生存戦争 ~転生者バトルロイヤル~   作:セリカ・シルフィル

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第十三話 『高嶺咲』

 顔面はそれ程美形というわけでもなく、遠目から見れば何処にでもいるような、黒髪の冴えない男は、片手に花束を持ち外出した。

 男を見ている周りの人々は、特に彼を気にする必要はなかったが、何をしているのかを想像すると大抵の人は、情けない男が勇気を振り絞って告白しに行く瞬間だと思ってしまうかも知れない。

 それとも、ただ、墓参りの為に用意したものだと思うかもしれない。

 答えは、どちらでもあり、どちらでもない。

 男が向かった先は何気ない病院であった。

 その病室では、もう何年も前から目覚める気配もない一人の美少女が眠っている。

 花束を飾り、男は少女を見る。

 彼女はどんな医療を施しても、どんな悪さをしても、目覚めることはない。

 綺麗な長髪に化粧をせずとも若さと美貌を同時に兼ね備える人形のような少女。

 彼にとって幼馴染であり、初恋の相手であり、当然のようにいつも隣を歩いてくれていた存在。

 気づけば、男は少女に恋していた。

 美少女に分類されるほど可愛かったから好きになれたのかもしれない。彼女の持つ優しさの触れ合えたから好きになれたのかもしれない。

 そんな希望の象徴でもあった少女は、ずっと眠り続けている。

 少女が眠り始めてから、男の人生も歯車が噛み合うように狂い出した。

 いや、狂い始めた原因は少女にあったのかもしれないが、その後からの失敗は全て男自身の責任である。

 変わろうと思えばいつでも変えられた。

 自分の人生が狂ってしまった原因の全てを未だに目覚めない少女に押し付けてしまっている情けない男こそが変わらなければならなかったのだ。

 少しでも前を踏み出せば、やり直すだけの機会は幾らでもあった。

 心の傷は時間が忘れさせてくれる。

 それでも愚かな男は前を踏み出す恐怖に怯えて待ち続ける。

 時間という敵に負けて、本当に覚えていなければいけない約束を忘れてしまわない為に。

 

 寝ている少女の目を向ける。

 スヤスヤと眠っている彼女はどんな夢を見ているのだろう。

 楽園のような世界を旅している夢なのかもしれない。悪夢を現実として捉えて苦しんでいるのかもしれない。

 どんな夢を彼女が体験しようとも、男にはそれを認識するだけの能力は持ち合わせていないのだ。

 もしかするとただ暗闇の中を彷徨い続けているだけかもしれない。

 いつからだろうか。

 ずっと隣を歩いていた彼女と自分の距離が取り返しのつかないところまで離れてしまったのは……。

 寝ている彼女を見ている度に思い出される。

 彼女と過ごしてきた大切な日々を――。

 

 ――『おはようございます、変態。約束通り罰ゲームで朝起こしに来て上げましたよ。え? 朝のお世話もしろと? 私にどんな卑猥なことをさせるつもりですか? この外道が』

 

 ――『いや、罰ゲームはお前が悪いし、そんなことは一言も言ってねぇだろうが』

 

 ……あれ? 思い出せ。

 忘れてはならない大切で掛け替えのない思い出を――。

 

 ――『……ぁ……だめぇ……これ以上は……妊娠、しちゃうぅのぉ……!』

 

 ――『お前よく人様の家で堂々とエロビを見ていられるよな。どういう神経してんだ』

 

 ――『これは貴方のエロビですよ? ベッドの下で見つけました』

 

 ――『いや、そういう問題じゃねぇから』

 

 ――『そういう問題ですよ。だって、貴方は幼馴染の私にエロビを見させて興奮する変態なんでしょう』

 

 ――『俺はお前の中でどんな扱いを受けてるんだよ』

 

 ――『私を人気のない公園に連れ出して茂みに誘導して押し倒して妊娠させた変態』

 

 ――『そんなことした記憶ねぇよ。大体お前まだ中学生だろうが』

 

 ――『貴方だって同じじゃないですか』

 

 ――『…………』

 

 ――『…………』

 

 ……ロクな思い出がない。

 どうしよう。……やっぱり病院通うのやめて真面目に仕事探そうかな。

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