寝る前にセットしておいたアラームが鳴り響き、カイトは目をこすって起き上がった。
現在時刻は6時30分を回る前。まだ日が差し始めたばかりのために窓の外は少しだけ暗いが、数分もすれば十分な明るさになるだろう。
外から聞こえる鳥の鳴き声を聞きながら、指先一つでパジャマからあっという間に私服に着替える。部屋を出て一階に下り、昨日と変わらない笑顔で挨拶してきたNPCに対して、カイトも昨日と変わらない台詞を口にした。
「キッチンを使わせて欲しいんだけど」
それから間もなくしてシリカが起床した。部屋から廊下に出て階段に差し掛かる頃には、一階から漂うほのかに甘い匂いに食欲をそそられる。
シリカが昨日食事をしたカウンターからひょっこり顔を出すと、卵液をたっぷり吸ったパンをフライパンで焼いているカイトの姿があった。
「おはようございます、カイトさん」
「おはよう、シリカ。もうすぐ出来るから、そこで待ってて」
ちょうど片面を焼き終えたパンをひっくり返している所だった。カウンターに設置された椅子に座り、昨日と同じエプロン姿のカイトを見ながらシリカが話しかけた。
「昨日も思ったんですけど、カイトさんってエプロン姿が似合いますね」
「そうかな? そんな事言われたの初めてだよ」
「料理も出来るし、女子力高いですね」
「これはスキルのおかげだけどな。……それよりシリカ。男に『女子力高い』はどうかと思うぞ」
そうこうしている内にパンの両面に焼き色がついた。皿に盛った後でコルク栓をした小さな小瓶を取り出し、中に入っている粉末をパンの上から少量かけた。
出された品は焼き色をつけたフレンチトーストだった。フレンチトーストと一緒にナイフとフォークも添えられ、その隣に紅茶も一緒に出された。
「わあ、美味しそう。……ん? この匂いは……シナモン、ですか?」
「正解。さっきの小瓶の中身はモナの実から作ったんだけど、シナモンシュガーに味と香りが近いやつなんだ。粉砂糖代わりに上にまぶしてみた」
――等と話していると、全身黒一色のキリトが階段を下りて二人の元へやってきた。
朝食を食べ終えて身支度を整えたら、三人は転移門を利用して47層主街区《フローリア》、別名《フラワーガーデン》に転移した。
「わあっ、綺麗……」
転移してシリカが最初に口にした感想がそれだった。
辺り一面様々な色の花で彩られた光景に目を奪われ、感嘆の声を漏らす。中層レベルのシリカが最前線に近いこの階層に来る機会は今までなかったため、彼女には非常に新鮮だった。
近くの花を間近で見るため、腰を落としてしゃがみ込む。SAOのシステムで再現された花の香りを楽しんでいると、花の蜜を吸っていた蝶が舞い、動きを追っていく内に視界が遠くまで広がった。
チラホラと確認できるのは男女ペアで仲良く歩くプレイヤー達。ここ《フラワーガーデン》は花の都として有名なため、恋人同士で訪れる定番のデートスポットになっている。安全な圏内に咲いている花を眺めながら散歩するだけで、恋人達は充分にデートを楽しめるのだ。
「シリカ?」
名を呼ばれて振り返ると、シリカとの距離10センチの位置でしゃがみ、彼女の顔を覗き込むキリトの姿があった。
シリカは未だ異性と付き合った事がなく、恋愛経験に乏しい。そんな彼女からしてみれば、キリトの顔が至近距離にあるというただそれだけで緊張し、心臓が早鐘を打つ。そしてシリカの精神状態を感じ取ったシステムが、彼女の頬を紅潮させた。
「シリカ、どうした?」
「い、いえ! 何でもありません! 行きましょう!」
熱くなった頬を誤魔化すために、立ち上がって膝を払う。
キリトもカイトもそんなシリカの心情を察する事が出来ず、二人とも顔を見合わせて首を傾けた。
三人でフィールドダンジョン《思い出の丘》へ向かう一本道の道中、カイトが話すと約束した事情を語り出す。
「シリカ。昨日言ってた《プネウマの花》獲得にオレも同伴する理由の前に、今オレ個人が受けてる依頼について話すよ。まず昨日シリカからメッセージを貰う前に、あるギルドからとあるオレンジギルドを牢獄に入れてほしいって依頼があったんだ。最初はシリカの元へ行って話を聞いた後、オレンジギルドの居場所を突き止めようとしたんだけど、途中でその必要がなくなったんだ。何せ目の前にその探しているオレンジギルド、しかもリーダーの女性が現れたんだから……」
「えっ?! それってもしかして……」
「シリカが今頭に思い浮かべた人だよ。ロザリアさんはオレンジギルド《タイタンズハンド》のリーダーだ」
「ええっ!?」
シリカが昨日パーティーを組んでいたロザリアは、犯罪者の集うギルドのリーダーだった。しかしここで、彼女の頭に一つの疑問が生まれる。
「で、でも。ロザリアさんのカーソルはグリーンでしたよ?」
ロザリアの頭上に示されていたカーソルはグリーン、つまりシステム的に犯罪行為を働いていないのを表していた。しかし高度なプログラムを有するカーディナルでも、彼女の精神が『オレンジ』に染まっているかどうかまでは判別出来ない。
「確かにあの人はグリーンだ。でもオレンジギルドだからって全員がオレンジになる必要性は何処にもないよ。おそらく彼女はグリーンを装って獲物に近付き、フィールドに出た所で仲間のオレンジに襲わせるんだろう。これはオレンジの使う常套手段だ」
カーソルがオレンジの場合、他の一般プレイヤーから警戒されて近付く事も出来ない。だがグリーンであれば、プレイヤーは何の疑いも持たずに彼女を迎え入れるだろう。そしてフィールドに誘い込み、頃合いを見計らって潜んでいた仲間に襲わせ、自分は手を汚す事なく、カーソルの色を変える事なく再び他の獲物に狙いを定める。最早これは犯罪者達に広く知れ渡っているやり口だ。
「だからオレは彼女とその仲間達を一網打尽にするために、通常ビーストテイマーにしか手に入らない《プネウマの花》の存在を匂わせたんだ。《プネウマの花》はレアアイテムだから高値で取引されるし、オレンジが狙うには充分な理由になる」
そして隣にいたキリトが話を付け加える。
「昨日オレが蘇生アイテムを取りに行く段取りを説明してた時、急に扉に向かって行っただろ? あれは《索敵》スキルが扉の向こう側で誰かいるのを感じ取ったからなんだ。おそらくロザリアさんの手下だと思う。本当はとっくに気付いていたんだけど、あえて情報を漏らす事でより確実に奴らが網にかかるよう仕向けたんだ」
「だからこの後シリカが《プネウマの花》を手に入れれば、奴らは十中八九、花を目当てに襲ってくる筈だ」
「そんな……」
衝撃の事実にシリカは驚愕した。そして全ての説明を終えた後、カイトは立ち止まって頭を下げる。
「本当にごめん、シリカを囮に使うような真似をして。ちなみにキリトはオレの考えに協力してくれただけだから、悪いのは全部オレなんだ。だけど安心してほしい。オレ達は何があっても絶対に君を守るし、ピナも助ける」
カイトはこの誘導を思いついた時、シリカとピナに対して少なからず罪悪感を感じていた。
「頭を上げてください、カイトさん」
言われた通りに頭を上げると、シリカは柔らかい表情でカイトを見ていた。
「私は別に怒ってませんよ。むしろピナを助けるために、ここまで協力してくれて感謝しています」
「それでもオレは……」
「謝られている側がいいって言ってるんですから、気にしないで下さい。その代わりさっき言った『何があっても守る』って約束は、ちゃんと守って下さいね」
両手を後ろに回して腰の辺りで指を絡ませ、頭を少しだけ傾けて微笑む。シリカがするその仕草は非常に可愛らしい印象を受けた。
「さあ、行きましょう。カイトさん、キリトさん」
シリカは回れ右して前を向き、歩き出す。だが、ものの数メートルで突如出現した植物型モンスターに足をとられ、宙吊り状態となってしまった。
「きゃあぁぁぁあ!」
その際に彼女の装備している丈の短いスカートがめくれ上がるが、咄嗟に手で押さえる。それは突然のハプニングにも関わらず、女性として無意識に行った防衛行為だった。
この階層に出現する植物型モンスターは普段、花に擬態している。そのためシステム上は『周囲に生えている花の一つ』と認識されているので、オブジェクトと同じ扱いを受けている。流石に景色と同じ判定を受けているモンスターには、《索敵》スキルも機能しない。だからカイトもキリトも反応できなかったのだ。
モンスターの頭部はピンク色の大きな実の形をしており、そこから何本もの
「ひっ!」
シリカを吊り上げたモンスターが大きく口を開けると、彼女は小さな悲鳴を漏らす。そして動揺したシリカは腰に差してある短剣を抜き、無茶苦茶に振り回し始めた。
「助けて! 助けて! 見ないで助けて!」
「いや、見ないで助けるのは……」
「流石に無理、かな……」
キリトは顔を左手で覆い、カイトはシリカが視界から外れるように顔を逸らす。
いくら高レベルの二人でも、目を閉じてしまっては敵との距離感を掴めない。『心の眼で見ろ! 気配を感じとれ!』と言われたとしても、生憎二人にそんな修行を受けた覚えはない。
シリカは依然としてパニック状態のまま剣を振り回している。このままでは埒があかないので、彼女の要望を完全に呑む事は出来ないが、極力視線を上に向けないようにして救出に向かう。
「カイト、頼む」
「ああ」
短い会話を交わすと背中の剣を抜いて先にカイトが駆け出し、シリカを見ないよう意識してモンスターを一撃で葬り去る。モンスターが消滅するとシリカは宙に投げ出されて重力に従い落下するが、落下地点で待ち構えていたキリトが彼女の身体を受け止めた。
「大丈夫?」
「あ、ありがとうございま――」
キリトがシリカを受け止めると、自然とお姫様抱っこの状態となった。加えて再びキリトの顔が至近距離に迫り、シリカの顔が熱くなる。
「も、もう大丈夫です! 降ろして下さい!」
「あ、あぁ」
言われたキリトは彼女を足の裏から順に地面へとつけ、ゆっくり降ろした。
「でも、その……見ました?」
そこは女性として気になるとこなのだろう。彼女は交互に二人を見る。
「……いや、見てない」
「……同じく」
言葉では否定しているが、二人とも顔を明後日の方角に向けている。シリカにはその反応が答えとなった。
「うう、やっぱり見られたんですね……」
シリカはスカートを押さえて頬を赤く染める。どうにかこの雰囲気を変えようと、カイトは話題を振った。
「と、兎に角! ここはもうフィールドだから今みたいにモンスターも出てくるし、シリカの経験値稼ぎも兼ねて積極的に倒して行こう! オレとキリトが隙を作るから、トドメはシリカが刺してくれ!」
「わ、わかりました。頑張ります!」
その後はモンスターとの戦闘を順調にこなし、シリカのレベルが一つ上がってファンファーレが鳴る。戦い方も危なげなく無茶をする事がないので、二人は最低限のフォローで事足りた。自分の力量をきちんと把握している人の動きだが、所々であと一歩踏み込みが欲しい時がある。
良い言い方をすれば堅実、悪い言い方をすれば消極的。
最前線に限らず、この世界を生き抜くためには時に思い切った行動も必要になってくる。
シリカとスイッチした直後に、カイトは頭の中でぼんやりと彼女を客観的に評価していた。一方スイッチして前に出たシリカはそんなカイトの考えに気付くわけもなく、短剣三連撃ソードスキル《トライ・ピアース》でモンスターを消し去った。
「そう言えばさ、なんでシリカはオレを頼ってくれたの? 勿論、攻略組だから何か知ってるかもってのもあるだろうけど……まだ一回しか会ってない人間を信用するって、中々出来ないよ?」
三人は2ヶ月前のイベントで会って以来、今回が久しぶりの再開である。メッセージのやり取り程度はしていたが、頻繁というわけでもない。
だがシリカにとってたった一回の出会いは、非常に密の濃い出会いだった。
「だってカイトさんとキリトさんは二ヶ月前のあの時、私とピナを二度も助けてくれましたよね。特に二度目は自分達の命も危険だったのに……。初対面の私を命懸けで助けてくれたお二人を、信用出来ない訳ないじゃないですか!」
彼女にとって二人を信用する理由は、それだけで十分だったらしい。
「だからお二人は良い人だって、優しい人だってわかってました」
シリカの邪気のない笑顔が二人に向けられた。キリトは彼女の言葉に一言「ありがとう」と応えるが、カイトはそうではなかった。
「どうしたんですか? カイトさん」
彼は口元を手の甲で押さえていた。ほのかに顔も紅い。
「気にしないでくれ、シリカ。こいつのクセみたいなもんだ。ただの照れ隠しだよ」
「そうなんですか。……カイトさんって可愛らしい一面があるんですね」
「かわいくないっ!」
和やかな会話を交えて進んで行くと、目的地に到着した。《思い出の丘》中心にある岩の上に《プネウマの花》は咲くのだが、それは使い魔を失ったビーストテイマーが近付かなければ意味がない。
なのでカイト達は念のためにシリカを先に行かせようと考えたが、その考えはわざわざ口にするまでもなかった。
シリカは手を伸ばし、茎の部分をつまむと折れて《プネウマの花》を獲得する。
「良かった……これでピナにまた会える……」
目的の物を手に入れて、ピナに再開できる喜びを感じて、彼女はホッと胸を撫で下ろした。
「おめでとう、シリカ。でも喜ぶのは早いぞ」
「そうだな。すぐに生き返らせたいかもしれないけど、それは安全な主街区に戻ってからにしよう。フィールドでまたモンスターに襲われたら元も子もないからな」
「わかりました。ピナ……待っててね」
《プネウマの花》を手に入れた後は元来た道を戻るだけだ。行きと同じようにモンスターを蹴散らし、シリカの気持ちを汲んで足早に進んで行く。
前方に小川の流れる橋が見えてきた。ここまで来れば主街区までそう距離はない。まだロザリア達は姿を現さないが、そろそろだろうとあたりをつける。
「シリカ。おそらくロザリオが何処かで仲間を引き連れて待ち伏せしている可能性が高い。カイトに任せておけば心配ないだろうけど、一応オレの後ろにいてくれ」
「はい、わかりました」
「……なんて言ってたらいたぞ。……そこに隠れている人! 出てこいよ!」
橋の上に差し掛かるところでカイトの《索敵》スキルがプレイヤー反応を捉えた。橋を渡り切った先にある木の陰からロザリアが姿をみせる。
「あたしの
「あなたに褒められても嬉しくないよ。オレンジギルド《タイタンズハンド》リーダーのロザリアさん」
カイトの言葉にピクッと眉をひそめる。『なんでそれを知っている』とでも言いたげな顔だった。
「へえ、あたしの事を調べたの? こんな可愛いファンがいたなんて、お姉さん嬉しいわ」
「かわいい言うなっ! ……それはそうと、あんたの狙いはシリカだろ? ……いや、正確には《プネウマの花》か」
「あら、そこまで知ってるなら話は早いわね。大人しく《プネウマの花》を渡してもらえる? 怖い思いはしたくないでしょう?」
そう言ってロザリアが指を鳴らして合図すると、木陰からグリーン一人、オレンジ六人で構成された計七人のプレイヤーが姿を現した。全員がロザリアの周りに集まり、不敵な笑みを浮かべてカイト達を見る。
「……最終確認だ、ロザリアさん。つい最近、《シルバーフラグス》ってギルドを襲ったよな? そしてリーダー以外のメンバーを全員殺した。それで間違いないかな?」
「ああ、あの連中ね。それがどうかした?」
カイトの質問に対し、人を殺していながら悪びれる様子は微塵もない。自身の赤髪を指先で弄りながら、ロザリアは平然と答えた。
「……人を殺したことについて、何か思う事はない? さらに言えば、残された《シルバーフラグス》のリーダーの気持ちを考えた事はある?」
「別に。何にも思わないし、考えた事もないわよ。第一ここで死んだところで本当に死ぬかなんて、証拠がないからわからないし」
「……わかった。それだけ聞ければ充分だ」
ロザリアに改心の余地があれば救いもあったが、どうやらその様子はない。仮にあったとしても依頼内容に背く事をするつもりはない。ただほんの少しだけ、淡い期待があっただけだ。
「あんた達には少しだけ痛い目をみてもらうよ」
一歩ずつロザリア達に歩み寄り、橋の中央に来た辺りで背中の剣――――ではなく、腰のホルダーに差してあるピックを一本取り出した。
カイトの行動の意図を理解出来ないロザリアが訝しむ。
「……なんのつもり?」
「剣を振るまでもないだけだよ。これ一本あれば充分だ」
「……大人をなめんじゃないよっ! あんた達、やっちまいなっ!」
ロザリアの指示で彼女の仲間達が一斉に襲いかかる。
一番前のオレンジがカイト目掛けて垂直に剣を振り下ろすが、彼は身体を横にスライドして回避する。すれ違いざまにオレンジの頸動脈をピックの先で引っ掻くと、そのプレイヤーは力なく地面に倒れ込んだ。
その次も、そのまた次も同じような事の繰り返し。ただし、襲ってきた中に唯一いたグリーンカーソルのプレイヤーの攻撃だけは、わざと切られた後にピックで引っ掻いた。
あっという間に倒れた七人のプレイヤー達。こうなるのは予想外だったのか、ロザリアの顔に先程までの余裕はもう見受けられなくなっていた。
「麻痺!?」
「麻痺毒がオレンジだけの
倒れた仲間達を見て、ロザリアもカイトが何をしたか察したようだ。そしてカイトの後ろで倒れている仲間が、彼の正体に気付く。
「ロザリア……さん。こいつ、攻略組の……《掃除屋》だ。……こんな事が出来るのは……《掃除屋》しか……いない」
「!?」
オレンジプレイヤーからすればカイトの存在は自分達の天敵。プレイヤーネームは知らなくとも、二つ名ならば知らない筈がない。
ロザリアの顔に焦りが伺える。彼女は今頃気付いたのだ。自分達は『狩る側』ではなく、『狩られる側』だったのだと――。
「オレは今回《シルバーフラグス》のリーダーから、あんた達を牢獄に入れるよう依頼を受けている。そしてこれは依頼主から預かった、出口が監獄エリアに設定されている回廊結晶だ」
そう言ってカイトが腰のアイテムポーチから取り出したのは、結晶アイテムの中でも一回りサイズが大きいといわれる回廊結晶だった。
「こいつで全員牢屋に送らせてもらう」
「グ、グリーンのあたしを傷つければ、あんたがオレンジになるよっ! それでもいいのかい!?」
「言葉にさっきまでの余裕がなくなってるよ、ロザリアさん」
そしてカイトは右足に力を込め、身体が前傾姿勢になると姿を消した。この場にいたプレイヤーでその姿を視認出来たのはキリトだけだろう。一瞬でロザリアとの間合いを詰め、彼女の眼球数センチ先に、ピックの先端を寸止めの要領で突きつけた。
「ひっ……」
「別に一日や二日、オレンジになったところでどうってことないし、《カルマ回復》クエストを受ければいいだけの話だ。……できれば穏便に終わらせたいから、大人しくしてくれるかな?」
ロザリアが持っていた武器から手を離したのが、カイトの問いに対する答えとなった。
シリカ回後半でした。今回はほぼ原作準拠の内容となりましたが、以降はオリジナルの話を多く含んだ内容にする予定です。
次回はアスナに焦点を置いた話になります。