ソードアート・オンライン 〜君と共に〜   作:楽々亭

13 / 102
番外編第02話 Trick&Treat

 2023年10月31日。

 

「キリトー。そろそろ行こう」

「あぁ、今行く」

 

 時刻は午後3時。現在地点は43層の宿。二人は今日の日の入りと共に出現すると噂のハロウィン限定イベントボスを討伐するため、装備を整えて宿を出た。

 

「もう二度と行くことはないと思ってたんだけどなぁ……」

「オレも19層は久しぶりに行くよ」

 

 二人がこれから向かうのは第19層。プレイヤー達からは《ゴーストタウン》とも呼ばれている階層だ。

 この階層が開放された時、攻略組に限らず訪れた全プレイヤーが抱いた感想は『気味悪い……』だった。主街区・村・フィールド・迷宮区の全てに常時靄がかかっており、日中でも薄暗い印象を与える。《圏内》の建物は一つ残らず老朽化の跡が伺え、建物の破片が転がっているのも珍しくない。

 『見た目はともかく、流石に宿泊施設は……』という期待を見事に裏切り、ベッドシーツはボロボロ、部屋の隅には蜘蛛の巣がはってあり、床には穴が空いている。いかにも『出そう』な雰囲気を放っているため、この系統が苦手な人はおそらく宿に一泊すらできないだろう。

 

「心霊番組とかホラー映画は大丈夫だけど、オレあそこの雰囲気苦手。終わったらサッサと帰ろうな」

「長居するつもりはないから安心しろ」

 

 正直な所、カイトは19層へ行くのにあまり気乗りしない。だが今回は期間限定の特別クエスト、しかもハロウィンになぞっているのを考えれば今日一日しかチャンスはない。イベントボスを倒した際のドロップアイテムも、レアアイテムであるのは容易に想像できる。

 

「それにしても気になるのは報酬だよな。カイトはなんだと思う?」

「えー……ハロウィンっていえばお化けだろ? それにちなんで《隠蔽(ハイディング)》ボーナスがついた仮装衣装とか?」

 

 実はこのイベント、ドロップアイテムの内容について公言しているNPCが一人もいない。NPCから分かった情報はイベントボスの出現地点・大まかな強さ・姿だけ。あの《鼠のアルゴ》でさえ、今日までありとあらゆるフィールドを駆け回っても得られなかったのだ。なので一体何が出るかは、ドロップした人にしかわからない。

 

「まあ、何が出るかは後のお楽しみだな」

「そもそもドロップしなかったら楽しめないけどな」

 

 会話をしながら歩いていた二人はいつしか転移門広場に着き、19層主街区《ラーベルグ》の名を呼んで転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 19層主街区《ラーベルグ》に転移した二人は北のフィールドに向かった。

 フィールドに生えている木々は一本残らず枯れており、下は枯葉が敷き詰められているため地面が一切見えない。歩くたびに枯葉を踏みしめる音が響くが、それ以外の音は一切聞こえてこなかった。

 ちなみに今回のイベントボスだが、主街区を囲む東西南北それぞれのフィールドの中心部から出現する旨を、NPCが明言している。なので人数は四ヶ所に分散するため、ものすごく単純に考えて一ヶ所の参加人数は全体の四分の一。競争相手が少なくなるのは二人にとっても非常に有難かった。

 閑散としたフィールドを時折現れるアストラル系モンスターとの戦闘を交えながら進み、目的地周辺に来た所で、前方に無数の人影を発見した。

 

「《血盟騎士団》か」

 

 二人よりも早く訪れていたのは、白と赤を基調とした制服が特徴的な《血盟騎士団》の面々だった。皆ボス戦で顔を合わせるのでよく知っているメンツばかりだが、その中でも特に見知った人物が一人いた。

 

「あっ、カイト! キリト!」

 

 二人に気付いて右手を振っているのは、《血盟騎士団》副団長補佐のユキだった。男性団員に一言告げた後、二人の元へ駆け寄ってくる。

 

「久しぶり……でもないか。二人もここにしたんだね」

「うん。どこが良いかは最終的に運任せにした」

「運任せ?」

「ルーレットで決めた」

 

 ルーレットとはよくカジノで使われている、ボールの入るポケットに数字が記されていて、赤か黒、そして0の緑色がついたあのルーレットの事だ。これはカジノや賭け事が盛んな第七層のNPCショップで販売されている。プレイヤー間のちょっとした賭け事で使う場合もあれば、二人のように『困った時の運任せ』で使う場合もある。

 今回二人はルーレットを回して出た結果を、東西南北のフィールドに当てはめて行き先を決定した。

 

「《血盟騎士団》からの参加メンバーはこれだけなのか?」

 

 キリトがざっと見渡した感じだと、この場にいる団員の数は15人程度。本来の団員数を考えれば、些か少ないように感じた。

 

「ここ以外にも東に15人ぐらい待機してるよ。残りの二ヶ所は人数が足りないから諦めちゃった」

 

 現在《血盟騎士団》の団員数は30人弱。大々的な勧誘はせず、団長のヒースクリフが直に声をかけて勧誘するのが《血盟騎士団》のスタイルだ。そしてヒースクリフは誰かれ構わず誘うのではなく、しっかりとした実力と将来性を持った人物にしか声をかけない。そのため《聖竜連合》程人数は多くないが、その分質の高いプレイヤーが揃ったギルドと言える。

 

「ふーん。見た感じそちらさんの副団長はここにいないから、東のフィールドにいるみたいだな」

「……えーっと」

 

 キリトの言葉を聞いたユキの目が泳ぐ。明らかに戸惑っているのが伺えた。

 

「アスナは、その……急用があって来てないんだ」

「急用?」

 

 ユキはアスナが何故今回のイベントに参加していないのか、その理由を知っている。しかしアスナ自身がその理由を周囲にひた隠ししているため、本人のためにもここはなんとか誤魔化そうと試みた。

 

「一日限定のイベントよりも大事な用事って何だ?」

「えっと、その……」

 

 しかしキリトの更なる追求に対し上手い理由が浮かばず、ユキは言葉を詰まらせたが、思いもよらない助け舟がカイトから出された。

 

「やっぱ最強ギルドのサブリーダーともなると、やる事多いんだろうな。もしかして階層攻略に関する情報が入って、それに奔走してるとか?」

「そ、そう! それなの! 詳しくは言えないけど」

「あぁ、成る程。《攻略の鬼》からすればフロア攻略が最優先だろうしな」

 

 カイトの発言に便乗したおかげか、キリトも自己完結してくれた。ユキはホッとしたのと同時に、二人からは見えないよう後ろ手で拳を握って小さくガッツポーズをした。

 

 

 

 

 

 本日、10月31日の日の入りは午後5時ちょうど。そして現在時刻は4時59分。開始まで残り1分を切った。

 カイト達以外にもあの後《聖竜連合》のメンバーがこの場に加わった。時間がくるまで和やかに談笑していたプレイヤー達も、頭が戦闘モードに切り替わり武器を手にする。出現ポイントの予測は出来ていたが、流石にどこからどう出てくるのかまで知っている者はいない。上から降ってくるのか、下から出てくるのか。

 

 そして結果だけいえばそのどちらでもなかった。

 

 日の入りの時刻を迎えると突如身体に寒気が走り、体感温度が二、三度下がったような気がした。今まで無風状態だったフィールドには風が吹き始め、風は地面にある無数の枯葉を巻き上げながら一ヶ所に集まって竜巻を形成し出す。小さな竜巻はやがて大きくなり、巻き上げた枯葉を周囲に散らして爆散した。誰もが反射的に目を閉じ、腕を顔の前に持ってきてガードする。風が収まり、閉じた目をゆっくりと開けて竜巻があった場所を見ると、そこには一つの巨大な物体が鎮座していた。

 目・鼻・口の形に切り抜かれ、内側からぼんやりと淡い光を放つカボチャの頭。首から下はボロボロのローブで覆われ、足はなく宙にフワフワと浮いている。長い袖から覗く両手はそれぞれ白い手袋をつけ、右手には身の丈程の大きさを持つ幅広の両手剣《エクスキューショナー》を握っていた。

 ダランと腕を前にぶら下げて脱力していた身体を起こすと、HPバー四本に《ジャック・ザ・ヘッドハンティング》、別名《首狩りジャック》の名前が表示され、耳を(つんざ)く奇声をあげて場の空気を震わせた。

 

「う、うるさっ!」

「耳いてぇ!」

「――っ」

 

 甲高い声は脳内に響くかのようだ。誰もが咄嗟に掌で耳を塞ぎ、プレイヤーに擬似《行動不能(スタン)》状態を作り出す。そして奇声が止んだ瞬間、《首狩りジャック》は《エクスキューショナー》を両手で握りしめながら、プレイヤー達に突っ込んできた。

 

「があっ!」

「うわあっ!」

 

 防御姿勢どころか剣を構える事すらしていなかったため、《首狩りジャック》に一番近かったプレイヤー達は横に払われた剣に吹き飛ばされ、地面を無様に転がった。

 

「みんな、一旦落ち着こう! 焦らずやれば大丈夫だよ!」

 

 不意打ちによる動揺が広がる前に、ユキが皆を冷静にさせようと声を張る。

 

壁戦士(タンク)隊用意! まずはあの大きな剣を受け止めよう!」

 

 ユキの指示で重厚な盾を持った《血盟騎士団》の壁戦士(タンク)が前に並び、盾を身体の正面に構えて剣を受け止める準備に入った。

 再び巨大な剣が振るわれるが、屈強な壁戦士(タンク)達は一歩も後ずさることなく受け止めた。そして一瞬の隙を逃さぬように、後ろで控えていた剣士達が突っ込んで行く。

 

「はあっ!」

 

 その中には便乗して入ったカイトの姿もあった。黄緑色のライトエフェクトを引きながら繰り出す、片手剣上段突進技《ソニックリープ》が《首狩りジャック》の胴体部分を貫いた――――筈だった。

 

「?」

 

 カイトの剣は確かに刺さっている。剣先から根元まで深々とボロボロのローブを貫いているのだが、おかしなことに()()()()()()()()()

 

「うわっ!」

 

 ボスが左手でカイトを払い、地面に叩きつけた。叩きつけられた衝撃から立ち直って身体を起こすと、ボスは両手で剣を握り、真上に持ち上げて大きく振りかぶっていた。

 

「――って、うおぉ!」

 

 身体の向きを変えてボスに背を向けると、間髪入れずに右足で踏み切って前方に飛ぶ。その際ボスの剣が足のかかと部分を掠めてHPが減少したが、直撃するよりはマシだろう。間一髪助かった、といった所だろうか。

 

「何してるんだよカイト。技後硬直(ポストモーション)の時間を考えても、ボスの前にいすぎだったぞ。あの場合はすぐに後退しないと」

「ちょっと待て。流石にオレでもそれぐらいはわかってるぞ。……ただ、あいつにソードスキルを使った時、手応えが全然なかったんだよ」

 

 転がり込んだカイトにキリトが話しかけた。油断していたであろう彼に対して注意を促したが、どうも先の行動には何か理由があるようだ。

 

「それは一体どういう……」

「それがわかれば苦労しないよ。とりあえず手応えがないって事は、あのローブの下はダメージが通らないかもしれないって考えてよさそうだ」

 

 他のプレイヤーにもこの情報を広げるため、カイトは大きな声を出して伝える。それ以降、的は小さいが比較的狙いやすい高さにある手、もしくは位置は高いが的が大きいカボチャの頭を狙う方針で戦闘が進んだ。

 

 

 

 

 19層に出現するというのを踏まえれば少々手強い相手だったが、それでもせいぜい良くて30層後半クラスの強さ。攻略組のメンバーで押し切ればそこまで苦戦するような相手でもなかったため、30分弱で倒すことが出来た。

 そしてカイトが初撃で感じた『手応えがない』という理由はあっさりとわかった。

 ボスの纏っていたローブは耐久値が切れてしまい、戦闘の途中で崩れ去ったのだが、ローブの下は()()()()()()()のだ。つまり最初から胴体などなく、元々あるのはカボチャの頭と左右の手だけだったので、彼の初撃は何もない空中に向かって放ったようなもの。『ローブの下には身体がある』と勝手に認識し、ありもしない身体を脳内で補完していただけだった。

 

「いやったぁ!」

 

 LA(ラストアタック)を決めたユキが両手を上に突き出し、喜びを身体全体で表現している。《聖竜連合》のメンバーは悔しそうにしていたが、《血盟騎士団》の団員達はその光景を微笑ましそうに見守っていた。

 

「ユキさん! どんなアイテムがドロップしたんスか?」

「んー、ちょっと待ってね」

 

 団員に言われてユキはLA(ラストアタック)ボーナスの確認を行う。その他のプレイヤー達も何か良いアイテムがドロップしていないか、各々が確認作業に入った。何もなく落胆する者、まずまずといった顔をする者、お気に召すアイテムを手に入れて喜ぶ者など、その反応は様々だ。

 

「キリトは何か良いのあった?」

「何も。そっちは?」

「こんなのがあった」

 

 カイトはメニューを操作してアイテムをオブジェクト化すると、右手に《首狩りジャック》と同じような顔を模した小さなカボチャの提灯が現れた。

 

「名前は《魔除けの提灯》。効果はこれを持ってる間、使用者はアストラル系のモンスターに遭遇しなくなるらしい」

「アストラル系だけって……随分限定された効果だな」

「でもこの先そういう階層が出てきたら、フィールドや迷宮区の探索をする際に役立つぞ。それまでは日の目を見る機会はなさそうだけどな」

 

 そう言ってカイトは《魔除けの提灯》をアイテムストレージに格納した。

 

「さて、それじゃあ帰りますか」

「カイト、キリト」

 

 名前を呼ぶ声がしたので二人が振り向くと、ユキが後ろ手を組んで立っていた。他の団員達は先程までの位置と変わらない場所で仲間達と会話をしている。どうやら彼女が一人だけで来たようだ。

 

「何か良いの手に入った?」

「うーん……今はまだ使い所がないやつなら……。そっちは?」

「私はね、筋力値と敏捷値が上がるアイテムがドロップしてたよ。多分これがあのボスのLA(ラストアタック)ボーナスなんだと思う」

「へぇ……すごいな」

 

 このSAOではステータス、つまり筋力値や敏捷値はレベルを上げる以外だとアイテムで上昇させるしかない。そしてこのステータスを上げるアイテムというのは中々に重宝され、希少価値の高いものが多く、ほとんどがレアアイテムに分類されている。

 

「それで突然だけど、二人とも私の手が届く位置まで来て……ほら早く」

 

 言われるがままに動き、彼女の目の前まで来ると横に並んで立ち止まる。

 

「それじゃあ次は口を開けて。開けたらそのまま動かないでね」

 

 今度は口を開け、そのままの状態で固まった。するとユキは後ろにまわしていた両手を前に持ってきて、指先でつまんでいた何かを二人の口の中に入れた。

 

「はい、もういいよ」

 

 ユキのOKが出たので二人は口を閉じる。すると口の中に固形物が入っているのを感じとり、ほのかに甘さも認識できた。試しに噛んでみるとサクサクした食感と共に甘さが口の中全体に広がり、細かく噛み砕かれたそれを飲み込むと、二人の前にシステムウィンドウが表示された。それはステータスの上昇を知らせるものだった。

 

「実はステータスが上がるアイテムって、クッキーだったんだ。袋に沢山入ってたから後でギルドのみんなにも分けるけど、折角だし二人にお裾分け!」

 

 そして彼女はカイトとキリトの腕を掴み、顔を二人の耳元に近付けて――。

 

「みんなには内緒だよ」

 

 ――内緒話をするかのように、小声で一言だけ呟いた。

 

 言い終わると耳元から顔を離して二、三歩下がる。

 

「それじゃあ、またね!」

 

 ユキは再び団員達の元へと戻って行った。一瞬の出来事に唖然としたが、二人の間に流れた沈黙をカイトが先に破った。

 

「……キリト」

「……何だ?」

「オレ……少しドキッとした」

「あぁ……今のは……反則だろ……」

 

 火照った身体を冷ますため、《首狩りジャック》がもう一度出現するのを切に願う二人だった。




補足

・《首狩りジャック》が出現した北フィールド以外の他三つは、出現するボスもドロップアイテムも全く別になります。

・作中で擬似《行動不能》状態とありますが、簡単にいえば怯んだだけです。プレイヤーはその気になればしゃがんで攻撃を回避するぐらいは出来ました。

・《魔除けの提灯》の効果は実際のジャック・オー・ランタンを参考にしています。

これで一章終了です。次回から二章に入ります。
二章は独自設定が多いので、後書きで補足説明することが多いかもしれません。ご了承下さい。

次回は第二のクォーターポイントボス戦からになります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。