生存戦争 ~転生者バトルロイヤル~   作:セリカ・シルフィル

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第二十二話 『大妖怪』

「おーい、聞こえているか? 人間。貴様がそっちの道を極めることは十分に分かったからいい加減に返事くらい返せ。盛っているところ悪いが、メアも暇ではない。いい加減にしないとメアも出るところ出るぞ。人間の分際で生意気な態度を取っていると自覚しているんじゃないか?」

「……女神、俺の……俺のぉ古神の身体ぁ……」

「……んっ……くぅ……」

「くそっ、人間の分際でぇ……」

 

 生存戦争第四試合の幕開けとしてメルティアが申請を確かめに来てみれば、相変わらずセヴンスはセリカにゾッコンだった。

 勢いは止まることを知らず、セリカを誠心誠意、愛していた。

 それゆえにメルティアが言葉を耳元で発しても返事ところか皮肉すら返ってこない。

 

『難儀しているようだな。メア嬢ちゃん』

 

 途方に暮れていたメルティアの耳に聴き慣れない声が木霊する。

 振り返るとそこには金髪の綺麗な老婆が部屋に用意された椅子に座っていた。

第三位(サード)。待たせている身で悪いが、貴様はなぜここにいる? 貴様は待たされている身だろう?」

「そう警戒するな。待たされすぎて様子が気になった哀れな老婆に天使様は慈悲の一つでも恵んではくれんのか?」

「誰にモノを言っている。メアのことを天使と呼ぶな。二度目はないぞ」

「分かってるって。私は自分の天界の神殿の部屋とそこのセヴンス坊やの天界の部屋の『境界』を繋げただけだ。そう難しいことでもないだろう?」

「ああ、難しくはないな。余計に迷惑だ。全く、あっちの天界のメアは一体何をしている。違反者を野放しにするなど許される行為でもないだろうに」

「そう自分を責めるな。あっちのメア嬢ちゃんは私に無理矢理押さえ込まれて仕方なく承諾したに過ぎんよ」

「……メアが貴様のような下等種族に負けたというのか?」

「いやいや、運が悪かっただけで――」

「――いい加減にその笑い顔をやめろ。次は右足を貰うぞ?」

 

 ガクン、よろめくように倒れるサードは何が起きたのか理解できずにいた。

 異変の起こった両足を見ると左足に黒槍が刺さっている。

 しかし、痛みで叫ぶこともせず、何もないかのようにサードは平然とメルティアとの会話を続ける。

 

「メア嬢ちゃんの本気は十分に分かった。バレバレの冗談を口にしたことは謝ろう」

「ふん! それでいいのだ、人間。それが正しい。弱者は強者に従うのはどの世界でも共通だ。メアの慈悲に免じて、今の一撃は取り消してやる。感謝しろよ」

 

 気が付くとサードの左足に刺さっていた黒槍は消えており、傷口も、痛みも、なくなっていた。

 

「それでは質問の続きだ。対話の席も用意していない状態で転生者候補生同士が対面することは本来許されていない。この場合、貴様を厳しく処罰するのが当たり前なんだが……」

 

 そこで一度、言葉を止めてセヴンスを見る。

 欲望のまま、セリカを貪り、セリカはセヴンスの欲望を一心に受け入れる器に成り果てていた。

 

「どうやら此方にも非があるようだな。猶予をやる。そこにいる二人から承諾を手に入れて来い」

「棄権にはならないのか? 戦う意思がなさそうだが」

「本来ならメアを侮辱した貴様が負けの戦争だ。猶予はやると言ったが、メアの機嫌次第だ」

「……せっかちなことで」

 

 観念したような顔をするサードは向き直るとセヴンスとセリカの前まで行く。

 サードが彼らの前まで行くが興味がないのか振り向きすらしない。

 ただ己の欲を満たすために溺れ続けている。

 そう、サードの目には見えた。

 

「そういうわけだ、セヴンス坊や。いい加減に無視を決め込む前に私と対戦してもらおうか」

「……対、戦? 戦……争? 生、存……?」

「そうだ。セヴンス坊やはただ承諾するだけでいい」

「……承諾、する……する……するぅ!」

 

 何も興味ないかのように振舞っていたセヴンスだったが、生存戦争という言葉と承諾する意思に関してはこれ以上ないほど敏感に反応する。

 

 だが、セヴンスの発した『承諾』という言葉と同時に世界は蒼く歪められた。

 そこには圧倒的な能力を誇る最強の天人の姿はなく、代わりに余裕のない黒髪の男性と前回の怪我と魔力不足で能力を満足に出せない黒髪の神殺し、そして金髪の老婆の姿をした妖怪だけだった。

 

「いい加減に目を覚まそうか。『努力を怠るもの全て怠惰であり、得る為の努力全ても怠惰である。汝、その意味が理解できるか?』――セヴンス坊や」

「――――ぐっ! がはっ!」

 

 詠唱を繰り返し唱えたサードの一撃によってセヴンスは壁に叩きつけられる。

 

「坊やを正気に戻すには骨が折れる。少しは自分の馬鹿さ加減に気づけたかな?」

「黙れ、糞婆が。痛てぇんだよ」

「全く、口の汚い餓鬼はこれだから嫌いなんだ。少しは老人を労ろうという気持ちはないものかね」

「戦場のど真ん中でもう一度同じ事を言ってみろ。もれなく頭を撃たれるぞ」

 

 サードを睨みつけながらセヴンスは皮肉交じりに言葉を紡ぐ。

 目の前の怪物によって自分は冷静さを取り戻すことができたが、状況は最悪である。

 手札の全てはサードに見られ、セヴンスの戦闘力も測られたと思っていいだろう。

 肝心のセリカは未だに傷も癒えず、魔力も完全には回復しきってはいない。

 セヴンスですら、冷静に戻っても完全に禁断症状が解除されたわけではなく、寧ろ現在進行形でセヴンスを蝕んでいた。

 

「どうやら先程までの腰抜けっぷりは抜け切ったようだな。こういう場合は喜べばいいのか、悲しむべきか。悩み所だねぇ」

「笑えばいいと思うよ」

 

 何気なく会話をしているが、内心では荒れている。

 どうすれば勝ち目があるのか。

 相手の能力はどんなものなのか。

 サードの後ろに隠れて見えないセリカはどんな状態なのか。

 悩めば悩むほど名案は浮かばず、焦りだけが溜まっていく。

 

「青春だねぇ。悩むことはいいことだ」

「……っ」

 

 読まれている?

 いや、物事が顔に出やすいだけだろう。

 

 周りを確認するが、それらしい物は見当たらない。

 そもそも、神殿の外にも出ていないのでこの部屋で戦うのはセリカと地形の問題を考慮しても不利だろう。

 サードもそれを狙っているのか、いないのか。

 獲物を見る眼でセヴンスをギラギラと睨みつけながら口元が笑う。

 

「度胸だけはありそうだが、それだけだな。セヴンス坊や。お前さん、一度死んでみんか?」

「……は? っぁあ!」

 

 いきなり急接近してくる金髪の怪物の変化にいち早く気づけたセヴンスは横へ避けるが、サードの一撃は横腹を綺麗に蹴り上げた。

 今度は横の壁に頭からぶつけて痛みに悶え苦しむ羽目になるセヴンスは今までにない苦痛の数々を知る羽目になる。

 

「セヴンス坊や。お前さんはまだ痛みに慣れていないようだな。弱っているところを速攻でケリをつけようと思ったが予定変更だ。ジワリジワリと嬲り殺してやる」

「――っ」

 

 これ以上ないほどの殺気を当てられたセヴンスは足が竦み、床に張り付いたように動けなくなる。

 声も出せなくなり、再び接近してくるサードに恐怖していた。

 

 思わず、近くに転がっていた『何か』をサードへ向けて投げ飛ばすが、サードは綺麗にそれを避ける。

 

「『刀』は投げるための武器じゃないってことは教わらなかったのか? そんなんじゃあ私に傷一つ付けられんよ」

 

 再び接近してくるサードに打つ手がなくなったセヴンスは、思わず目を閉じる。

 暗闇の中ではセリカに関する情報が禁断症状と共に渦巻いていた。

 これで死んでしまえば、もう一度地獄の日常に逆戻り。

 今度こそ、セヴンスは耐えられず、壊れてしまうだろう。

 

 ――無論、そんな機会は現れなかったが。

 

「そうでもないぞ。受け止めず、避けたお陰でこうして刀を俺の手に委ねる機会を与えたお前の失態だ。避ける癖でもあるんじゃないか?」

 

 言葉の発する方向へ意識を向き直すサードは、しかし圧倒的に遅かった。

 その行動は致命的な弱点を敢えて誘発してしまう原因となってしまったのだから。

 

「ぐっ……やるねぇ嬢ちゃん。ただの性欲処理の飾りだと思っていたけど、実はそっちが本命だったとはね。歯応えのない坊やの方が差し詰め性欲処理の飾りだったか? それだと訂正しなければならないな。セヴンス嬢ちゃん」

 

 セヴンス嬢ちゃんと呼ばれた神殺しは苦い顔をしながらサードを睨みつける。

 

「俺は男だ。それにセヴンスとは主様のことであって俺ではない。俺はセリカ。セリカ=シルフィルだ」

「なるほどねぇ、自己紹介か。そういえばまだしてなかったな。私は第三位(サード)。原作は東方Projectに登場する大妖怪八雲紫の『境界を操る程度の能力』を転生特典として選んだ」

「…………」

「これ以上の自己紹介がないところを見ると転生者候補生には見えないな。転生特典として選ばれた人材かもしれないし、違うかも知れない。些細な問題だ。両方潰せば問題ないか」

「……っ」

 

 セヴンスやセリカを含む全ての空間がサードの都合の良い方向へ歪む。

 

「セリカ=シルフィルなんて知らないし、興味もない。これから潰す人間だ。精々足掻くといい。もしかするとお前さん達が私の終焉かも知れないぞ?」

 <悠久の幻影(アイ・スペース)>を詳しく知っている者なら対戦者以外の転生者候補生が割り込み参加してくることなど絶対にありえないと気づけるはずだ。

 それともサードのような境界を操る程度の能力を持つ存在が他にも存在しているのかもしれない。

 だが、それをセヴンスは知らないし、今のところ眼中に入れる必要はない。

 

「三下らしく無様に逃げ惑え。その果に私の求める答えがあるならば用意せよ!」

「……くっ、来い! セリカ」

 

 丁度、セヴンスとセリカでサードを挟み撃ちにしている状態から脱するためにセリカに指示を告げる。

 セリカもセヴンスの言葉に従ってセヴンスの下へ向かうが、サードの策略の一端が顔を出す。

 

 空間の歪みが大量に発生し、そこから様々な道具が出入りし、その一部がセリカへ向けて弾幕として飛んでいく。

 剛速球で飛び回るそれらは、圧力に耐え切れず擦り切れる物もあれば、床や壁に当たって膨大な破壊力を撒き散らしている物まである。

 

 必死に逃げているセリカもその全てが躱しきれるわけでもなく、躱せないものは手に入れた刀で切り崩し、避けきれず、切り崩せなかった弾幕は掠り傷のように増えていった。

 

 しかし、セリカばかりに攻撃が集中していたからこそ、セヴンスもセリカに視線が集中していたのだろう。肝心のサードを完全に野ばらしにしてしまう。

 

「他人に心配をしている暇があるなら、まずは自分の安全を確保する方が先決ではないか?」

「――っな!」

 

 完全な隙を突かれた攻撃だったが、寸止めのところで防御の姿勢をとってそれを回避する。

 だが、完全に回避しきれたか? と聞かれると否と返さなければならない。

 防御した筈の腕からは今までに一度も聞いたことのないような音が炸裂する。

 さらに一撃受けただけで再び壁まで飛ばされ、床と接吻する羽目になった。

 

「足が竦んで動けないことを理由に戦闘を放棄した餓鬼かと思っていたが、存外有能ではないか。まさか、サンドバッグになる程度の能力は秘めていたのか」

「……痛ってぇなぁ。本当に人間の攻撃かよ」

 

 一度だけ防いだ筈の腕は痺れて動かしている感覚がなくなっていた。

 指先を見ると五本ある指先の全てが見たこともないような方向へねじ曲がっていた。

 

 それを見て――認識して――遅れて――激痛が――襲う。

 

「……なん、だ……これぇ……っ!? あ……ガ、アアアアアァァァァァッッッ!!! 痛ッテェェエエエエッッ!!」

「思った以上の反応だな。痛みに対する耐性が少なすぎるとは思っていが、戦闘経験が少なすぎるんじゃないか? まさか今まで全部そこのセリカ坊やに任せていたんじゃあないだろうねぇ」

「黙れぇぇえええ! 痛ってぇんだよぉ!! この糞婆の分際でぇ! 殺すぅ、絶対に殺してやる!」

「威勢がいいのは言葉だけか? 言葉が現実にできないならただの嘘だ。実現できないことを口にするものではないぞ?」

「黙れって言ってんだろうがぁ!」

 

 悶え苦しむセヴンスにはこれ以上の雑音は聞きたくない。

 今までのような苦しむことなく殺されてきた時と違ってこの相手は本気でセヴンスを嬲り殺すと決めているらしい。

 セリカが弾幕に苦戦を強いられている内に本格的に動き出す

 

「いいや、黙らんよ。そもそもそんな状態じゃあ正常に聴覚も機能していないだろうに。それとも気が立って敏感になっているのか?」

「……黙れぇ」

「さっきから黙れとしか言ってこないな。我儘も大概にしておくように。満足に吠えることしかできない坊やに何ができる。その冷静さの欠けた判断能力では吠えるだけが限界か?」

「うるせぇんだよぉ! 耳障りなんだ。冷静さが欠けてるのもてめぇが原因だろうがっ!」

「……? 何を言っている? 私が言っているのはそれより前の話だ。私が攻撃する前から、私が目を覚まさせてやった時から正気に戻ったフリをしていただろう?」

「……っ!?」

 

 痛みで我を失っているのは間違いないが、それよりも前からセヴンスは禁断症状に蝕まれて苦しんでいた。

 それどころか、痛みによって無理矢理、禁断症状を押さえ込もうとすらしている。

 だが、それすらもサードは見抜いていた。

 どうして見抜けるのかわからなかったが、サードにはサードなりの視点があるのだろう。

 

「戦いの最中に随分と舐めたことをしているじゃないか。目の前にいる危機よりも自分が大事かい? その余裕こそが破滅を呼び寄せる元凶だ」

「仕方ねぇだろうがぁ! どうしようもねぇんだよ! 俺だって好きでこんな身体になってるんじゃねぇ! 言い訳だってことは分かってる。あいつを手に入れる為の障壁があったことくらい想定できた。それでも我慢できねぇんだよ!」

「人を舐めるのも大概にしろって言いたいが、こればかりはもうどうにもできそうにないな。……もういい。ここで殺す。これ以上の期待は見込み違いにも程がある。私の目が曇っていたんだろう。最後の慈悲だ。今すぐ消えろ。一撃で葬ってやる」

 

 何に対して怒っているのかセヴンスには分からなかったが、興味もなかった。

 逆に言えば、興味がないことがサードに伝わって怒っているのかも知れない。

 それとも、戦いの最中でありながら自分が追い込まれすぎて、敵に対して知っていても喋ってはならないことを喋ってしまったセヴンスに激怒しているのかもしれない。

 どちらかも知れないし、どちらでもないかもしれない。

 それすらも、セヴンスの興味対象から外れていた。

『――我が手に手繰り寄せるは(Sich Handfläche zieht ein)憐憫の理(Mitleid)

届かぬなら駆け寄り(kommt nicht an läuft aufwärts)追い付けぬなら羽ばたこう(holt nicht auf flattert)

我が疾走は何者にも侵されない(Sich Huschen Wer Behindernd Noninterferential) そして我が歩みは愛すべき者と共に(Sich Zu Fuß Liebhaber Zusammen)

陸を塗り替えた(Kontinent streicht neu) 海を跳んだ(Tiefes Meer fliegt) 空を越えた(Himmel überstieg) 星を掴んだ(Stern hat gehalten)

私が導こう(Sich Leitung)愛すべき仲間を(Das Umwerben Freund)

私が打ち砕こう(Sich zerbricht)仲間を害する者を(Freund Schaden die planen)

永久に忘れぬ誓いをここに(Bleibend vergißt nicht Schwur)――『』を織り成す螺旋の牢獄(webt Spiralförmig Gefängnis)

全ての人の罪は私が決め(Alles Mann Verbrechen Sich Entscheidung)私が裁く(Sich urteilt)!!』

 

「おい、ちょっと待て。お前の能力は『境界を操る程度の能力』であって転生特典は――っ!?」

 ――流出(Atziluth)――

『<陽陰・始まりの終わり(Ursprung Anfang Ende)>』

 

 老人の細腕に握られている一本の漆黒の魔剣からは殺気が漏れていた。

 今までの対戦者とは全く違う。

 あの剣に斬られては、あの剣に触れてしまうことだけは絶対にあってはならないと自分の全てが拒絶していた。

「<陽陰・始まりの終わり(ノーブルファンタズム)>は、私の渇望が形となって発動したものだ。形状は『剣』、渇望は『殺意』。もう終わりだ。どうすることもできない」

「やめろ……やめろぉ! 殺されるだけならいい! 今すぐやれ! こんな地獄はもう真っ平だ。でも、それだけはダメだ! それを使うと後戻りできない。取り返しのつかないことになる!」

「終わりだと言ったはずだ。諦めろ」

 

 金髪の大妖怪は無表情で剣を振るう。

 目の前には泣きじゃくる手負いの虎が蹲っている。

 慈悲もなく、容赦もなく、不快感もなく、ただ欲望を叶える為に剣を降ろした。

 

「――ひぃっ!?」

「避けるな。逃げるな。動くな。この神聖な戦いを穢した愚者に相応しい償いだ。この戦争は坊やには不釣り合いだった。だからこそ、ここで坊やの一生を犠牲にして退場させてやる」

「ふ、巫山戯るなぁ! 何が神聖な戦いだ。ただの殺し合いだろうがぁ!」

「そうか。なら、殺し合いに対する誠意くらいは見せろ。私から見た坊やは命を賭けて参加した戦争よりも保身に走っているようにしか見えない。吐き気がする。この戦いを穢す行為は、私達、転生者候補生の覚悟を穢しているのと同じだ。覚悟の足りないくせに生半可な覚悟で参加した自分を恨め!」

 

 サードの言っていることがまるで理解が出来なかった。

 いや、理解したくなかった。

 セヴンスは無理矢理参加させられた。

 セヴンスの目的は無事に終わりを迎えることだ。

 こんな巫山戯た戦争から抜け出すことだけ。

 病院にだって通った。薬物だって試した。寝ない日だってあった。

 どれも成果が乏しく、勝ち進めるしか道が用意されていなかった。

 

「……巫山戯るな。誰も彼もがお前と同じことを考えているわけじゃない」

「……なに?」

「自分の意思で参加した人はいた。自分の意思とは関係なく巻き込まれた人もいた。考えなしに取り敢えず参加した奴だっている。……けどな。その全てがお前と同じ事を考えなくちゃいけない理由なんてどこにもねぇだろうがぁ! お前の言い分は自分だけが正しい。自分こそが正しいって我儘言ってるだけだろうがぁよぉ!」

「セヴンス坊や……お前は何を言っている?」

「そうやって知らねぇくせに自分の世界に巻き込んで満足してんじゃねぇぞ。三下がぁぁあああっ!!」

 

 セヴンスの語った言葉はどれもサードを貶めるための言葉に過ぎなかった。

 サードを脅し、サードを辱め、サードを穢し、サードを馬鹿にした。

 けれど、それはサードの知らない物語でもあった。

 

「避けろ。逃げろ。今すぐ離れろ。間に合わなくなる前に早く! 今の私では――」

 

 初めてサードが本気で焦り、そしてセカンドのために割いた時間は……しかし、遅すぎた。

 

 形状が崩れていく漆黒の魔剣だったものは水銀となってセヴンスに迫る。

 恐怖の象徴である漆黒の魔剣が水銀となって迫ったことで足を滑らせて転んだ。

 そして、そのまま水銀の中に取り込まれた。

 

「セヴンス坊や、返事をしろ! 今すぐ『それ』の中から出てこい! 間に合わなくなるぞ!」

 

 ――その声は……届かない。




自分でも読んでて恥ずかしくなった。
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