「どうなってんだよ……」
たった今まで目の前に鎮座していたジオクロウラーが、忽然と姿を消してしまった。それはまるで煙が空気中に霧散するかのように、音もなくスッと静かに消えてしまったのだ。流石にこれは想定外だったらしく、呆気にとられているプレイヤーが多い。
今まで遭遇した例は一度たりともなかったが、フィールドボスが途中で離脱した可能性も考えられる。一定時間内に倒さなければいけない条件付きのタイプの相手ではないか、と。
「ぐあっ!」
しかしその可能性は即座に、完全に否定された。
前線にいたプレイヤーの一人が、見えない何かによって急に後方へと飛ばされたからだ。それを合図に他のプレイヤーも次々と同じような目に合っていく。
一見すると不可思議な現象だが、察しのいいプレイヤー達がこの状況から導き出す答えは一つ。
ジオクロウラーは今も尚、自分達の目の前に変わらず存在している。
ただ、姿が見えないという変化を除いて。
おそらくはジオクロウラーの有する能力『体色変化』を応用した光学迷彩。人間は五感――――特に視覚で物事のほとんどを認識するので、姿が見えないというのはこの上なく厄介である。
そしてジオクロウラーはプレイヤー達が自身の姿を視認出来ず、戸惑っているのをいいことにやりたい放題だ。
またしても見えない何か――舌による攻撃だろう――による薙ぎ払い攻撃が前線のプレイヤーを襲う。横一閃に繰り出されたであろう薙ぎは、容赦なく攻略組の精鋭達を吹き飛ばした。そして視認できないがゆえに敵の攻撃を回避できるタイミングも図れず、アスナも他のプレイヤーと同じように飛ばされた。
「アスナ!」
アスナが後方で待機していたカイトの近くまで飛ばされた。反射的に剣でガードを試みたようだが、完全に構える前にやられたらしく、HPが減少して黄色く染まる。
「ヒール!」
カイトはアスナに駆け寄り、彼女の隣で回復結晶のコマンドを叫ぶ。彼女のHPは一瞬で全快したが、攻撃をモロに喰らったため、アスナはフラつきながら立ち上がる。
「アスナ、一旦下がれ。待機していた連中はみんな突入準備が出来てる。時間を稼ぐから、その間にこいつの対策を考えてくれ」
カイトはポーションを取り出して口に含む。そんな彼をアスナは一瞥した。
「これは所詮ゲームだ。ゲームってのは大抵
「……わかったわ。じゃあ私が得た情報を一つだけ。離れているとわかりづらいんだけど、間近で見るとボスのいるであろう場所の景色が少しだけボヤけているの。それだけ頭に入れておけば、戦う上で役立てられるかも」
「わかった。情報ありがとな」
これで一先ずの方針は決定した。
アスナが戦線を立て直すために指示をとばす。ジオクロウラーを討伐するために役立つ情報を更に引き出すため、カイトを含む待機組が突撃した。
結果的に、フィールドボスは討伐された。
『一定ダメージを与えれば透明化を解除できる』ことと、『透明化状態へと移行する間にソードスキルを喰らわせればキャンセルが可能』という2つの情報を主軸に、討伐は
また1つ障害を乗り越えたことで、皆一様に肩の力を抜く。カイトも「ふうっ」と短く息を吐き出して視線の先にいるアスナの横顔を見やると、彼女の背中側から近付く少女がいた。
「お疲れ様、アスナ! かっこ良かったよ!」
「ユキ、お疲れ様」
ニッコリ笑いながら
(…………)
それはほんの一瞬の出来事。別に意識してた訳ではなく、偶然視界の中に映り込んで目を引いただけの話。
攻略組トップギルド《血盟騎士団》、そのナンバー2に在籍する副団長・《閃光》のアスナ。『この世界に負けたくない』という思いを胸に、己を磨いて攻略組トッププレイヤーであり続ける彼女の実力は折り紙つきだ。彼女本来の素質もそうだが、日々努力する才能もそれを手助けしている要因の1つだろう。
この世界ではレベルの高さが全てを物語る。彼女の実力と普段の毅然とした振る舞いのせいで忘れがちだが、現実では年端もいかぬ思春期の女の子だ。精神的に強い部類であろう彼女にも、そろそろ限界の兆しが見え始めていた。そしてそれは彼女の意思とは裏腹に、無意識に表情で表れる。
1度目は疑惑や勘違いで済まされるが、2度も同じ物を見てしまっては確定事項だ。指摘せざるを得ず、見過ごすわけにもいかない。
仲良さようにする2人の少女の元へ、自然とカイトは歩み寄った。
「アスナ」
「……どうしたの? カイト君」
戦闘終了後の2人目となる呼びかけだが、声のトーンは1人目ほどの明るさはない。声をかけた人物の表情の真剣さも合わさって、アスナとユキも真剣な表情になった。
「少しの間でいいから、攻略活動を休め」
「は?」
予想外の突飛な話に、アスナは思わず間抜けな声で聞き返した。直立不動のまま、口をポカンと開けている。
「いきなり何を?」
「カイト、どういう事?」
今度は隣にいたユキも一緒に聞き返した。
「自覚しているかどうかは知らないけど、アスナは最近頑張りすぎなんだよ。あんまり根詰めすぎるのも良くないぞ」
「何を言ってるの? 私達が1層分上に進むほど、現実に帰るのが早くなるのよ。頑張るのは当たり前です。ただでさえ以前より攻略速度が遅延しているのに、これ以上悠長に待っている余裕はないの。現実の身体がいつまで保つかもわからないし――」
50層フロアボス戦に加え、続けて発生した緊急イベントによる大量の死者と攻略離脱者。25層の時と似たような事態に陥り、階層攻略の速度は大幅にダウンした。
そして仮想の肉体は衰えることを知らないが、現実の肉体は違う。今頃病院のベッドで寝たきり状態であろう身体がどこまで保つのか、それは誰にもわからない。タイマー表示は存在しないが、タイムリミットは確かに存在する。
それ故の焦り。1日でも、1時間でも、1分でも早く上に昇りつめるため、彼女はただひたすらに剣を振るう。
「それにちゃんとオフは頂いています」
「まさかとは思うけど、オフの日も迷宮区でレベリングしている訳じゃないよな?」
半ば冗談のつもりで言ったのだが、その言葉にアスナは固まった。
「……た、たまにです。たまに」
「アスナ、嘘は良くないよ」
一瞬の間をおいてアスナは答えたが、彼女の様子と友人の言葉から察するに、たまにではないらしい。隣にいるユキもやや呆れ気味だ。
そして周囲のプレイヤーも徐々に彼らの様子がおかしい事に気付き始め、注目が集まる。
「心配してくれるのはありがたいけど、私は大丈夫だから」
「大丈夫そうに見えなかったから言ったんだけど」
アスナは強引に話を終わらそうとしたが、それでもカイトは譲らない。
「はぁ……わかったよ。じゃあこうしよう」
ため息をついたカイトが右手でシステムメニューの操作をし始めた。指先が迷うことなくウィンドウをタップすると、やがてアスナの前に半透明の画面が表示される。それはつい先日、アスナがキリトにしたのと同じ内容のもの。
「私に
彼女の目の前に表れたのは
「オレが勝ったらアスナは攻略を少しでいいから休め」
「少しってどれぐらい?」
「そうだなぁ……とりあえず1週間ぐらい」
「1週間!? そんな条件呑める訳ないでしょ! あなた私の話聞いてた?」
アスナは『あり得ない!』とでも言わんばかりの顔で即座に否定した。1日でも無駄にできないと考えている彼女からすれば、1週間も攻略から外れろというのは論外である。
だが流石のカイトも1週間という要求が通るとは思っていない。少し考える素振りを見せ、次に放った言葉が彼の本命だった。
「そうかぁ。う〜ん……じゃあ、2日だけ!」
アスナの前に右手を出すと、指を二本立ててVサインの形を作る。
「2日……」
「その代わり、アスナが勝てばそっちの言う事をなんでもきくよ。それならどうだ?」
1週間などという馬鹿げた要求からマシなレベルになったと感じたのだろう。『それぐらいならいいかもしれない』と納得しかけるが、それでも彼女にとって2日はまだ長すぎた。いまいち条件を受け入れる決心が着かない。
(もう一押しだな)
しかしそんなアスナの様子から手応えを感じたカイトは、ダメ押しとばかりに先日キリトと行った
「まぁアスナは昨日キリトに負けたばかりだし、『2日続けて黒星つける』なんて悔しい思いをしたくないよな。うん、無理なら無理でいいぞ」
そんなカイトの言葉に反応し、アスナの眉間にシワが寄る。ムッとした表情の彼女が、彼の誘いに乗ってきた。
「私は負けませんっ! この勝負、受けて立ちます!」
「わ、わかった」
キリトとの勝負を引き合いに出したのはどうやら正解だったらしい。目論見通りアッサリと誘いに乗ってきたのだが、想像以上の気迫でアスナが前に詰め寄り、カイトとの物理的距離がグッと縮まる。
怒った顔とはいえ、SAOの全女性プレイヤーの中で五指に入る美貌を持つ彼女の顔が、鼻先20センチの至近距離に迫る。思わずドキッとし、言葉の出だしが
その隣でユキはオロオロとしながら、交互に2人の顔を見比べる。
「私が勝ったら、カイト君には《血盟騎士団》に入団してもらいます!」
「それだとこっちの要求と割りに合わない気が――」
「なんでも良いって言ったのは君だよ?」
(うっ――)
怒った顔から一瞬で笑顔に切り替わるが、目が全く笑っていない。それが余計に怖かった。
「2人とも離れるっ!」
これ以上我慢できなかったユキが2人の間に割って入り、両者の肩に触れて距離をとらせた。
「ここはフィールドだし、圏内村まで移動しましょう」
それだけ告げるとアスナはジト目でカイトを睨み、フンッ、と鼻を鳴らして背を向けると歩き出した。
キリトとの
「《閃光》と《掃除屋》の
「《黒の剣士》の次は《掃除屋》かよ。こりゃ面白そうだな」
「アスナ、頑張れー!」
自然と人だかりができ、人の集まりはさらに人を呼ぶ。小さな村の1ヶ所に人が大勢集まると、心なしかいつもよりさらに狭く感じた。人が多すぎてよく見えないせいなのか、村にある2階建ての建物の窓から顔を出して観戦しようとするプレイヤーもいる。
「私が勝ったらカイト君は《血盟騎士団》に入団。カイト君が勝ったら私は攻略活動のお休みをもらう、でいい?」
「あぁ」
アスナはカイトの出した
両者共に武器を抜く。カイトは剣を前に、アスナは剣先を対戦相手に向けた状態で後ろへと剣を引き、
2人の集中力を削がないための配慮なのか、カウントが始まってからはギャラリーの喋り声がなくなり、嘘のように場は静まりかえった。耳に入るのは着々と進むカウントの音のみ。
残り10秒を切り、開始合図を待つ。
……5……4……3……。
カイトは左足を少しだけ後ろにずらして重心を下げると、剣を肩に担いだ。
2……1……。
開始の合図が鳴る。
それと同時にカイトは黄緑色のライトエフェクトを、アスナは水色のライトエフェクトを剣に纏わせ、ビュンッ、と風を切りながら突進する。どちらも考えている事は一致していた。
《初撃で決める!》
片手剣上段突進技《ソニックリープ》と細剣突進技《シューティングスター》。
システムアシストの恩恵を受けた2人の身体は高速で動き、瞬く間に間合いを詰める。動きだしもソードスキルの発動もほぼ同時。おそらくコンマ数秒の違いもないだろう。あとはどちらがより速く剣を相手の身体に届かせるかが、勝敗を決する要因となる。
そういった意味では、アスナに分があるといえた。彼女の剣速は目で追うことも難しく、並のプレイヤーの場合突き技が放たれたと認識してから動いては、回避も防御も間に合わない程だからだ。
無論、それはカイトも十分理解している。なので、彼はほんの少しだけ勝つための工夫をした。
「ふっ!」
普段よりも踏み込み1歩分だけ、カイトは《ソニックリープ》のモーションを開始。アスナよりも速く技を始動した。
しかし、踏み込みが1歩分足りないため、彼女の右半身寄りに向かっていく剣の先は本当ならアスナに届かない。だが、今回はこれで良かった。彼が繰り出したソードスキルの軌道上に、
アスナは違和感を感じつつも、カイトの《ソニックリープ》に少し遅れて《シューティングスター》を繰り出す。後方に引いていた右腕は前に引っ張られ、カイトの左肩目掛けて突き進む。
その時になって、彼女はようやく彼の意図を理解した。
《シューティングスター》によって前に突き出される自身の右腕が、まるで
だからといって、1度繰り出したソードスキルのキャンセルをする訳にはいかない。ならば答えは1つ、前進あるのみ。
(――届けっ!)
ソードスキルのアシストを阻害しないように、アスナは意識して腕をさらに前へと突き出す。
両者のソードスキルがお互いの身体に喰い込み、ダメージが発生してHPが減少。加えてノックバックが発生したことで吹き飛び、どちらも地面を転げ回った。
その様子を観戦していたギャラリーから『おおっ!』という声が漏れる。それは状況から考えて、勝敗が決したと確信したからだ。
カイトの《ソニックリープ》によってアスナの
しかし、実際の結果は皆の想像と異なっていた。そしてその結果は誰もが予想出来ず、『システム上はあり得るが、狙って出来る事ではない』と囁かれている現象。
《DRAW》――――つまり引き分け。
『引き分けぇ!?』
叫ばずにはいられず、誰もが目を疑う。
これはつまり《初撃決着モード》勝利条件の1つである、強攻撃のヒット――この場合、両者のソードスキルがコンマ1秒の狂いもなく、同時に当たった証。
「はぁ〜……引き分けなんてあるんだな」
カイトは立ち上がり、剣を背中の鞘に収める。無機質に表示されている結果を眺めた後、落ちているレイピアを拾って尻餅をついたままのアスナに近付く。
「やっぱアスナは強いな」
カイトはそう言うと、空いている左手をアスナに差し出した。
「……当然です」
アスナも同じように左手を出してカイトの手を掴むと、彼にグッと引っ張られながら立ち上がる。レイピアを受け取り、腰の鞘に収めた所で、周囲から拍手が沸き起こった。2人の健闘を讃えているのだろう。
「それで、引き分けの場合はどうするの?」
「あぁ、そっか。流石にこのパターンは考えてなかったからなぁ」
どちらかが勝った場合しか考えていなかったため、カイトは頭を捻る。
「ならこうしましょう。カイト君は《血盟騎士団》に1日仮入団、私は1日だけ余分にお休みを貰えるよう団長に掛け合ってみるわ。それでどうかな?」
「まぁそれが丁度良い落とし所か。それでいこう」
「ちなみにギルドが気に入ったら、そのまま入団しちゃってもいいからね」
「ちゃっかりしてるなぁ……」
そしてアスナの抜け目なさに、カイトは思わずクスリと笑ってしまった。
前代未聞の結末を迎えた
ヒースクリフから快くアスナの特別休暇許可を頂戴したが、
そしてそのさらに翌日、今度はカイトが約束を守る番となり、1日だけ《血盟騎士団》のメンバーとして活動に参加する事となった。
入団といっても正式なメンバーではないので、実際に制服を着るわけではない。服装の違いから1人だけ少々浮いてしまうのは否めないが、気にしていたのは最初だけだった。
「はっ!」
現在のカイトは《血盟騎士団》メンバーと共に、昼過ぎに発見した迷宮区のマッピングに励んでいる。マッピング途中に遭遇したモンスターとの戦闘を重ねる度に、服装の不一致などどうでもよくなっていった。
「スイッチ!」
「はいっ!」
体勢を立て直した《ハイリザードマン》が武器を上段に構えて垂直に振り下ろすが、左にスライドして回避すると同時に側面へと回り込み、通常攻撃で2回切りつける。それがトドメとなり、モンスターは断末魔の叫びをあげて消滅した。
「カイト!」
「ん」
ユキは振り返って後方のカイトに向き直り、左手を頭の高さまで挙げた。カイトも同じ動作をすると、2人はハイタッチを交わす。
「なんだか懐かしいね!」
「だな。なんかあの頃に戻ったみたいだ。それにしても、ユキは楽しそうだな」
「カイトは楽しくないの?」
「そりゃまぁ、楽しい……です」
「えへへ、でしょー?」
2人の周囲にはほんのりと和やかな空間が形成され、独自の世界を作り出す。一応彼らの現在地点は最前線の迷宮区という危険な場所だが、そんな事はお構いなしといった様子だ。
「僕達の存在、忘れられてません?」
「
「誰か壁! 壁持ってこいっ!」
「壁はないから殴るならモンスター殴って下さいッス」
当然迷宮区に2人だけでマッピングしに来ている訳ではなく、他のギルドメンバーも参加している。しかし会話が弾むとつい、お互いがお互いしか視界に入ってこないだけなのだ。
「滅多にない機会だから、きっと嬉しいのよ。2人共やるべきことはきちんとやってるし、今回だけは大目に見ましょ!」
アスナにしては珍しく寛大な対応だった。生き生きとしている友人の気持ちに水をさすのは無粋だと思ったのだろう。
それに彼女の言うとおり、戦闘や他者との連携、カイトに関しては移動中の《索敵》スキルを用いた周囲への警戒も行っているが、どれも怠っている訳ではない。友人の恋心を知っている身としては、応援したい気持ちがあるので、アスナは2人をそっと見守ることにした。
「ねぇ、カイト。そういえば何で
集団の最後尾で索敵をしているカイトの真横に並び、ユキは疑問を投げかけた。
「あんなって?」
「ほら、アスナに『攻略を休め』って言ってたでしょ? 突然あんな事言うのは、何か理由があるんじゃない?」
彼の思考が読めなかったユキからすれば、それは唐突な言葉だった。
「アスナは根詰めすぎ」と言っていたが、そう感じた何かしらの理由があるはずだ。
「アスナが疲れてたから、かな」
「疲れてた?」
「ほんの一瞬だけど、疲れきったような顔を見ちゃったんだよ。それも2回。いつもビシッとしてるアスナのそんな顔見たら、心配するだろ」
隣にいるユキから視線を外すと、前方にいるアスナの背中に移した。
「きっとアスナは誰よりもゲーム攻略を望んでる。だからこそ攻略に必死なんだろうけど、あのまま突っ走ってたら、いつか限界がくるんじゃないかと思ってさ。その兆候みたいなのを2回も見たから、つい口に出したんだ。……まぁ、お節介と言われればそれまでだけどな」
「……カイトは変わらないね」
前を見続けるカイトの横顔を眺めながら、ユキはボソッと呟いた。出会った時から、彼は微塵も変わらない。あの時も、今も、きっとこれからも。
カイトの前に立ちはだかるようにしてユキは回り込み、向かい合ってジッと目を見つめる。
「カイトのそういう所――」
「……?」
「――ううん、何でもない!」
「途中で切ると気になるだろ」
「内緒!」
言いかけた言葉をグッと飲み込んだ。この気持ちを伝えるのは、今ではない。
(今はまだ我慢しよう。でも、いつかは――)
彼女が彼とこうしていられるのも残り数時間。今は、今だけは、この時間を大切にしようと心に誓った。
フィールドボスが完全におまけ扱い。デュエルがメインとなりました。
デュエル前にカイトが行った手法は、心理学でいう「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」でした。「相手が断るような過大要求をした後、それより小さい要求を提示すると通常よりも受け入れやすくなる」というものです。実際にやって上手くいくかは、その人の手腕にもよりますが……。
カイトがデュエル開始3秒前に構えを変えたのは、システム外スキル《先読み》でアスナの姿勢から出方を予測し、それに合わせて変更したためです。
また、デュエル後にアスナが妥協案で提示した『 仮入団』は『体験入団』と同義ですが、これは今回限りの例外でした。普段の《血盟騎士団》はそういった制度を採用していません。
次回はリズベットに焦点をおいた話となります。