一人放り込まれる事がどういうの事なのか。

 

「(……キツい!)」

 

 織斑一夏の今の心境はまさにそれだった。IS学園の1年1組。日本人生徒が9割を占めるここの生徒はほぼ全員が中央の先頭、教卓の前という位置に座る織斑一夏に視線を送っていた。視線が物質を持っていれば織斑一夏はん案百もの風穴を開けられていただろう。入学式が終わりクラスに入り、席についてからずっとこの調子である。

 

「(やばい! 何も出来ない!)」

 

 少しでも動けばそれに合わせてクラスメイトも反応する。まるで織斑一夏を指揮者とする一つの軍隊の様にぴったりな動きを見せる姿は訓練を施されていると言われても信じるくらいには完璧な動きだった。

 それは教師と思われる緑髪の女性が入ってきても続いた。

 

「皆さん、入学おめでとう。私は副担任の山田真耶です」

「「「「「……」」」」」

「え、えぇ?」

 

 誰一人として返事をせずに織斑一夏を凝視する姿に教師、山田真耶は困惑する。織斑一夏も返事はしなかったもののこの状況で声を出せる程勇気があるわけではなかった。心の中で山田真耶に謝りつつこの状況を何とかしてい欲しいと願う。

 

「で、では皆さん自己紹介を……」

「「「「「……」」」」」

「お、お願いします……」

 

 山田真耶は目に涙を浮かべながら懇願するように言う。流石にその願いは届いたようで出席番号順に自己紹介が行われる。そこで漸く視線が和らぎ一夏は落ち着く事が出来た。呼吸を整えて自分を待ち山田教諭のk十場に従い自分の番を迎えた。

 

「「「「「……」」」」」

「うっ!」

 

 そして再び集中する視線。それも自己紹介を行いやすくするために後ろを向いたため視線をより感じる。それは先ほどまで話そうとしていた自己紹介の内容を消し飛ばすには充分過ぎた。取り敢えず一夏は自己紹介を始める。

 

「えっと、織斑一夏です」

「「「「「……」」」」」

「えー、と……」

 

 もっと言え、何かないのか、それで終わり?と言った無言の言葉が織斑一夏に突き刺さる。一夏としてはその無言の視線を止めて欲しいと願いつつ何とか口にする。

 

「知っての通りISを動かせちゃった男です。色々と分からない事もあると思いますが宜しくお願いします」

「「「「「……」」」」」

 

 一夏としては健闘した方だろう。それで女子たちが納得するかは別として。一夏はもう終わりです!と言ってやろうと思った時、教室に新たな人物が入って来る。

 

「馬鹿ども、それくらいにしてやれ。自己紹介としては不十分だがこの状況では充分だろう」

「ち、千冬姉……」

「織斑先生だ」

「いて!?」

 

 入って来たのはこのIS学園で教師を務めている一夏の実姉、織斑千冬だった。その登場に視線は一気に千冬に向かう。それも先ほどまでの圧力とも取れる視線から憧れを見る視線に変わっている。

 

「き……」

「き?」

「きゃああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

「うお!?」

 

 突如として挙がった黄色い歓声。それは待機を震わし窓ガラスに罅を入れそうな程の超音波を生み出し平然とする千冬と声を出して気づいていないクラスメイト達以外の一夏と山田教諭の耳に襲いかかる。

 

「千冬様よ! 本物の千冬様よ!」

「私、千冬様に憧れて北九州から来たんです!」

「私は樺太から来ました!」

「千冬お姉さまぁぁっ!」

 

 クラスメイトより上がるそれらの声は改めて織斑千冬の人気が衰えていない事を教えていた。引退して5年、初代、2代目のブリュンヒルデの称号は伊達ではないという事だった。しかし、その歓声は千冬を呆れさせるには充分なものだった。

 

「まったく、毎年毎年……。私が受け持つクラスは何故馬鹿どもが多いんだ? 狙っているのか?」

「(いや多分他のクラスも同じだと思うよ……)」

 

 千冬の呆れた言葉に一夏は心の中で苦笑しながら言った。1組じゃなくても2組、3組でも同様の事が起こるだろう。尤も、一夏は分からないが1組は日本人が多い為外国人が多い他クラスでも同じことが起こるという確証はなかった。

 そして、千冬の言葉は黄色い歓声を上げるクラスメイト達の火に燃料として注がれた。結果、歓声は更に高まった。

 

「千冬様もっと罵ってぇ!」

「時には優しくしてぇ!」

「そしてつけあがらないように厳しくしてぇ!」

 

 女子たちの言葉は千冬を無表情にさせるには充分だった。そして、息を吸い込み一言だけ発した。

 

「静かにしろ!」

「「「「「……」」」」」

 

 千冬のその言葉に一気に静まり返る。やはりこのクラスは訓練を受けているのでは、という疑念が一夏の中に浮かび上がって来る。

 

「さて、生徒たちの自己紹介の最中だが先に挨拶をさせてもらおう。知っての通り私が担任の織斑千冬だ。諸君らにISの知識と経験を1年で叩き込む事が私の仕事だ。分からない事は自己完結せずに私か副担任の山田君に尋ねると言い。私もそうだが彼女も日本代表候補生として高い実力と知識、経験を持っている」

「そ、そんな……」

 

 山田教諭は褒められた事で顔を赤くして照れている。一夏もISを起動してから代表候補生や各部門の代表をちらりとだが見る機会があった。山田教諭も過去の候補生の一人として乗っており高い実力を持っていたという記述がされていたのを思い出す。ISの操縦者や整備士を目指す者にとってこの二人の下で教われるのはまさに幸運と言っていいだろう。

 

「では自己紹介を続きから行ってくれ。……ああ、言い忘れていたがこのクラスにはもう一人生徒がいる。急に入学が決まり現在は空か海の人となっているだろう。到着後に自己紹介を行ってもらう予定だから頭の隅にでも入れておいてくれ」

「(もう一人? 急遽決まった……。まさか!)」

 

 一夏は千冬の言葉に何かに思い当たり目を見開く。クラスメイト達も同じ結論に至ったのかざわめきが起こる。しかし、そんな彼女達の想像は外れていた。

 

「因みに、二人目の男性操縦者ではない。ドイツ人の特待生だ」

「特待生? それってかなり優秀なんじゃ……」

「やっぱり織斑君の入学が影響しているのかな?」

「仲良くなれるといいなぁ」

 

 がっかりする半面まだ見ぬクラスメイトの想像する女子たち。そんな彼女達をせかすように自己紹介が行われそのままHRをてきぱきと終わらせ休み時間へと入った。すると1組の廊下には女子たちの壁が出来上がり入学した一夏を一目見ようと集まってきた。

 

「(これがずっと続く訳じゃないだろうけど慣れるまではキツイな……)」

「……一夏、ちょっといいか?」

「え?」

 

 大量に送られてくる視線に辟易していると一人の女性が声をかけてきた。長い髪をポニーテールにした凛々しい顔つきの女性。一夏はその女性に心当たりがあった。幼少期に剣道場で出会い引っ越すまでの間共に過ごした相手。

 

「……箒?」

「ああ、久しぶりだな、一夏」

 

 一夏の幼馴染である篠ノ之箒はそう言って笑った。

 




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