生存戦争 ~転生者バトルロイヤル~ 作:セリカ・シルフィル
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部屋を出て神殿の外へ行くと敵対者は既に待機していた。
「貴方が今回の相手でいいのかしら?」
「……そうだ」
敵対者は長い黒髪と物静かな印象を兼ね備えた歳下の美少女だった。
それに相対する者の返事は男性とは思えないほどの美声。
「セリカ=シルフィルだ。原作とやらは戦女神を参照している」
「……なるほどね。実名でも特定されにくい諸外国の者か。私は
物陰に身を潜めて二人を遠くから観察している人物はセヴンスである。
セリカには前もって指示を出しており、戦闘中にも隙があれば指示を送るように命令している。
弱点であるセヴンスが態々姿を現して危険度を高める必要はどこにもない。
中にはテンスやファースト、高嶺咲等の例外もいるが、セカンドの場合は初見なのでこの作戦は十分に効果があるだろう。
セヴンスの主な目的は、隙の出来たセカンドに攻撃すること。セカンドの能力を見極めてセリカに的確な指示を送ること。そして、セリカが隙を突かれて危ない状況に陥った時、セカンドがセリカを仕留める瞬間を狙って逆に不利を利用してセカンドを潰すこと。
チャンスを得たないなら、逆にチャンスを敢えて与えることも計算の内に入れておかなければならない。危険は伴うが、危険を冒さなければ勝利は得られない。
セカンドの勝利条件はセヴンスを殺すことであり、セヴンスの敗北条件はセリカの死亡である。
敵の能力を見極める為、『見』に徹してセリカにも本気は出すなと伝えてある。
だが、この作戦の要は『敵が自分達より弱いことが前提』である。
「それじゃあ挨拶代わりで悪いようだけど……さようなら」
「――――ッ」
お互いに最低限の素性を曝け出して生存戦争の条件が整った瞬間――全てが終わっていた。
セカンドの動きを一字一句記憶して見逃さないように監視していたにも関わらず、セヴンスの両目で捉えていた姿は掻き消える。
同時に聴き慣れない鈍い音が複数同時に周囲から響くように炸裂する。
彼女の姿を見失ったセヴンスは反射的に音の発信源である神殺しのいる方向へ顔を向けると遅かった。
――セリカ=シルフィルの身体は、剥き出しの刃物のような凶器によって余すことなく串刺しにされ、血塗れになりながら倒れ込んだ。
傍では無表情で佇むセカンドが静かにセリカを見下していた。
『見』に徹すると覚悟していたセヴンスには何が起こったのか理解できない。
いや、そもそも理解すらさせることなく全てが一瞬の時で終わってしまったのだ。
三ヶ月間を共にしてきた相棒を失った損失感。
理解不能な事態に襲われて酷く頭が痛くなる。
そして、今までにはなかった生々しい死体を直視しているという現実。
過労に襲われ、吐き気で蹲るが、どうにか耐えなければならない。
ここで見つかれば、テンスのように一瞬で息の根を止められることは間違いなくないだろう。
きっとセリカのように身体中を刃物で滅多刺しにされた挙句、感覚は上位世界に戻っても暫くは続くのだ。
恐怖に身体が震えて吐き気が増大するが、頼りにしていた相棒は保険を残していたとしても重軽傷を負っている。
――ただ一つ、最悪の状況に巻き込まれながらも、頭を悩ませていたのはセヴンス一人だけではない。
「……どうして? 彼女は仕留めた。喉元も潰した。もう生きているはずがない。どうして終わらないの!」
動揺したような荒々しい声が耳に響き咄嗟に顔を上げる。
そこには勝利を確信していたセカンドが<悠久の幻影>の解除が終了していないことについて対義の声を上げていた。
その姿は隙だらけだったが、彼女の中では疑問に渦巻いている以上は隙を狙って攻撃しても避けられる可能性が高確率で残っている。
それに『見』に徹しているセヴンスは未だに能力の詳細を解析できず、セリカの二の前になる危険性すらある。
だが、グズグズと時間を引っ張っているとセカンドが『セリカ』が転生特典で呼び出された存在だと気づきかなねない。
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独り言は聞こえてくるが、セヴンスの立場上良くない方向へ話が進んでいく。
速く目覚めろ神殺し。保険の発動はまだか。
「随分と荒い殺しをするな。神を殺すなら神核を狙えばいいものを。中途半端な殺しで俺をどうにかできるとでも本気で思っているのか?」
「……っな!? どうして! 間違いなく殺したはず。それにこれは……」
潰れた喉で苦しむことなく悠々と声を上げるセリカに対してセカンドは驚く。
それだけではなく、セリカの周りでは徐々に光の渦が優しくセリカを包み込んでいた。
立ち上がろうとするセリカにセカンドは警戒の色を高めて瞬時に後方まで下がる。
「なぜ生きているの? 喉を潰し、心臓は突き刺され、両手両足は使えないように何度も切りつけたはずなのに」
「治療魔術の一種だ。得意ではないが使えないわけでもない」
素直に敵の問いに答えるなよ。
セリカの答えにセカンドは納得したような顔をしている。
「なるほど。それならわからなくもない。私と同系統の能力者というわけね」
魔法少女と答えていたことを思い出したセヴンスは舌打ちをする。
『魔法』という括りは制限というものが数少ない。
それこそ、魔法だから空を飛べる。魔法だから敵の居場所が分かる。魔法だからなんでもできる。
転生特典という縛りで相手がどの程度の驚異なのかを測ることができるが、魔法を使うというのは多彩なのだ。
「私の場合は同系統の能力者に弱いのだけど、理由は分かる?」
「俺を一撃で仕留めなかった辺り、決定力が足りないということか」
「……正解。だから貴方には今よりもずっと苦しんで貰うことになるわ!」
もう一度、セカンドはセヴンスの包囲網から抜け出すと同時に金属音が交わるような音がセリカの周囲で響く。
「――なっ! どうして!」
「質問が多いぞ。その問に答える義理はない」
見ると両手に刃物を持ったセカンドの素人同然の攻撃をセリカがギリギリのところで防いでいた。
『見』に徹しているはずだったセヴンスは自分の役目を忘れそうになっていたが、二度目の攻撃でセリカがセカンドの攻撃を防いでいる姿を見て自分のするべきことを思い出す。
戦闘に驚いて腰を抜かしているわけでも、殺し合いに魅入るわけでもない。セヴンスは突破口を作らなければならないのだ。
セカンドがどうやって消えたのかはわからない。
セカンドがどうやってセリカの前まで移動したのかわからない。
セリカがどうやってセカンドの攻撃を防いだのかわからない。
全てが『魔法』の一言で片付けられてしまうが為の事態である。
その仕組みを仮に『瞬間移動』だと推理しても一度目の攻撃時に複数の刃物を同時に突き刺すなど不可能である。
他にもロクに構えてもいないセカンドの攻撃に勢いはない筈だ。しかし、現実は消えたセカンドが繰り出す攻撃は全て勢いに乗っている。
「どうして『あの世界』でも貴方は!」
「人間の秤にかけるな。お前が周りを遅くするなら、俺がそれよりも速く動けばいい」
セカンドが口にした『あの世界』とセリカの言った『周りを遅くするなら、速く動けばいい』という言葉は答えを示していた。
それが意味するところは――。
「そんな無茶苦茶な理論! 私は世界を止めているのよ!」
「マイナスの境地が行き止まりなら、プラスの境地で補えばいい」
「このっ! 抑止力がっ!」
時間停止能力。
それを理解したことでセカンドの言い分も、セリカの言い分も意味が分かってくる。
セリカは人間には真似できない超光速で動いていたのだろう。
セカンドは自分の特権が攻略されたと思って必死になって反撃を繰り返している。
だが、計算上では止まった時間の流れで如何に速くとも完全に現実の動きを再現できているとは思えない。
認識できる時間の流れが違うように、決め手となっているのは素人であるセカンドと剣の達人であるセリカの力量によるものが大きい。
他にもセカンドはセリカの剣撃を刃物で受け止めることはせず、全てを避けているので尚更である。
しかし、一度でも受け止めてしまえば例え防御の姿勢を取っていたとしても木っ端微塵になっていたことだろう。
そういう意味では臆病な姿勢を取るセカンドは気づいていないながらも凄いと言える。
まあ、セヴンスは超光速に動けるわけでもないので彼女達がどのように戦っても詳細は見れないのだが。
あれ? そういえばセリカには本気で戦うなって命令してなかったか?
状況が状況なだけに仕方ないことなのだろうが、少し『お仕置き』が必要だろう。
きっとこの感情はアビルース曰く禁断症状のようなものなので問題ないと言い訳をする。
だからといってセリカが優勢というわけでもない。
恐らくセカンドの時間停止は『魔法』によるものであり、消費されるものも魔力だけなのだろう。
それに引き換えてセリカは身体中に魔力を滾らせて、限界に近いほどの速度を無理矢理引き出しているのだろう。
テンスとの戦いでも『本気』を出して同等だったのだ。
身体の限界に近いほどの速度を無理矢理出すということは、人間で言うと無意識にかけられている制限を外した上で、それを遥かに上回る限界寸前まで力を振り絞るのではなく、振り絞り続けるのだ。
それに近いことをセリカは数分も続けている。
当然ながら戦闘後は暫く安静にしなければならないし、後遺症だって残る可能性がある。
まともな方法では決して真似できない。
『神速』と『時間停止』の余波は次第に広がり、空間を震え上がらせるほどにまで拡大していった。
流石にあの戦闘の最中に隙を見つけたから突っ込む等の自殺に等しい行為を行うほど愚かでもない。
「どうして貴方は止まらないの!」
「言っただろう。速く動いてお前に食い下がってると。本来なら俺も速度を上げた程度では決して手の届かない領域にお前はいるんだろうが、お前はその強過ぎる能力を使いこなせていない。だからこそ、俺はお前の後ろを歩く程度の速度は維持できる。『俺達』が貴重に訓練している間にお前は暇を持て余していたんじゃないか?」
「――くっ」
セリカの奴、さっきから問題発言が漏れている。
それに少しずつだが、セリカの動きが鈍ってきているように見えなくもない。
セヴンスから見てセリカの動きが鈍ってきているように見えるということは、時間停止の世界ではかなり疲弊していることを悟られているのではないか?
だが、疲弊するのは何もセリカだけではない。セリカよりも消耗の少ないと言えどセカンドも時間停止中は魔力を消費し続けている。
さらにセリカから繰り出される剣術・飛燕剣に素人の身体で避けているのだ。時間停止があったとしても素人の中ではかなりの力量の持ち主だろう。
「息が上がってきているぞ。痛い目を見る前に降参する気はないのか?」
「……もう私は諦めないと決めた。疲弊しているなら貴方だって同じはず。痛みも苦しみもこの身体を手に入れてから感じる必要はなくなったわ」
思い詰めた顔をしたセカンドは、標的を睨みつけると再び自分だけの世界に入り込む。
セリカが応戦しきれなくなっているように見えるがよく見るとそれは披露から来るものではなく、セカンドの動きがより鋭く、精度がこの短時間で上達しているからだ。
そして遂にセカンドの刃物はセリカの心臓を深々と貫いた。
その瞬間だけはセヴンスも時間の止まった世界に入り込んだかのように静かだった。
その隙に無数の刃物がセリカの顔面を歪める。
それでも諦めなかったセリカは最後の抵抗のように手に持っていた刀を今までにない速度でセカンドへ仕留めようとするが……。
『魔法』のように手から消えたひと振りの刀は、セリカの胴体を貫き、息の根を止めた。
「さようなら」
肩で息をしながら地面に倒れたセリカの死体を見下ろしてセカンドは静かに呟いた。
「ああ、さようならだ。馬鹿野郎!」
「――なっ!」
セカンドの胸元から包丁のような大きい刃物が飛び出した。
恐る恐る振り返るとそこには刃物を持った黒髪の青年が苦しそうな顔をしながら笑みを浮かべていた。
「余波だけでここまで来るのに負担が掛かるなんてな」
「……貴方は?」
「俺か? 俺は
セカンドの驚いた顔に満足しながら補足説明する。
「お前は時間停止していない世界で不意打ちには対処出来なかったみたいだな」
「……どう、して」
「簡単だ。お前はセリカとの対戦で魔力を使い過ぎた。戦いの終わった後にまで時間停止を使う必要なはないし、自分が本当に勝ったと心から油断した瞬間こそ狙い目だったんだ」
「……そんな、ことで……」
「それに俺の推測が正しければ、俺がお前に触れている限りは時間停止出来ないんじゃないか?」
「……くっ」
「もし、お前だけが時間停止するならお前の着ているコスプレや持ち歩いてる刃物は適用されないだろう? 意識すれば問題ないという説もなかったわけじゃないが、セリカは確かに言ったぜ。能力を使いこなしたお前なら自分は及ばないかもしれないが、お前は未熟だってな。短時間で急成長を遂げたことには驚いたが、誤差範囲内だ」
セリカとセカンドの短時間による戦闘でこれほどまでの分析をセヴンスはしていた。
無論だが、セヴンスにこれほどまでの分析能力が常時備わっているわけではない。
大切な物が失われてしまうという焦りと緊張。そして、セリカの惨劇を見て正しくこれが殺し合いなんだという認識をした。
それによって『本気』で相手を殺すにはどうすればいいのか。相手をどうすれば殺せるのかを本気で悩んだからこそ、出た結論である。
「眠れ。これ以上は無駄な努力だ。最後の最後で気を抜いたお前の『負け』だ」
「……貴方の『勝利』というわけ……。今まで臆病に隠れていた貴方が……!」
「弱者の戦い方だってことは十分にわかってる。それでもお前は『負けて』、俺は『勝った』んだ」
その言葉を最後に何かが割れるような音がセヴンスの耳に届いた。
それがなんだったのかセヴンスには分からなかったが、セカンドは粒子となって<
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――そして、セリカに近づき触れた瞬間、身体から力が抜けてセヴンスは死んだ。