寮にたどり着いた一夏が見たものはまさに女の園と言える風景だった。放課後という事と入学式ということで休みの部活が多い為寮には生徒たちで溢れかえっていた。そして、女性しかいなかったためかみんながラフな服装しかしていない。中には制服を着ている者もいるがそれは少数だ。大半が短パンにタンクトップのような露出の激しい服装をしている。
「……これから、ここで生活しないといけないのか」
当然そんなものを見れば余程性に正直でもない限り興奮より居辛さを感じるだろう。男子が入る事が出来ない場所に入り込んでしまったかのような錯覚に陥った一夏は若干死んだ目でそうつぶやいた。その呟きは隣を歩いていた箒にも聞こえており呆れを伴ったため息をつく。
「全く、初日からそれでは卒業する前に身が持たないぞ」
「そうは言ってもさ、これは流石にキツイというか……」
今にも死にそうな声で言う一夏だがここで生活する以上慣れないとやっていけないだろう。慣れなければ待っているのはストレスによる胃潰瘍か性を爆発させて既成事実を作られるか美人局かハニトラで一生飼い殺しにされるだろう。
「さて、ここが私の……。いや、今は
「一応はな。流石に入り口付近だし迷う事はなさそうだな」
私達の部屋と言う言葉を発したはいいが顔を赤くする箒はそれを気付かれないように先に部屋に入る。部屋は窓側に箒の荷物などが置かれいたが廊下側は入って来るかもしれない同室の為に一切弄ってはいなかった。
そんな廊下側のベッドには千冬が持って来たであろう段ボールが二つ置かれている。片方が衣服で片方が雑貨だろうが本当にこれしか持ってきていないという事実に一夏はため息をついた。
「一夏、私はシャワーを使う。決して覗いたりするなよ?」
「流石にそこまで命知らずじゃないよ」
剣道をずっと続けてきた幼馴染の腕は本物だ。覗きなんてしようものなら二度と直視する事すら出来ない程ボコボコにされるだろう。それが分かっている一夏はあり得ないとはいえ覗くような真似はしなかった。その事に対して少し残念な気持ちを覚える箒だが着替えを持ってシャワー室へと入っていた。数分後、シャワーから水が流れる音が聞こえ始める。
「……箒とこれから一緒の部屋か」
改めて考えてみると中々凄い事になっていると一夏は感じるがそもそも女性にしか動かせないISを男性で唯一動かしたという事に比べれば小さい事なのかもしれないと思考を飛躍させる。
しかし、その長考もすぐに飽きて手持ち無沙汰となった一夏は何とはなしにリモコンをいじりテレビをつける。外国人の為にもテレビはアメリカ、イギリス、フランス、ドイツなどの主要国の番組が映る特殊な仕様となっておりその中から国内のニュース番組を付ける。
【次のニュースです。大東亜共栄圏加盟国であるベトナムとフィリピンにおいてテロが発生しました。犯人は共産系過激派組織と見られており、大東亜統一警察は組織の足取りを捜索しているとの事です】
「またか……。最近多いな」
第二次世界大戦に勝利し、アジアの盟主となった大日本帝国も盤石な地盤を持っているとは言えなかった。日本本土では全く発生していないものの、大東亜共栄圏加盟国ではいくつもテロ行為が頻繁に起きている。それらは共産系であったり日本からの完全な独立を目指す者やただただ権力が欲しい者達等多岐に渡っているがテロが起きる際にはニュースで取り上げられる程大規模な物となっていた。ネットにおいては巨大な組織が裏で糸を引いているという都市伝説が広がっており、ただのテロ組織とは思えない統制が取れた動きからその仮説の信憑性を増大させていた。
「そういや明日ドイツの人が来るんだよな……。仲良くできると良いけど……」
「余程間抜けな姿を見せなければ問題ないだろう」
暫くニュースを眺めていたせいか? 一夏が何となく呟いた言葉にシャワー室を出てきた箒が答えた。一夏がいる為か寝間着らしい着物姿であった。普段はポニーテールにしている髪を降ろした姿はまさに大和撫子と言う言葉がぴったりな姿となっている。
「シャワーを使うか? 私は後1時間程したら夕食を取る予定だが……」
「夕食って学食でか?」
「そうだ」
一夏は一瞬悩むが特に汗をかいたわけではないとはいえ入れるのなら入っておきたい。そう考えシャワーを使う事にした。しかし、体や髪を洗う洗剤を持ってきてはおらず、箒のを借りる訳にもいかない為備え付けられていた石鹸を使う事になり、そう言った面も含めて姉の極端な荷物の準備に涙を流すのだった。
「ふむ、ここか」
成田国際空港から轡木十蔵の運転する車でIS学園にラウラがたどり着いた時には夕暮れを過ぎ夜となっていた。校舎の電気はほぼ消え、代わりに学生寮から賑わいを感じられるほどの明かりが漏れていた。
「ラウラさん。IS学園に入ったので渡しておきますね。先ずは学生寮のカギと学園の地図です。見ての通り広大な敷地ですので最初に来る人は皆迷ってしまうのですよ」
「成程。それは助かります」
ラウラは部屋のカギと地図を丁重に受け取る。鍵には部屋番号が書かれており、地図と合わせて用いることでどこが自分の部屋なのかがわかるようになっていた。ラウラは改めて轡木十蔵に礼を言うと寮に向かって歩き始めた。ドイツ帝国をはじめ主要国が予算と人員を注ぎ込んで作り上げられた人工島であるIS学園は先進的な技術が多数盛り込まれている。とても一学園内だとは思えない見事なつくりの道を進んでいくとお目当ての寮にたどり着いた。全生徒が住んでいるだけあり校舎よりも大きいのではないかと思わせる広さだった。
「来たか」
「っ! あなたは……!」
そんな寮の入り口に立っていた人物を見てラウラは驚きのあまり固まった。スーツに身を包み、凛々しい顔つきでラウラを見るその人物は第1、第2回モンド・グロッソで優勝し、ブリュンヒルデの称号を持った人物。引退した今も尚根強いファンがおり、復帰を望む声があちこちから出ているISを代表する人物。織斑千冬が立っていた。
「知っているとは思うが私は織斑千冬だ。一年の寮長と1組の担任をしている」
「1組……。と言う事は貴方が私の担任と言う事ですか?」
「そう言う事だ。まぁ、お前なら大丈夫だとは思うがクラスメイトを威圧してくれるなよ?」
「勿論です。これから共に学んでいく戦友です。威圧などしたりしません」
軍人と言う事で若干の警戒をしていた千冬だがラウラの様子を見て警戒をする必要はないと判断した。ラウラは軍人らしい迷彩柄の服装をしているがれっきとしたファッションであり決して軍人として思考が固まっている訳ではないと分かる。更に表情も穏やかであり軍人と言われなければモデルと言われても可笑しくない容姿も相まって温和な印象を見せている。
実際のところ腹の内ではもっと別の事を考えている可能性もあるが現状では周囲をかき回すような事はないだろう。千冬はそう結論すると寮を案内する。時刻は既に夜。寮内にはほとんどの生徒がいたが部屋に入っている者がほとんどであり廊下に出ている生徒は少なかった。
「ね、ねぇ。あの娘って……」
「ドイツの……」
「お人形さんみたい……」
スラリとした体形に年下に見えそうな低身長。モデルと言われても可笑しくはない容姿とひときわ目立つ銀髪は嫌でも視線を集める。それもISを扱う者にとって一番憧れる存在と言ってもいい織斑千冬と並んで歩いていれば。周囲の人間全てから視線を向けられるがそんな者は皇帝の警護をしていれば当たり前に起きる光景である。ラウラは全く気にする事なく歩き、ブリュンヒルデの称号を持ち、ラウラ以上に視線を受ける事が多い千冬も気にしていないとばかりに進む。
「知っていると思うがこの学園には男性で唯一操縦できた織斑一夏が在籍している。あいつもここの寮に住んでいてな。いきなりあいつと会っても不審者と思わないでくれ」
「織斑一夏……。確か織斑教諭の弟さんでしたね……。分かりました。よほどの事がない限り私も何かをするつもりはありません」
ラウラの目的は織斑一夏の動向を確認しつつ様々な国のISが集まるこの学園で自分の腕を上げる事である。ドイツ帝国に彼を連れていきたいなどお近づきになりたいなどと言う理由ではない為素直に受け入れる。
「そうか……。ではここがお前の部屋だ。部屋は二人部屋で同部屋の者には事前に通達してある。時差ボケがきついとは思うが明日の授業には遅れないように」
「はっ! ……あ、すいません」
ラウラは千冬の言葉に敬礼を持って答えた。しかしすぐに礼を解く。軍人と言われても可笑しくはない千冬の姿と言動故に出てしまった事だが当の本人は「気にする必要はない。学園生活はまだまだ始まったばかりだ。これから治していけばいい」と言い自分の部屋へと戻っていった。
一人残されたラウラは深呼吸をすると改めて自分の部屋へと足を踏み入れるのだった。
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