生存戦争 ~転生者バトルロイヤル~   作:セリカ・シルフィル

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第十話 『敗北』

 初戦となる生存戦争の当日。

 いつもと変わらぬ毎日を送る一人の無職は、上位世界で眠りにつき、セヴンスとなる。

 天界で目覚めると黒髪の美少女にも見間違える美貌を持つ神殺しが目覚めのご奉仕をしていた。

 

「……んっ……ちゅぅ……ぁ」

 

 上着を脱がされ、セリカの舌で乳首を舐められているセヴンスは、ゾッとしながらベッドからセリカを退かす。

 かつてのセヴンスだったなら、禁断症状の発作で喜んでいたかも知れないが、上位世界にいる間ずっと天界にある身体から<性魔術>で性欲を奪われ続けているセヴンスは、男に乳首を舐められているという現実が正常に気持ち悪く思える。

 このまま性欲を奪われ続ける日々が続いて性欲を失うなんて事にならないよな……。

 

「っふん! 人間……よもやそのような趣味に目覚めていようとはな」

「」

 

 久々に聞く、聞き覚えのある声に嫌な予感が背中を逆なでする。

 恐る恐る振り返ると不愉快そうに顔を歪めている銀髪の美少女、メルティアがそこにはいた。

 

「いやっ、これは違うんだ。話せば長くなるかもしれないが――」

「やめろ! 言い訳なんて聞きたくない。貴様がそういう性癖の持ち主だということはよくわかった。だからメアではなく、セリカを転生特典に選んだこともようやく納得できるから!」

「だから違うって言ってんだろ!」

 

 妙に興奮気味のメルティアに必死になって説得し、現在悩まされている呪いに等しい現象を説明することでやっとメルティアはやっと納得した。

 ベッドに投げ出されていた上着を着ると先程とは一変し、真剣な目つきでメルティアに話しかける。

 

「メアが出てきたってことはようやく自由期間が終わって生存戦争が開始されたって受け取っていいんだよな」

「そうだ。メアは誓約の一つにある申請の確認に来ただけだ。貴様の対戦相手、同じ人間の第十位(テンス)は既に申請を終えているからな」

「へぇ、なるほどな。てっきりファーストが初戦の相手だと思っていたが、彼奴も真剣に駒を増やそうとしていただけだったのか」

「……ファースト? おい、人間。どうしてファーストの名が今ここで出てくる」

「あー……気にするな。最近になって偶然出会っただけだ」

「……偶然? 確か天界で転生者候補生達が鉢合わせするようなことは……まあ、別にいいか」

 

 何やら考え込んでいたようだが、悩みを深追いする性格でもないらしく、すぐに顔は晴れる。

 

「それで俺も申請しときたんだけど。何か準備とか必要だったか?」

「いや、必要ない。敢えて必要な物があるとするなら、それは貴様の返事だけだろうからな」

 

 ニヤリと笑うメルティアの顔に意味深い何かを感じたが、次の現象に気を取られて忘れてしまう。

 水滴が水溜りに溢れ落ちるような音が聞こえ、咄嗟に振り返るが発信源には誰もいない。

 だが、天界はその空間の性質を変え、蒼い空の世界に包まれる。

 透明だった世界は蒼く染まり、まるで水の中にいるような感想を抱くが酸素があり、周囲は見覚えのあるセヴンスが受け取った部屋のままだ。

 

 セヴンスはこの現象に心当たりがある。

 それどころかファーストがゲームマスターとして選ばれたことで、予想すらしていた。

 <悠久の幻影(アイ・スペース)>

 恐らくはゲームマスターを任されたファーストが場作りの為に用意した特殊な概念魔術空間の一つ。

 フォルテシモの設定では、この空間には通常『召喚せし者』以外は存在できず、それ以外の生物は互いに干渉することが不可能となる。

 故に、この空間で破壊された建造物などは全て実際の世界への影響を及ぼさない。

 

 本当にゲームマスターとしては有能過ぎる転生特典である。

 振り返っていた顔を戻すとメルティアの姿はなく、ベッドの上でチョコンと座っている神殺しだけだった。

 メルティアも<悠久の幻影(アイ・スペース)>の中では例外なく干渉出来なくなるのか。それとも、主催者として傍観に走ったのか。

 幾ら考えても憶測の域を出さない問題だったが、仲間でもないメルティアに時間を割く訳にもいかず、セリカを連れて部屋を出た。

 

 神殿内を黒髪の神殺しと歩きながら試行錯誤する。

 ファーストと出会う前までは、どのように生存戦争をするのか気になっていた。

 メルティアに出した条件の中に一体一が含まれていたからだ。

 当初は同盟などで利害の一致する相手と組むことが生存戦争の鍵だと思っていた。

 実際にファーストが勧誘しに来た時も想定していたからこそ冷静に判断して拒むこともできたのだ。

 今回の出来事はその計算の全てを覆す事象でもある。

 この空間では間違いなく、存在するのはセヴンスとセリカ。そして対戦者たる謎の人物テンス。

 

 そこでやっと気づいた事実だった。

 相手側も<悠久の幻影(アイ・スペース)>の効果を知り、ファーストと接触していれば、セリカと同時にセヴンスを発見されてしまうとどう思うのか。

 

「まず考えそうなのは誓約の違反。次は正解である転生特典か」

「……?」

 

 セリカがセヴンスの呟きに首を傾げているが、この際は指摘せずに無視する。

 

 前者ならば、警戒程度はするかもしれないが、後者だと厄介である。

 何故なら間違いなく狙われるのはセヴンスの可能性が高いからだ。

 女性と勘違いしたり、セリカの登場する原作を知らない場合はセヴンスを特典だと判断される可能性もないわけではないが、気づかれるのも時間の問題である。

 

「セリカ、俺の傍を離れて歩け。誰かが接近する気配を感じればすぐに応戦しろ。俺が命令するまでは余計なことをするな」

「ああ、わかった」

 

 こうしてセリカはセヴンスからは見えない程度まで距離を取った。

 神殿の外へ出ると軍服を着た三十代の男が既に先客として待ち伏せしている。

 セリカは単純に神殿の門に隠れているので気づかれてはいないだろう。

 

「貴様がセヴンスか」

「そうだと言ったら?」

 

 挑発するように返答するセヴンスに対して男は訝しむように見つめ、名乗りを挙げる。

「私は第十位(テンス)。能力は<強制召喚>だ。何処にも含まれない自分で指名した能力故に作品名ではなく、能力名で勘弁してもらう」

「いや、十分だ。俺はさっき頷いたが第七位(セヴンス)だ。悪いが此方は能力名は教えられない。転生特典の原作は『戦女神』」

 

 お互いに所有する特定の情報を共有したが、テンスの表情は変わっていない。

 何かを考えているなら、少しでも顔に出るだろうし、様子を見る限りでは知らないのか。元より興味がなかったのか。

 逆にテンスの能力は分かりやすい。

 <強制召喚>は、『何か』を召喚することが前提となるので前記に『強制』とあるのは『何か』を強制的に働かせる類だと判断できる。

 

「それじゃあ始めさせてもらうが……――この程度で『死ぬ』なよ?」

「――――ッ!?」

 

 セヴンスの口元がニヤついた瞬間、テンスは咄嗟にその場から距離を取る。

 頭上からは無数の稲妻が地上へ突き落とされるが、テンスは掠り傷程度で最初の関門を突破する。

 

「ほらぁほらぁほらぁ! どんどん行くぞ! 俺を楽しませろ!」

 

 次々と天より放たれる電撃はテンスを追尾するかのように彼のいる地上へ落下してくる。

 それを巧みに避けるテンスの技量も中々のものだが、全てを避けきれているわけではなく、無数の傷を背負っていた。

 少しずつだが、テンスはセヴンスへ接近を図る。

 セヴンスの予想ではテンスはセヴンスの能力を遠距離型<落雷>だとでも勘違いしたのだろう。

 警戒心を緩めていないのは、その根拠が憶測の域に達していないのか。それともただ油断していないだけなのか。

 テンスの接近が近くなればなるほど<落雷>の数は減っていく。

 万が一にも間違えて自分に当たってしまっては元も子もないので、セリカには常にセヴンスの近くでは<落雷>を使用するなという命令が今になって仇となるか。

 接近戦でも落雷を使用できるように訓練を施した方がよかったかも知れない。今になって悔やまれるが、今は現状の問題を優先する。

 

「――――ハァ!」

 

 <落雷>を避ける勢いに乗ったテンスは、右手にひと振りの刀を出現させると真っ直ぐセヴンスを突き出す。

 それを待ってましたとばかりに神殿の門を突き抜けて強力な<雷撃>が一直線にテンス目掛けて飛んできた。

 

「っなぁ!?」

 

 目を見開いたテンスは左腕で防ぎながら慌てて距離を取る。

 しかし感電している以上は身体全体に痛みが走っているだろう。

 左腕は痺れているのか痙攣しながらも自由に動かせそうにはない。

 

 壊れた神殿の門からはセリカの姿がバッチリと顕現している。

 

「……二人? いや……違うか」

 

 テンスはセヴンスと黒髪の美少女にも見間違えそうな神殺しの両方を見ながら思考していた。

 だが、そんな隙を逃すほどセヴンスは優しい性格をしていないし、セヴンスはテンスの都合に合わせてやる必要もない。

 

 再び、<落雷>の嵐がテンスを襲う。

 しかし、先程テンスにセリカの姿を見られたのは失態だった。

 左腕は封じ、身体も痺れて本領が出せないだろうが、それでも彼は避け続ける。

 神殿の門から<雷撃>が飛んできたこともあり、テンスは間違いなくセリカを疑うだろう。

 

「セリカァ! 前に出ろ!」

 

 命令に従ってセリカはテンスに接近戦を仕掛ける。

 テンスもセリカを魔術師の類だと考えていたのか少しばかり動揺があった。

 だが、彼の技量はセヴンスが思っていた以上に素晴らしいもので当初は身体能力を気取られないように隠していたのか。今は見間違えるほどに素早く、的確にセリカと互角の戦闘を繰り広げていた。

 

 黒髪の神殺しの速度は人間の限界を遥かに超えた速度で拳を突き出していたが、テンスはそれを受け流すことで神殺しというアドバンテージを相殺し、人間の身体能力で渡り合っていた。

 隙あらばテンスは斬撃でセリカを沈めようとし、それを避けたセリカが拳による一撃を繰り出そうとするが、テンスはその全てを完璧に受け流す。

 一つでも歯車が狂ってしまえば、勝敗が決する戦いをセヴンスは見守ることしかできない。

 セヴンスもセリカと一時は訓練したことがあるが、テンスの動きは明らかに素人のそれとは全く異なる。

 無理に介入すれば、足でまといになるのは目に見えている。

 

 暫くの間、均衡が続き、勝負は続いた。

 しかし均衡が崩れるのは一瞬の出来事である。

 

 テンスは何を血迷ったのか接近するセリカに対して背後へ距離を取ると右手に所持していた刀を投げつけ、踵を返して走り出した。

 咄嗟の自体であったが、セリカは正確に刀を受け止め、無傷で振り返る。

 

 そこには猛速度でセヴンスへ駆け寄るテンスの姿が映った。

 

 暫く続いた戦闘で大口を叩いていた割には何もしてこないセヴンスに対してテンスは疑問が沸いていた。

 そして、それはセヴンスが逃げ腰になることで確信へと変わる。

 セヴンスは何もしないのではなく、何もできないのではないか。

 それが先程までずっとテンスの抱いていた疑問であった。

 

 セヴンスとテンスにはかなりの距離があり、セヴンスへ接近しようとするテンスの姿を見たセリカは急いでテンスの後を追った。

 どれだけテンスの足が速かろうと人間と神殺し。

 その差は見る見る内に縮まっていく。

 それに対してセヴンスとテンスの距離はまだ大分開きがあった。

 そこで安心してしまったセヴンスは致命的な油断を引き起こしてしまう。そして、その油断を見逃してくれるほどテンスも余裕はなかった。

 油断してしまった瞬間を狙ったかのように右手から槍を出現させたテンスは、背後から迫ってきているセリカにもお構いなしとばかりに槍の標準をセヴンスに定める。

 構え方から誰から見ても槍を投げる姿勢だと分かる。

 

「――くっ!」

 

 油断してしまったことで対応に遅れたセヴンスはそれでも逃れようと試みるが、油断大敵。

 テンスから放たれた槍は、容赦なく、正確にセヴンスの心臓を貫いた。

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