ネグレクトされた少年がトレセン学園で幸せになる話   作:山吹色ノ大妖精

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一夜の脱走と春の出会い

「このクソ餓鬼!」

「ッ“!」

 

──父親と呼ばれる者に殴られる。感覚は曖昧になって痛みが感じない。

 

──母親と呼ばれる者は此処には居ない、何処にいるかもわからない。

 

──自分が何者かがわからない。

 

「フンっ、このタダ飯喰らいが」

「・・・・・・ッ」

 

──自分は何故生きているのだろう。

 

 男の暴力が来なくなったので男の部屋から自分の部屋へ逃げ出す。自分の部屋は人形が一つだけしかない。人形を抱きしめながら考える。ご飯を貰うだけで殴られる日々にうんざりしていた。どうしようか・・・・・・ふと思いついた。

 

──そうだ、ここから逃げよう。

 

 やることは決まった。しかし何も無いと生きていけないので必要なものは持っていこう。

 

「・・・・・・」

「グゥ・・・・・・ガアァ・・・・・・」

 

 いつもなら寝ている時間に男の部屋に忍び込み生きるために必要なものをタンスからありったけに取り出す。そして部屋から静かに出る。逃亡用のバックパックに詰め込んで人形を抱きしめて家から飛び出した。

 

──遠くへ、もっと遠い所へ・・・!

 

 暗い街並みで走るのはなんだか気持ちが良い。暫く走っていると公園がある、少しここで休もう。そう思って近くのベンチで横になる。目の前が真っ暗になった・・・・・・

 

 

 

 

「あのクソ餓鬼ィ・・・俺の金を盗みやがったなあぁ!?」

 

 

 

 

「・・・・・・ッ」

 

 とてつも無い寒気で起きた。時計を見ると針は10を指している。

 

──行こう・・・

 

「うわーん!」

「?」

 

 声が聞こえた方を見ると芦毛の女の子が泣いていた。足には怪我をしている・・・・・・

 

──美味しいものを食べれば治るかな・・・?

 

「・・・・・・」

「うっ、うぅ・・・ふぇ?」

 

 バックパックから食べ物のチョコレートを差し出す。

 

「いいの・・・?」

 

 彼女の問いに頷いて答える。自分は声が出ない。出せないので身振りで伝える。

 

「ありがとう・・・・・・美味しい!」

「お嬢様!」

「「!」」

 

 向こうから怖い人が来ている・・・!バックパックを急いで背負って逃げる。

 

「あっ!待って・・・・・・」

 

──ッ、ごめん・・・・・・

 

 彼女の助けを無視して逃げる。嫌な予感もするので全速力で逃げた。暫く走って後ろを向くと誰もいないので落ち着く。ふと周りを見ると驚いた。門があって、その向こうには広くて大きな建物がある。

 

──大きい・・・!

 

「あら、君、どうしたのかしら?」

「!」

 

 後ろから声が聞こえて振り返ると緑色の服に帽子を被った女の人がいた。

 

──い、いつの間に・・・!?

 

「ッ・・・君、顔大丈夫?」

「・・・・・・?」

 

──顔・・・?これのことかな?

 

 前に男に熱湯を掛けられて残った傷があるが、ずっと前のことなので今は気にしていない。そう考えていた時だった。

 

「見つけたぞクソ餓鬼ィ!」

「ッ!」

「・・・・・・そういうことでしたか」

 

 あの男がやって来た。手にはナイフを持っている。急いで逃げようとするけれど女の人に腕を掴まれてしまう。

 

「おい女ァ!その餓鬼よこせ!」

「断ります」

 

 

 男はナイフを突き出して怒鳴り散らかすが、女の人は鋭い声で言い返す。

 

「チッ・・・じゃあ死ねェ!」

「フッ!」

「グァ!?」

「!?」

 

 男は女の人にナイフを振るが、女の人は物凄い速さで男を蹴った。速すぎて見えなかった。

 

「・・・もしもし、たづなです。今から警察を呼んでください。はい・・・はい、お願いします」

 

──今の内に!

 

「はい、逃げるなんて駄目ですよ」

「!?」

 

 静かに逃げようとするけれど女の人にまた掴まれてしまう。そして暴れていると今度は優しく抱きしめられた。

 

「少しだけ待ってくださいね?大丈夫ですから」

「・・・・・・」

 

──暖かい・・・

 

 そこからは白黒の車が来てその中から怖い人が出てきて男を連れてどっかへ行った。自分も連れて行かれると思ったけどそうはならなかった。けど自分は女の人に何処かへ連れて行かれて今は凄く広い所にいる。

 

──いい匂いがする・・・

 

「お待たせしました♪」

「!」

 

 目の前のテーブルに夢でしか見なかった美味しそうなものが置かれる。確かカレーと言われている食べ物だった気がする。

 

「・・・・・・」

「食べていいですよ?」

「!」

 

 いいのかと目で訴えると了承されたのでスプーンを手にかき込む。

 

「ッ〜〜〜!!」

 

──美味しい・・・・・・!

 

 暫く自分はカレーに夢中になって食べた。

 

 

 

 

「あらあら、お金しかないと思っていたら懐かしいものが・・・」

 

 私こと駿川たづなは業務の途中で保護した少年のバックの中身を見るとあの男のものと見られる大金の他に一つのぱかプチが入っていました。そういえば名前を聞いていなかった。カレーを食べ終えている少年に声を掛ける。

 

「ねえ、君、名前は?」

「・・・・・・」

 

 少年は首を振って何かを否定している。

 

「(恐らくは名前すら無いのでしょう・・・そうだ!)」

「ねえ、君」

「?」

 

名前が無いのなら付けてしまおう。そう思って、この子に幸せが実ると願って彼に言った。

 

 

 

 

 

「君の名前はミノル。私の子供の『駿川ミノル』」

「!」

 

女の人に名前を聞かれて無いとジェスチャーで伝えると名前をくれた。

 

──ミノル・・・それが自分の名前・・・嬉しい・・・

 

 

 

 

こうして自分の・・・俺のこと駿川ミノルの物語ははじまったのだ




駿川ミノル
ネグレクトや虐待を受けた少年。今パートでは8歳。顔の左半分に熱湯の火傷の痕がある。好きなものはカレー

次パートでは8年後の16歳から始まります。
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