生存戦争 ~転生者バトルロイヤル~ 作:セリカ・シルフィル
白髪の老婆はベッドの上で残り少ない寿命を感じながら笑っていた。
なぜ笑っているのか。何に対して笑っているのか。
その答えは本人にもわからない。
白髪の老婆はもう思い出せそうにない人生を必死になって思い出そうとしていた。
――大金を築き上げて無心に笑っていた頃があった。
――過ぎていく日々の中で自分は幸せだと思っていた頃もあった。
――事故に巻き込まれて複雑な感情を抱いたこともあった。
――息子が嫁を連れてきた時など一番の複雑な気持ちを抱いた。
――年月が過ぎ、老人だと歌われて、家を追い出された時など何を感じて生きていただろうか。
息子を恨んでいた? 憎しみを抱いた?
それとも何も感じることがなかっただろうか?
思い出せる。
しかし、今では答えがでない。
老婆は沈黙を許し悩む。
自分の人生に意味はあったのだろうか?
自分がいたことで世界は変わったのだろうか?
自分は自分以外の何かを世界に残すことができたのだろうか?
――自分の人生とは一体誰のために存在していたのだろうか。
「悩んでるな、人間。貴様の生など世界のためにあったのだろう」
最近になってお見舞いに来るようになった親戚の少女である。
海外出身でメルティアと名乗っていた気がする。
「例え世界が消費されただけだとしても、それでも貴様は世界を動かした。ゴミ屑程度かも知れない。それでもだ」
口煩い老人の悩みに真剣に答えてくれるが、その答えはいつも手厳しい。
だが、銀髪の少女に出会ったことで悩みの一部が解消したことも事実である。
世界のため、確かに聞こえはいい。
しかし、自分は世界を動かすために世界のマイナスでしかないことを続けて、そして何も残せずに死んでいく。
後の世界で影響するかしないか、それすらも危うい。
遊戯で言うならちょっとした数値の変動程度の変化だろう。
「貴様の犠牲は必要だった。それに貴様も自分は人間であり、それ以外の生物ではないと考えているではないか」
「……?」
「貴様も世界の一部だ。人間が自分達より上の存在を知らず、認めないからこそ、貴様も自身を特別視しているのだろうな」
世界はビッグバンから始まり、星が出来上がり、プランクトンが生まれ、海から陸へ生物が駆け上がり、その中で猿が別種の進化を遂げて今に至ると言われている。
信じているし、信じていない。
そもそも、誰かが何かをしないと何も起こらない。
ビッグバン説は有効ではない。
もしかすると誰かが見ている画面の中こそが、自分達の世界なのかもしれない。
「話が逸れているぞ。目を逸らすな。余命少ない貴様のために態々尊い時間を無駄に使っている此方の身にもなってくれ」
メルティアの話し方は癪に障るが、目を逸らすなという言葉は意味が分かった。
若い頃はこのようなことを考えたこともなかったからだ。
今の自分は考える事柄でもないと放置していたツケがここで精算されているのだろう。
もっと早く気づいていれば人生の見方も変わっていたと悔やむが、どうあっても人生が戻るわけはない。
これからは老人よろしく他人のために同情を買うように人生を尽くしていくのか?
無論だが、真っ平御免被るね。
自分のためにやってきた行いが、結果的に他人を苦しめたり、喜ばせたりしたことは何度もあるが、これは話が違う。
望んでいるものは、人生の死を恐れているのではなく、自分の人生がなんだったのかがわからないことに恐れているのだ。
欲しかったものを手に入れた……その後は?
死にたくないと願った……その後は?
結局、欲しかったものを手に入れても使い果たせば惜しむか、どうでもよくなるの二択であった。
死にたくないと当時は願ったこともあるが、それは漫画や遊戯などの未練という奴で、それを果たした後も未練は残った。
時間が流れることで、未練が残っていても人生に面白みがなく、このまま死んでしまいたいと願ったこともある。
今は違う。
見方が変わってしまったことが原因なのか自分の人生に尊さを微塵も感じ得なくなった。
死ぬことに抵抗はなく、死ぬために生まれてきたとすら思える。
ただ一つ、他人のための人生だけが気に入らない。
自分の意志すらも後にして考えれば誰かが操っていたように感じる。
人生の中で登場した同級生、子供、他人などが自分を踏み台にして先に進んでいったような。
そう感じるだけで吐き気がする。
救われたいために老害よろしく神様に縋るか?
ダメだ。
自分の性格では神など存在しないと考えてしまう。
神々は人々の欲望の中心であり、経済の流れなどが神だと思えてくる。
世界が廻るのは人々に住まう欲望という名の神様がいるからかもしれない。
人々はどうしても都合の良い存在を神様へと仕立て上げる。
そして都合の悪い存在を悪魔や同じ神であっても死神だと別称を与える。
「結論は今日も出なかったな。……ん? それはなんだ?」
メルティアの指差す方向には最近ハマった遊戯のソフトが転がっていた。
PCソフトで、メルティア以外には誰もいない病室でこっそりと老人が嗜む遊戯の一つである。
人々は老人になると最近の遊戯にはついていけないという考えが頻繁に発生しているが、正確には間違いである。
老人は劣化した頭脳で自分達では最近の遊戯は理解できないと感じれるのだ。
だからこそ、自分達でも理解できる遊戯ならば例え最近のものであっても問題はない。
「へぇ、そうなのか。意外だな。メア達の問題には関係ないか……。いや、待てよ……」
確かにメルティアと老婆の問題に遊戯の話は全く関係はなかった。
残りの人生を遊戯で遊ぶことも面白いと考えてしまうが、すぐに切り捨てる。
先程も言ったとおり、理解できる遊戯なら可能だが、老人に理解できる遊戯などたかがしれている。
老人にとって、面白くても、他人にとってはつまらないものだろう。
病室の窓から空を眺めるが、老婆は何も感じない。
――ただ、窓から入り込んだ一本の白黒の羽を意識あれ、無意識あれ、掴んだこと以外は。