生存戦争 ~転生者バトルロイヤル~ 作:セリカ・シルフィル
第五話 『説明』
妙に現実的な悪夢を見てベッドから転げ落ちて床と接吻してしまった男は、ゲッソリとした顔を洗うと朝食を食べた。
眠気は吹き飛び、腹も満たした。
改めて、夢の内容を思い出そうとするが、夢というのは時間が経つ毎に忘れやすくなっていき、最後には曖昧になってしまう。
よくあることだ。
最強の天人、メルティア=アークエンジェル。神殺し、セリカ=シルフィル。
最低限、覚えている内容はこの程度だったが、いつ忘れてしまうかも分からない。
所詮は夢だ。そう切り捨てることも出来るかも知れない。
だが、一つだけ不安な要素もあった。
男はスカイダイビングをしたこともないのに、夢の中ではリアルに再現されていた。
それだけが気がかりでならなかったが、昼過ぎになると、そんなことも忘れてしまう。
男の生活は、殆ど無職ニートにも近い生活である。
一日を無駄に潰し、ベッドに腰を掛けると眠った。
そして、天界の神殿の奥に用意されていた部屋で目覚めて――。
「ーん……朝……じゃない」
「よく眠れたか?」
「…………」
隣で同じ布団に潜り込んでいる黒髪の女神(♂)は、セヴンスの耳元で呟いた。
「うわあああぁぁっ! セ、セリカ!? って、ここは……?」
周りを見渡し、床や壁の材質が神殿と同じものだと認識できると、上位世界で忘却した記憶を思い出した。
「昨日は……凄かったな」
「」
昨日は凄かった? 昨日ってなんだ? 起きた途端に上空から落とされて、脅迫まがいの行為にあった挙句、顔面を殴られてブラックアウトした。
いや、これは、昨日は昨日でも、夢の、狭間世界での出来事か。
「凄かったってなんだぁ!? 寝言か!? いびきか!? それとも寝相のことかぁ!? つーか、なんで俺が野郎と一緒に寝てんだよ!」
昨日まで時点では色はせた白髪だった筈のセリカの髪の毛は、綺麗な黒髪に変わっていた。
「同じ布団に入れられたのは主様の方だ。俺が後から入ったわけじゃない」
「俺が言ってるのはそういうことじゃねぇ……」
ならば、何が問題なのか?
セリカは本当に分かっていないかのように首を傾げる。
それから、状況を改めて判断できたセヴンスは、セリカを連れて部屋を出た。
「遅かったな、人間。起きていたなら、早く部屋を出ればいいだろうに」
部屋の外では、セヴンスが目覚めたことを予期でもしていたのか、メルティアが既に待機していた。
「それにしても貴様がニートだったとはな。失望したぞ」
「悪かったな、俺には俺で事情があるんだよ」
社会不適合者等で見下されていると思ったセヴンスは、言い訳にも見苦しい言葉を使うが、どんな言葉を並べたところで自分がニートである事実が変わるわけではない。それが、自覚しているならなおタチが悪い。
「何を言い訳している? それに勘違いとは滑稽だな。メアはニートならさっさと二度寝して早く来ればいいと言ったのだ」
「俺にも生活があるんだよ。それに、一夜の夢だと思ってもう来れないとも思ってたし」
「生活? 一日を食いつぶしていた貴様が? 生存戦争に参加している以上は逃げ場などあるわけがないだろう」
「ソウデスネー」
メルティアとの会話を反面、構ってもらえないセリカは好奇心に満ちた瞳でセヴンスを眺めていた。
なぜだ?
「なんかセリカの俺に対する接し方が初対面のそれと違うんだけど」
「女神アストライアと分離する前の記憶は失ってたのよ。だから、貴様が飼い主だと伝えたまでだ」
「いや、間違ってはないけどさ。それを本人の前で言うと本末転倒じゃね?」
「そうでもないみたいだぞ。貴様だって同じ状況に巻き込まれた同じ穴の狢、セリカの現状で抱く心情くらいは予想出来る筈だ」
メルティアの意味深い言葉に誘導されていると気づいていながらも、同時に試されているとセヴンスは感じ取った。
曰く、この程度も分からないようでは、セリカを従える資格はない。とでも言うかのように。
今のセリカには記憶はなく、ハイシェラのように自分を証明する為の相棒もいない。
誰かが自分を引っ張ってくれるわけでもなく、自分の進むべき道が明確に記されているわけでもない。
神殺しとして狙われている時ですら、逃げる、迎撃するといった行動を選択肢として用意されているのだ。
それすらない楽園、天界では、セヴンスこそが自分の存在意義だと言っても過言ではないのかもしれない。
しかし、これは全てセヴンスの予想しただけに過ぎず、自身を過信しているだけという可能性も否めない。
「なるほどな。人間にしては面白い考え方ではないか。メアは嫌いではないぞ」
「悪かったなっ!」
セヴンスの反応を見て、メルティアはセヴンスがどのような解釈をしたのか察知したかのように振舞う。
いや、絶対に分かっていないだろう。雰囲気に流されたな。
セヴンスはジト目で、誇らしげにしているメルティアを見つめながら間違いないと思った。
「無駄話が過ぎたな。ついてこい。立ち話もなんだ。話しながら目的地へ向かうとしよう」
メルティアは、セヴンス達を案内するように先頭を歩く。
それに続くように無関心だったセリカも歩き、最後にセヴンスも後ろをついて行った。
「まずは生存戦争がどのようなものについてだったな」
メルティアから語られる『説明』はそれ程難しくはなく、参加することを前提としていれば、補足説明のようなものでしかなかった。
一つ、生存戦争の最大期限は一年間であり、一ヶ月に一試合を行う。
二つ、試合は一体一で行い、一ヶ月間の期間中にお互いに主催者へ申請をしなければならない。一ヶ月間に申請がされなければ、負けとなる。
三つ、最初の一ヶ月間は自由期間とし、手に入れた転生特典に慣れてもらう。また、手に入れた転生特典を上手く使いこなし、時には強化に励んでもいい。
四つ、生存戦争の対戦相手はお互いに転生特典に関する記述を提出しなければならない。ゲームやアニメであれば、作品タイトルの公開を。西遊記やアーサー物語のような逸話ならば、作品の名前を。
五つ、一番勝ち星の多い転生者候補生が『下位世界』へ転生しなければならず、そこには自由意思は含まれない。
六つ、『下位世界』に転生する転生者候補生は、一つだけ主催者へ要求する権利が与えられる。
「四つ目は、有名な作品であれば、あるほど強力な転生特典である可能性が高く、逆にマイナーな作品の特典だと転生特典の特定が難しいわけか」
「然り。貴様のようなニートが選んだエロゲキャラならマイナーな存在であり、同時に強力な存在でもあるな。弱体化したことを除けば」
「勝手に言ってろ」
セヴンスは一度も振り返らず喋るメルティアを何処か不気味に思いながら問い返す。
「五つ目の転生はやっぱり強制なのか?」
「貴様にはどのように聞こえたのだ? 自分にとって都合の良い展開など早々あるわけもなかろう」
「……その理由はなんだ」
「意図が見えぬな」
「下位世界の転生が強制である理由を教えろ。俺達はお互いに殺し合うというリスクを背負ってまで参加してるんだ。それに対してメアの言い分は一方的だ」
「ふん! 目の前しか見えない種族が。どこが一方的だ。メアは主催者で、貴様達は参加者だ。六つ目の権利は賞品であり、五つ目の転生は義務だ。願いを叶える為に課せられたな。生存戦争の参加が自由意思である以上、生存戦争はその過程に過ぎない」
「……なるほど。全然分からん」
自分で質問してなんだが、自分の理解を超えた答えを返されるとは思ってもみなかった。
しかし、考えてみれば、目の前にいるのは天人であり、自分は人間だ。
考え方が違えば、答えも違う。
一瞬だけセリカを見たが、セヴンスとメルティアの会話に興味がないのか動揺がない。
元人間のセリカならば、メルティアの思想を理解できるのではないか、と思ってみたが、すぐに切り捨てる。
興味のない者からすれば、どれだけ価値があろうが、意味がない。
「六つ目だ。メアの、主催者の叶えられる願いに限度、限界はないのか?」
「メアの叶えられる願いなら叶えてやる。だが、回数を増やす願いはやめておいた方が身の為だぞ。……メアにとっても、貴様にとっても」
「……肝に銘じておく」
そこからは質問せず、大人しくメルティアの背後を歩いて行った。