「あの、陛下。私達に合わせたいと方というのは……?」
「それは会ってからの秘密さ」
クロエとラウラがフリードリヒに保護され城で済み始めてから一週間が経過した。その間二人は侍女たちの協力の下身だしなみが整えられた。元々素材の良さがわかる程だったが身だしなみを整えてからはその容姿のすばらしさに幾人もの侍女の心をわしづかみにした。
結果、二人は甘やかされた。お姫様を扱うようにお世話をされる二人だったがその様な経験は初めてであり現在もその待遇に慣れずにいた。それでも自分たちに悪意を振りまく存在ではないと知り、少しずつだが会話も増え時には笑みを浮かべるようになりメロメロになる侍女が増えていく、を繰り返している。
そんな二人はフリードリヒの執務室に呼ばれ部屋の中央にあるソファに座っていた。フリードリヒの合わせたい人に合うために。
「ああ、それとこれを渡しておこう」
「これは……?」
「二人の正式な身分証明書だ」
フリードリヒから手渡された紙を見て戸惑う二人。生まれが生まれの為ドイツ語の読み書きはほぼ出来ない二人には何が書かれているのかがわからなかったしフリードリヒが言った言葉の意味さえ理解できていなかった。
それはフリードリヒとて分かっていたので優しい笑みを浮かべながら説明を行う。
「これまでの二人は
「えっと……?」
「まぁ、二人がこれから普通に生きていける為……いや、難しい事を説明してもしょうがないか。その内わかるさ」
「はぁ……」
説明を途中で放棄するフリードリヒになんていえば良いのか分からずに困惑するラウラ。クロエもあまり理解は出来ていないようだが大切なモノというのは伝わったのか大事そうにその紙を持つ。
そうしているとコンコン、と扉がノックされた。来たか、とフリードリヒは扉の方を向き「入れ」という。すると扉が開き初老の男性が入ってきた。威厳のある顔つきをしたその男性は部屋に入ると一度敬礼をしてフリードリヒとクロエ、ラウラの対面にあるソファに腰をかけた。
「クロエ、ラウラ。紹介しよう。彼はゲルハルト・フォン・ボーデヴィッヒ。帝国親衛隊で中級将軍の地位にいる」
「よ、よろしくお願いします?」
「お願いします……」
突然紹介された人物に向けて二人はぎこちなくも挨拶をする。それを見たフリードリヒは話を続けた。
「ぶっちゃけるとゲルハルトは君たちの義父にどうか、と思っているんだ」
「ぎふ?」
「それって何ですか?」
「あー、父親にどうかって事だ」
「父……」
まさかの言葉に二人は固まりゲルハルトをまじまじと見る。眼光は鋭くどこか威圧すら感じさせるゲルハルトだがその瞳の奥には二人を気遣うような感情が見え隠れしていた。
「別に嫌なら嫌と言ってくれていいぞ。養子に入るのが嫌なら他の方法とか考えるしな」
「陛下は、なんで私達にここまでしてくれるんですか?」
クロエはずっと疑問に思っていた事を呟く。彼女達は自分たちが普通の人間ではないことを自覚していた。そして、研究所ではラウラはともかく自分の方は失敗作と疎まれていた事も。フリードリヒが助けに来なければ悲惨な未来が待ち受けていただろうことも薄々分かっていた。
それだけに何故自分たちにここまでしてくれるのか分からなかったのだ。それを聞いたフリードリヒは優し気に微笑んだ。
「あの施設が今まで運営できていたのは俺がしっかりしていなかったせいもある。俺が存在に気付いていれば君たちのような存在が誕生する事はなかった」
「仕方ありません。ドイツ帝国は強大ですが同時に広すぎます。植民地や傀儡国を含めれば世界の5分の1を支配下に置いているのですから」
「だとしても、だ。本来ならこんな研究はあってはいけないものなのだから。だから、これは償いだ。俺がしっかりしていなかったせいで起きた君たちへの、な」
フリードリヒは悲し気にそう言った。
「……嫌だったか?」
「い、いえ!陛下のおかげで色んな事が出来るようになったんです!」
「美味しいごはんとかお菓子とか一杯食べられるしふかふかのベッドで眠る事も出来ます!」
クロエとラウラは慌てたように励ますように言う。そんな二人にフリードリヒとゲルハルトは笑った。笑われた事で顔を赤くする二人の頭に手を置きそのまま撫で始める。
「二人が今後あの研究所でのことを思い出さなくて済むくらいには一杯良いことがあるぞ。ゲルハルトの件はその一つだ」
「……分かりました。ゲルハルトさん、よろしくお願いします」
「お願いします」
クロエは決意したように表情をキリッとさせるとゲルハルトに頭を下げた。それをみたラウラも真似るように頭を下げる。そんな二人を微笑みながら眺めるゲルハルトとフリードリヒ。
「さて、取り敢えず三人で話してみるといい。お互い知っていることなんて微々たるものだからな。一時間程席を外すからな」
フリードリヒはそう言うと立ち上がり扉へと歩いていく。後方からは戸惑いつつ話をしようとするクロエとそんな姉の真似をするラウラの声が聞こえてきて自然とフリードリヒは笑みを浮かべるのだった。
「陛下、よろしいでしょうか?」
「何だ?」
部屋を出てすぐにフリードリヒは一人の文官に呼び止められた。外交を担当するその文官は少し困ったような表情をしつつ話し始める。
「国際IS委員会より定例会議の参加要請が届きました。議題は……、第二回モンド・グロッソに関する事のようです」
「……そうか」
国際IS委員会はIS条約に基づいて設立された国家機関である。ドイツ帝国が予算を大量に提供する事でかなり自由な行動が出来ている。そんな委員会は半年に一度定例会議を行っており条約加盟国は参加を義務付けられていた。
「分かった。参加すると伝えてくれ。今回の場所は何処だ?」
「大日本帝国の伊勢です」
「成程……。もう行っていいぞ」
「はっ!失礼します」
文官は報告を終えるとその場を後にする。一人残されたフリードリヒは思考する。2年前に開催されて以降、4回目を迎えるこの会議だが毎回国同士の対立が行っていた。対立が起こる国は毎回変わっているが今回の議題からまた荒れるだろうな、と予想していた。
「さて、日程は空けてあるからさっさと準備をするか」
「……そろった様ですね」
フリードリヒの下に定例会議の参加要請が来てから一月後、大日本帝国の本土にある伊勢県のとある場所に建造された施設にて国際IS委員会の定例会議が行われようとしていた。
会議が行われる巨大な部屋の中央には円卓のテーブルが置かれそれぞれバラバラの席順で各国の代表者、及び一部企業とIS委員会の代表が座っていた。
「これより第4回定例会議を開催します」
国際IS委員会の代表者による宣言により定例会議が始まるのだった。