生存戦争 ~転生者バトルロイヤル~ 作:セリカ・シルフィル
副題 『
気を失ったセヴンスが目覚めると上位世界の天井……ではなく、天界で愛用している部屋の天井だった。
今まで考えていた難しいことばかりが吹っ飛んだようにセヴンスの頭は働かず、視線を天井に向けたまま動かなかった。
「……目覚めたか」
「ん? ああ、セリカ……か?」
「どうかしたか?」
「え、あ……あれ?」
顔を横に向けるとセリカの『優しい顔』がセヴンスを見下していた。
今まで見てきたセリカの顔は無表情ばかりだったので新鮮なものがあったのだろう。
しかし、それだけではなく、セリカがセヴンスに向けてくる『優しい顔』にセヴンスは引き込まれそうになる。
今までのセヴンスならばセリカがどんな顔をしていても心を開かなかっただろう。
しかし、今のセヴンスは『肯定』したことでセリカに対して恋愛感情を向けることもあれば、容易く心を許してしまうことだってある。
セヴンスを苦しめてきた禁断症状すらも今のセヴンスは心地よく感じる。
セリカを愛したい。セリカと繋がりたい。
今までのセヴンスでは決して『男性』とは一線を超えないという『常識』を身体に染みこませて防いできたが、そんな枷が外れると女顔のセリカの『優しい顔』も、『苦しむ顔』も、興奮すら覚える。
よく見るとセヴンスの頭は床についておらず、柔らかいものが下に引いてあり、少しだけ浮いていた。
頭を上げてみると人肌であり、真横にいるセリカが膝枕をしてくれていた。
男性の肌の筈なのに甘い匂いと気持ちの良い肌触りに包まれながら、改めてセリカを見る。
そう、変わってしまったセリカは慈愛に満ちた『優しい顔』でセヴンスを心配してくれる。
もう一つ、セリカの黒髪だった髪色が、綺麗な蒼髪に変化していた。
今までのセリカは無表情の黒髪も、弱々しい白髪も、優しい顔をする蒼髪もするようになった。
「……あっ……んっ……」
思わず手が伸びてしまったセヴンスは、綺麗な蒼髪を撫でるように触る。
その蒼髪は、糸に触れているような繊細さを秘めていた。
髪を触られているセリカも目を閉じてされるがままである。
その姿に黒い感情が鳴りを潜めるが、今は表に出さない。
こうして開き直ってみると開放感で充実している。
「セリカ。俺が倒れてから何があったのか教えてくれ」
「……ぁ、ああ、分かった」
こうしてセリカから聞かされた話は信じられないものであり、それでも納得している自分に純粋に驚いていた。
セヴンスが倒れた後、セリカがサードを倒したらしい。
サードから得られた魔力を思っていた以上に膨大であり、今もこうして余裕を持って会話ができるほどにまで回復できた理由もそこにあった。
流石は大妖怪を転生特典として選んだだけのことはある。
素直に感心しながらも、幾つかの謎が出来上がる。
セリカはあの後、どうやってサードを倒したのか。
セリカはサードを倒せたとしても得られる魔力が多すぎる気がする。
原作では、得られる魔力は<性魔術>と比べて明らかに少ない筈である。
エロゲ原作故に仕方なし、と思えるかもしれないが、現実に考えても本格的に弱体化したセリカに負けるほどの存在がそこまで魔力を吐き出すものだろうか。
「主様が取り込まれてから頭に血が上ったような状態になってな。主様から教わった<円舞剣>や<紅燐剣>の動きが明らかに変わった。サードを戦闘不能に追い込むまでそう時間は掛からなかった。この髪色も主様を看病している最中に気づいたんだ」
「なにそれ。主人公特有の覚醒か何かか? ……いや、まあ確かに主人公(エロゲ)かも知れないけどさ……」
話を聞く限りでは、セリカが愛用する剣術・飛燕剣が感覚的に急上達したらしい。
実際に見せてもらっても、その違いは段違いである。
元来は刀では使わない飛燕剣でありながら、放たれる一撃が既に<円舞剣>や<紅燐剣>の名前を借りた別物になっていた。
言ってみれば、<爆雷閃>や<轟雷>のような威力や消費される魔力だけが<雷撃>や<落雷>と違うようなものと同じである。
蒼髪を眺めながら数ある可能性からセリカの変化を想定しているが、どれも破綻していて成り立たない。
セヴンスが危険な状況に巻き込まれて覚醒したという状況も、サードと戦う前から何度もあった。
他にも考えてみるが、どれもが憶測の域を超えない。
可能性の一つには、原作の戦女神ZERO時代の人間だった頃のセリカは確かに蒼髪だったな。急激な感情の変化や技術の上達についても関係しているのかもしれない。
しかし、一方でセリカの蒼髪は、神殺しになった後の髪型であることと、綺麗な蒼髪の触り心地も滑らかな印象を受けてしまいどうしても人間だった頃のような硬い想像とは異なってしまう。
「それで魔力についてはどうやって余分なほど手に入れたんだ?」
「それは勿論、<性魔術>で――」
この先の話はセヴンスの耳には届かなかった。
綺麗な顔つきの金髪の大妖怪ではあったが、流石に老婆に対してそんな鬼畜の所業をセリカがするわけがない。
内心ではそう考えながらも、否定するほど容疑は深まっていく。
原作のセリカも美徳には拘らず、老若などは特に気にしないと言っていた気がする。
――セリカ恐ろしい子。
恐ろしい想像で身体を震わせていると心配したのか頭を撫でてくる。
少なくとも無表情だったセリカではこのような配慮はしなかっただろう。
この短時間で急激に変化したセリカに対して二重の意味で驚く羽目になった。
「……ありがとな」
「いや、別にいい。主様が気にすることじゃない」
男性とは言え、セリカに撫でられて悪い気はしない。
それも優しい眼差しを向けてセヴンスに優しくしてくれるなら尚更である。
考えてみれば、今までここまで他人に優しくされたことはかつてあっただろうか。
「そういえば、今更だけど俺ってよく降参と思われなかったな。気を失った程度じゃあ終わらない戦争って本気で殺しにかかって来てる」
「今までは一撃で沈められたり、吸い殺されたりして戦争後を知らなかった」
「いや、吸い殺したのはお前だぞ」
首を傾げるセリカに苦笑しながら、この奇跡のような幸せを噛みしめる。
少なくとも蒼髪にならなければ、急激な技術の上達はなかっただろう。
そうなれば、前回の対戦で引きずっている傷と回復しきっていない魔力でサードと戦い生き残れる可能性は限りなく低かった。
いや、覚醒した後だってサードが何かを切り札を隠していた可能性だってある。
中身の読めないサードだったからこそ、今回の戦いでは寧ろセヴンスがセリカに的確な指示を送る必要があった。
そういう意味では、今回の対戦では後手に周ってしまった。
「……御免なセリカ。俺のせいで足を引っ張った」
「主様が気にすることじゃない。元を正せば古神の身体で魅了した俺にも責任はある」
「そうか。でもこれからは安心してくれ。『肯定』した以上はどんなことがあっても足だけは引っ張らない。……あ、でも『肯定』したからこそ、俺はお前がすげぇ欲しい」
「……勝手にすればいい。俺はそれだけの存在だ」
「ああ、勝手にしてやるよ」
セヴンスはセリカを押し倒すと初めての口づけを交わす。
「んっ……ちゅ、ふ……んくっ」
お互いの舌が絡み合い、唾液を舐め合う音がダダ漏れになる。
頭が熱くなるが、それを冷やすように心地よい風がセヴンスを通り越す。
……風?
冷めた頭で周りを見渡すとセヴンスとセリカを祝福するかのように風が二人を包み込んでいた。
周りに置かれた物の中には宙に浮いているものまである。
それは次第に強風になっていく。
セリカの胸に手を置いていたセヴンスは周りの変化に気づいていたからこそ触覚が正常だったのだろう。
セリカの鼓動が高くなり、身体が暖かくなるについて周りの風も強さを増しているように見えた。
「セリカ、ストップ。止まれ。興奮するな。発情禁止!」
「……ぁ……ぅく……」
表情が豊かになったせいか。妙に色っぽいセリカに静止をかける。
少しずつ落ち着くにつれて風も収まっていった。
だが、胸に手を置いて状態を調べようとすると時々感情が再び荒ぶってしまうことが偶にある。
「偶然かと思ったけど……この部屋で起こる超常現象の正体は全てセリカだった説は有効か」
「……?」
「いや、こっちの話だ。気にするな」
サードの残した能力の名残だと最初は思ったが、<
<
故に原因はサードではなく、セリカ自身にあるとすぐに判明した。
それなら感情が高ぶって発情しきった雌の顔をしているセリカを落ち着かせてから様子を見ればいい。
結果だけ言えば、落ち着かせただけで風は収まったが。
「これも変化と関係があるのか?」
「分からない」
「知ってる」
セリカの強化の代償に支払われる料金も意外と多いのかもしれない。
謎多き能力だが、モノにできればかなりの強化が施せるだろう。
なにせ、強化なしでセカンドと全力を出して互角であり、強化込みで弱体化中のセリカはサードを倒したのだ。
今の傷も魔力も完全回復した強化込みのセリカが戦うならば、相当の相手が出てこない限りは負けはないだろう。
……何かフラグを踏んだ気がするが気のせいである。
――変わってしまった自分をそれでも暖かく迎え入れてくれたセリカの優しさに触れ合いながら慌ただしい一日は幕を閉じる。