生存戦争 ~転生者バトルロイヤル~   作:セリカ・シルフィル

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第十五話 『毒舌清楚系眼鏡彼女』

 世界が生まれ変わる瞬間を垣間見る。

 世界から拒絶され、独特の浮遊感に包まれていく。それは上位世界から天界へ移動する時のような感覚。

 

「ここ、は――……」

 

 一度は不意打ちと言えど立ち寄らざる得なかった新世界に動揺するセヴンス。

 そこは、住み慣れていた神殿の部屋とは明らかに異質な世界だと見ただけで、吸っただけで、触れただけで理解する。

 <始まりの大地(イザヴェル)>

 

 この生存戦争のためだけに用意された話し合いの世界。

 フォルテシモという作品に登場する魔術で創り出された概念魔術空間の一種。

 ゲームマスターであるファーストが管理、支配している数少ない空間。

 

 どこまでも続くような広大な草原、幻想的な光の輝き、美しくも儚い印象を植え付けられる世界。

 まるで自分達の他には、何の生命も存在しないような……時間という概念が消え去ったような、そんな世界。

 

 セヴンスは知っている。

 <始まりの大地(イザヴェル)>に入場できるのはゲームマスターであるファーストに招かれた者だけであると。

 それは原作を知っているからであり、同時に実際に経験したことだからだ。

 

「いるんだろ。出てこいよファースト。覗き見とは趣味が悪いな」

 

 一つの人影がセヴンスの前で揺らめき合い、人の形を象っていく。

 それはやがて黒髪の少年を産み落とした。

 

「なんてことはない。戦略の一つさ。この生存戦争で珍しい戦い方をしている少女に興味が湧いてね」

「あー……なるほどな。けど、やめといた方がいいぞ。あの女はお前の手に負えるような相手じゃない」

「それはどうかな。確かに彼女と僕の相性は君が思っている以上に最悪だ。けれど、似た者同士というのは解せないよね。似ているからこそ、何処か自分とは違うところが分かりやすい。だからこそ、仲も相性も悪い」

「なんだ……わかってんじゃねぇか」

 

 高嶺咲を心配しての提案でもあったが、同時にファーストとの仲が拗れて悲劇を招きかねない。

 そう考えてもいたが、どうやらファーストも愚かではなく、その程度は十分に理解していたらしい。

 ……似た者同士。ある意味ではその通りかも知れない。

 

「それじゃあ僕は言われた通りに退散させて貰うとするよ。彼女が君と手を組むというなら、彼女は僕の敵であり、君が彼女と手を組まないというなら僕は彼女の敵ではない」

「忠告のつもりか? お前は一言も『味方』だとは言ってねぇのに」

「ははっ、やっぱり君は面白いよ。セヴンス君。確かに味方でもないね。言っただろう? 僕は傍観者で居続けると。上記の君の発言は通用しない」

「後悔しても知らねぇからな」

「それこそお互い様じゃないか。精々、僕と君が対峙するその日まで僕を楽しませてくれよ」

 

 その言葉を最後にファーストは再び影となり、セヴンスの影に吸収されて消えてしまった。

 眼前にファーストとは別の人影が揺らめき合う。

 その人は、小柄な体格で、反対的に胸が非情に大きい不安定な身体付きであったが酷く大人しい印象を受ける女性でもあった。

 

「お久しぶりですね。高貴で高名な私のご主人様」

「久しぶりだな。相変わらず冗談の通じない悪戯をしてるようで安心だ」

「そうでしょうか。私の胸を熱くさせるこの思いは貴方が知らないだけで本心かも知れませんよ。言葉では拒絶しつつも、本心ではチョロイン曰く貴方を猛烈に慕っているのかも」

「飴と鞭の使い方が下手だな。お前の場合は一方的に相手を嬲る方が楽しんだろ。俺の知っている高嶺咲って人間はそういう奴だったよ」

「人は変わるものです。変わらないものなんて存在しません」

「…………」

 

 『久しぶり』とお互いに挨拶したにも関わらず、その会話は、常に会っているような感覚である。

 セヴンスも何も感じないわけではない。しかし、高嶺咲の変わらない反応を返すには対応するしかない。

 

「見てくれだけなら清楚系眼鏡美少女なのにな。毒舌の一言がなければ完璧だ」

「そうでしょうか。以前の貴方は身体のバランスが悪いやら、私の告白を十三回も振った偉大な人物ではないですか」

「よく覚えてるな。そんな細かいこと」

「一度覚えたことは絶対に忘れないので」

 

 眼鏡を賢そうにズラしながら口元が笑っているので台無しである。

 そんな彼女を見ているだけでやっぱり根本的なところは変わっていないのだと実感する。

 

「どうしたのですか? 情熱的な眼差しで私を見て……ハッ!? 久しぶりに再会した幼馴染にエロい視線を送って喘がせたいという欲望に駆られたのですね!? そうですね。相変わらず、無害そうで中身は危険な男。でも安心してください。そんな屑な貴方でも私は貴方を愛します」

「誰だよ。そんな欲望に忠実なセヴンスは……。それが今の俺なら、もう少し<性魔術>についても従順に進んでる筈なんだけど」

「……なんですか? それ。……<性魔術>? 聴き慣れない単語ですね。ゲームやアニメで使われる単語のようなものでしょうか。これでも私は良い子なので詳しくわからないのですが」

「良い子ちゃんアピールと相手の能力詮索を同時に行った……だと……。それに<性魔術>が知られたら男として終了じゃねぇか!?」

「私は既に人として終了していますが」

 

 <性魔術>で男と一線は超えていないが、それ以外のことを仕出かしている等と知られてしまうと一番面倒な種類の人材である。

 主に一生からかわれる材料にされかねない。

 

「本当に変わってないな。高嶺咲」

「あら? 一年前のように咲って呼び捨てにしてもいいんですよ。逆に貴方に苗字まで呼ばれると吐き気がします」

「なんでだよ!? なに? なんで俺が発言するたびに罵られてるんだよ。俺だってお前がそこまで無防備じゃなかったら……」

「……なかったら? 私をどうするんですか?」

「……ならかったら……お、襲ってたかもしれないだろ。告白だって格好つけて弱みを握られてるかも知れなかったし。お前の場合は、防御力固めに見えて、中身は無防備同然なんだから自覚くらいしろよ!」

「必死なところも可愛いですね。まるで初心な人みたい。それとも久しぶりに再会した自分の女が変わっていないことに安心でもしましたか?」

「否定もしないし、肯定もしない。ただ、自分の女ってところは否定してやるよ。……正直に言えば変わってないお前を見て安心してた……かも知れない」

「それはお互い様でしょう。貴方だって変わっているようには見えません。いえ、正確には『あの日』から変われなくなってしまった私とは違って、変わろうともしない人ということは見ただけでわかります」

「…………」

 

 意地悪そうな視線を向ける高嶺咲とは正反対に冷ややかな汗を流すセヴンス。

 彼は変わろうと思えばいつでも変われたのだ。

 変わる機会すら失ってしまった高嶺咲とは違って。

「なるほどな。抜けているようで防御(ガード)は完璧じゃねぇか」

「お褒めに預かり光栄です。……忠告に一つ。変わらないものは存在しない。例え変わりたくなくても変われないものはない。それは貴方も例外じゃない」

「……忠告感謝する」

 

 やはり高嶺咲はファーストと似ている節がある。

 似ているだけで本人ではないが、何処か腹の中を見れない感じである。

 何を考えているのか。何を隠しているのか。何を抱えているのか。

 全てが見えず、見せずの幼馴染は最高に怖い。

 

「怖い顔をしないでください。そんな顔をさせる為に勝利を捨ててまで貴方と対話するための席を用意してもらったわけではないのですから」

「さっきまで盛大に罵っていた奴の言葉とは思えねぇ。それに対話するだけなら戦争に参加してても可能だっただろう?」

「保険ですよ。名乗りを挙げたら自由ですから。自分の罪の重さに耐えかねて攻撃されても困ります。信じてはいますが、人は思っている以上に脆いものなんですよ」

 

 薄く笑う高嶺咲とは対照的にセヴンスは底の見えない闇を見ているような気分に浸かる。

 『棄権』の単語を思い浮かべたことで、自分が呼び出された理由を一度も訪ねていないことに今更ながら気がつかされた。

 今までの全てが話を逸らすためのフェイクならば、高嶺咲という人物がどれだけ話術に優れているのか分からなくなる。

 話の流れから<性魔術>について聞き出そうとすらしていたのだ。

 反応と評価を同時に改める必要も出てくる。

 

「それで遅くなったが俺を呼び出した理由はなんだ?」

「やっぱり気づかれてしまいましたか。いえ、久しぶりの会話で随分と図々しく成長したなぁと思いまして。私を殺して逃げたくせに……。本当にどの面下げて私の前に顔を出してきたんでしょうね。貴方という人間は……」

「否定も、肯定もしない。お前が思ったならそうなんだろうな」

 

 二人の間にある圧倒的な溝が見えた瞬間だったが、それを埋める材料は何もない。

 いや、材料があるとすればこれから提示される問題の内容が左右するだろう。

 だが、セヴンスもこれ以上は負けるわけにはいかない。

 立場的に無駄だと判断すれば幼馴染でも切り捨てる覚悟が必要である。

 認識を改めよう。ここはもう、ただの悪夢ではない。

 精神的に苦痛を与えられるだけの世界ではなく、良くも悪くもセヴンスが『選択』しなければならないのだ。

 変わるために。

 

「率直に言います。私は貴方と共同戦線を張りたいと思っています」

「……ファーストの差金か?」

「……ファースト? ああ、初戦の相手ですね。そういえば私にも戦闘前に話を持ちかけられました。まあ、あの程度と組むなんて死んでもごめんですから。しっかり殺して上げましたよ」

 

 つまり、ファーストとは縁がない? いや、ファーストと初戦で相対しているのだ。

 だが、高嶺咲の口ぶりからファーストが負けたと聞こえる。

 奴自身も自分が最強だと自負していたにも関わらず?

 

「単純に私とファーストの相性が頗る良かっただけですよ。私の『魔眼』ではハッキリと彼の『神の見えざる掌』を観測出来ましたので」

「……『神の見えざる掌』?」

「……あれ? まだ、対戦していないのですか? てっきり私は前提に考えていましたが」

「今が二回戦だろ。初戦の相手がお前だったならどうあっても俺とファーストが戦えるわけがない。それに俺がファーストと出会ったのはここだ」

 

 後から気づいたように『ハッ』と反応するがわざとらしかったとだけ言っておこう。

 それから提案された共同戦線の内容については単純なものだった。

 

 曰く、お互いに敵同士だが、勝利した場合の願いを同一化するという内容。

 元々勝利してもその先のないセヴンスが手に入れることのできるかも怪しいものだったが、願いの内容が『勝利者を指導者として、生存戦争に参加した他の転生者候補生も同様に転生させる』というものだった。

 提案は曖昧なもので、拒否しても良かったが、自分が敗退したときの保険が用意されていると思えば気も軽くなる。

 既に一戦目を敗北しているので、共同戦線を張る意味はあるかもしれないが、その場合は自分の願い枠が潰されることになる。

 願いのないセヴンスが願うとすれば、こんな茶番劇の悪夢を終わらせて欲しいことくらいだろうが、その願いは叶えられないことは承知済みだ。

 よって、セヴンスは保険程度と考えて了承した。

 

 その後は、セヴンスの生活と高嶺咲の生活を話し合った。

 無論だが、共同戦線を張ったといえど情報漏洩しない為にもセヴンスは極力転生特典の内容は秘匿にする。

 

「俺はお前がいなくなってからは人間社会ではダメな人間になったけど、お前はどうなんだ?」

「そうですね……ダメ人間な貴方と違って有意義に死後の世界を満喫していますよ」

「死後の……世界?」

 

 セヴンスの知る限りでは高嶺咲は数年前……いや、正確には一年前が正しい。

 その頃になってとある事件に巻き込まれて重軽傷を負って未だに昏睡状態に陥っている筈である。

 高嶺咲の親族の中にはもう無理に生き続けらせるよりも終わらせた方が本人の為ではないかという空論も出始めているが、両親が猛反発して防いでいる。

 しかし、それをここで口にすれば何かが変わってしまうかも知れない。そう思ったが、その前に高嶺咲が語った死後の世界というのが気になった。

 

「不幸な人生を送った者だけがたどり着ける世界。私の場合はどれだけ手を伸ばしても届かなかった高校生活を満喫しています。まあ、満喫し過ぎて消えてしまう人も偶に見かけますが」

「消える? どういうことだ」

「死後の世界に運ばれてくるのは不幸な人生を送った者だけと言いましたよね。経験した不幸な体験よりも幸福な人生を死後の世界で送る事が出来ると死後になって残る未練がなくなり、消えてしまうのですよ」

「成仏ってことか?」

「そうですね。そう考える人も大勢います」

 

 頭の何処かで知っているような、靄がかかって重要な事が思い出せないような感覚に苛まれる。

 上位世界に戻れば、緊張感が抜けて思い出せるのだが、それまではどうしても重要な事がわからなくなるのだ。

 

「そういえば、お前の選んだ転生特典ってどんなものなんだ」

「自分の特典は明かさないくせに他人の情報は要求するとは我儘にも程があります。親の顔が見てみたいですね」

「さっき<性魔術>というキーワードを与えた筈だが?」

「口を滑らせたの間違いでしょう? 私だって『魔眼』や『神の見えざる掌』というキーワードを教えてます」

 

 どうやらそう簡単には情報公開はしないようだ。

 お互い様と言えど、ここまで拮抗するのも珍しい。

 話し合いの席なのに必要な情報が手に入れにくい。

 

「それじゃあ取引だ。俺は前の対戦者の能力と詳細な情報を提供する。お前も俺に能力を教えろ」

「命令口調がしゃくに障りますね。拒否権だってこちら側にあるというのに」

「お前の次の対戦相手になる確率が高い。それでもいらないというならそれでいい」

 

 消去法である。

 セヴンスの前の対戦者がテンスで、次の相手が高嶺咲。

 高嶺咲もファーストが一回戦の相手で、次の相手がセヴンス。

 ファーストとも、セヴンスとも試合を終えている高嶺咲が次に対戦するのは、テンスの可能性が一番高いのだ。

 セヴンスもテンスと高嶺咲の試合を終えているので、三回戦の相手がファーストでなくとも、それが逆に高嶺咲がテンスと当たる確率が高くなるのだ。

 

「分かりました。気に入りませんが、取引しましょう。ですが、先に情報を提供するのは貴方が先であることが条件です」

「わかってるって」

 

 これで高嶺咲が情報だけ聞いて逃げ出しても、彼女と前もって結んでいた共同戦線が白紙になるだけなので得策ではないだろう。

 セヴンスは自分の知る限りのテンスに関する情報を高嶺咲に提供した。

 

 曰く、彼の能力名は<強制召喚>であること。

 曰く、彼の身体能力は他の転生者候補生よりも遥かに一脱していること。

 曰く、彼の能力では人間だけは呼び出せないこと。

 

 最後の人間だけは呼び出せないというのにも確信がある。

 もしも呼び出せるならセヴンスの最後で、槍を投げる必要はなく、呼び出して殺せばいい。

 それをしなかったのは、出来なかったということであろう。

 左腕が感電している状態でそれでも賭けに出たのだ。

 ブラフである必要はどこにもない。

 

「次はお前の番だ。さあ、お前の能力を教えてくれ」

「分かりました。そこまで知りたいと尻尾を振って懇願するなら仕方なく教えましょう」

「おい」

「私の能力は<直死の魔眼>です。いえ、正確には特殊な眼であって<直死の魔眼>を選んだわけではないんですけどね。既に死を経験して、死後の世界でも何度も死んでしまったので苦労せず、死を理解できました。私のかけているこの眼鏡だって列記とした<魔眼殺し>です」

「<直死の魔眼>……?」

「物の死を視る事が出来る特殊な眼ですよ。知っているでしょう? だって良い子の私に悪いことを教えたのは貴方なんですから」

「……あ、ああ……そうだったな」

 

 聞いたことあるが、よく思い出せなかったとだけ言っておこう。

 冷静にアニメやゲームの話題を頭の中で膨らませると能力についても思い出せる。

 それでも、<始まりの大地(イザヴェル)>の神秘性が邪魔してかどうしても落ち着きを取り戻せない。

 

「死後の世界では幸福な体験をすることだけが成仏する条件だって言ってたよな。でもそれって、<直死の魔眼>を使えば他の死人も殺せるんじゃないか?」

「できますよ? 実際に試して消えた人もいますし、メアが私の前に現れてから私の静かだった学園生活はとうの昔に崩壊しています」

「あー……そういえば居たんだったな。そっちの世界にも『天使』が」

「いえ、正確には『天使』と呼ばれている生徒会長ですね。私も生徒会書記です」

「へぇ、やっぱりお前らって仲がいいのか?」

「それもどうでしょう。生徒会長と私の思想は離れていますし、彼女は幸せな人生を送れなかった人を成仏させたいのであって、私のように無理矢理消滅させることを望んでいるわけではなさそうです」

「お前そんなことしてたのか……天使にも嫌われるってお前仲間いねぇだろ」

「……そうですね。仲間はいませんが、貴方という彼氏は過去にいましたね」

「だからちげぇって」

 

 情報交換を交わしながらも、次第に目の前が歪んでいく。

 上位世界の自分が目覚めようとしているのだろう。

 

「もう時間ですか。短い再会でしたが、案外つまらないものですね」

「俺は久しぶりにお前と会えて嬉しかったぜ、咲。これでも昨日だってお見舞いに行ったんだからな」

「……っ……、う、嬉しかったって!? そ、それにお見舞いってどういうことですか! 私はもう……」

「はい、残念。時間切れだ。続きが知りたくなったら、勝ち上がって来い。俺に勝てたら教えてやるよ」

 それを最後にセヴンスは<始まりの大地(イザヴェル)>から姿を消した。

 最後の最後でセヴンスは今まで冷静だった高嶺咲の驚く顔に満足していたのは言うまでもない。

 

 そして一人。

 草原で佇む清楚な女性は俯いた顔を上げて呟く。

 

「……約束……ですよ」

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