ドイツ帝国という超大国が君臨するこの時代だが少しづつその影響力は消えつつあった。正確にはドイツ帝国の下で自治を得るだけでは不満だという者達が少しづつ独立をしようと暗躍していると言えた。
それが顕著なのがアフリカに持つ巨大な植民地ミッテルアフリカである。”中央アフリカ”をドイツ語で表すこの植民地は次々と起こる独立運動によって機能不全に陥っていた。旧ベルギー植民地だったコンゴが旧ベルギー植民地地域を全土占領してからはそれに拍車がかかった。
領土の6割以上を喪失したミッテルアフリカ。満足に軍事行動すらとれない程に独立軍は現れる。目の前で対峙していたと思ったら後ろから強襲を受けた。こんな報告が毎日の様にフリードリヒの下に届く。これが前皇帝であったのなら、いやそれ以前からの皇帝であったのなら武力を用いて無理矢理鎮圧していただろう。しかし、フリードリヒは違う。植民地支配を”時代遅れ”と感じている彼にとってこの独立運動をどうやって
「陛下……。ダルエスサラームが陥落するのも時間の問題と思われます……」
「そうか……」
ミッテルアフリカの首都ダルエスサラームは現状数少ない平穏を維持している都市であった。しかし、独立運動はここにまで到達する勢いでありここが陥落した時ミッテルアフリカは崩壊するだろう。それだけ重要な拠点だった。そもそもミッテルアフリカで独立運動の波に乗っていない場所はマダガスカルを除き存在しない。別にマダガスカルが統治に満足している訳ではない。
「……仕方ない。ミッテルアフリカは解体し各民族の意見を尊重して独立を……」
「問題はそれを相手が受け入れるかどうかですな」
アフリカ民族のドイツ憎しは強い。彼らはミッテルアフリカで都市を襲いながらドイツ人を見つけては残虐に殺している。その中には偶々滞在していたドイツ人以外の、白色人種も混じっていたが白い肌を持つ者であればドイツ人とみなして容赦なく殺していた。もし外交の使者を送っても対話すら出来ずに殺される可能性があった。
「一番良策なのは全面撤退をする事でしょう。白色人種をミッテルアフリカから逃がす事が出来れば彼らとてうっぷんが下がる可能性があります」
「……諸外国の動きが気になるな」
「仕方ありません。この際どんな誹りでも甘んじて受け入れるべきでしょう」
皇帝にそう進言する初老の男性、この国の宰相は強いまなざしでそう言い切った。ミッテルアフリカは現地の総督が好き勝手にやっていた為酷い有様だった。白騎士事件とゲルマニア事変が重なった事もありフリードリヒがミッテルアフリカの詳細を知った時には手遅れだった。
「ミッテルアフリカから全面撤退させるにはどれくらいかかる?」
「荷物なしなら早く一週間、アリなら一月は覚悟するべきでしょう。無論ミッテルアフリカの詳しい戦況が分かっていないので最悪の場合ドイツ人の
「……」
どうにもならない現状にフリードリヒの顔は歪む。ドイツ帝国がこれまで行ってきたツケを一度に払わされる時が来たのである。フリードリヒは一度握り拳を作り机を思いっきり叩く。ドンッ! という音が部屋中に響き渡る。宰相は止める事はしないでその様子を眺めていた。
「……すぐに撤退をせよ。空港、港を最優先で確保・死守しドイツ国民が逃げられる状況を作るんだ」
「了解しました。直ぐに実行に移させます」
宰相はそう言うと部屋を出ていった。一人残されたフリードリヒは座っていた椅子に背を預けると深く息を吐いた。その時になって机を叩いた手から鈍い痛みが伝わって来る。フリードリヒはその痛みを心に刻むように手を見ると呟く。
「ドイツ帝国の裏と表。今まで見て見ぬふりをしてきた俺達の報いか……」
そう呟きフリードリヒは一人でも多くの国民の逃走が上手く行くことを願うのだった。
ドイツ帝国の西に位置する巨大な地域。ロシア。そこにはかつてロシア帝国という巨大な国家が存在していた。しかし、20世紀中ごろにドイツ帝国とロシア帝国の間で戦争が発生するとオーストリア=ハンガリー二重帝国が提唱しドイツ帝国が行った大露包囲網によってロシア帝国は崩壊。中央アジアやコーカサス地方では各民族が独立を宣言し残ったモスクワを含めた西部をドイツが、広大なシベリアを日本が統治することでロシアという国は消え去った。
……かに思われた。1991年。ロシア地方において大規模な反乱が発生した。数十万から100万に及ぶロシア民族が祖国の奪還を掲げてドイツ・日本に独立戦争を挑んだのである。ドイツと日本は軍隊を派遣し鎮圧を行おうとするが失敗し最終的には大半の土地を奪還する事に成功した。とは言え完全に奪還できたわけではなく西方ではモスクワ以西に改めて建国されたモスクワ公国が依然として存在し、当方では沿海州に依然としてシベリア共和国が存在している。
それでもロシア民族が歓喜に包まれていた。約50年に渡る時を得てロシアは再び国家として独立を果たしたのだから。ロシア共和国と名付けられたそれは直ぐに政府、行政、立法、軍事が立て続けに整備され僅か5年で最低限ではあるが国家としての基盤を整える事に成功した。そんな激動の時代より早20数年。白騎士事件を得て世の中の軍事力が一変した現在においてはロシア共和国はドイツ帝国、大日本帝国、イギリス連邦、アメリカ合衆国に次ぐ”大国”として世間に認知されつつあった。
そんな彼らの最終目標は”全領土の回収”であった。それにはモスクワ公国やシベリア共和国の領土も含まれており加えてコサック・クバーニ連合などのコーカサス地方の国々も含まれていた。
「我らは50年の長きにわたりドイツ帝国と大日本帝国から圧政に耐え、独立を勝ち取った! 我らが祖国の土地を取り戻す日は必ずや訪れるであろう!」
ロシア共和国大統領クラーヴジヤ・メレンチェフはそう高らかに宣言して国民の士気を上げた。2代目である彼女が大統領になってからというものロシアは急速に女尊男卑が浸透していった。彼女が男嫌いというのもあるがロシアの国力を伸ばすのに丁度良いと思ったからだった。
ロシア共和国は数少ない女尊男卑国家となり世界中の女尊男卑擁護団体が拠点を移しロシアから活動するようになった。ロシア民族の男性たちは自分たちが勝ち取った祖国が可笑しくなっていく事に下を向き耐える事しか出来ない。気づいた時には、反対運動を起そうとした時には手遅れだったのだから。
こうしてロシア共和国はその人口を更に増やすと同時に世界中の技術や知識が集まり国力を飛躍的に伸ばす結果となった。しかし、その代償として男性がこの世で最も住みづらい、生き辛い国家となった。これが結果的にいい方向に向かうのか、破滅の道を歩む事となるのかはまだ誰にも分からなかった。
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