フリードリヒが大日本帝国に向かってから二日後の事だった。その日、クロエとラウラは与えられた部屋でくつろいでいた。というより他にやることがなくて暇だった。
フリードリヒの好意で重要区画以外の場所を見ることは出来るが大体のめぼしい場所は義父となったゲルハルトと見て回った為興味をそそられるものではなかった。正確にはクロエにとっては
そんな彼女達がいる部屋の扉がノックされる。「失礼します」と静かな声で入って来たのは彼女達も見たことが無い侍女だった。その侍女は深々と頭を下げると二人に言った。
「エリザベート様がお会いになりたいと申しております」
「エリザベート様? それってどなたでしょうか……?」
侍女の言葉に答えたのはクロエだった。ラウラは少し怯えたようにクロエの背中に隠れている。研究所で育った二人は一般常識、それもドイツ国民ならだれもが知っている常識が備わっていなかったがそれは侍女も分かっていたのか二人に温和な笑みを浮かべて言った。
「エリザベート様はフリードリヒ皇帝陛下の正妃、奥方でございます。今回は陛下が保護成されたお二人を見てみたいとの事で参上しました」
「奥方……」
クロエは侍女の言葉に茫然としていた。自らを助けてくれた彼に対して
「(そんな陛下の奥方が私達を……?)」
クロエは少し会いたくない気持ちが出てきた。妹のラウラの方は会っても構わないと思っているのかクロエの返答を待っている様だった。そんな妹の姿を見てからクロエは悩みに悩んだ末に答えた。
「……分かりました。会います」
「私も……」
「分かりました。それでは案内いたしますね」
侍女は二人を連れて廊下に出る。暫く歩いていくと応接室の前で止り二人を中に通す。
「エリザベート様、クロエ様とラウラ様をお連れしました」
「分かったわ。通して頂戴」
凛とした声で返事が来ると侍女は扉を開ける。そこには20代中盤から後半くらいの美しい女性が座っていた。優美にソファに腰をかけ文句のつけようがない見事な所作で紅茶を飲んでいる。そして二人の姿を見かけるとカレンに微笑んだ。
「こちらへどうぞ。マリー、二人に紅茶をお出しして」
「かしこまりました」
二人を連れて来た侍女マリーはエリザベートの言葉に従い入って来た部屋とは別の扉を開け中に入っていた。三人だけ残された部屋でクロエとラウラは少し警戒しながらエリザベートの対面に座った。緊張もしているのか表情は硬くまるで知らない場所にいきなり連れて来られて怯える子ウサギの様だった。
それだけでエリザベートの花から血が噴き出しそうになるほどの興奮を覚えるがそれを表情には一切出さずに優美に挨拶を行う。
「初めまして。エリザベート・フォン・プロイセンといいます。お二人はクロエ・フォン・ボーデヴィッヒさんにラウラ・フォン・ボーデヴィッヒさんですね?」
「は、はい。今日はお招き下さりありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
「ふふ、そんなに硬くならずともよろしいんですよ? お二人の事は陛下や侍女たちから伺っております」
今にもトリップしてしまいたいほど興奮を覚えているとは思ってもいない二人はエリザベートの言葉に少しだけ緊張を解く。少なくとも自分たちを害しようとしている訳ではないと分かったから。実際はそれ並みに危ない状況とも言えるのだが。
「お二人は侍女見習いとなったと聞きました。職務につくのはまだまだ先だと思いますがそろそろここでの生活は慣れましたか?」
「は、はい。皆さん私達にとても親切で……」
緊張しつつ答えたクロエに微笑を浮かべてゆっくりと聞いているエリザベート。物腰柔らかで決して嫌な顔一つせずに聞いてくれる彼女にクロエは好感を持っていき緊張は少しずつ消えていった。
侍女が持ってきた紅茶を時々飲みながら三人は穏やかに会話を続ける。エリザベートが質問をしてクロエがそれに答え偶にラウラが口にする。世間一般の会話と呼ぶには二人のコミュニケーション能力が足りずエリザベートは地位が高すぎたが少なくとも三人に不満はなかった。
そうして時が過ぎていった時、エリザベートはずっと気になっていた事をクロエに問う。
「クロエさん」
「はい」
「貴方は陛下をどう思っていますか?」
「へ? 陛下、を……?」
「ええそうです。どうやら好意を寄せている様ですので」
「こっ!?」
クロエの顔はまるでトマトの様に真っ赤になる。漫画なら湯気すら出そうな分かりやすい反応にエリザベートはコロコロと笑う。若干頬が上気しているのは見間違いであろう。
「ふふ、可愛らしい反応」
「わ、私は! 確かに私達を救ってくれた陛下に恩義を感じています! で、ですが別に好意なんて……!」
「構いませんよ。男の中で陛下程魅力的な人物はいません」
エリザベートはクロエを落ち着かせるように声をかける。彼女とてフリードリヒに他の女性が好意を持つ事に何も感じないわけではない。だがそれ以上にフリードリヒの状況が仕方ないと言わせていた。
現ドイツ帝国の絶対的権力者である皇帝にして数少ない皇族の生き残り。歳は若く能力は高い。容姿も悪くはないうえに性格は最高ときている。皇帝の妻という立場も世の女性たちにとっては魅力的に映るだろう。正室は無理でも側室に、愛人にと願う者は年々増加傾向にある。そんな彼女達を見て人となりを確認するのはエリザベートの役目であり為さなければならないものだった。絶対に不埒な者を陛下に近づけさせない。本当に陛下の隣で支えドイツ帝国の顔として職務を全うできる強く、気高い女性を。そう思って精査するエリザベートのお眼鏡にあう女性は誰一人としていなかった。
では目の前の少女はどうだろうか? 歳は12と若すぎるがそれはどうにでもなる。側室になったからと言って夜伽を必ずしなければならないわけではない。では野心はどうか? 見ればわかる。彼女に陛下を御して自らの手足にするような気持ちはない。むしろ恩義を感じて淡い感情を抱いていたからこそ隣で陛下を支えてくれるだろう。では才能はどうか? それが問題だがここに来たばかりでこれから適性を選んでいく彼女に求める事ではない。
つまりクロエはまさに側室としては十分すぎる女性だった。ただ彼女は今のままで満足してしまっている為背中を押す必要はあるだろう。
「クロエさん。私は別に陛下が側室をもっても構わないと思っています。ですが問題は側室になろうとしている者達はドイツ帝国の顔である皇族に相応しいと言える者達ではないという事です」
「……」
「ですがクロエさんはそう言った事もありません。野心なんて持たず陛下の傍で仕えられるだけで満足とすら感じている様ですね。だから貴方はふさわしいと思っています」
「……ぇ」
「貴方が陛下の側室に、と望むのなら私も陛下も歓迎します」
「……」
答えを決めかねている様子のクロエを見て今日はここまでと感じたエリザベート。一気に話を進めてもいい事は無い。特に色恋の話には。故に今日はきっかけだけを作る事で満足する事にした。彼女はどうするのか、側室になるのかならないのかどうするかを決めるかは分からないが個人的にはなって欲しいと思える女性だった。
決してクロエを容姿的に気に入ったからではない。
「もし答えを決めたのなら私にお話しください。私は側室にならないと言っても何もしません。今まで通りです」
彼女が困らないようにエリザベートはそう付け足すと初顔合わせを終えるのだった。
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