調査開始から一夜明け、時刻は朝の9時。カイト・ユキは宿部屋から廊下に出て、ジュリウスの泊まっている部屋まで向かう。
同じ階にある階段に一番近い部屋の前で止まり、扉を三回ノックした。しかし、部屋の中から反応はない。
「ジュリウスさん?」
ノックをすれば声は聞こえている筈だ。二人は首を傾げて顔を見合わせる。
もう一度呼びかけるために息を吸い込んだ時、ガチャッ、というドアノブの回る音が聞こえた。
「あぁ……お早う」
扉の向こうには昨日と同じように、和装スーツに身を包んだジュリウスがいた。
「まだ着替えてなかったから、出るのが遅れたよ。悪いね」
「いえ、大丈夫です。……今日の方針について話をしたいんですけど、いいですか?」
「構わないよ。さあ、入ってくれ」
手招きされるがままに二人は入室した。
ジュリウスは部屋の中央に設置されている赤のイージーチェアに腰掛けるが、カイト達は立ったままで話を進めようとする。
「まず今日の動きなんですけど、オレとユキは14層のフィールドに向かいます。ジュリウスさんはここで待機して下さい。ジュリウスさん達三人の内二人が連続で殺害されているのを考えると、次にあなたが狙われても不思議じゃない」
「そりゃあ、まぁ……そうだよな……」
「だから今日はオレ達に任せて休んでて下さい。それと、さっきここで待機とは言いましたけど、圏内から出さえしなければ自由にしてもらって構わないので」
「……あぁ、わかった。それじゃあ、二人に任せたよ」
片手でこめかみを押さえて目元を隠し、俯きつつ覇気のない声で了承する。落胆したジュリウスを部屋に残し、カイトとユキの二人はその場を離れて再び廊下へ出た。
この時の彼の様子から、二人はジュリウスが仲間を立て続けに失ったため、酷くショックを受けているものだと感じ、同情すらしていた。
しかし部屋の扉を占める直前、振り返って隙間から中を伺っていれば、その印象は払拭されてガラッと変わっていたことだろう。
なぜなら僅かに見える彼の口元が――――酷く歪んでいたのだから。
二人が向かった第14層は気温が年中穏やかで、乾季と雨季がハッキリ分かれているのが特徴の階層。そして転移門で移動した主街区は《ジャックバーン》と呼ばれる街だった。
数ヶ月ぶりに降りたった14層の転移門広場から、カイトは迷わずフィールドへ出る門の方向に歩を進めた。ユキはそんな彼の後ろを慌ててついて行く。
「……ねぇ、そろそろ説明してくれてもいいんじゃない?」
ユキは隣に並び、不満げな眼差しと声で訴えた。
一緒に行動しているパートナーなのに、彼女は今後の目的及び行動内容を明確に知らされていない。頬を膨らまている彼女の様子が子供っぽく映り、カイトはクスッと笑みをこぼす。
「悪い、そういえばまだ何も話してなかったな。……実はさっき、アルゴからメッセージで追加の情報が入ったんだ。22層の《コラル》で事件があった翌日、残されたガイドペーパー通りに59層でプレイヤーがPKされてた。場所は《ダナク》の北フィールド、プレイヤーはディックっていう盾持ち剣士らしい。そして翌日の4月7日には、39層主街区《エルムガルド》の東で短剣使いのエリスがPKされた。これも《ダナク》に残された手掛かり通り。……それでちょっと思い付いたことがあるんだ」
それは追加情報とわかっている事実を整理した結果閃いて生まれた、一つの仮説だった。
「これからの動きなんだけど、主街区周辺のフィールドを中心に調査しようと思ってる」
「どうして?」
「手持ちの情報だけで判断すると、事件の被害者はみんな、主街区周辺にあるフィールドで殺害されているからだよ」
犯行現場は《コラル》の南、《ダナク》の北、《エルムガルド》の東、《ホスリート》の北、《インベル》の東。いずれも主街区を中心としたフィールドで、犯行は行われていた。
「本当だ!」
「それとガイドペーパーの件だけど、あれは次の殺害現場を予告する役割を担っていると思う。現場に残したガイドペーパーの階層と次の犯行現場が一致しているのを、オレは到底偶然と思えない」
《コラル》の時は59層、《ダナク》の時は39層、《ホスリート》の時は41層。どちらも次の現場を予言するかのように、ピタリと一致している。
そして今回現場に残されたガイドペーパーの示す階層は、彼らが降り立った14層。故に《ジャックバーン》の四方を囲むフィールドの何処かに《仮面の男》は現れるだろうと、カイトは推論をたてた。
「ただ何処に現れるのかまではわかんないから、アナログな方法だけど、足を使って索敵しよう」
「わかった」
二人がフィールドに出てから、時間だけがイタズラに過ぎようとしていた。
主街区を出てからは周りを反時計回りで捜索し、既に一周以上終えている。地面を覆う枯れ草と所々に生えている枝の細い樹木の景色に、いい加減嫌気が差し始めていた。
身を隠せるような大きい障害物はないため、人影があればすぐ目につく場所である。探す側としては手間が省けるのでその点に関しては助かるのだが、如何せん寂しい色しかないフィールドに加え、探し人が現れる気配は一向にない。長時間見栄えのない同じような景色のエリアを歩くのは、脳にとっても退屈なことこの上なかった。
西フィールドにエリア移動してから10分が経ち、索敵開始当初は軽やかだった足取りが次第に重く感じる。
「……あれだけ偉そうに講釈垂れて、ハズレだったらごめん。今度なにか奢るよ」
「う〜ん……でも私は聞いてて納得できたし、いい線いってると思うけどなぁ」
目に見えた成果が出ないことに焦りを感じ、カイトは自身の推理に対して疑問を抱きつつあった。
(何か見落としたか? ……けど前提がそもそも間違っている可能性も――――)
今一度、彼は頭の中で自身の考えを反芻する。
(アルゴの事だからちゃんと裏を取っているだろうし、依頼人の二人がくれた情報も大丈夫な筈だ。そもそも依頼しといて嘘をつくメリットがない)
推論の否定材料が思い浮かばず、現時点では穴がないように思えた。
そんな中、集中して思案していた彼の意識が《索敵》スキルによって呼び起こされる。《索敵》が捉えたのはプレイヤーの反応。そしてそれは、彼らが時間と労力をかけて探し続けているプレイヤーだった。
「ユキ、奢るのはなしだ。どうやら間違っていなかったらしい」
手を彼女の前に出して制する。
堂々とフィールドにある安全地帯の一画で佇む探し人の姿を、ユキも遠目で確認できた。彼女の表情は警戒心を強め、腰の短剣にゆっくりと手を伸ばす。
二人との距離は50メートル程度。探し人――《仮面の男》――は丁度二人に背を向けている状態であり、様子を見る限りは気付いていないようだ。
「二手に分かれよう」
ユキが囁くような声で提案した。それに対してカイトは頷く。
「じゃあオレは右から、ユキは左から。まずはオレがピックで牽制するから、それを合図にユキが飛び込む。ピックが当たったらそのまま奴を押さえつけてくれ。万が一外した場合でも、相手はオレに意識を向ける筈だ。できるだけ死角から仕掛けて向こうの動揺を誘ってほしい」
「了解」
ユキは大きく回り込むようにして近くにあった木の陰に隠れ、様子を伺う。幹の太くない木ではあるが、人一人分ならなんとか身を隠すことはできた。カイトも同じように木の陰へ素早く移動し、幹に背中をつける。
(なんかやってる事がオレンジみたいだな……)
客観的に考えれば、彼らのやっていることはオレンジプレイヤーのPKと大差ない。もしもこの場で《MTD》のメンバーと居合わし、ぱっと見の状況だけで判断されれば、真っ先に検挙する相手はカイト達だろう。
(悪く思うなよ)
カイトは腰のホルダーに手を伸ばし、リズベット武具店特製のピックを一本抜き取った。木の陰から半分だけ身体を出すと、右手を肩に担ぐような形でソードスキルの
投剣ソードスキルの基本技《シングルシュート》。滑らかな動作とは裏腹に、ピックは猛スピードで《仮面の男》の肩へ向かって一直線に進む。それを合図にして、反対側で待機していたユキが飛び出した。
ピックは狙い通りに対象を捉える。麻痺毒の影響により敵はその場で力なく膝から倒れ、それを確認したユキが結晶アイテムで解毒しないように動きを完全に封じる――――筈だった。
(麻痺にならない!?)
ピックは正確に敵の肩に刺さっているが、状態異常変化は見受けられない。直立不動で平然と立ったままだ。
カイトのように状態異常耐性スキルを習得しているのか、あるいは耐毒ポーションを予め使用していたのか。どちらかはわからないが、前者は兎も角
このパターンは予想外だったが、ユキはすぐさまプランA案を破棄し、プランB案へ移行。
しかし、ピックが射出された方角からそちらに気が向くだろうと考えていた当初の予想を裏切り、《仮面の男》は背を向けたまま、何もせずに動かない。その理由は、ユキが敵との距離を十メートルまで詰め寄った所で判明した。
「きゃあぁぁぁあ!」
彼女は足に細い糸のようなものが引っかかったと感じた次の瞬間、鉄球が散弾銃の如く扇状の範囲に解き放たれ、彼女の身体を容赦無く襲う。
その正体は発見できないよう、フィールド上に上手く隠されていたクレイモア。《罠作成》スキルの熟練度が九百を越えないと作れない代物で、滅多に出回らないが、仮に市場に出れば間違いなく高値で取引されるレア物だ。
ゲーム仕様に調整されているため、有効加害距離は現実の10分の1に設定されている。それでも威力は申し分なく、スキル熟練度が
(なんで……)
罠の設置は敵が待ち構えていたと同義。そしてもし耐毒ポーションを使用していたのだとすれば、《仮面の男》は奇襲を予期し、それに備えて準備していたということになる。
カイトは木陰から飛び出すが、そこで《仮面の男》は振り返って顔をカイトに真っ直ぐ向ける。白い仮面の下にある眼光が鋭く光り、笑い顔に見えるよう切り抜かれた面の口の奥にある、本物の口元が二タッとねばつく笑みを浮かべた。
(まさか、読まれてた!)
敵は襲来を知っていた。垣間見えた余裕の表情がそれを物語っている。
《仮面の男》の周囲には、罠が張り巡らされている可能性が高い――――そう睨んだカイトは敵への攻撃よりも先に、ダメージを負ったユキを優先した。しかしそんな彼の行く手を阻むように、《仮面の男》が立ちはだかる。
左手に持った藍色の短剣を袖からチラつかせ、右手には握り拳大の石。ダランとぶら下げていた右腕を振り上げ、下手投げでカイトの顔面に石を放った。
石はカイトの鼻先目掛けて正確に飛んでくるが、ソードスキルでもない投擲は容易く避けられる。顔を咄嗟に傾けて最小限の動きで回避したが、敵の狙いは石を当てることではなく、
(――っな!?)
手品などでも使われる技術――――
今回《仮面の男》は顔に投げた石に注意を引きつけることで、『間合いを詰めるための時間稼ぎ』と『カイトの回避行動を遅らせるため』に利用した。
カイトが視線を戻した時には、短剣基本突進技《エルムバイト》が繰り出され、剣の切っ先がまたもや顔面に迫る。
(――くっ)
剣での
しかしその努力虚しく、ソードスキルが右目に当たってカイトの身体を突き飛ばす。後ろに勢いよく倒れて転がり、倒れてしまう。手を地面について立ち上がると敵に視線を向けるが、視界の半分が黒く染まっていた。
(やばっ、距離感が掴めない……)
強烈な閃光を受ける、あるいはプレイヤーの目が部位欠損を起こすことで発生する、状態異常《
そしてこれを好機とみた《仮面の男》は猛攻を開始した。
視界の半分が見えないのを利用し、敵は死角となる彼の右目側に回り込む。
斬撃に対してカイトは懸命に切り結ぶが、片目が見えないというのは想像以上にハンデが大きかった。剣でガードしたつもりが位置を見誤り、敵の短剣が身体に喰い込むことでHPがジワジワと削られていく。反撃に転じても距離感を上手く掴めないせいか、思い通りの剣筋を描けない。
(マズっ……HPが……)
左目だけで視認できる景色が紅色に染まり始めた。彼をこの世に繋ぎ止める無機質な色つき棒が、緑から黄色、黄色から赤へと変色し、長さも短く変形する。
こうしてカイトのHPは着実に減少の一途を辿るが、それを彼女は良しとしなかった。
「やあっ!」
空になったポーションを投げ捨て、ユキが繰り出した体術単発ソードスキル《
「カイト、早く回復! それが終わったらジッとしてその場で待機! 私が時間を稼ぐから!」
カイトの返事を聞く前に、ユキは駆け出した。
ノックバックで飛ばされた《仮面の男》は左手に持った短剣で彼女を迎え撃つため、ソードスキルを発動。短剣単発ソードスキル《セイド・ピアース》によって左腕が勢いよく突き出される。
しかし彼女も黙ってやられる訳ではなく、敵の頭上を前方宙返りで飛び越えて回避。《軽業》スキルを習得しているからこそできる芸当だ。
そして着地した瞬間に《舞踏》スキルを発動。地に足がつくと同時に身体を180度回転させ、流れるような動きで敵の背中を水平切りで切りつける。その後、バックステップで一時後退した。
「昨日のお返しだよ。私はスタングレネードなんて便利なアイテムは持ってないから、これで我慢してね」
《仮面の男》がユキに向き直ると右手親指の爪を噛む。彼女の皮肉めいた発言が癪に触ったのだろう。肌を刺すような怒りが空気を媒介にして、ひしひしと伝わってきた。
しかし敵の機嫌などどうでもいいとばかりに、ユキは果敢に突っ込んでいく。
「はあっ!」
気合の込もった声を合図にして始まったのは、怒涛の連撃。威力の低い短剣で戦うには、手数で圧倒するのが手っ取り早い。
だが敵もユキと同じ短剣使いなので、そんな彼女の思考は火を見るよりも明らかである。ユキの連撃に対抗し、負けず劣らずの斬撃数で切り結ぶ。両者は一歩も譲らない。
そして突如、ユキは勝負に出た。
短剣基本ソードスキル《スラッシュ》による袈裟斬りを繰り出す。だが刀身の短い短剣の場合、ソードスキルが読まれてしまえば連撃技でもない限り、他の武器と違って避けるのは容易い。ソードスキルを読んだ敵もこれをチャンスと考え、彼女の剣が届かない距離に後退し、その後突進技で突き飛ばそうと考えた。
これが他のプレイヤーなら突進技を避けられずに直撃しただろうが、彼女の場合は一味違う。あえて威力の低い基本ソードスキルを選択したのは、わざと隙を作って誘い込むためであり、ここからが彼女の本領発揮だった。
基本ソードスキルの
左足を軸にして反時計回りに回転しつつ、右足にライトエフェクトを纏わせ、体術単発ソードスキル《仙破》の蹴りを間髪入れずに放つ。鋭い蹴りが突進技を繰り出した剣の腹を捉えると、発動しかかっていた敵のソードスキルがキャンセルされた。
「まだだよ」
蹴りの勢いを殺さずにもう半回転し、敵に背を向けて両足を地につけたユキが呟く。
背を向けた状態から背面宙返りで跳び上がると、《仮面の男》の頭上を越えて背後をとった。着地して十字を描くように背中を切りつけた時、敵が振り返りながら、短剣水平単発ソードスキル《スラッシュアーツ》でユキの首を刈り取りにかかる。
だがソードスキルの発動を読んだ彼女は身体を深く沈め、髪の毛一本を犠牲にして回避。沈めた身体を《舞踏》スキルのアシストで浮き上がらせ、それと同時に拳を握り、ガラ空きの腹部に体術単発ソードスキル《閃打》を叩き込んだ。
「すご……」
目にも留まらぬ一方的な剣技と体技に、カイトは無意識に感嘆の声を漏らす。
PoHとの戦闘で敗戦したのをキッカケに、ユキは自身の戦闘スタイルを発展させられないかと思案した。その結果得た答えが、今の彼女である。
《短剣》や《体術》攻撃の間を《舞踏》スキルで繋ぎ、《軽業》スキルで回避も兼ねた立ち位置の変更を交え、相手を撹乱。ソードスキルを使用する場合は
しかしそこは『手数で勝負』。加えて集中力が持続する限り止まない攻撃の嵐は、必然的に反撃の機会を少なくするというメリットがあった。
三種以上の異なるスキルを組み合わせて繋げる、システム外スキル《
ユキの場合は《短剣》・《体術》・《舞踏》・《軽業》という四つのスキルを状況に応じて使い分ける。『攻撃は最大の防御』を体現した彼女独自の戦闘スタイルは、《
その姿は流麗な剣舞を見ていると錯覚する程に美しく、これを由来に彼女は《舞姫》と評されている。
(オレの出番はもう無さそうだな……)
どちらが優勢なのかは言うまでもなく明らかだった。回復したユキのHPは依然として
しかし不測の事態というのは、事が順調に進んでいる時こそ起こりうるものだ。それを示すかの如く、カイトの《索敵》スキルがプレイヤー反応を捉えた。
(誰だ? まさか新手!?)
プレイヤー反応は真っ直ぐカイト達の戦場に向かってくる。狭まっている視界で確認できた人影は、この場所に来る筈のないプレイヤーだった。
「うあぁぁぁぁあ!」
叫びながら剣を構え、《仮面の男》とユキの二人に突進していくのは、圏内から出ないよう言い聞かせた筈のジュリウスだった。
《
腰に差してあった麻痺ナイフを右手で引き抜き、人体の中で狙いやすく、的の大きい胴体を狙う。ユキは咄嗟に《軽業》スキルで跳び上がりの回避行動をとったが、右足を掠めたせいで身体の力が抜け、両足で着地できず地に落ちた。
「ユキ!」
瞬時に『ユキが殺される』と感じたカイトの予想に反し、《仮面の男》は大きく跳んで後退。落ち着いた場所は、
「ヘンリーとイリスの仇だ!」
重い両手剣を上段に構え、ソードスキルの初動モーションを開始。オレンジの光が煌き、利き足に力を込めて大地を蹴る。カイトは彼が放とうとしているソードスキルを理解した。
「やめろ!」
カイトの制止も虚しく、ジュリウスは両手剣上位上段突進技《アバランシュ》を発動した。
その突進力と両手剣特有の重さから繰り出される一撃は大きく、短剣装備では受けることもままならないだろう。仮に反撃するなら一度回避し、その直後にする必要があるが、突進によって一気に距離を作り、反撃の機会を与えないという優秀なソードスキルだ。
怒りに身を任せながらも冷静に判断したつもりだろうが、今回の場合は悪手以外の何物でもない。敵の立ち位置を考えれば突進技は使うべきでないのだが、彼はユキが先程陥った罠の存在を知らないため、どうしようもなかった。
「ぐあぁぁぁあ!」
カイトの頭で想像した未来が現実となった。
ジュリウスの《アバランシュ》が敵に迫る直前、設置してあった別のクレイモアが炸裂する。罠の発動でジュリウスはダメージを受け、HPが一気に
そして目の前に捧げられた死にかけの獲物を逃す程、敵も甘くはない。突進技の影響で自ら近づいてくるジュリウスの
「な、ん――」
ジュリウスの言葉は小さくかき消え、死に際に驚愕した表情を浮かべる。それが最後の姿だった。
――カシャン
ジュリウスの身体が爆散すると細かいポリゴン片と化し、仮想世界の空気に溶けて消える。その光景を目に焼きつけることしか、今の二人にはできなかった。
「……なんだよ」
弱々しい声の中には、静かな怒気を含む。思わず剣を握る手に力が込もった。
「お前は一体……何がしたいんだよっ!」
そう叫ばずにはいられない。理不尽に人の命を奪う仮面の道化に怒りを感じ、カイトは片目だけで睨む。
そんなカイトを無視し、やるべき事を終えた《仮面の男》は例に漏れずガイドペーパーを残す。そしてこの場に用はもう無いらしく、身を翻して即座に立ち去ろうとした。
「――――っ!」
カイトは条件反射でしゃがんでいた身体を浮かせて後を追おうとするが、右の足元に転がっていた石に気付かず、躓いて転倒。次に身体を起こした時、既に敵の姿は何処にも見当たらなかった。
残された二人はこれ以上何も出来ず、只々無力な己を嘆く。カイトは地面の土を
補足
システム外スキル《結合》は、オリジナルのシステム外スキルとなります。一言で言えば、キリトが新生ALOで使う《剣技連携》の難易度をグッと下げたものだと考えて下さい。
《剣技連携》との相違点は、『スキル後の硬直は別のソードスキルで上書きキャンセルしておらず、しっかり受けている事』。ただし硬直時間の短い下位単発ソードスキルのみを使用するため、技後硬直を受けているといっても気になるレベルではないです。硬直が解けてから次のスキルを繋げる間の時間は、コンマ数秒が推奨。そうしないと流れるような動きにならないので。
某バスケ漫画のように姿を消す目的で使用してませんが、ミスディレクションもある意味システム外スキル……なのか?