ネグレクトされた少年がトレセン学園で幸せになる話 作:山吹色ノ大妖精
「キタちゃん、ちょっとお話があるの」
「ダイヤちゃん・・・?どうしたの?そんな浮かない顔をして」
「実はね・・・」
チームアルゴノーツの始動から一週間後、本格的な練習に入るはずが、チームメイトのダイヤちゃんがとある問題に直面する事になった。それは──
「私・・・キタちゃんと走れないことになっちゃった」
「ええっ、ダイヤちゃん、一緒に走れないってどういうこと!?」
「・・・やっぱり、本格化を迎えてないんだな?」
「・・・うん」
「み、ミノル君、本格化って・・・?」
「キタちゃん、落ち着いて聞いてくれ」
俺はキタちゃんにそう前置きをしながら話す。本格化、それはウマ娘の競争能力が大きく伸びる謂わば成長期のようなものである。俺はその前兆をここ最近のタイムを見て感じてとっていたのだ。
「な、なんとかならないの!?」
「こればっかりはダイヤちゃんのメイクデビューを遅らせるしかないけど、そうすればキタちゃんと同期としてレースを走れないことになる」
「そ、そんな・・・」
「キタちゃん、そんなに落ち込まないで。これは私が決めたことなの」
落ち込むキタちゃんをダイヤちゃんが宥める様に言う。
「大切な友情、でもそれより大事にしなければいけないこともある。キタちゃんがみんなを笑顔にしたいように」
「ダイヤちゃん・・・」
「私は、大切なものを大切にする私のままで、キタちゃんのお友達でいたい。それに・・・私だったら、キタちゃんの大切なものを私のために捨てたりして欲しくない。だから──」
「──わかって・・・くれるかな?」
「ダイヤちゃん・・・うんっ、うん、わかるよ!」
ダイヤちゃんの言葉に少し考え込んだが、次のキタちゃんの声にはちょっとずつだが元気を取り戻していた。
「そんなダイヤちゃんだから、あたしは友だちになりたいって思ったんだもんっ──」
「──だから・・・我慢しなきゃね。少しくらい寂しくなっても。もうレースで追いかけてきてくれなくても・・・」
「キタちゃん、それは違うよ」
「え、どうして?だって同じレースは走れないんだよね?」
「うん。でも、もう少し大きな目で見て。お空の上から、神さまが見ているような目で」
俺は寂しそうに言うキタちゃんの言葉を否定する。それをキタちゃんは不思議そうに質問してきた。その答えをダイヤちゃんが代わりに言う。
「キタちゃんは、私より少し前の時間を行く。私はその後の時間を、キタちゃんが歩いた通りに歩いていく。これって追いかけていくことにならないかな?ずっと上から見れば」
「あ・・・そうだね!さすがダイヤちゃん!じゃあ、あの頃みたいに・・・」
キタちゃんの言うあの頃というのは、恐らく、俺が二人と出会う前の話なのだろう。それを二人は今思い出している。
「だからキタちゃん、これからもお願いね。トレーニングメニューも別になるし、少し離れ離れになるけど・・・──」
「──私、キタちゃんの背中を見失ったりしないから。応援しながら、追いかけるね」
「ダイヤちゃん・・・うん、わかった。わかったよ!あたしたちがはぐれたままなんて、一度もなかったもんね!──」
「──約束する!姉貴分として、ミノル君と一緒に頑張るって!」
「話は決まったな。ダイヤちゃんのメニューは本格化が来るまで基礎トレーニングに移す。そしてキタちゃん、メイクデビューまで後2ヶ月だから、それまでに仕上げていくぞ」
「うん!よーし、頑張るぞー!」
ずっと一緒だった二人に訪れた別れ道、それでも、この別離が、二人を強くすると信じよう。そして俺も二人の夢を叶えるために、二人を支えていくと心につよく誓った。