生存戦争 ~転生者バトルロイヤル~ 作:セリカ・シルフィル
彼らにとって今日という日は何も変わらない一日の筈だった。
けれども、それは悪魔のような左右の片翼に聖魔を宿す銀髪の天人によって呆気なく崩されたのだった。
上位世界と下位世界の狭間世界。
そこから抜け出した一人の天人は目にも止まらぬ速さで世界を駆け回る。
ディル=リフィーナ、ラウルバーシュ大陸、レウィニア神権国。
レウィニア神権国に建ち並ぶ屋敷の一つ。敷地内の庭では二人の使徒とひと振りの魔剣を持つ神殺しが言葉を交わしあっていた。
だが、それを無視するかのようにディル=リフィーナの世界に現れた天人は目的地へ神速で接近すると懐から黒槍を取り出し、狙いを定める。
この異常事態に唯一、気づくことの出来た使徒の中では間違いなく最強の能力を宿す金髪の使徒とその主である燃えるような髪色を持つ神殺し。そして相棒である魔剣に眠る権限者であった。
だが、時既に遅し。
神速クラスで加速を繰り返し続ける天人は、神殺しが魔剣の為に新調した鞘から抜くよりも速く到達し、既に狙いの定まった黒槍を前に突き出した。
その時間は一瞬の時間さえ、通り越すほどに速い手際の良さであった。
神々から恐れられてきた神殺しは、天人の突き出した黒槍によって正確に神核の位置に到達していた。
目の前で起こった状況に追いつけなかった赤髪の使徒は、一瞬にも満たない時に、主の屍が出来上がったという現実が信じられず、また、状況に追いつけていないのか、放心し、身体が硬直していた。
突如、目の前に現れた銀髪の天使の行動に追いつけなかった金髪の使徒は、一瞬の出来事によって、迎撃用の魔術が崩れたが、すぐに我に返り、天人と自らの主を一刻も早く引き剥がす為、殺気を放ちながら接近しようとする。
赤髪の剣士から溢れ落ちた鞘から半分だけ抜けきっていない魔剣からは神殺しを含む、全ての周囲を歪ませるほどの魔力が漏れ始めていた。
その全ての行動に、元凶である天人、メルティア=アークエンジェルは振り向きもせず、無表情で黒槍に神核を潰され、急激な女神化が進行している神殺しだけを見つめていた。
「……人間。何故、貴様はこの程度の人材を欲したのか。メアには分からないよ。定められた選択にメアは覆すことはできない。けれど、一度でいい、メアを選んで欲しかった」
虚空に呟くメルティアは、黒槍に突き刺さっている神殺しだった者を、神核諸共、引き剥がすと、地面に横たわらせる。
その瞬間、敷地内の庭の空気はこれ以上にないほど唖然とした。
そこには、信頼を寄せて、絶対を疑わなかった主が、奇襲とはいえ、瞬殺され、剰え、それを自分達は気づくことすら困難であったこと。
それだけならば、金髪の使徒が唖然と、その足を止める理由はない。
決定的となったのは、メルティアの、その黒槍に問題があった。
何故ならば、神核を一突きされた筈の赤髪の神殺しの胸元には黒槍で突かれた筈の傷は一つもなく、代わりに引き抜かれた黒槍の矛先には、地面に捨てられた筈の神殺しが、白髪で女神化に侵食されていない状態で、黒槍に突き刺さっていたのだ。
この真に理解できない光景には最有力候補の使徒も、その足を止めざる得なかった。
「下位世界より、この地での用事は終えた。済まなかったな、使徒、魔神、そして女神アストライア」
彼らにとって謎でしかない天人は、短く非礼を詫びると粒子分解するように、白髪の神殺しと共に、ディルリフィーナの世界から姿を消した。
侵入者が姿を消し、気配すら感じなくなるとメイド姿をした金髪の使徒と赤髪の使徒は急いで女神化に侵食されていた神殺しの元へ駆け寄る。
屋敷内では、同じように異常事態に気づいた他の使徒達も同様に駆けつけようとしている。
しかし、赤髪の神殺しに寄り添い続けた魔の宿る剣だけは、消え去った天人の言葉を正しく理解し、使徒達でさえ、理解できていない絶望に気づいていた。そして、魔力の放出をやめられず、溢れ出る怒りが爆発したかのように空間に亀裂が走った。