生存戦争 ~転生者バトルロイヤル~   作:セリカ・シルフィル

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第七話 『訓練』

 天界で黒髪の美男女によって酸欠状態に陥り、気絶した男は、上位世界に意識が戻ってきたと同時に顔を歪ませ、悶え苦しみながら必死に酸素を体内に吸い込むと息を荒くしながら、その場で硬直した。

 もう少し、男が上位世界から帰ってくることが遅ければ、現実の身体は酸欠状態に陥り、現実での死を迎えていただろう。

 そう思うと、男はセリカに対する囁かな憎しみと自分が何故あのような行為に及んだのか理解に苦しんだ。

 メルティアと別れる前まではセリカに何もしないと自身に決め事を作っていたにも関わらず、思いの外、あっさりと破った。

 我慢できなくなり、欲望に忠実になった? あり得ない話ではない。しかし、男の場合は性別の壁からして、セリカに欲情するなどありえはしない。

 散々考えた結果、自分は神殺しが抱える女神アストライアの魅了する術に嵌ってしまったのではないかという結論に落ち着いた。

 原作でもアビルースという男がセリカに魅了され、魔術師として道を踏み外してしまったのだ。

 それ以外に自分で自分が抑えられないという現象が起きる理由など説明がつかなかった。

 

「悪夢だぁ」

 

 既にわかりきっていることを虚空に語りかけるように呟く。

 しかし、これは言い訳に過ぎないとも内心では理解していた。

 どのような理由を後付けしたところで、自分はセリカを(性的に)襲った。

 その事実だけは絶対に覆らない。

 

 そう考えると自分がまさか男性の肌を揉みながら、舐め回す日が訪れようとは思ってもみなかった。

 自分は少なくともホモでもゲイでもない以上は特殊性癖を持たず、清く正しい交際や一生童貞で終わると思っていた。

 現実は非情であったが。

 セリカの肌に触れた時、自分が想像していた以上に柔らかく、鍛えている男性特有の硬さはなかった。

 人肌とは想像では測りしえないほど神秘的なものだったのか。それともセリカ自身が特別なのか。

 野郎の肌については興味はないが、初めて自分以外の人肌に触れた感想を言えば、新鮮な体験だったと言えよう。

 幾ら神殺しセリカと言っても、男性の肌で欲情した経験は上位世界まで持ち越され、セヴンスの黒歴史の一つとなったことは否めない。

 

 言い訳による完結を終えたところで、一つ疑問が浮かび上がった。

 いや、これは上位世界へ戻された時に真っ先に疑い、真っ先に憤怒する筈のことだった。

 セリカが主であるセヴンスを仮死状態まで追い込む真似をしたのだろうか。

 此方が上位世界の住人である以上は狭間世界と言っても上位世界に劣るのだ。

 天界にいたセヴンスは殺され、上位世界にいる一人の男は悪夢から目覚める。

 結果はそれだけのことに過ぎないが今後の関係を築き上げるに当たっては、セリカの裏切りも考慮していかなければならない。

 考えてみれば、あのような行動を実行した理由よりも、あのような行動を実行する必要性を考えていった方が早い。

 自らの主を酸欠状態に追い込めば、当然のように不信感を持たれ、今後の関係にも少なからず支障が出るだろう。

 それを踏まえて、セリカがそれでもセヴンスを酸欠状態へ追い込む必要があった理由を考えてみたが……浮かばない。

 いや、最も簡単で、最も可能性のある答えにはたどり着いているが、認めたくない。

 

 ――それすなわち、セリカの照れ隠し。

 

 原作でセリカが性魔術を行う場面は幾らでもあるが、その殆どに置いてセリカは感情を制限している。

 天界において、感情を制限する必要もないセリカが無防備状態でそのまま快感を感じていたとすれば、セヴンスは間違いなく、同棲である男性を散々喘がせた挙句、抱きしめられて窒息死したホモ野郎認定を受けることは間違いない。

 どれだけ可能性を考えようと確証にまで至ることはなかった。

 

 状況を出来る限りまとめて自分なりの区切りをつけた男は、ベッドから立ち上がると部屋を出て行った。

 いつものように顔を洗い、朝食を口にするとPCの前に立ち、エロゲファイルから『戦女神』を選択する。

 男の選んだ戦女神シリーズは、最もセリカ=シルフィルが弱体化した作品であり、最近リメイクされたものである。

 同時に攻略サイトを開きながらセリカに関する情報を出来る限り調べる。

 時間は有限であり、彼の体力もまた有限であった。

 精神的に疲労し、それでもセリカに関する情報を暗記して天界へ持ち帰る為に無駄な努力を続けた。

 

 そして、いざベッドに入り眠るだけの作業ができず、頭を抱える羽目にもなる。

 言ってみれば簡単な話で、セリカに対する恐怖心が染み付いて、不信感を抱かざるえないのだ。

 幾ら自分の中では結論を導き出していると言っても外れる可能性だってある。

 セリカの意思で抱きしめられたのだとしたら起きた瞬間に首を絞められかねないのだ。

 そうなれば、当然のように地獄のような苦しみをもう一度経験しなければならなくなる。

 それが生存戦争中、つまり一年間も継続されるなら自殺すら考えるかも知れない。

 

 恐怖は恐怖を呼び、より恐怖心を大きく煽っていく。

 目を閉じ、恐怖を意思で押し付けながら、男は眠りについた。

 

 そして上位世界で寝たセヴンスは、天界で意識を覚醒させる。

 目覚めたセヴンスは、迷いなく目を開けると咄嗟に周りを確認する。

 そこは、天魔の翼を持つ銀髪の美少女、メルティアに用意された部屋のままであった。

 自分はそのベッドで寝かされており、ベッドの下では黒髪の美男子が無表情で正座していた。

 

「お、おはよう……」

「ああ、おはよう。主様」

 

 声色を変えない女性の声にすら聞き間違えてしまいそうになるその声に感情の色は込められていなかった。

 セリカの服装は、上着を着用しており、あの時の状態のままではなくなっていた。

 まあ、あの状態のままだとセヴンスの少ない良心まで傷ついてしまっていたかもしれないので、むしろ、自分から動いたという行為には素直に感心を寄せる。

 

 だが、何故だろう。

 分かっているのに、ダメだと決めているのに、どうしてもセリカを虐めたくなる。

 湧き上がるムラムラする衝動は、一度発散させたくて仕方がない。

 気が付けば、腕はセリカの胸へ迫っていた。

 

「……ぁ……ぅん……」

 

 上着の上から胸を弄り、顔をセリカの首筋に近づけ、犬のように舐める。

 顔は見えないが、喘ぎ声を聞くだけで衝動は高まっていく。

 このままでは以前と何も変わらないと分かっているが、夢中になったそれを止める術を持ち合わせてはいない。

 

 それから、暫くはセリカを喘がせながら自分の欲求を満たしていった。

 欲求が満たされた頃には、セリカの姿は紅黒いコートも、シャツも脱いでいた。

 セリカ自身、荒く肩で息をしており、その目にはうっすらと小さく涙が浮かべてあった。

 その姿を見るだけでもう一度虐めたくなる衝動に駆られるが、満足した意思でそれらを抑え付ける。

 

 セリカが落ち着きを取り戻し、上着を羽織るまで待った。

 回復は思ったよりも速く、快楽に呑まれていた顔は元の無表情へ戻っていた。

 少しだけ顔が赤いままだったのはセヴンスの見間違いだろう。

 

 それからセヴンスは現在のセリカがどの程度の能力を発揮できるのか実験を行った。

 魔術の実験では、詠唱なしに<雷撃>と<落雷>を成功させる。

 戦女神でも詠唱は必要らしく、戦闘シーン以外では仲間の使徒が詠唱していたイベントがあったが、セリカには必要ないらしい。

 それでも、魔術を成功させるには時間がそれなりにかかる。

 

 <雷撃>は、頭上から直線上に稲妻を落とし爆発させる魔術。

 <雷撃>を発射させる方向は自由だが、真っ直ぐにしか効果はなく、曲げることなどは出来ない。

 その分、直撃すれば攻撃力は申し分ないほど高い。

 

 <落雷>は、頭上から稲妻を落とし大炸裂を引き起こす魔術。

 指定した位置の周囲を丸ごと巻き込む事が出来る魔術だが、自分達の近くで発動させると巻き込まれる危険性も高く、威力も分散してしまいやすい。

 その分、集団戦においては思わぬところからの攻撃で集団戦を根本から覆しかねない高性能を誇る。

 しかし、一体一の戦闘においてはその性能が発揮されることは間違いなくないだろう。

 

 剣については、持ち合わせがないのでセリカの代名詞たる飛燕剣は使い物にならないだろう。

 召喚系の魔術についても女神アストライアとの分離時に白紙となり、媒介もないので現状では頼りにならない。

 吸収魔術についてはセリカに触れている状態で<性魔術>の発動を直に確認できた。

 

 <性魔術>は、戦女神でよく使われるエロゲ特有の吸収魔術の一つである。

 魔術による打撃から相手の力を吸収することで有名。

 これを使えば神殺しの魅了にも対処出来るのでは? と考えて実行してみると体力を奪われて疲れるが、それでも性欲を奪うことも可能だった。

 

 それから暫くは、生存戦争が本格化するまで特訓に明け暮れる日々が続いた。

 電撃魔術は成功度が上がり、発動する時間も短縮されるようになり、接近戦が十八番のセリカが剣がなくても戦えるように二人で格闘を積み重ねていくが、神殺しの身体であるセリカの能力は人間であるセヴンスよりも遥かに凌ぎ、身体が覚えているのかセヴンスよりも上達は凄まじく早かった。

 

 吸収魔術だけは例外で、天界で目覚めると傍では黒髪の美少女にも見間違える美貌を持つセリカが、セヴンスの指に口づけを交わし、色っぽくご奉仕する姿を見る度に興奮を覚えるが、<性魔術>が終了すると正常に戻る為、慣れるまでは精神的に参っていた。

 

 ――だが、そんな日々も生存戦争の名のもとに終わりを迎える筈だったのだが……。

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